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インターネット公開文化講座

文化講座

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料理研究歴50年・「伊藤華づ枝の しみじみ おいしいレシピ集」

郷土料理研究家
栄中日文化センター提携 インターティアラ・お料理サロン 主宰
伊藤 華づ枝

第6回:「鍋物」について学びます。

前シリーズでは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしてまいりました。
今シリーズでは、料理研究歴50年が経過した筆者が旬の食材を中心に取り上げ、家庭で作れる基礎レシピだけでなく、日本で食べられている世界各地のおいしい料理やデザートなどもご紹介いたします。それぞれの食材が持つ栄養素や美しい盛り付けのコツ・食材にまつわる「おもしろ話」・食事マナーなどについてもご紹介しております。

第6回目のテーマは、「鍋物」

鍋物とは、食卓に鍋と熱源(カセットコンロ、電熱器類など)を用意し、食材を加熱しつつ温かい状態で食べる料理です。特に寒い季節である冬に好まれます。近代以前の日本の住居には台所にある竈(かまど)とは別に、照明や暖房を兼ねた囲炉裏がありました。囲炉裏で鍋物を取り分けて食べることは、日常的に行われていました。
18世紀後半になって、囲炉裏のない町屋や料理屋で火鉢やコンロを使用した『小鍋仕立て』という少人数用の鍋が提供されるようになり、鍋から直箸で何人かがつつくというような現代に見られる鍋料理が発達しました。
特に明治に入ってからは牛鍋が流行し、ちゃぶ台が普及し始めると、鍋料理は一般家庭に大きく普及しました。
さらにカセットコンロやホットプレート鍋などの普及により、家庭でさかんに鍋料理が食べられるようになったのです。
「鍋」は日本のみならず、中国・韓国・タイなどのアジア地域はもちろん、ヨーロッパやアフリカなどにもあり世界中で食されているので、今回は日本の鍋物だけでなく世界各地の鍋物もご紹介します。

代表的な鍋物のご紹介

*このページ内の料理写真は、すべて伊藤華づ枝が作成・撮影したものです


ハマグリ鍋


カニ鍋


和風カレー鍋


モツ鍋


味噌煮込みうどん鍋


味噌煮込み餃子鍋


白菜と豚肉のミルフィーユ鍋


豚キムチ鍋


ポークチゲ


牛肉イタリアン鍋


ミートボールと冬野菜のホワイトクリーム鍋


牛肉とナスのタジン

代表的なレシピをご紹介します

具だくさんの湯豆腐鍋

具だくさんの湯豆腐鍋

材料 4人分
A 昆布 10cm
1200ml
豆腐(木綿) 1丁(450g)
白菜 6~7枚(600g)
生しいたけ(中) 8枚
にんじん(1~1.5cmの輪切り) 4枚
春菊 1袋(100g)
豚ロース薄切り肉 200g
土佐しょうゆ
B 150ml
しょうゆ 200ml
たまり 大さじ2
大さじ4
みりん 大さじ4
花かつお 10g
細ねぎ 2本(10g)
しょうが(すりおろし) 小さじ4
白すりごま 小さじ4

作り方

  1. (A)の昆布は分量の水に一晩浸け、水出しの昆布だし汁を作ります(昆布を水に入れて弱火で煮出しても良いでしょう)。
  2. 豆腐は水に晒し、16等分にします。
  3. 白菜は茹でて水に取り、巻きすで巻いて3~4cm長さに切ります。生しいたけはお好みで飾り切りにし、にんじんは花型で抜いて形を整えます。春菊は葉の部分を摘みます。
  4. 豚肉は熱湯に入れてサッと霜降りにし、水に取ります。
  5. 鍋に(B)を入れてから火にかけ、煮立ってから火を弱めて1分間煮て漉します。
  6. 土鍋に1.の昆布を敷き、昆布だし汁を1000ml入れます。煮えにくい材料から順に入れて、4.の豚肉と豆腐を加えて煮立てます。
  7. 細ねぎは小口切りにします。
  8. 6.を5.の土佐しょうゆと7.のねぎとしょうが、ごまの薬味で召し上がります。

※写真には柚子の皮を添えました

海の幸イタリアン鍋

海の幸イタリアン鍋

材料 4人分
エビ(有頭) 8尾(200g)
ハマグリ(又はアサリ) 8コ(160g)
イカ 1杯(200g)
ホタテ貝柱 8コ(200g)
A 白ワイン 70ml
30ml
赤パプリカ 1コ(170g)
ズッキーニ(又はナス) 1本(140g)
セロリ(葉なし) 1・1/2本(150g)
にんにく(みじん切り) 1粒(5g)
オリーブ油 大さじ2
エリンギ 適量
B トマトソース 1缶(295g)
600ml
白菜 160g
小さじ1
白こしょう 少々
スパゲッティー 200g

作り方

  1. エビは背ワタを取り、頭と尾を残し、殻をむきます。ハマグリは、ていねいに洗います。イカは皮をむいて内臓を取り出し、2cm幅の輪切りにします。ホタテは碁盤の目に切り込みを入れます。
  2. 1.の魚介類を鍋に入れ、(A)を加え、蓋をして酒蒸しにします。
  3. ハマグリは口が開いたら、エビは表面の色が赤くなったら、その他の具は8分目まで火が通ったら鍋から取り出します。残った汁は、キッチンペーパーなどで漉します。
  4. 赤パプリカは、1.5~2cm幅の縦細切り、ズッキーニは1cm幅の斜め切り、セロリは筋を取り1cm幅の斜め切りにします。
  5. 煮込み用の鍋にオリーブ油を入れてにんにくを弱火で炒め、香りが出てきたら4.とエリンギを加え、しんなりするまで炒めます。
  6. 5.に(B)を加え、アクを取りながら煮ます。
  7. 6.に3.の魚介類を戻し入れ、残った汁も加え、塩とこしょうで調味します。白菜をざく切りにして加え、サッと煮ます。
  8. 器に盛り、召し上がります。

