文化講座
第7回:「フランスの長寿食」について学びます。
前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。
今シリーズは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしております。
第7回目のテーマは、「フランスの長寿食」です。
WHO(世界保健機関)が発表した2023年世界の長寿ランキングによると、フランスは世界第11位、平均寿命82.5歳の国です。フランスの人々はどんな料理を食べているのでしょうか?
※ちなみに世界全体の平均寿命は73.3歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。
フランスの概要
面積:64万7,000km2(日本の約1.5倍)
人口:6,793万人(日本の約半分)
首都:パリ
宗教:カトリックやプロテスタントのキリスト教80%、イスラム教10%など
言語:フランス語
フランスの国旗
フランスってどんな国?
フランスというのは通称で、正式には「フランス共和国」と言います。
西ヨーロッパに位置する共和制国家です。
フランス植民地帝国の名残りで、世界各地に点在するフランスの海外県や海外領土もあり、ニューカレドニア・ポリネシアなどが知られています。
世界三大料理
フランス料理は中華料理やトルコ料理と並び、世界三大料理と言われています。
2010年には、ユネスコの無形文化遺産にも登録されました。
フランスの食事文化の歴史
フランスの食事文化は中世ヨーロッパの王族・貴族間における外交宴席の食事文化から生まれました。
それらの人々に仕えた料理人は、ヨーロッパ間を行き来し、名声を競い合いました。そのため、宴席に使用される食材、調理法、技術は日々高められ、フランス料理が確立され、発展していきました。
中世
中世フランス料理は宮廷内限定の食文化でした。
まだ明確な作法は存在しておらず、給仕においても特に規則性の無い雑多なメニューが次々とあるいは一斉にテーブルに並べられ、食肉は加熱調理された後に厚くスライスされ、フランス料理に欠かせないマスタードを使った濃厚なソースで味付けされることが多かったようです。
食器の使用も稀で、硬い平板状のパンが皿として用いられており、ナイフやフォークの使用も一般的ではなく、直接手づかみで食べていました。
16~17世紀
16世紀半ば、ルネッサンスのなかで開花したイタリアの食事文化が、王族の婚礼などによってフランスに持ち込まれました。フランス料理は、実はイタリアの影響を大きく受けているのです。
その後、ヴェルサイユ宮殿の宮廷料理として洗練され、ルイ15世の時代に最高レベルに到達しました。しかし1789年にフランス革命が起こって王による治世の時代が終焉すると、王族・貴族の使用人であった調理人が街に出てレストランを開くことになり、いわゆる王さまの美食が大衆に広まって行く時代を迎えたのです。
各料理に合うワインが示唆されたのもこの時代です。
18世紀
料理人による料理書が出版され、家庭の主婦に新しい技術が豊富に伝えられました。
家庭料理が発展し、家庭に客人を迎えてディナーが楽しまれるようになりました。
19世紀~現代
それまで肥満は高い地位を示すものでしたが、社会が豊かになるとバランスのとれた体型が誇りになるように変化していきました。
安全な材料による食事制限、自然との調和などを背景とする新しい料理革命が起こりました。
現代のフランスでは、3つの要素を取り込んで新しい食事文化を作っています。
- 「ヌーベル・キュイジーヌ」
伝統的なフランス料理を、より軽く仕上げていこうとする傾向を指します。
※「ヌーベル」...新しい感覚の「キュイジーヌ」...台所
ヌーベル・キュイジーヌとは1970年代から広まった料理スタイルであり、従来のフランス料理が重視する濃厚なソースをほぼ否定し、素材の風味を最大限に引き出すことを目指しています。バターとクリームの使用を抑え、加熱時間も極力減らし、スパイスと各種調味料も注意深く用いる点が特徴です。 - 地方料理の復権
各地域の個性ある料理に添えて、ワインやチーズを生かす傾向を指します。 - フュージョン料理
