文化講座
第6回:「中国の長寿食」について学びます。
前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。
今シリーズは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしております。
第6回目のテーマは、「中国の長寿食」です。
WHO(世界保健機関)が発表した2022年世界の長寿ランキングによると、中国は世界第48位、平均寿命77.4歳の国です。中国の人々はどんな料理を食べているのでしょうか?
※ちなみに世界全体の平均寿命は73.3歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。
中国の概要
面積:960万km2(日本の約25倍)
人口:14億2,570万人(日本の約11.5倍)
首都:北京
宗教:宗教は仏教・道教・儒教・イスラム教やキリスト教、チベット仏教などが少数存在しますが、政府により制限が課されています
言語:漢語(中国語)
国土が広いために北方方言、呉語、福建語、広東語等に分かれています
中国の国旗
中国ってどんな国?
中国というのは通称で、正式には「中華人民共和国」と言います。
東アジアに位置する社会主義共和制国家です。
中国では、政府の行政区分を地理に基づいて大別した中国地理大区が用いられており、現行の地理大区は中国全土を東北、華北、華東、中南、西南、西北の6つに区分しています。
中国東北部
歴史的にはかつて満州と呼ばれていた地域です。
豊富な鉱産資源を背景として、満州国時代に東アジアで最も工業化が進んだ先進地域となりました。
多くの満州族文化と共に日本、韓国、ロシアの生活様式を吸収しており、ロシア料理や韓国料理のキムチ、犬肉食などが外来文化の影響を受けています。
また、晩秋白菜を瓶に漬けた「酸菜」(スワンツァイ)に、豚肉とジャガイモを入れて鍋で煮た料理は、東北人が冬に最も好む地方料理と言われています。
東北部位置
華北
中国北部地域の呼称で、首都北京が位置する地域です。
ユネスコの世界遺産である「万里の長城」が有名。
古くから粟や麦が栽培され、水ギョーザ(餃子)やマントウ(饅頭)などの中華料理発祥の地です。
華北位置図
万里の長城
華東
中国東部の呼称です。
山東省、江蘇省、浙江省、江西省、福建省、上海市が含まれる地域です。
華東位置図
上海の街並み
中南
中国大陸南部中央の地域。華南と華中の一部により構成されています。
河南省、湖北省、湖南省、広東省、広西チワン族自治区、海南省、中国に返還後の香港特別行政区及びマカオ特別行政区が含まれています。
中南位置図
香港の街並み
西南
ラオスやミャンマー国境に近く、チベット自治区と隣接した雲南省や、貴州省、四川省、重慶市を指します。
省都には漢民族が多く、農村にはチベット系や東南アジア系の少数民族が稲作で生計を立てている地域です。
西南位置図
西北
中国の西北内陸の地域です。地理上は黄土高原西部、渭河平原、河西走廊、青蔵高原北部、内モンゴル高原西部、ツァイダム盆地、新疆の大部分の地域を含みます。
西北位置図
中国四大料理
中国四大料理といえば、北京料理、上海料理、広東料理、四川料理を指します。
北京料理
中国王朝が現在の北京に首都を定めた時代以降の貴族の宮廷料理が発展し、洗練された華やかなものが多く、北京ダックは代表的な料理です。
涮羊肉と呼ばれる羊肉のしゃぶしゃぶや水餃子、蒸しパンのような饅頭(マントウ)、杏仁豆腐などは庶民の間の定番料理です。
北方のため、米や魚よりも小麦や肉類を多く使い、塩味の強い濃いめの味つけの料理が多いようです。
北京ダック
上海料理
長江の下流地域である上海を中心とした上海料理は、魚やエビ、カニなどの魚介類を多く取り入れています。海産物だけでなく川や湖などで獲れる淡水産の食材も豊富で、有名な上海蟹は長江の周辺にある湖が主な産地となっています。
