文化講座
ローマ歴史地区(Centro storico di Roma)その13
マルチェロ劇場(Teatro Marcello) 1980/1990年登録
古代ローマの三大娯楽場の一つである劇場(Teatro)について
スケッチ画 樋口佳代
紀元前3世紀頃より南イタリアのギリシア植民都市では、早くからギリシアの劇場(Teatro greco)の影響を受け、その多くは丘の斜面を利用して客席部分を造り、その中央部は斜面をえぐるように造られ、両端は擁壁で構造を支える必要がありました。しかしローマのコンクリート技術の発展により、どのような場所にも建設することが可能となり、その結果、劇場にはフォルムや神殿なども設けられ複合施設として多目的な利用に使われるようになりました。観客席は半円形平面をなし、矩形平面をなす舞台建築と観客席から延びる壁が一体化し、しばしば観客席最上部には回廊が巡り、時には日光や雨をよけるのための巨大な天幕(vela)が架けられました。ローマでは、同じ時期に三つの劇場がカンポ・マルツィオ地区(現在のコルソ通りの西側一帯)に建てられました。紀元前55年にはポンペイウス劇場(Teatro di Pompeo:3万人収容)、紀元前19年にはバルド劇場(Teatro e Cripta Baldo:7000人収容)、紀元前13年にはマルチェロ劇場(Teatro di Marcello:2万人収容)が建てられました。
15世紀まで世界最大の劇場だったポンペイウス劇場の舞台の背後には、広大な回廊(Porticus Pompei 180m×135m)があり、そこには彫刻や絵画などが展示されており、劇場としてだけでなく美術館であったり、集会場であったりする場所でした。また階段状の観客席の上には神殿を建てました。こうすることにより観客席が、神殿へ向かう広大な階段となり、劇場全体が巨大な宗教的空間に変貌し、更にはそこに祀られているウェヌス・ヴィクトリウス(勝利の女神)により皇帝ポンペイウスの名声を高める効果も考えていたようです。
しかし、ローマ帝国崩壊後は、劇場に使われていた石や円柱などほとんど略奪され、劇場としての建物は現存していません。すぐ近くに建てられた小規模のバルド劇場も同様の運命を辿ることになります。現在の トッレ・アルジェンティーナ広場には、劇場や神殿の遺跡が残っています。
ユリウス・カエサル(シーザー)は、ポンペイウスに対抗するため、同じ地区のテヴェレ河近くに劇場の建設を計画します。しかし建設途中で暗殺されてしまいます。皮肉にも、暗殺された場所がポンペイウス劇場に繋がる元老院議事堂(クリア)であったのです。紀元前13年、初代皇帝アウグストゥスが後を継ぎ劇場を完成させました。しかし後継者としての成長を期待していた娘婿の若きマルケルスの突然の死(20歳)が、10年後に完成する劇場の名前に自らの名を冠することなく、マルケルス(イタリア語でマルチェロ)の名前をつけ「マルケルス劇場」(スケッチ画)と名付けたことからも皇帝の深い悲しみがあらわれています。
劇場は、直径は129mの半円形のプランで、外壁曲面は、下からドーリア式、イオニア式、コリント式の様式を取り入れた3層の円柱とアーチで飾られていました。この様式は100年後コロッセオの手本として影響を与えたと言われています。
劇場から見るテヴェレ河中州の ティベリーナ島は、あたかも浮いている船のような形をしていて、劇場の周囲の風景も考えてこの場所が選ばれたのではないかと思われます。
しかし、ローマ帝国が滅びて以降は、石材の略奪や火事などで、劇場の廃墟化が進みました。その後、中世には要塞として利用されたため、ローマで唯一残った劇場です。 13世紀、サヴェッリ家(Savelli)がこれを所有し、復興工事を行い、館として改築しました。その後18世紀、引き継いだオルシーニ家(Orsini)によっても、館の増築や劇場の復元作業が行われました。3層目にはルネサンス様式の住宅が付け加えられ、集合住宅としても利用され、現在もその住居部分には人が住んでいます。
劇場の外にある大理石の3本の柱は、紀元前5世紀頃のアポロンの神殿の遺跡で、紀元前34年に再建された神殿の前廊の一部です。
■ポンペイウス劇場のガイド
http://www.romanoimpero.com/2010/06/teatro-di-pompeo.html
■バルド劇場のガイド
http://www.romanoimpero.com/2011/07/teatro-e-cripta-balbo.html