※具を全部取り出した後は、ゆでたスパゲッティーを入れ、軽く塩味をつけて、スープパスタとしてどうぞ

※写真にはセルフィーユを添えました

参鶏湯(サムゲタン)朝鮮半島の薬膳鍋

参鶏湯(サムゲタン)朝鮮半島の薬膳鍋

材料 作りやすい分量
若鶏(丸鶏) 1羽(1kg程度)
もち米 1/3カップ(70ml分)
桔梗(乾燥・あれば) 20g
なつめ(乾燥) 2コ
朝鮮人参(生・冷凍可) 1本(10g)
銀杏 8コ(15g)
松の実 大さじ1
A 長ねぎ(5cm長さに切る) 1/2本(75g)
しょうが(薄切り) 1かけ(15g)
にんにく 1かけ(5g)
1700ml
紹興酒 50ml
小さじ1/2
小さじ2/3
薬味ねぎ(小口切り) 3本

作り方

  1. 若鶏は腹の中をきれいに洗って余分な脂肪を除き、水気を切ります。
  2. もち米は洗ってたっぷりの水に20分程浸水したのち、ザルに上げます。
  3. 桔梗は一晩、水に戻します。なつめは種を除き2等分します。
  4. 朝鮮人参は1本を4等分に切ります。
  5. 銀杏は水からゆでて皮をむきます。
  6. 2.~5.と松の実を1.の鶏の腹に詰めて爪楊枝で留めます。
  7. 6.と(A)を圧力鍋に入れます。
  8. 7.を火にかけ、沸騰してから蓋をして、圧力がかかったら火を弱めて40分間程煮立てて火を止めます。
  9. 圧力が下がったら塩で味を調え、器に盛ってねぎを散らします。

ご当地鍋あれこれ

  • 石狩鍋(北海道)
  • せんべい汁(青森県八戸市)
  • きりたんぽ鍋(秋田県)
  • 芋煮(青森県を除く東北地方および新潟県)
  • ほうとう鍋(山梨県)
  • あんこう鍋(茨城県)
  • どじょう鍋(東京・福岡県柳川市など)
  • 赤みそおでん鍋(愛知県)
  • てっちり(大阪府、山口県、福岡県)
  • もつ鍋(福岡県)
  • すっぽん鍋(大分県)

など

鍋物のすぐれた栄養素

健康に良くて・チャチャッと作れて・おいしい料理は何ですかと聞かれたら、管理栄養士で料理研究家の私は、「そういう都合の良い料理はありません!」と安直な質問を拒否しますが、唯一あるとすれば、それは間違いなく「鍋物」です。魚介・肉類・野菜・穀類などが入り、たんぱく質が無理なく摂れて・脂質が少なく・食物繊維がたくさん摂れて実にバランスが良い優れた料理だと断言します。何よりも鍋を囲んでの食事はコミュニケーションも取れて、人々の心も温めてくれますからね。

鍋物の味を更に引き立てる薬味について

  • 一味唐辛子・七味唐辛子・粉山椒
  • 溶きからし
  • ゆず胡椒や粗挽きコショウ
  • コチジャン・豆板醤
  • さらしねぎ
  • もみじおろし
  • 刻みみつば
  • おろししょうが
  • もみのり
  • ゆずやスダチ など

それぞれの鍋に相性の良い薬味があります。しかしまた、和風鍋に粗挽きコショウなどの薬味との意外な組み合わせもあるので、果敢にチャレンジしてみてください。

鍋物のシメ

鍋物は色々な具材を煮込んでいるため、煮汁には「うまみ」が凝縮しています。捨ててしまっては、本当にもったいないです。この煮汁を利用して鍋の最後に食べるものを「シメ」といいます。
麺類(うどん・きしめん・素麺・そば・春雨・中華麺・パスタなど)、飯+卵(雑炊・おじや)、餅や麩などがあります。
私はご飯を洗わずに、とろとろに煮た「卵おじや」が断然好きです。

鍋物の際のマナー...以下のようにならないよう注意したいものです

鍋奉行

鍋料理に具材を入れる順序、位置、食べ頃などを細かく指定して、鍋料理の場を仕切る人のことです。時代劇でとかく権力を振るう役回りである「奉行」をもじり、また少々迷惑な存在であるという意味も含んでいます。

待ち奉行(まちぶぎょう)・待ち娘(まちむすめ)

鍋奉行とは逆に、ほとんど手を出さずに食べられる時が来るのをただ待つだけ、出来上がった鍋を楽しむだけの人。男性を「待ち奉行」、女性を「待ち娘」と呼び、こちらも迷惑かも知れませんね。

みんながおいしく食べられるように、役割分担するなどのマナーを守りたいものです。

土鍋の扱い方

使用前には鍋の中をしっかりと洗いますが、底を水洗いしないようにと私は生徒たちに伝えています。
土鍋という字のごとく、素材は「土」ですから、底に水を含ませてしまうと割れる元となります。使い終わった後、底が焦げついたりしていると、いきなり水に浸けるのもご法度です。温度差に弱いので割れる原因となりかねません。
鍋は底が大切...ソコが肝心です(笑)

次号は、「菜花」を予定しております

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