文化講座
第8回:「ブルガリアの長寿食」について学びます。
前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。
今シリーズは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしております。
第8回目のテーマは、「ブルガリアの長寿食」です。
WHO(世界保健機関)が発表した2023年世界の長寿ランキングによると、ブルガリアは世界第75位、平均寿命75.1歳の国です。ブルガリアの人々はどんな料理を食べているのでしょうか?
※ちなみに世界全体の平均寿命は73.3歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。
ブルガリア共和国の概要
面積: | 11.09万km2(日本の約3分の1) |
---|---|
人口: | 690万人(2021年、世銀) |
首都: | ソフィア |
宗教: | ブルガリア正教 (ギリシャ正教等が属する東方教会の一派) |
言語: | ブルガリア語 |
ブルガリアの国旗
ブルガリアってどんな国?
ブルガリアはバルカン半島の中央に位置し、国土の約3分の1は標高600メートル以上の山岳地帯です。主な産業は農業と工業。国土の約3分の1は農業に使用され、小麦、トウモロコシを中心とした混合農業や酪農が盛んです。タバコ、ブドウ、バラなど多くの農産物が輸出されています。
リラ僧院(世界遺産)
リラ僧院はブルガリア正教(東方正教会)の中心的な教会であり、ユネスコの世界文化遺産に登録されています(1983年)
リラ僧院
首都ソフィア
街のシンボル・聖ソフィア像
知恵の神様といわれています
セントラルハリ市場
地元民も観光客も楽しめる市場です。
首都ソフィアの中心地にある
食料品専門のショッピングセンター
聖ゲオルギ教会
4世紀にローマ帝国によって建設されて以来、長い歴史を今に伝える貴重な教会です。
内部の壁や天井には、10~14世紀に書かれた宗教画が見られ、教会の背景にはローマ時代の浴場跡などが残っています。
聖ゲオルギ教会
ブルガリアの食文化
ブルガリアの食文化は、その地理的な位置や歴史により、基本的にはスラブ民族・ギリシャ・トルコ・地中海周辺国家の影響を強く受けています。料理は周辺のバルカン半島諸国と類似するものが多く、塊肉料理、ひき肉を使った料理や、煮込み料理が数多くあります。毎食のようにヨーグルトを食べるブルガリアですが、ヨーグルトを使っていない伝統料理も多くあります。
つぼ焼き料理「カヴァルマ」
「カヴァルマ」はブルガリアの代表的な煮込み料理です。つぼ(土鍋)で肉と野菜をトマトで煮込んだシチューです。
カヴァルマ
ギュヴェチェ
筆者が現地で食べたブルガリアの代表的な土鍋料理。
ギュヴェチェ
ショプスカサラダ
ブルガリア定番の人気のサラダです。トマト、キュウリ、玉ネギ、生またはローストしたトウガラシ、シレネという白いチーズ、パセリ等から作ります。ひまわり油や塩でシンプルに調味したものが多いです。
ショプスカサラダ
ヨーグルトを使った代表料理
タラトール
(きゅうりのヨーグルトスープ)
ヨーグルト
(はちみつとくるみのソース)
ヨーグルトの栄養素
ヨーグルトは、乳に乳酸菌や酵母を混ぜて発酵させて作る発酵食品のひとつです。ヨーグルトは原料である牛乳などの栄養素に加え、更に乳酸菌の働きによる生理的な効果も期待できます。
・たんぱく質... | 牛乳と同程度含まれ、たんぱく質の一部はペプチドまで分解されているため、消化吸収がよいことが知られている |
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・炭水化物... | 乳糖が乳酸発酵によって2~3割分解されているので、乳糖不耐症の人にもやさしい |
・カルシウム... | 牛乳と同様に豊富に含まれ、更に乳酸によって体内での吸収がよいのが特徴 |
乳酸菌のちから
乳酸菌には多くの種類があり、自然界のあらゆるところ、例えばヒトの腸内などに広く存在しています。乳酸菌は、悪玉菌のようにたんぱく質を分解してアンモニアなどの有害物質をつくることもなく、身体にとってプラスに働きかけるものがほとんどです。
乳酸菌の効果
- 乳酸や酢酸により腐敗菌を抑え、保存性を高める
- 乳酸や微量芳香成分が芳香と風味を高める
- 消化管の運動を促進して便通を整える「整腸作用」がある
- 乳酸発酵により栄養素の消化吸収を促進する
- 善玉菌の増殖を促す
今話題の「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」
世界中で注目されている言葉です。
この2つがうまくからみあって働くことが、生活習慣病を予防し、健康な生活を送る上で非常に大切であることは最近では常識となりつつあります。
プロバイオティクス
腸内で体に有用な働きをする生きた細菌のこと。ヨーグルトに含まれるビフィズス菌をはじめとする腸内乳酸菌をさします。
プレバイオティクス
腸内細菌(ビフィズス菌)の餌になり、腸内細菌を元気にする成分のこと。食物繊維やオリゴ糖がそれにあたります。
腸内細菌を増やすことは
年齢と共に減少する乳酸菌を増やして腸を若々しくすることが不老長寿につながると、ノーベル生理学・医学賞を受賞したメチニコフは説きました。
乳酸菌のちからを最大限に生かした長寿食とは...
