文化講座
第2回:「アナゴ」について学びます。
前シリーズでは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしてまいりました。
今シリーズでは、料理研究歴50年が経過した筆者が旬の食材を中心に取り上げ、家庭で作れる基礎レシピだけでなく、日本で食べられている世界各地のおいしい料理やデザートなどもご紹介いたします。それぞれの食材が持つ栄養素や美しい盛り付けのコツ・食材にまつわる「おもしろ話」・食事マナーなどについてもご紹介してまいります。
第2回目のテーマは、「アナゴ」
アナゴはウナギに良く似た細長い形をしている海水魚です。鑑賞用のチンアナゴなどは特に人気が高いようですが、ここでは食用として多く漁獲されている「マアナゴ」について、取り上げます。
浅い海の砂泥底に穴を掘って生息することから「穴の子」でアナゴと呼ばれるようになりました。
ほんの一時期に出回るアナゴの稚魚「ノレソレ」は、ポン酢などで生食できる高級品です。
代表的なアナゴ料理のご紹介
アナゴの有名地
人気の調理法は全国各地で食べられている、寿司種に使われる「煮アナゴ」ですが、白焼き・天ぷらなども人気です。
関西でよく食べられるのはごぼうを巻いた「八幡巻き」・広島・安芸の宮島の有名店でも知られる「あなご飯」も格別な味です。
広島・安芸 あなご飯
八幡巻き
ノレソレ
高知県が発祥で、主に西日本で食されています
岡山では「べらた」とも呼ばれます
煮アナゴの握り寿司
白焼き
天ぷら
アナゴの煮こごり
料理・撮影:伊藤華づ枝
アナゴの梅ジソ天ぷら
料理・撮影:伊藤華づ枝
アナゴの天ぷらは左下です
上はさつまいも天ぷら、右下はナス天ぷらです
家庭でのアナゴの調理法をご紹介
キッチンバサミを使って手軽に下調理できます
アナゴをまな板の上で開いて並べます
熱湯をかけ、包丁の背でぬめりをこそげ取ります
水で洗って背骨をキッチンバサミで取り除き、氷水に取ります
代表的なレシピを3点ご紹介します
煮アナゴ丼
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
米 | 2カップ(400ml分) | |
水 | 550ml | |
開きアナゴ | 600g(約6尾) | |
A | 水 | 300ml |
酒 | 100ml | |
砂糖 | 40g | |
みりん | 70~80ml | |
しょうゆ | 70~80ml | |
B | 卵 | 4個 |
塩 | 少々 | |
木の芽 | 適量 |
作り方
- 米は洗って、分量の水に1時間程浸水してから炊きます。
- アナゴをまな板の上で開いて並べ(写真1)、熱湯(分量外)をかけ、包丁の背でぬめりをこそげ取り(写真2)、水で洗って背骨をキッチンバサミで取り除き(写真3)、半分に切ります。
- 鍋に(A)を入れ、煮立ったら一度火を止めて2.を皮を下にして並べ、穴をあけたオーブンペーパーをかぶせ、落とし蓋をして中弱火で15~20分間程煮ます。
- 乾いたまな板の上にラップを敷き、3.を張りつけるようにして冷まします。
- 4.の煮汁は少々煮つめてタレを作ります。
- 炊きたての1.に、4.の煮アナゴの半量を刻んで、5.のタレの半量と共に混ぜます。
- (B)で錦糸卵を作ります。
- 器に6.と7.、残りの4.を盛り、5.のタレをかけて木の芽を添えます。
※写真1~3は、アナゴの調理法を参考にして下さい
アナゴの山椒炊き
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
開きアナゴ(頭をおとしたもの) | 280g | |
小麦粉 | 適宜 | |
揚げ油 | 適宜 | |
グリーンアスパラガス(太) | 4本(100g) | |
A | みりん | 大さじ3 |
しょうゆ | 大さじ3 | |
酒 | 大さじ4~5 | |
水 | 大さじ1~2 | |
砂糖 | 大さじ1 | |
粉山椒 | 適宜 |
作り方
- アナゴは1尾を4~5切位に切ります。
- 1.に小麦粉をつけ、中温~高温の油でカラリと揚げます。アスパラは1本を4つ位の長さに切って素揚げします。
- 鍋に(A)を入れて煮立て、2.を入れてからめます。
- 仕上げに粉山椒を多めにふります。
- 4.を器に盛り合わせ、上から再び粉山椒をふります。
アナゴとひよこ豆のトマト煮込み
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
開きアナゴ | 500~600g(約4尾) | |
塩 | 小さじ2/3 | |
こしょう | 少々 | |
