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インターネット公開文化講座

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世界の長寿食

郷土料理研究家
栄中日文化センター提携 インターティアラ・お料理サロン 主宰
伊藤 華づ枝

第12回:「メキシコの長寿食」について学びます。

前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。

今シリーズは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしております。

第12回目のテーマは、「メキシコの長寿食」です。

WHO(世界保健機関)が発表した2023年世界の長寿ランキングによると、メキシコは世界第64位、平均寿命76歳の国です。メキシコの人々はどんな料理を食べているのでしょうか?

※ちなみに世界全体の平均寿命は72.5歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。

メキシコの概要

面積: 約196万4,000km2(日本の約5倍の広さ)
人口: 約1億2,601万人
首都: メキシコシティ(約885.5万人)
宗教: キリスト教(カトリック)が85%、プロテスタント8%他
言語: 公用語はありませんが、スペイン語が共通語、その他60以上の先住民族言語


メキシコの国旗

メキシコってどんな国?

正式名称をメキシコ合衆国といい、首都のメキシコシティを含む32の州で構成されています。地理的には、米国の南、北米大陸の最南部に位置し、国土の西側は太平洋、東側はカリブ海とメキシコ湾に面しています。南北に長いイメージがありますが、意外にも東西に広がっており、3つの時間帯を持ちます。1億人を超える人口は日本に次いで世界第11位であり、先住民(人口の約3割)、欧米系(同約1割)、欧米系と先住民の混血(同約6割)からなっています。
インドやサウジアラビアなどとほぼ同じ緯度にあるメキシコは、国土の多くが標高1,000m以上に位置する、山あり海ありの国です。高い山脈が国土の中央を貫いており、メキシコシティは富士山の五合目と同じ、標高2,240mの高地にあります。南部は熱帯雨林が広がり、中央部は高原、北部は乾燥地帯と気候にも富んだ国です。
沿岸部には、カンクンやアカプルコなど世界的にも知られたリゾート地が多く存在します。かつてマヤ文明やアステカ文明などの古代文明が栄えた場所でもあり、今でも残っている遺跡は世界遺産に登録されているものも数多くあります。
世界最大の消費国である米国に隣接する地の利から、米国向けの製造・輸出拠点として、海外の自動車、電機・電子機器メーカーが進出し、工業国として発展を遂げています。世界有数の資源国でもあり、石油や銀、鉛など豊富な資源を有しています。農業も盛んで、トウモロコシ、サトウキビ、コーヒーなどが生産され、アボカドやライムは日本にも多く輸出されています。

メキシコ料理の特徴

メキシコ料理の3大食材は、とうもろこし、豆、チレと呼ばれる唐辛子です。
これらは紀元前のはるか昔から食べ継がれてきました。特に唐辛子はメキシコが原産地と言われており、辛さだけではなく、旨味やコクを出すために使われています。これらの食材に、スペイン人がヨーロッパやアラブ原産の食材である牛肉や豚肉、玉ねぎやニンニクなどを持ち込んで2つの食文化が融合した結果、現代の伝統的なメキシコ料理が生まれたとされています。
メキシコ料理は7000年前からの伝統的な食文化が高く評価され、2010年には「ユネスコの無形文化遺産」に登録されました。

食用トマトの発祥地はメキシコだった?

メキシコは、栽培種(食用)のトマトの発祥地であるといわれています。南米ペルーのアンデス高原が原産のトマトが人間や鳥によってメキシコに渡り、メキシコで栽培種のトマトが発祥したとされています。その後、メキシコを征服したスペイン人によってヨーロッパへと伝わり、世界へ広まりました。
トマトの語源は、メキシコ湾を望むベラクルス地方のアステカ人が「トマトゥル」(=「膨らむ果実」)と呼んでいたことから、「トマト」という呼び名になりました。「トマトゥル」は、本来「ホオズキ」を指し、メキシコではホオズキを煮込んで料理に使っており、形の似ているトマトも同じ名前で呼ばれていたとされています。