フランス料理を基盤として、ヘルシーな日本料理・中国料理・タイ料理などを融合する料理のことです。
美食の王「キュルノンスキー」
料理研究家であったキュルノンスキー氏(男性)は、食べ歩きの元祖ともいえる人物です。
彼が最も注目したのは高級料理ではなく郷土料理であり、各地方の郷土料理を発掘し、「美食の国フランス」を書き上げました。
キュルノンスキー氏の食べ歩きを後援したのが、今や世界中の人々に知られている赤い表紙のミシュランガイドを発行しているミシュラン(フランスの多国籍タイヤ企業)です。
初代ミシュランガイド
ミシュランガイド愛知・岐阜・三重2019
フランス各地域の料理
プロヴァンス料理
フランス南部、プロヴァンス地方の料理です。ニンニクとオリーブ油・ハーブを主として用います。イタリアやスペイン料理に似たものも多くあります。特にエルブ・ド・プロヴァンスと呼ばれる当地独特のハーブを多く調合したものを用います。
地中海に面したマルセイユなどの町では、ブイヤベースなどの魚料理が知られています。この他に、ラタトゥィユやニース風のサラダ、アイオリソースもプロヴァンス料理の特色のひとつです。
ブイヤベース
バスク料理
フランスとスペインにまたがる両地方・バスク地方の料理です。海と山の幸が豊富で、個性的でおいしい料理があります。トウガラシは特に有名です。生ハム・マグロ・羊乳のチーズ・チョコレートなども知られています。マルミタコはバスク語で「鍋」という意味を持つ、マグロやじゃが芋・トマトなどが入ったシチューです。
マルミタコ
ラングドック料理
ラングドック地方はフランス南部に位置し、カジュアルでお手軽なワインの産地として知られています。代表的な料理はカスレです。カスレは肉類やソーセージと野菜、豆類を煮込んだ「おふくろの味」です。
カスレ
アルザス料理
アルザス地方の料理です。ドイツ文化圏と重なるためシュークルート(塩漬け肉や魚、ソーセージと発酵キャベツの煮込み)、クグロフなどドイツ料理との共通点が多く、国境のライン川を挟んで反対側の黒い森地方の料理にも似ています。
シュークルート
ノルマンディー料理
ノルマンディーは北大西洋に面しており、モン・サン=ミシェル付近では潮風に吹かれた牧草で育てた子羊の肉が名物です。シードルやカルヴァドスの産地でもあり、リンゴを用いた味付けやバターや生クリームの使用量も多い料理です。
スフレオムレツ
ブルターニュ料理
ブルターニュは冷涼な気候のため作物は不作とされる地域です。ソバ粉のクレープ(ガレット)やクイニーアマンが有名であるほか、ケルト系のブルトン文化が料理にも残っており、同じケルト系のウェールズ地方の料理との共通点もあります。
パリでソバ粉のガレットを食べる筆者
ブルゴーニュ料理
ブルゴーニュはフランスの家庭料理を代表するブッフ・ブルギニョン(牛肉の赤ワイン煮込み)発祥の地です。
牛肉の赤ワイン煮込み
料理・撮影:伊藤華づ枝
ロワール料理
ロワール渓谷地方は白ワインの産地であり、白ワインを使った魚料理が特徴です。この代表的な料理のひとつであるデュグレレとは、骨付きの白身魚をみじん切りにした玉ねぎ・エシャロット・トマトなどと一緒に白ワインで煮たものです。この料理を作ったフランス人シェフである、アドルフ・デュグレの名前を冠したものです。
白身魚のデュグレレ風
料理・撮影:伊藤華づ枝
サヴォワ料理
サヴォワ地方は山岳地帯でスイス国境に近く、フォンデュ・オ・フロマージュやラクレットなど乳製品を多用した料理が多いことが特徴です。
閉鎖的な地方とも言われますが、ミシュランレストランも出てきており、注目の地方となっています。
ラクレット
パンの特徴
フランスパンもまた、フランスの食卓を特徴付ける重要な位置を占めています。
代表的なバゲットのほか、「田舎風パン」を意味するパン・ド・カンパーニュ、全粒粉を用いたパン・コンプレ、生カキなどに添えられるライ麦パンの一種、パン・オ・セーグルなどが挙げられます。
パン生地にバターや牛乳を用いるクロワッサンやブリオッシュなどは、ヴィエノワズリー(菓子パン)に分類されます。
バゲット
カンパーニュ
フランスの飲食店の種類
レストラン
パリには中級から最高級のランクに分かれた五千軒以上が存在します。