■マルチェロ劇場のガイドと写真
http://www.romanoimpero.com/2009/12/teatro-marcello.html
http://www.mmdtkw.org/VTheatMarc.html
新シリーズ
◆誰でもわかるイタリア語 第29回
このシリーズ「誰でもわかるイタリア語」では、イタリア語の基礎を文法用語に頼って説明することを出来るだけ避け、誰にでもわかるようにまとめています。また「単語帳」のコーナーを設けていますので、少しずつ単語や簡単なフレーズを覚えるようにして下さい。 |
ジュゼッペ・トルナトーレ監督『海の上のピアニスト』(映画のタイトル)で大変話題になったイタリア映画(1998年)。豪華客船の中で生まれ、生涯船を降りることのなかったピアニストの物語。
原作のアレッサンドロ・バリッコ「ノヴェチェント」(Alessandro Baricco - Novecento -Un monologo)の中で、ある日、船室にかかっていた絵が突然落ちた話しがあります。バリッコは、その絵が落ちる音「バタン」「ドタン」を、フランfranという擬音語をあて何度も何度も繰り返しその言葉を使い印象づけています。この言葉はおそらくfranare(崩れる)という動詞から擬音語を創ったと思われます。
イタリア語は、一般的に擬音語をあまり用いない言語であるように思われます。また擬音語の数や、その使用頻度も日本語に比べ大変少ないように思われます。
B.擬態語ついて
擬音語は、実際に聞こえた音をまねた表現です。それに対して、聞こえないがその様子を表現したものが擬態語です。「雪がしんしんと降っている」とか、「とぼとぼ歩く」などの場合、「しんしん」という音や「とぼとぼ」という足音は聞こえなく、その様子を表現しているのです。
日本人は自然の音を心で受け止め、言葉(擬態語)で感情表現する豊かな言語文化を持っています。それに対してイタリア語は、論理的な思考による言語であるため、形容詞や副詞・動詞などを巧みに使って説明するという言語文化を持っています。
今回は、擬態語を使った日本語をイタリア語でどのように表現するのかまとめてみました。
■「雪がしんしんと降っている」という場合、擬態語「しんしん」の意味は、雪が「静かに」とか「絶え間なく」降っている様子なので、
Nevica silenziosamente. | 又は | Nevica fitto fitto. | と言います。 |
ネヴィカ シレンツィオザメンテ | ネヴィカ フィット フィット |
■「とぼとぼ歩く」という場合、「とぼとぼ」の意味は、「疲れた様子で」とか「重い足取りで」歩いている様子なので、
Cammina stancamente. | 又は | Cammina con passo pesante. | と言います。 |
カッミナ スタンカメンテ | カッミナ コン パッソ ペザンテ |
■「うとうとする」という場合、sonnecchiare(ソネッキアーレ)という動詞を使って表すことが出来ます。
または「まだ半分寝ている状態」mezzo addormentato(メッゾ アッドルメンタート)「眠りと目覚めの間にいる状態」essere tra il sonno e la sveglia(エッセレ トゥラ イル ソンノ エ ラ ズヴェーリア)で表すことも出来ます。
■「雨がぱらぱら降っている」という場合、La pioggia picchia sulle finestra.(ラ ピオッジャ ピッキア スルレ フィネストゥラ)のように、「叩く、殴る」を意味するpicchiare(ピッキアーレ)を使って「窓に雨がぱらぱら降っている」様子を表します。
また「午後には雨がぱらぱら降り始めた」という場合、「雨のしずく」を意味するgoccia di pioggia(ゴッチャ ディ ピオッジャ)を使って、Nel pomeriggio ha cominciato a cadere qualche goccia di pioggia(ネル ポメリッジョ ア コッミンチアート ア カデーレ クアルケ ゴッチャ ディ ピオッジャ)と表現することもあります。