世界寿命ランキング1位の日本の背景には、伝統的でヘルシーな食文化が理由としてあげられます。
よって、「日本型食生活に乳製品を足す食事」が理想的です。ヨーグルトで有用な働きをする細菌を増やし(プロバイオティクス)、野菜から食物繊維を摂取することでビフィズス菌などの餌となり腸内細菌を元気にします(プレバイオティクス)。
特に朝食がおすすめ!
眠っていた空っぽの胃を冷たいヨーグルトで刺激すると、腸が動き出して、気持ちの良い排便を促すともいわれています。
ブルガリアで購入した陶器などで、現地の家庭料理をイメージして作ったテーブル・伊藤華づ枝作
今回は、ブルガリアの代表的な煮込み料理「カヴァルマ」と、現地で最も人気が高い「チーズを使ったサラダ」をご紹介します
カヴァルマ ~煮込み料理~
材料 | 4人分 | |
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豚肩ロース肉(塊) | 200g | |
塩 | 小さじ1/2 | |
黒こしょう | 少々 | |
サボリー(粉末・あれば) | 少々 | |
ピーマン | 2コ(100g) | |
赤パプリカ | 1コ(180g) | |
にんにく(みじん切り) | 1かけ | |
玉ねぎ | 1/2コ(160g) | |
マッシュルーム | 10コ | |
トマト(大) | 1/2コ(160g) | |
オリーブ油 | 小さじ2弱 | |
白ワイン | 50ml | |
A | トマトソース缶 | 1缶(300g) |
水(トマトソース缶を洗ったもの) | 100ml | |
塩 | 少々 | |
黒こしょう | 少々 | |
サボリー(粉末) | 多め | |
卵 | 4コ |
作り方
- 豚肉は2~3cmの角切りにし、分量の塩とこしょうとサボリーをふります。ピーマンと赤パプリカは2~3cmの角切り、玉ねぎは1cm角切り、マッシュルームは4つ切りにします。トマトは横に切って種を取り、ざく切りにします。
- フライパンにオリーブ油を入れ、豚肉を焼き付けるように炒めます。油を残して豚肉を取り出します。
- 2.ににんにくを入れて良い香りがしたら玉ねぎを入れ、中弱火でじっくり炒めます。ピーマン、パプリカ、マッシュルームを加えます。
- 3.にトマトを加え、白ワインと2.で取り出した豚肉を入れます。
- (A)と塩とこしょうとサボリーで調味して全体に混ぜてから、蓋をして15分間煮込みます。
- 5.を耐熱皿に入れて卵をのせ、180度に予熱したオーブンで7~10分間焼きます。
※耐熱皿は家庭では小さな土鍋を使用しても良いでしょう
※「サボリー」とはハーブで、はっかに似たさわやかな香りがします
ヨーロッパでは乾燥したものを肉や卵料理によく用います
ショプスカサラダ
ブルガリア東部のショプルク地方にちなんで命名されたチーズたっぷりのサラダです
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
トマト | 400g(1・1/2コ) | |
ピーマン | 60g(2コ) | |
きゅうり | 200g(2本) | |
玉ねぎ(みじん切り) | 大さじ2 | |
パセリ(みじん切り) | 小さじ1 | |
A | オリーブ油(又はサラダ油) | 大さじ2 |
純米酢 | 大さじ1 | |
フェタチーズ(白いチーズ) | 100g |
作り方
- トマトは2~3cm角、ピーマンは5mm角、きゅうりはピーラーで皮をむいて1cm幅の輪切りにそれぞれ切ります。
- ボウルに1.・玉ねぎ・パセリを合わせて(A)で和えます。
- 2.を皿に盛り、チーズをチーズおろし器で削って上から降りかけます。
※チーズは包丁で細かく切っても良いでしょう