文化講座
第1回:「タイの長寿食」について学びます。
前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。
今シリーズでは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしてまいります。
第1回目のテーマは、「タイの長寿食」
WHO(世界保健機関)が発表した2022年世界の長寿ランキングによると、タイは世界第47位、平均寿命77.7歳の国です。タイの人々はどんな料理を食べているのでしょうか?
※ちなみに世界全体の平均寿命は73.3歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。
タイの概要
面積:51万4,000キロm2(日本の面積の約1.4倍)
人口:6,609万人(2022年現在)
首都:バンコク
宗教:仏教94%、イスラム教5%
言語:タイ語
タイ王国の国旗
タイってどんな国?
- 日本人に大人気の海外旅行先ランキングに、タイがあげられます。
- タイは熱帯のビーチ、豪華な王宮、古代遺跡、仏像が飾られた華やかな寺院で知られる東南アジアの国です。
- 首都バンコクは、静かな運河沿いのコミュニティやワット・アルン(暁の寺)、ワットポー(涅槃寺)、ワットプラケオ(エメラルド寺院)などの有名な寺院と近代的な都市空間が隣り合わせになった都市です。
- 近郊にはアユタヤ遺跡、賑やかなパタヤ、ファッショナブルなホアヒンなどの他に、有名なプーケットなどのリゾートビーチがあります。
エメラルド寺院
アユタヤ遺跡と筆者
タイ料理の特徴
- 周辺諸国である、中国・カンボジア・マレーシア・ラオス・ミャンマーなどの料理の影響を受けています
- 香辛料・香味野菜・ハーブを多用し、辛味、酸味、甘味などを多彩に組み合わせた味付けに特徴があります
- 代表的な料理はグリーンカレー・レッドカレーなど
グリーンカレー
料理作成・撮影:伊藤華づ枝
タイの主食は米
- タイの主食は米です。インディカ種の一種であるタイ米が広く食べられています。
- 北部や北東部では、長粒種のもち米も常食されています。このため、献立には米に合うおかず(ガップ・カオ=「米と(食べるもの)」)が複数用意されます。
- 中部タイの基本的な食事では、白米にスープ・野菜炒め・肉料理など、数品のおかずを添えるのが一般的です。
どんな食材を使用するのか
肉や魚
- 肉類は豚肉と鶏肉が中心であり、牛肉の消費量は少なく、アヒルの肉や水牛も食べます。
- 魚は海岸部以外ではティラピアやライギョやナマズ類などの川魚が中心で、主に揚げ物、焼き物、スープ、カレーに使用されます。エビ、カニ、イカ、2枚貝もよく用いられる食材です。
野菜
- ナス、空心菜、カボチャ、カイラン、ツルレイシ、エシャロットなどが頻繁に使われ、ピーナッツやカシューナッツもよく添えられます。
- ネジレフサマメノキの豆、シカクマメ、ジュウロクササゲも食べられます。
- プリッキーヌーと呼ばれる小粒の唐辛子が頻繁に使用されます。タイ料理に辛い料理が多いのは、このためです。
- ゲーン(いわゆるタイカレーを含む汁物)には、ココナッツミルクが用いられることが多く、料理にコクを与えています。
- パクチーやレモングラス、カミメボウキなどの香草やコブミカンの葉、ニンニク、エシャロット、ウコン、バンウコンやオオバンガジュツの根茎、コリアンダーの根などをすりつぶしたペーストがゲーンや炒め物の味付けに用いられます。
筆者の自宅で採れたレモングラス(左下)とパクチー
筆者が経営する料理教室のベランダで育てているバイ・マックルー(コブミカンの木)
果物
- 果物の種類はとても豊富で、スイカ、バナナ、ドリアン、マンゴスチン、ミカン、パイナップル、ランブータン、パパイヤ、文旦、竜眼、マンゴー、グアバ、タマリンドなどさまざまです。これらは生のままで食べるだけでなく、ジュースにして飲むことも多くあります。
- 熟す前の青いパパイヤやパラミツは野菜として扱われ、青パパイアはソムタム、パラミツタム・カヌーンというサラダの具として利用されています。
- 炒め物にはライムが添えられることが多く、各自で搾って好みの酸味をつけます。
味付けの基本
- ベトナム料理やカンボジア料理などと同様に、味付けの基本は魚醤です。
タイの魚醤はナンプラーと呼ばれています。アンチョビなどの魚を塩漬けし、発酵によって魚のたんぱく質から生じるアミノ酸を豊富に含む、しょうゆに似た液状の調味料となります。 - ナンプラーほどではありませんが、カビと呼ばれる、固形のシュリンプペースト(蝦醤)も用いられています。
ナンプラー
タイ料理のうまさの秘密と栄養素
タイ料理では、ひとつの料理に甘味、酸味、辛味などが混ざり合い、複雑な味覚を醸し出している状態が美味とされています。
(1)パームシュガー・ココナッツなどの甘味
「パームシュガー」は、ヤシから取る砂糖であり、稲穂のような花梗の先端部分を切り落としてとった樹液を集め、煮つめて作ったものです。
パームシュガーには、銅や鉄、カリウムなどのミネラルが豊富に含まれています。総ミネラル量はグラニュー糖の約861倍、メープルシュガーの約2.6倍と言われています。
ミネラルは、体の機能を維持調整するはたらきがありますが、体内でつくることができません。そのため、食べ物で摂取する必要がある大切な栄養素です。
(2)マナオ(ライムの一種)の酸味
マナオは、酸味と香りを付けるのに欠かせないタイの柑橘類です。
マナオ(ライム)には以下のような栄養素があります。
- クエン酸には疲労回復効果があります
クエン酸はライムの酸味成分で、疲労回復効能がある栄養素として知られています。
このクエン酸は血流を良くするので、冷え性やむくみの改善にも役に立ちます。 - ビタミンCが多く含まれているので美肌効果とストレス軽減に役立ちます
ストレスを軽減するホルモンの分泌にも関係しているので、心穏やかに過ごせる効果があります。 - リモネンという香り成分にもリラックス効果があります
リモネンは、ライムなどの柑橘類に多く含まれている香りの成分です。精神的なリラックスの効能があります。 - ポリフェノールの一種であるヘスペリジンは、末梢血管の血流を改善します
ヘスペリジンは、抹消血管の血流改善に大きな効能があります。
肩こりの改善にも効果を発揮する栄養素です。
マナオ(ライム)
(3)唐辛子(プリック)の辛味
「唐辛子(プリック)」は小さいほど辛味は強くなります。
唐辛子には以下のような栄養素があります。
- カプサイシン
唐辛子には、カプサイシンなどの辛み成分が含まれています。
カプサイシンはその辛みによって胃液の分泌を促し、消化促進や食欲増進の効果が期待できます。 - ビタミンA
ビタミンAは脂溶性ビタミンの1種で、油に溶けやすいという特徴を持っています。皮膚や粘膜を健全に保つ働きがあると言われています。
ビタミンAは動物性食品にも多く含まれていますが、唐辛子のような野菜には、必要に応じて体内でビタミンAに変わるβ-カロテンなどの形で含まれています。
唐辛子(プリック)
タイの有名料理
バンコクの料理(タイ中部)
「トムヤンクン」...