■「本をぱらぱらめくる」という場合、「葉を落としたり、金属などの薄片をはがす」を意味するsfogliare(スフォリアーレ)という動詞を使ってsfogliare un libro(スフォリアーレ ウン リーブロ)と表すか、ページを早く(rapidamente)めくる様子を表すならばvoltare rapidamente le pagine di un libro(ヴォルターレ ラピダメンテ レ パジネ ディ ウン リーブロ)を言う表現も出来ます。
■「お腹がペコペコです」という場合、「オオカミ(lupo)」のお腹のすいている様子からHo una fame da lupo.(オ ウーナ ファーメ ダ ルーポ)と言います。「がつがつ食べる」も同じように、mangiare come un lupo(マンジャーレ コーメ ウン ルーポ)と言います。又は「空腹で死にそう(morire)」muoio di fame(ムオイオ ディ ファーメ)とも言います。
■「体がぽかぽかしてきた」という場合、「熱い感じ」sensazione di caldo(センサツィオーネ ディ カルド)を使ってMi ha preso una sensazione di caldo.(ミ ア プレーゾ ウーナ センサツィオーネ ディ カルド)と言います。
また「天気(気候)がぽかぽか陽気!」という場合は、動詞addolcirsi(アッドルチルシ)「和らぐ、穏やかになる」を使って、Il tempo(Il clima) si è addolcito(イル テンポ クリーマ シ エ アッドルチート)と表します。
その他の擬態語
とんとん | Qualcuno ha bussato alla porta(誰かが戸をとんとんとたたいた) |
Battere leggermente le spalle(とんとん肩をたたく) | |
giusto alla pari(五分五分) | |
si è fatto strada rapidamente(彼はとんとん拍子に出世した) | |
しとしと | la pioggia bruiva又はstava piovigginando(しとしとと雨が降っていた) |
ぐつぐつ | cuocere a fuoco lento(vivo)(ぐつぐつ弱火で〈強火で〉煮る) |
ひゅうひゅう | il vento fischia(風がひゅうひゅうと吹いている) |
がんがん | avere gli orecchi intronati(耳ががんがんする) |
accendere il riscaldamento al massimo(暖房をがんがんにきかせる) | |
ho mal di testa da impazzire(頭ががんがんする) | |
どきどき | il cuore mi batte forte(心臓がどきどきする) |
col cuore in gola(胸をどきどきさせて) | |
ぱんぱん | battere le mani(ぱんぱんと手をたたく) |
ormai sono sazio(sto quasi per scoppiare)(お腹がもうぱんぱんだ) | |
がちゃがちゃ | con grande fracasso(がちゃがちゃと大きな音を立てて) |
がちゃん | rompendosi, il piatto fece un rumore secco(お皿ががちゃんと割れた) |
ばたん | chiudere(sbattere) la porta violentamente(con forza)(戸をばたんと閉める) |
ぱさぱさ | capelli molti secchi(ぱさぱさの髪) |
questo pane è rafermo(このパンはぱさぱさだ) | |
mandarino troppo asciutto(ぱさぱさのみかん) | |
くちゃくちゃ | masticare la gomma(ガムをくちゃくちゃかむ) |
lamentarsi in continuazione(ぐちゃぐちゃ文句を言う) | |
むしゃむしゃ | divorare il pane(むしゃむしゃパンを食べる) |
ごろごろ | avere gli occhi irritati(目がごろごろする) |
il tuono rimbomba(雷がごろごろ鳴る) | |
il gatto ronfa(fa le fusa)(猫がごろごろのどを鳴らす) | |
non fa altro che poltrire tutto il giorno(一日中何もせずにごろごろしている) |
単語帳
花言葉について その1