 


メキシコシティの市場にて・ホオズキの形をした青いトマトを持つ筆者
2011年

地域的特徴

メキシコの各地域には、地理、気候、歴史によって形成されてきた独自の味、食材、料理の伝統があります。メキシコ料理のそもそもの起源は、アステカ族、マヤ族などのメキシコ先住民族の料理です。その後、スペインの統治下にあったため、スペイン料理の影響を受けたものも多くありますが、スペイン本来のものとは異なるスタイルで食べられていることもあり、独自の進化をたどって今のメキシコ料理になったと考えられます。また、メキシコがスペインから独立した後に起こったアメリカとの戦争(米墨戦争)により、メキシコの一部がアメリカ合衆国となったため、テキサス州やカリフォルニア州などのアメリカ西海岸の地域では、メキシコ料理がアメリカ風にアレンジして食べられています。

はじめに...タコスとトルティーヤの違いについて
トルティーヤは皮の名称で、タコスやブリトーは料理としての名称です。

メキシコ北部の料理

北部はその広大な土地を生かした牧畜が盛んなこともあり、牛肉や羊肉料理が盛んです。カルネアサーダは、牛肉のポピュラーな料理で、肉をマリネしてから焼いたビーフのステーキ。小麦粉をベースとしたトルティーヤに重点を置いているのも特徴です。寒い季節にはシチューやスープが好まれています。代表的な料理には、牛肉か豚肉から作る伝統的な乾燥肉のマチャカや、小麦粉を使ったもちもち感があるフラワートルティーヤが人気です。その他、ブリトーと呼ばれるものは、「小さなロバ」を意味するスペイン語で、この名前が象徴するように、さまざまな具材がふんだんに詰められたトルティーヤで包まれた1品です。その具材とは、野菜や豆、チーズ、さらにはコンディメント(調味料)など多種多様です。シンプルでボリュームのある料理が特徴です。


ブリトー
ロサンゼルスのメキシコ料理店にて筆者が撮影したもの・2008年

メキシコ中部の料理

中部は多様な料理が集まるエリアで、特にメキシコシティを中心に食文化が栄えています。スパイシーなソース、ゆっくり調理された肉が特徴です。チリ(唐辛子)、ニンニク、玉ねぎなどの食材に加え、エパソテというメキシコ料理には欠かせないハーブはあらゆる料理に使われます。メキシコ産のオレガノなどのハーブやスパイスもよく使われます。ポソレはメキシコの代表的なスープ・シチューです。先住民料理とスペイン料理が融合した地域料理が特徴です。


ポソレ
メキシコシティのレストランにて筆者が撮影したもの・2011年

メキシコ南部の料理

南部は複雑で風味豊かなモーレ(ソース)と、プランテン(調理用のバナナ)、ユッカ、シーフードなどの熱帯食材の使用で知られています。タマレスやトルティーヤなどのトウモロコシを基本とした料理が定番であり、辛さと風味の両方に唐辛子が使われます。代表的な料理には、モーレ・ネグロ、メキシカンセビーチェなどがあります。先住民の文化と豊富な果物や野菜の影響を受けています。

 


タマレス(とうもろこしの葉で巻いたちまき)
メキシコシティのレストランにて筆者が撮影したもの・2011年


メキシカンセビーチェ
料理作成・撮影:伊藤華づ枝

ユカタン半島の料理

じっくりローストした豚肉、かんきつ類、アキオテペースト(ベニノキの種から採れる赤色の色素)で知られています。ハバネロペッパー、ビターオレンジ、パパイヤなどの食材がよく使われ、様々なサルサや野菜のピクルスが添えられることもあります。代表的な料理には、コチニータ・ピビル、ソパデリマ(ライムスープ)、パパズールなどがあります。マヤ文化と豊富なトロピカルフルーツが反映されています。


コチニータ・ピビル(豚の蒸し焼き)

