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インターネット公開文化講座

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世界の長寿食

郷土料理研究家
栄中日文化センター提携 インターティアラ・お料理サロン 主宰
伊藤 華づ枝

第2回:「スペインの長寿食」について学びます。

前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。

今シリーズは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしてまいります。

第2回目のテーマは、「スペインの長寿食」です。

WHO(世界保健機関)が発表した2022年世界の長寿ランキングによると、スペインは世界第5位、平均寿命83.2歳の国です。スペインの人々はどんな料理を食べているのでしょうか?

※ちなみに世界全体の平均寿命は73.3歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。

スペインの概要

面積:50.6万m2(日本の面積の約1.3倍)
人口:4,741万人(2021年現在)
首都:マドリード
宗教:キリスト教(カトリックが70パーセントを占める)。無宗教者も多い
言語:スペイン語


スペインの国旗

スペインってどんな国?

南ヨーロッパのイベリア半島に位置し、同半島の大部分を占める議会君主制国家です。
スペイン本土以外に、西地中海のバレアレス諸島やアルボラン海のアルボラン島、大西洋のハワイとも言われるカナリア諸島、北アフリカの飛地領土のセウタとメリリャを有しており、モロッコ沿岸部にもいくつかの領土があります。
年間を通して晴れの日が多く、湿気が少ないためとても過ごしやすい国です。海もあり、冬にはスキーをすることもでき、遊ぶ場所も充実しています。人々が陽気で明るいことも、スペインの大きな魅力のひとつです。


スペインを代表するフラメンコ


多くの食材が並ぶバルセロナの市場で買い物をする筆者

スペイン料理の特徴

スペイン料理は海の幸と山の幸の素材を生かしたスペイン独自の料理で、地中海料理として2010年にユネスコの無形文化遺産に登録されています。
スペインは地方によって気候や風土の違いがあるため、食材も豊富で調理法もさまざまです。
今では輸出も多いスペインですが最初から裕福な国だったわけではなく、どちらかというと貧しい国でした。多民族が行きかう場所にあったスペインでは、ギリシア人・ローマ人・アラブ人・イスラム人などの多くの国の人々から知識や情報を得て今の食文化の基盤が作られました。ブドウやオリーブ、米やサフランなど、今ではスペインの代表ともいわれる食材の原点はここにあります。

北西部:ガリシア・アストゥリアス・カンタブリア

カンタブリア海に面しており、緑が濃く肥沃な土地です。豊富にとれる魚介類を使った料理も特徴です。
フランスに近いため、フランス料理に似た料理もあります。


この地の名物料理
タコのガリシア
料理作成・撮影:伊藤華づ枝

北東部:バスク・ナバラ・アラゴン

湿潤な気候のバスク地方は、豊かな山海の幸に恵まれていて、ソースを多用する料理が多く見られます。
リオハはワインの産地で、ワインで煮込んだ料理も多くあります。



スペインのブドウ畑とリオハのワイン

中部:カスティーリャ

雨が少なく大陸性気候の地域で、牧畜が主たる産業です。
コシード(スペイン風の野菜や豆の煮物)やソパ・デ・アホ(にんにくのスープ)などが代表料理です。


ソパ・デ・アホ
料理作成・撮影:伊藤華づ枝

南部:エストゥレマドゥーラ・アンダルシア

ポルトガルに接する山岳地帯で、牧畜が盛んです。
各地でハモンセラーノ(生ハム)を作っています。


生ハムやサラミ
スペインにて撮影:伊藤華づ枝

地中海沿岸:バレンシア・カタルーニャ・バレアス諸島

温暖な地中海性気候で、地中海の魚介類や野菜・米・果実などが豊富です。
スぺインのカタルーニャ地方の洋菓子である「カタラーナ」はフランスのクレームブリュレの原型ともいわれ、イタリアなどのヨーロッパ各地でも親しまれています。


バレンシア地方発祥のイカスミのパエリア
料理作成・撮影:伊藤華づ枝


クレマカタラーナ
料理作成・撮影:伊藤華づ枝

スペインではバル料理が人気!

バルとは、スペインの喫茶店や食堂、居酒屋を兼ねた飲食店のことです。(イタリアではバールと呼ばれます)。
朝はコーヒー、昼は食事とビール・ワイン、夜はタパスやピンチョスと酒を提供します。日本では、スペイン風居酒屋を指します。
バルでは、いろいろな食材を使った料理が並びます。その中で代表的なものは以下のとおりです。

タパス

スペイン語のタパ(小皿料理・酒のつまみ)の複数形で、複数の小皿料理のことです。
タパは「フタ」という意味もあり、その由来は飲み物を虫から守るために、パンやチーズなどの食べ物でグラスにフタをしたからと言われています。
タパの習慣はカスティーリャ王国の賢王アルフォンソ10世の時代に、ワインと小量の料理を食事の間に摂ることで病気から回復したことから始まったとされています。

ピンチョス

スペイン語のピンチョ(串)の複数形で、食材を串や楊枝でパンに刺して留めていたことに由来しています。
本来ピンチョスは、オープンサンドイッチ状のフィンガーフード(指でつまんで食べられる軽食)のことを指しますが、串刺しのつまみを呼ぶこともあります。


スペインバルパーティの様子
料理作成・撮影:伊藤華づ枝


ピンチョス
料理作成・撮影:伊藤華づ枝

シエスタって何?