八宝菜のように素材の味を活かしたやさしい味つけの料理や東坡肉(豚の角煮)などの濃厚で甘辛い味つけの料理や小籠包などもあり、多彩な料理が特徴です。
上海蟹
広東料理
「食在広州(食は広州にあり)」とも言われるほど、食材の宝庫として知られている地域です。沿岸南部に位置するため海産物が豊富なことに加え、古くから各国との貿易が盛んに行われていたため、バリエーション豊かな食材を使用することが特徴です。
フカヒレやアワビ、干しナマコ、ツバメの巣などの高級食材を使った料理も多くあります。
代表的な料理といえば、シュウマイや小籠包、ごま団子などの点心です。
中国茶と点心を一緒に楽しむ「飲茶」は、広東発祥の食文化です
水餃子
調理、撮影 伊藤華づ枝
四川料理
中国大陸の西方の内陸部である四川省と、その周辺地域で発達したのが四川料理です。
豆板醤や唐辛子、花椒などの香辛料をふんだんに使用した辛味や痺れの効いた味つけが特徴で、四川省の夏は蒸し暑く、冬は寒い気候であることからこのような刺激的な料理が誕生したと言われています。
「麻辣(マーラー)」と呼ばれる痺れるような辛味のある料理が多く、麻婆豆腐や担々麺、火鍋などが代表的です。
手づくりラー油
調理、撮影 伊藤華づ枝
中国特有の文化「飲茶」
飲茶とは、点心と呼ばれる「おかず」や「甘味」と共に、香り高いお茶を飲む習慣のことで、いわば中国式のお茶とおやつタイムです。
点心には「餃子」、「シューマイ」、「春巻き」、「ちまき」、「肉まんじゅう」、「杏仁豆腐」、「大根もち」、「マンゴープリン」などなど、その種類は数千種類ともいわれるほど豊富です。
「心に点じる」と書かれるこの文字は、心がポッと温まる程度の軽い食事というのがもともとの語源とされており、「空心(すきばら)に小食を点ずる」という意味の軽い食事をさすと言われています。
食材に小麦粉が多く使われたこともあり、喉につまりやすいということもあり、お茶がつきものになったということでしょうか。お茶の種類が膨大なことも、飲茶の特色です。
点心の種類
鹹点心(シェンティエンシン)
肉などを使った料理(甘くないもの)
餃子、シューマイ、春巻き、包子などがあります。
エビの春巻きスティックス
調理、撮影 伊藤華づ枝
ホタテシューマイ
調理、撮影 伊藤華づ枝
甜点心(テンテンシン)
デザート系(甘いもの)
団子、菓子、杏仁豆腐などがあります。
杏仁豆腐
調理、撮影 伊藤華づ枝
ごま揚げ団子
調理、撮影 伊藤華づ枝
マンゴープリン
調理、撮影 伊藤華づ枝
中国茶
お茶のはじまり
お茶は中国において有史以前から薬として飲まれており、もともと「茶」という文字は、「苦い」を表す意味だったようです。
農業と薬草を司る「神農」の沸かしたお湯に、茶葉が偶然に落ちたのが始まりだったと伝えられています。
薬用から嗜好用に
三国時代(222~280年)以降に薬用から次第に嗜好用になってきました。僧侶や文化人の間で流行となり、日常的に飲まれるようになりました。
茶器の発達
唐の時代(7~10世紀)には茶器が発達してきます。この時代に「陸羽」が書いた「茶経」は、その名のとおり、中国茶の聖典・バイブルとして、現在も中国茶の世界に影響を与え続けています。
中国茶の種類
中国茶は、発酵の度合いによって基本的には6種類に分類されます。中国茶と言えば、日本では冷たいウーロン茶を想像する人が多いようですが、中国の一般家庭で圧倒的に飲まれているものは、未発酵の温かい緑茶です。
緑茶
中国で一番生産量が多く、よく飲まれているお茶で非発酵茶です。
日照緑茶
雲南毛峰
花茶
「花茶」とは、茶葉に花の香りを吸着させたものです。
茶葉には香りを吸収する特性があり、それを利用した製法です。