アメリカにおけるメキシコ料理

テクス・メクス(Tex-Mex)

アメリカや日本で広く知られているメキシコ料理は、テクス・メクス(Tex-Mex)と呼ばれ、テキサス州で発展した料理スタイルであり、メキシコ料理がアメリカ文化と融合した産物です。チーズ、牛肉、小麦粉のトルティーヤが頻繁に使われ、辛さを抑え、チリパウダーやクミンなどのスパイスが多用されます。


ロサンゼルスのメキシコ料理店「アカプルコ」の店前にて筆者・2008年

メキシコからアメリカへ、そして日本へと伝わったタコライス

メキシコのタコスは、テキサス州に移り住んだメキシコ人によって「テクス・メクス(Tex-Mex)(テキサス・メキシコ)料理」という「チリミート」をタコスの具とするアメリカ風メキシコ料理にアレンジされました。
その後、第二次世界大戦後の沖縄米軍基地はメキシコ系米軍人が多く、その人達からタコスが広がり、日本風にごはんの上にのせられた沖縄の「タコライス」が生まれました。


タコライス
料理作成・撮影:伊藤華づ枝

代表的なメキシコ料理

トルティーヤ

トルティーヤとは、すりつぶしたとうもろこしの粉や小麦粉から作るメキシコ及びアメリカの伝統的な薄焼きパンを指します。メキシコでは主食として食されています。このトウモロコシのトルティーヤに具材をはさんで食べるのが「タコス」、小麦粉のトルティーヤを使い、具材を巻いて食べるのが「ブリトー」です。


メキシコのレストランにてタコスを作ってもらう筆者
2011年頃


メキシコの市場でトルティーヤを作る現地の人
1977年頃
現地撮影:伊藤華づ枝


タコス
ロサンゼルスのメキシコ料理店「アカプルコ」で筆者が撮影したもの・2008年

エンチラーダ

トウモロコシのトルティーヤで具材を巻き、唐辛子のソースやチーズをたっぷりかけた料理のことです。


エンチラーダ
アメリカのメキシカンレストランで筆者が撮影したもの・2008年

サルサ・メヒカーナ

主にトマト、タマネギ、唐辛子、コリアンダー(パクチー)を刻んで、混ぜ合わせたソースのことです。メキシコでは緑色の青唐辛子、白いタマネギ、赤いトマトで構成されていることからメキシコの国旗になぞらえてサルサ・メヒカーナ(salsa mexicana)と呼ばれています。


トルティーヤチップスとサルサ・メヒカーナ
アメリカのメキシカンレストランで筆者が撮影したもの・2008年頃

ワカモレ

アボカドをメインに青唐辛子(又は唐辛子)、トマト、タマネギ、コリアンダー(パクチー)、ライム汁で作られた、メキシコ料理のサルサ(水分の多い調味料)の一種です。


ワカモレ
メキシコシティで筆者が撮影したもの・2011年

マルガリータ

テキーラ、ライムの果汁、オレンジリキュールを混ぜたカクテルです。所説ありますがメキシコが発祥とされています。1936年にアメリカとの国境都市のティファナのとあるバーで、バーテンダーがカクテルに間違えてテキーラを加えたところ、これが好評で各地に広まりました。


メキシコシティのホテルのバーにてマルガリータを飲む筆者・2011年

メキシコの代表的な画家である、フリーダ・カーロが結婚披露宴をしたメキシコシティのレストラン、「カフェ・デ・タクバ」でのひとこまです。(右側が筆者、左手が筆者の娘・後方がこの店の店員さんです)
豆のスープやタマレス(とうもろこしの葉で巻いたちまき)、ワカモレ(アボカドのペースト)など、メキシコらしい料理を楽しむことができました。


豆のスープ
メキシコシティの同店で筆者が撮影したもの・2011年


ニンニクのスープ
メキシコシティの同店で筆者が撮影したもの・2011年

メキシコシティの市場・2011年

スペイン語で市場を「メルカド」と言います。日本の市場とは異なり、ここは一般庶民の生活に密着したスーパーマーケットのようなところでした。多くの人が日常的に食品を買うためにここに通っているようでした。