小麦粉 | 適量 | |
オリーブオイル | 大さじ2 | |
にんにく(みじん切り) | 1/2粒 | |
玉ねぎ(みじん切り) | 1/2個 | |
オリーブオイル | 大さじ1 | |
A | トマトソース | 150ml |
水 | 150ml | |
塩漬けケッパー(塩抜きしてみじん切り・あれば) | 10g | |
種抜きグリーンオリーブ(半分の輪切りにする) | 8個 | |
オレガノ(あれば) | 小さじ1/2~ | |
ひよこ豆(茹でたもの) | 300g | |
塩 | 小さじ3/4~1 | |
ハーブ(イタリアンパセリ、セルフィーユなど) | 適量 |
作り方
- アナゴは腹骨と血合いを取り、まな板の上に背側を上にして並べ(写真1)、熱湯(分量外)をかけ、包丁の背でぬめりをこそげ取り(写真2)、水で洗って背骨をキッチンバサミで取り除き(写真3)、氷水に取ります。
- 1.に塩とこしょうを振り、小麦粉をまぶします。
- フライパンにオリーブオイルを入れ、2.を皮面から焼き、途中で裏返して焼き上げ、取り出します。
- 3.のフライパンにオリーブオイルとにんにく、玉ねぎを入れて良い香りがするまで炒めます。
- 4.に(A)を入れ、ひよこ豆を味が馴染むまで煮ます。
- 5.に3.を戻し入れ、アナゴに完全に火が通るまで煮て、塩で調味します。
- 器に6.を盛ってハーブを添えます。
アナゴの旬は2回ある
年間を通して多く流通されているアナゴはいつでもおいしいものですが、大きく分けて旬は2回あります。
6月~8月は「梅雨アナゴ」と呼ばれ、脂が少なくさっぱりとした味わいが楽しめます。梅雨で増水されて流れてきた豊富な栄養素を含んだエサを食べているので、味わいが深いのです。この時期のアナゴは、滋養強壮・夏バテ防止に寄与します。
一方で、脂のノリが良い時期は秋から冬の10月~12月ごろです。一般的な魚介類と同様に春に産卵期を迎えるので、その前には産卵のための栄養素を蓄えていて、プリプリとした身となり、コックリとしたコクが味わえます。
アナゴにまつわるおもしろ雑学
- アナゴは、「ものさし」替わりにもなる?
アナゴは別名をハカリメ(秤目)と呼ばれ、その字のごとく側線の白色点が竿秤のメモリのようであることに由来します。まさに等間隔ですから、ものさし替わりにもなりそうです。計ってみるのも良いかも...ですね(笑) - 料理研究家の失敗談
その昔(かなり昔々)、筆者は全国最大規模のカルチャーセンターが経営する料理教室に、アシスタントとして勤務しておりました。ある日、開きアナゴを魚屋さんに電話発注しました。「アナゴの開きを20本お願いします」と言ったら、「はいはい、メジロですね~」と言われたのです。「ええっ~~!!アナゴです。メジロではないです。鳥ではないです!!」と、きっぱり言い放ったところ、「名古屋地方ではアナゴのことをメジロと言うんだよ。何も知らんね~~」と笑われました。アナゴがメジロ?と訳がわからず、色々と調べてみたら、アナゴは目の周りが白いので、メジロと呼ぶそうです。名古屋地方の方言...「そんなこと知らんがねー」と、モヤモヤとしたことがありました(笑)
アナゴの栄養素
- 魚介類の中では、トップ級のビタミンAを含みます。
100gで1日のビタミンAの目標量が摂取できるという優れものです。 - 細胞の老化を防ぐ・若返り成分ビタミンEが豊富に含まれます。
- 骨の生育・骨粗しょう症予防に有効なカルシウムを多く含むだけでなく、傷の修復・神経や筋肉の働きを助ける成分も含みます。
- 推定機能としては、血栓を防止するEPAという不飽和脂肪酸を含みます。
※EPAとは血栓の形成を抑えて、血液の流動性を高める働きがある成分です。EPAには、アトピー性皮膚炎・喘息などのアレルギー症状を緩和改善する作用が認められています。 - ウナギと比べると栄養素の数値は比較にならないほどの少なさですが、脂質がほぼウナギの半分以下であることは胃腸が弱い人におすすめです。低価格ながらもあっさりとした上品な味で、たんぱく質を多く含むことなどは魅力に溢れる部分が多々あります。
- アナゴに含まれる注目成分「セレン」は、体内で生産できないミネラルです。セレンには、活性酸素を除去する強い抗酸化作用があり、老化予防・ガン予防などの働きがあります。体内に入り込んだ有害物質を排出したり無毒化するともされています。
- セレンは甲状腺ホルモンの構成成分としても知られており、新陳代謝にもかかわっています。
※セレンは魚介類や内臓肉・卵に多く含まれる成分で、すい臓の酵素を構成するミネラルです
次回は、女性に特に人気が高い「さつまいも」を予定しております。