ジャスミン茶はもっとも有名な花茶で、強い花の香りを持っていますが、茶の味を妨げることはありません。
花茶の楽しみ方
- 耐熱グラスに花茶を淹れます
- 熱湯を注ぎ入れます
- 花が開いたら花を浮かべたまま飲みます
5~6杯は楽しめます
青茶
発酵度15~70%の発酵茶のことで、青茶は日本でも有名な「烏龍茶」のことですが、烏龍茶というのは俗称で正しくは青茶と言います。
阿里山高山茶
鉄観音
紅茶
完全発酵のお茶のことです。
最初に紅茶が生産されたのは福建省で、その後、ヨーロッパに広まりました。
インドの紅茶よりタンニンが少なく、渋みのない紅茶です。
ライチ紅茶
黒茶
後発酵のお茶。乾燥させる前の緑茶に加熱加湿し、麹菌を加えて発酵させたものです。
香港では、飲茶の後に飲まれることが多くあります。代表的なものに「プーアール茶」があります。
プーアール茶
白茶
炒ったり揉んだりせずに、茶葉の原形のまま、うぶ毛を残したぜいたくなお茶。
熟れる前の果実のような香りが特徴的です。
白毫銀針
黄茶
緑茶に近い弱後発酵茶で、茶葉と水色が黄色であることから、黄茶と呼ばれます。希少な存在のお茶です。
緑茶に似たさわやかな味わいです。
君山銀針
中国茶と点心との組み合わせ
茶は味の濃い点心と相性がよいことに加え、消化を促進する作用があり、また点心の油分の吸収を阻害する手段にもなっています。
香港で飲茶を楽しみました
『陸羽茶室』(飲茶)
お茶の聖人"陸羽"の名がついたこの店では、朝はトレイを下げた店員が点心を運んできて好きなものを選べます
エビみそギョーザ
エビ卵のせシューマイ
ちまき
『新同楽魚翅酒家』(飲茶)
ミシュラン3つ星獲得店です
『名都酒楼 』(飲茶)
昔ながらのワゴン式飲茶が楽しめます。
200種類以上の豊富な点心が魅力です
中国料理のおいしさの秘訣と栄養素
中国料理独特の風味を創り出しているのは、中国ならではのスパイスです。個性的な香りを持つものが多く、素材の味を引き立てる名脇役です。
その代表的なものをご紹介します。
西安市の市場で販売されていたスパイスミックス
撮影 伊藤華づ枝
五香粉(ウーシャンフェン)
シナモン、丁子、サンショウ、ウイキョウ、八角などの粉末をミックスしたものです。ひと振りするだけで中華テイストになると、人気の高いスパイスです。
新陳代謝を活発にして身体を温める効果が期待できます。
杏仁(シンレン)
アンズの種の中にある仁。杏仁豆腐などに使われます。粉末にして用いられることが多く、咳止めや便通改善などの効果が期待できます。
杏仁
陳皮(チェンピィ)
ミカンやダイダイなどの柑橘系果物の皮を乾燥させたスパイスです。漢方薬にもよく使われています。
食欲不振・乗り物酔いなどに効き、また血圧降下作用・咳止め効果・便秘の改善効果が期待できます。
陳皮
草果(ツァオグォ)
ナツメグに似た中国特有の香辛料のひとつです。鶏やアヒル料理によく用いられます。
一般的には消化を助ける働きがあると言われます。
草果
丁香(ディンシャン)
丁子のことです。フトモモ科の常緑樹のつぼみを乾燥させたもので、強い香りが特徴です。魚や肉の臭い消しとして用いられることが多く、お菓子にも使われます。
食欲増進作用があるとされています。
丁香
八角(バァジァオ)
シキミ科の常緑低木のサヤを乾燥させたもので、八角形をしていることからこの名前が付きました。独特の香りとほのかな苦みを持つスパイスです。
特に身体を温める効果が高く、冷えが気になる時や食欲不振に効果があるとされています。
八角
花椒(ホアヂァオ)
サンショウの完熟した実のことです。粒のまま弱火で炒めたり、すり潰して麻婆豆腐に使用すると、ピリッとした辛さと舌先が少ししびれるような食感が加わります。
花椒には消化を助ける健胃作用と殺菌作用があり、消化不良、吐き気、腹痛、下痢、駆虫などに効果があるとされています。