「チャプリン」といういなご


サボテンの葉はステーキにします


「チチャロン」
豚の皮をカリカリに揚げた子どものおやつ・酒のつまみ

メキシコから帰国して訪れた、名古屋市東区にあったメキシコ料理店にて・2011年

 

 


チチャロン
撮影:伊藤華づ枝


サボテンのサラダ
撮影:伊藤華づ枝

代表的なメキシコ料理3点を紹介します

ワカモレ(アボカドのディップ・サルサ)

ワカモレ(アボカドのディップ・サルサ)

材料 4人分
アボカド 1コ(230g)
トマト(完熟) 1/2コ(正味70g)
玉ねぎ(みじん切り) 15g
A 青唐辛子(みじん切り)(又はハラペーニョ) 1/2本分(2g)
にんにく(みじん切り) 小さじ1/8
パクチー(みじん切り) 1軸分(2g)
ライムのしぼり汁 小さじ1/3
小さじ1/4
トルティーヤチップス 24枚(50g)

作り方

  1. アボカドは皮と種を取ってボウルに入れ、フォークなどでつぶします。(この時に、種を一緒にボウルへ入れておくとアボカドが変色しません)
  2. トマトは種を取ってみじん切りにします。玉ねぎは水に晒し、キッチンペーパーでよく水気を切ります。
  3. 1.に2.と(A)を入れて混ぜ合わせます。
  4. 器に3.を盛り、トルティーヤチップスを添えます。

※パクチーはスペイン語で「シラントロ」といいます

サルサ・メヒカーナ(メキシコのソース)

サルサ・メヒカーナ(メキシコのソース)

材料 作りやすい分量
トマト(完熟) 1コ(100g)
ピーマン 1/4コ(7g)
新玉ねぎ(みじん切り) 10g
A にんにく(すりおろし) 小さじ1/4
ハラペーニョ(みじん切り) 5g
パクチー(みじん切り) 1軸(3g)
オリーブ油 大さじ1/2
ライムのしぼり汁 小さじ1/3
小さじ2/3
白こしょう 少々

作り方

  1. トマトは粗くみじん切り、ピーマンはみじん切りにします。玉ねぎは水に晒します。
  2. ボウルに1.と(A)を入れ混ぜ合わせます。

※作ってから1日寝かせると、味がなじんで美味しくなります
※急いでいる時でも、最低5~6時間は置くようにします

タコライス(メキシコからアメリカに、そして日本に伝わった料理)

タコライス(メキシコからアメリカに、そして日本に伝わった料理)

材料 4人分
玉ねぎ(中) 1コ(200g)
トマト 1コ(200g)
サラダ油 大さじ1・1/2
にんにく(みじん切り) 1かけ
牛ひき肉 300g
A チリパウダー 小さじ2・1/2~3
クミンパウダー 小さじ2/3
コリアンダーパウダー 小さじ2/3
  小さじ1強
黒こしょう 多め
小麦粉 大さじ1
トマトソース(缶) 80ml
60~70ml
レタス 2枚(70g)
ごはん 4人分
ピザ用チーズ 40g

作り方

  1. 玉ねぎはみじん切りにします。
  2. トマトは種を取り、1/2コは粗みじん切りにし、残りの1/2コは飾り用の小角切りにします。
  3. フライパンに油を入れ、にんにくを炒め、1.とひき肉を炒めて(A)を加えます。
  4. 3.に塩とこしょうを振り、小麦粉とトマトソース、2.の粗みじん切りのトマト、分量の水を入れて煮ます。
  5. レタスは太めのせん切りにします。
  6. 器にごはんを盛り、4.と5.のレタス、2.の小角切りのトマト、チーズをのせます。

※写真にはクミンシード(種子)と青味を添えました

世界の長寿食
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