アメリカの新人女性作家ヴァネッサ・ディフェンバーさんのデビュ-作、「花言葉をさがして」(Vanessa Diffenbaugh:Il linguaggio segreto dei firori)は、美しい植物が彩る、愛と感謝の物語で、イタリアでも30万部を超える話題のベストセラーとなりました。現在、日本を含めた世界39カ国で出版され、映画化も決定されました。内容については本を読んでいただくとして、ここではこの本の巻末にある「ヴィクトリアの花言葉事典」を参考にして、代表的な花の名前と花言葉をイタリア語で学びましょう。
花言葉の多くは、古くから伝わる神話や伝説から生まれました。また花の姿や香り・色・生態などの特徴から作られたもの、更にはキリスト教などの宗教的なシンボルとして生まれてきたものもあります。
(1)
バラ:(赤色) | Rosa rossa | Amore | 愛 |
(オレンジ色) | Rosa arancione | Seduzione | 魅惑 |
(白色) | Rosa bianca | Un cuore che non conosce l'amore | 愛を知らない心 |
(黄色) | Rosa gialla | Infedeltà | 不義 |
(薄いピンク) | Rosa pesca | Modestia | 謙虚 |
(ピンク) | Rosa rosa | Grazia, eleganza | 気品 |
(暗紅色) | Rosa rosso scuro | Bellezza inconsapevole viola | 無意識の美しさ |
(紫色) | Rosa viola | Incanto | 魔力 |
(コケバラ) | Rosa muscosa | Dichiarazione d'amore | 愛の告白 |
ギリシャ神話では、愛の女神アフロディテが誕生した時に生まれた花です。またローマ神話では、ジュピターがヴィーナスの水浴を覗こうとしたため、ヴィーナスが顔を赤らめて、赤いバラが生まれたとされています。薔薇の花の色によって花言葉が微妙に違いますので注意して下さい。 |
(2)
チューリップ: | Tulipano | Dichiarazione d'amore | 愛の宣告 |
3人の騎士をとりこにした美しい少女が、花の女神フローラに頼みチューリップに変身し、3人の騎士たちへ博愛の気持ちを表しました。 |
(3)
ユリ: | Giglio | Regalità | 威風、尊厳 |
イブがエデンの園から追われたとき、イブの涙からユリが生まれたとされています。白いユリがキリスト教では聖母を象徴するので、「純潔」という花言葉が生まれました。 |
(4)
シクラメン: | Ciclamino | Timida speranza | 遠慮がちな望み |
シクラメンの花は下をむいて咲きます。その姿が、いかにも恥ずかしがって、うつむいているように見えることから「内気」や「はにかみ」を表しました。 |
(5)
スイセン: | Narciso | Narciso | 自己愛 |
自分に恋する苦しみのあまりにやせ細り、スイセンの花になってしまうギリシャの美青年ナルシスの話。彼を好きになった森の妖精エコーは、悲しみのあまり、ついに声だけになってしまいます。これが「こだま」となったとされています。 |
(6)
マーガレット: | Margherita | Innocenza | 潔白、純潔、純真 |
恋占いで「すき・きらい・すき・きらい...」と唱えながら、はなびらを1枚ずつちぎっていくと、最後の1枚が神のお告げをあらわす。 |
(7)
ポインセチア: | Le stelle di Natale | Benedizione | 祝福 |
クリスマスにキリストの血の色を表す赤を飾る習慣があり、苞葉が真っ赤になり下葉の緑との調和が美しいことから「クリスマスの星」と呼ばれるようになりました。また、大きく開いた花が、両手を広げて相手を祝福しているように見えるところから「祝福」の花言葉もあります。 |
(8)
アイリス: | Giaggiolo | Messaggio | 恋のメッセージ |
ギリシャ神話の虹の神です。もともと神々の王ゼウスの妻ヘラに仕えた侍女だったアイリスは、女神になったあともヘラやゼウスの使者、つまりメッセンジャーとして活躍しました。また、恋の神エロスの母でもあることから、「恋のメッセージ」という花言葉が生まれました。 |