花椒
肉桂(ロクグイ)
日本では、シナモンと呼ばれるスパイスです。クスノキ科の植物で10年を経た木の幹の皮をはいで作ります。ほんのりとした甘さと辛さがあり、点心にもよく使われます。
風邪の引きはじめに重宝する漢方薬、葛根湯にも使われており、鎮痛作用や発汗・解熱作用があると言われています。
肉桂
今回は、飲茶には欠かせない点心を2種類紹介します。
中国のギョーザ、水ギョーザと春巻きです。
手作り水ギョーザ~セロリギョーザ&レンコンギョーザ~
調理、撮影:伊藤華づ枝
材料 | 4人分(24コ分) | |
---|---|---|
強力粉 | 110g | |
薄力粉 | 110g | |
水 | 150ml | |
塩 | 小さじ1/2 | |
打ち粉(強力粉) | 適宜 | |
豚平切り肉(粗挽き肉でもよい) | 150g | |
A | おろししょうが | 7g |
塩 | 小さじ1/3 | |
しょうゆ | 大さじ1 | |
こしょう | 少々 | |
ごま油 | 小さじ1 | |
ねぎ(みじん切り) | 30g | |
セロリ(みじん切り) | 80g | |
れんこん(みじん切り) | 80g | |
黒酢 | 大さじ3 | |
しょうゆ | 大さじ3 | |
自家製ラー油 | 適宜 | |
自家製ラー油 | ||
A | とうがらしの粉 | 100g |
塩 | 30g | |
白ごま | 15g | |
サラダ油 | 150~200g |
作り方
- ボウルに分量の強力粉・薄力粉を入れ、水・塩を入れてよく練ります。
- 1.の粘りが出たら、丸めてぬれ布巾をかけ、30~40分ねかせます。
- 2.の生地を打ち粉をしながら棒状にして24コに切り分け、手の平で押しつぶして、めん棒で直径6~7cmの丸型にのばします。
- 豚肉を包丁でたたいてミンチにします。
- ボウルに4.を入れ、(A)で調味して、手でよく練り混ぜ、みじん切りにしたねぎを加えて混ぜ合わせます。
- セロリとれんこんはそれぞれフードプロセッサーにかけます。水気をかるくしぼります。
- 5.を2等分にして、6.の具をそれぞれ混ぜ合わせます。
- 皮の真ん中に具をのせて包みます。
- 8.をゆで、黒酢しょうゆをつけていただきます。
自家製ラー油の作り方
- ボウルに(A)の材料を入れて混ぜ合わせます。
- 熱したサラダ油を2分間程おき、1.に少しずつ加えます。
蒸し鶏と梅シソの春巻き
調理、撮影:伊藤華づ枝
材料 | 4人分(8~10本分) | |
---|---|---|
鶏むね肉 | 400g | |
ねぎ | 少々 | |
しょうが | 少々 | |
梅干し | 4個 | |
青じその葉 | 20枚 | |
塩 | ごく少々 | |
白こしょう | 適宜 | |
マヨネーズ | 大さじ1 | |
春巻きの皮 | 8~10枚 | |
小麦粉 | 大さじ1~2 | |
揚げ油 | 適量 |
作り方
- むね肉は火が通りやすいように、両側に開いて厚みを均等にさせます。
- たっぷりの水にねぎとしょうがを入れて沸騰させ、1.をそっと入れて再沸騰後15分程茹でます。※グラグラと茹でないで中弱火でソッと茹でる
- たっぶりの水を張ったボウルに2.をソッと入れて、流し水で中心まで冷やします。
※氷水で冷やすと固くなるので注意する。そのまま水に浮かべた状態で冷蔵庫に入れておけば数日は日持ちする。 - 3.の水気をペーパータオルでふき取り、手で細かく裂きます。
- 梅干しは細かくたたきます。
- 4.と5.をボウルに入れ、塩、コショウとマヨネーズで調味して等分にしておきます。
- 春巻きの皮に青じそと6.を乗せ、巻き止めに小麦粉を同量ほどの水で溶いた小麦粉のりをつけて巻きます。
- 7.を中温の油で揚げます。
- 器に盛り、お好みで辛子や野菜を添えます。