スペインといえば、昼食後に休憩したり昼寝をする「シエスタ」という習慣があります。
スペインでは日照時間が長いため、午後2時から3時位までがランチタイムで、午後4時ごろから仕事を再開します。この間の休憩時間がシエスタです。夏のスペインはとても暑いため、ランチを食べた後、少し横になって休んでいた人もいたようです。

どんな食材を使用するのか

  • 豚肉と豆を使用した、多彩な煮込み料理がスペイン料理の特徴の1つです。
  • 猪肉も好まれ、イノシシと豚の雑種であるイノブタの肉も珍重されています。
  • 闘牛用の牛の肉は縁起物として珍重され、赤身に含まれる濃密な味が好まれています。

魚介類

  • 脂の少ない淡白な魚が好まれ、エビやカニ類の人気が高いことが知られています。
  • スペイン料理の素材には、北海で獲れたタラ、メルルーサのほか、マイワシ、クロダイ、カレイ、ヒラメ、アンコウなどの魚をよく使います。
  • 貝はムール貝とアサリが多く食べられています。
  • 魚介類の最も一般的な魚の調理法はフライであり、フライにはオリーブオイルが使われます。

野菜

  • メネストラやピストなどと呼ばれる伝統的な野菜料理には、多くの種類の野菜が使われています。
  • にんにくやトマト、玉ねぎもスペイン料理によく使われる食材です。
  • 生野菜のサラダは、各自が好みの量のオリーブオイルや酢をサラダにかけて食べます。
  • スペインは世界有数のトマトの産地であり、「トマトの時期に料理下手無し」と言われています。トマトは魚料理、野菜の煮込み料理の味付けや肉料理のソースに使われ、トマトを使った豆の煮込みは多くの地方で調理されています。
  • スペインでは朝食にトマトを食べる習慣があり、この習慣はカタルーニャのパン・コン・トマテ(Pan con Tomate)というトマト味のパンに継承されています。
  • スペインの食文化において豆料理は欠かせません。スープ、野菜料理、オードブルなどに使われ、コースの一皿目の料理として提供されています。地域に関係なく豆料理は一皿目のメニューの中で大きな比重を占めています。ヒヨコマメ、レンズマメ、インゲンマメ、エンドウマメをよく使います。

スペイン料理のうまさの秘密と栄養素

オリーブオイル

スペイン料理に欠かせないのがオリーブオイルです。
国内のほとんど全土でオリーブは栽培されており、オリーブオイルの生産量は世界一です。料理に使う油というだけでなく、コクを出す調味料としての役割も果たしています。
若い実を絞ったものは葉緑素が残って緑色になり、程よい苦味があります。酸化されにくいオレイン酸を比較的多く含むため、他の食用の油脂に比べて酸化されにくく常温で固まりにくい性質を持っています。
主に地中海に面した地域(イタリア、スペイン、ギリシャ、マシュリクなど)で好んで使われます。これらの地方では単に油といえばオリーブオイルをさすことが多く、日常の食卓において様々な料理に使われています。
オリーブオイルは香りや味が良く、酸度が低い順番に「エクストラバージンオリーブオイル」「バージンオリーブオイル」「オーディナリーバージンオリーブオイル」「ランパンテバージンオリーブオイル」に分類されます。
オリーブオイルには以下のような栄養素があります。


VERDE(ヴェルデ)
エクストラバージン
オリーブオイル


CAVIAOLI(キャビアオリ)
キャビア状のオリーブオイル

ビタミンEには抗酸化作用があります

オリーブオイルに含まれるビタミンEは抗酸化作用のあるビタミンで、シワやしみの原因になる活性酸素のダメージを抑える作用があります。

オレイン酸は、以下の作用があります

  • 悪玉コレステロールを減らす作用があります
    オリーブオイルに含まれるオレイン酸は、善玉コレステロールを減らさずに悪玉コレステロールのみ減らす働きがあるのが特徴です。
  • 胃もたれ対策に役立ちます
    胃もたれは加齢やストレス、食事などにより起こります。食事による胃もたれは、消化しにくい脂っこいものの食べ過ぎや過度な飲酒によるものです。脂っこい食べ物は消化に時間がかかり負担をかけるため、胃がもたれてしまうのです。
    しかし、オリーブオイルに含まれるオレイン酸は胃での滞在時間が短いため、余分な胃酸を分泌する必要がなく胃もたれ対策に役立ちます。
  • 便秘対策に役立ちます
    オリーブオイルの主成分であるオレイン酸は小腸で吸収されず大腸を刺激して、腸の動きを活発にする働きがあります。硬くなった便をやわらかくする作用もあるため、便秘対策に役立つ成分です。