バンコクで生まれたタイの代表料理であり、世界三大スープの一つです。
エビが入った辛く、酸っぱいスープです。
※世界三大スープとは...
- タイのトムヤムクン
- フランスのブイヤベース
- ロシア・ウクライナのボルシチ
※中国のフカヒレスープを入れて四大スープとも言います。
トムヤンクン
料理作成・撮影:伊藤華づ枝
「ココナッツミルクを使ったカレー」
- レッドカレーやグリーンカレー・イエローカレーなどがあります。
レッドカレー
料理作成・撮影:伊藤華づ枝
タイの東北部の料理
- 生活文化圏がラオスに入り、独特の食文化を持っています。
- 唐辛子をふんだんに使い、塩辛い味付けが特徴です。
- 主食はもち米で、蒸したり丸めたりしてその他の料理と一緒に食べます。
ソムタム
青パパイヤのサラダ
料理作成・撮影・伊藤華づ枝
タイの北部の料理
- 「カントーク」(丸いお膳)に数種類の料理を並べた宮廷料理を民族舞踊を鑑賞しながら楽しむスタイルです。
カントークに並べられた宮廷料理
タイの南部の料理
- マレー半島は、古代からインドや中国と海を通じて交流してきました。
そのため、タイ料理をベースに、インド・中国・マレーの影響を多く受けています。 - 特にインドの影響で、味付けにはターメリックや胡椒が多く使われます。
- イスラム教徒が多いため、豚肉は食べません。代表的な料理には、豚肉を使わないマッサマンカレーが知られています。
今回は、タイ料理の代表的な食材である「ココナッツミルク」を使った「グリーンカレー」と「コブミカンの葉(バイ・マックルー)」を使った「トート・マン・プラー(タイのさつま揚げ)」を紹介します。
グリーンカレー
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
普通米 | 2・1/2カップ(500ml分) | |
雑穀米 | 大さじ2 | |
水 | 670ml~ | |
たけのこ(茹で) | 120g | |
なす | 1本(150g) | |
赤パプリカ | 1/2コ(80g) | |
黄パプリカ | 1/2コ(80g) | |
ピーマン | 2コ(60g) | |
生しいたけ | 4枚(100g) | |
鶏むね肉(皮なし) | 1枚(200g) | |
レモングラス(生) | 1/3本(12g) | |
こぶみかんの葉(生) | 3枚 | |
サラダ油 | 大さじ3 | |
グリーンカレーペースト | 1袋(50g) | |
ココナッツミルク | 1缶(400ml) | |
水 | 200ml | |
A | ナンプラー | 大さじ1 |
塩 | 小さじ1/2 | |
砂糖 | 小さじ2 | |
サワークリーム | 40g |
作り方
- 米と雑穀米を洗って分量の水で1時間程浸水し、普通に炊きます。
- たけのこは細切りにし、ナスは縞状に皮をむき、中位の太さにして1cm幅の半月切りにします。パプリカとピーマンは種を取って1cm幅のせん切りにします。しいたけは軸を取って1cm幅の薄切りにします。
- 鶏肉は一口大のそぎ切りにします。レモングラスは斜め薄切りにし、こぶみかんの葉はせん切りにします。
- フライパンにサラダ油を入れ、グリーンカレーペーストを入れて炒め、よい香りがしてきたらココナッツミルクと分量の水を入れます。
- 4.が沸騰してきたら2.と3.を入れ、鶏肉を中心まで火を通します。
- 5.に(A)を加えます。仕上げにサワークリームで酸味を付けます。
- 器に1.を盛り、6.をかけます。
トート・マン・プラー(タイのさつま揚げ)
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
こぶみかんの葉 | 4枚 | |
さやいんげん | 3本 | |
魚のすり身 | 250g | |
レッドカレーペースト | 1/3袋 | |
揚げ油 | 適量 | |
バジル(あれば) | 4枝 |
作り方
- こぶみかんの葉は軸を取ってせん切り、さやいんげんはごく薄く切ります。
- ボウルにすり身とレッドカレーペースト、1.を入れてよく混ぜます。
- 2.を8等分にし、セルクルで丸く平らに抜きます。※手で丸めても良い
- 3.を軽く色付くほどに揚げます。
- バジルを素揚げして飾ります。