パプリカパウダー

スペイン料理でよく使われる調味料にパプリカパウダーがあります。
甘口と辛口のものがあって、料理によって使い分けています。日本でピリ辛のソーセージとして知られている「チョリソー」にも、このパプリカパウダーが使われています。
パプリカパウダーには以下のような栄養素があります。


タコのガリシアに欠かせない
スモークパプリカパウダー

ビタミンB群と鉄は貧血の予防及びダイエットに役立ちます

パプリカパウダーには特に鉄分とビタミンB群が多く含まれています。貧血気味の人はパプリカパウダーを料理に振りかけるだけで、鉄分を補えます。
ビタミンBは、体内の様々な栄養素の代謝を促進するビタミンです。また鉄分にもたんぱく質の代謝を促進させる効能があり、これらの相乗効果でダイエット効果が高まります。

ビタミンB群は血流の改善にも役立ちます

パプリカパウダーに含まれるビタミンB群は、血液中のコレステロール値を正常化させる効能があります。またカリウムは血圧を正常化し、マグネシウムは血液の流れをよくして動脈硬化などを予防する作用があります。

βカロテンは免疫力の向上に役立ちます

パプリカパウダーにはβカロテンが含まれていますが、βカロテンは体内でビタミンAに変換され、粘膜を丈夫にする働きをしています。粘膜が弱まると病原体が付着しやすくなり、風邪などにもかかりやすくなってしまいますが、パプリカパウダーの効果で粘膜の働きが強くなって免疫力が上がります。

今回は、スペインの代表的な料理である「イカスミのパエリア」とスペインのカタルーニャ地方の洋菓子「カタラーナ」のレシピを紹介します。

イカスミのパエリア

イカスミのパエリア

材料 4人分
300ml分
  ムール貝(又はアサリ) 8~12コ
ワイン 70ml
70ml
マッシュルーム 4コ
豚ロース肉(トンカツ用) 100g
紋甲イカ 100g
オリーブ油 大さじ2
赤唐辛子(種を取って輪切り) 1本
にんにく(みじん切り) 中1/2粒
玉ねぎ(粗みじん切り) 40g
サフラン(あれば) ひとつまみ(0.1g)
イカスミペースト 2袋(8g)
※チキンスープ ~500ml~
小さじ2/3強
赤パプリカ 1/2コ
グリーンオリーブ(種抜き・あれば) 8コ
レモン(くし切り) 1/2コ
イタリアンパセリ(あれば) 少々

作り方

  1. 米は調理する20分程前にザッと洗い、ザルに上げます。
  2. ムール貝はワインと水で酒蒸しします(蒸し汁は使用します)。
  3. マッシュルームはスライスします。豚肉は脂身を取って1cm角に切り、イカも1cm角に切ります。
  4. パエリア鍋にオリーブ油を入れ、赤唐辛子とにんにくをじんわりと香りが出るまで炒め、鍋の周りにも油をいきわたらせます。玉ねぎとサフランを加え、さらに炒めます。
  5. 4.に3.を入れ、イカスミペーストを加えて炒め、2.の蒸し汁とチキンスープを混ぜて(温かいもの)を300ml入れて1.と塩を入れます。フタをし、中弱火で時々かき混ぜながら7~8分間煮ます。(鍋の位置を変えながら煮るとムラができません)
  6. 5.にスープを100~120ml足し、混ぜてからフタをして5分間煮て、火を止め一度混ぜてから、再びフタをし、10分間程蒸らします。(芯が残る程度のアルデンテに煮ます)
  7. 6.にこんがり焼いて皮を剥いたパプリカとオリーブ、レモン、ムール貝、パセリを飾ります。

※チキンスープとは
鶏手羽元か手羽先にかぶる程の水と玉ねぎの皮などを入れて20分ほど煮たもの・チキンスープの素を薄く溶いて入れても良い

クレーム・カタラーナ(焼きブリュレ)

クレーム・カタラーナ(焼きブリュレ)

材料 80mlの型8コ分
牛乳 300ml
生クリーム 200ml
バニラビーンズ(縦に切る) 1/4本
  卵黄 4コ
グラニュー糖 30g
グラニュー糖 適宜

作り方

  1. 鍋に牛乳と生クリーム、バニラビーンズを加えて火にかけて温めます(沸騰させず約50度、触って熱いと感じる位を目安とします)。
  2. ボウルに卵黄とグラニュー糖を入れて白っぽくなるまですり混ぜ、1.を少しずつ入れながら混ぜ合わせます。
  3. 型に2.を等分し、180度に予熱したオーブンで20~22分間湯せん焼きします。
  4. 粗熱を取り、冷やします。
  5. プリンの表面にグラニュー糖を振りかけ、あれば料理用のバーナー又は直火であぶったスプーンを当てて砂糖を焦がします。
世界の長寿食
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