その価格とメニューの品質は千差万別であり、来店用途も日々の外食から特別な晩餐専門など様々です。
メニューブックから注文し、専門の訓練を受けたウェイターとウェイトレスが応待します。注文の選択肢は事実上コース料理だけに限られています。
ビストロ
いわゆる大衆食堂であり、メニューは黒板にチョークで書かれている事が多く、給仕たちもカジュアルな服装です。庶民的な料理が出され、地元の特産を活かした郷土料理が提供される事も多いのが特徴です。
ビストロアヴァン(ワイン・ビストロ)
キャバレーまたはタバーン(居酒屋)に似た飲食店であり、主に安価なアルコール飲料を提供し、また産地記載の特別なワインを楽しむ事もでき、ワインに合った軽食も提供されます。
オーベルジュ
レストランと宿泊施設がセットになったもの。こちらも中級から高級まであります。
カフェ
コーヒーとアルコール飲料が提供されます。街路に面しておりテーブルと椅子が歩道にまでせり出して並べられており、朝早くに開店し夜9時頃には閉店するのが普通です。クロックムッシュ、ムールフリット、サラダなどの軽食が提供されています。
パリのアランデュカスの料理学校でデュプロマを受ける筆者
フランス料理でよく使われる食材とその栄養素
フランス料理は他の料理に比べて多くの食材を使います。多くの食材を使うことが長寿につながっているのではとも考えられます。
肉・卵・畜産物
鴨肉、ウサギ、豚肉、鶏肉、仔牛、フォアグラ、エスカルゴ、鹿肉などの畜産物に加え、ジビエも多く使われます。
ジビエは高タンパク、低カロリーで栄養価が高い食材です。ジビエには糖質、タンパク質、脂質の代謝に関わるビタミンB群やミネラルが多く含まれています。
アスリートの身体づくりやダイエットにも適したヘルシー食材と言えます。
ウサギの肉を調理する筆者
(パリの料理学校で)
魚・水産物
鯛、ヒラメ、鰆、鱈、イワシ、ホタテ、オマールエビ、手長エビ、バイ貝、マテ貝、ムール貝、牡蠣などフランス人は年間で約35kgもの魚を消費すると言われており、世界平均が約19kgなので、2倍の量の魚を食べていることになります。
魚は代表的なフランス料理の「ポアレ」や「ムニエル」といった料理で使われます。
魚介類は、良質の動物性タンパク質を含む一方で、カロリーが低いという特徴があります。また魚介類には、ビタミン(D、E、B12)、ミネラル(カリウム、カルシウム、マグネシウム等)などの栄養素や、高度不飽和脂肪酸(DHA:ドコサヘキサエン酸、EPA:エイコサペンタエン酸)をはじめとする、多様な機能性成分など、私たちの体に必要な成分が多く含まれています。
舌平目のムニエル
(パリにて)
野菜・果物
前菜やスープ、付け合わせなど多くの料理に野菜が使われています。トマト、タマネギ、ジャガイモ、パセリ、トリュフ、アスパラガス、ナス、ブロッコリー、ニンジン、キャベツ、ズッキーニ、ピーマン、バジル、タイム、ミント、セージ、ローリエ、セロリなどを使用しますが、特にバスク料理ではトマトを良く使います。
トマトには食物繊維をはじめ、ビタミン類などの栄養素が豊富に含まれています。リコピンも豊富です。リコピンには強い抗酸化作用があり活性酸素のはたらきを抑えるため、活性酸素によって作られる過酸化脂質が原因となる動脈硬化を予防する効果があるといわれます。
ラタトゥイユ
乳製品
カマンベールチーズ、プロセスチーズ、クリームチーズ、生クリーム、牛乳など、フランス料理のベースとなる味はバターやクリームなどの乳製品です。
チーズ
そのまま食べる他、料理にうまみを足す、名わき役としても活躍しています。
カマンベールチーズ
バター
単なる油脂だけではなく、調味料として使われることが多く、バターモンテ(乳化しながら作るソース)や焦がしバターにして肉や魚に使ったり、柔らかくしたバターを野菜にからめたりします。
生クリーム
生クリームというとお菓子に使うと考えられがちですが、フランスでは料理によく使います。ソテーした肉や魚のソースにしたり、煮物にしたり、野菜をクリームでさっと和えたりします。
調味料や油
塩
ゲランドの塩が知られています。
ゲランドの塩
マスタード
マイユやポメリーというブランドが知られています。
バルサミコ酢
果実酢の一種で、原料がブドウの濃縮果汁であることと、長期にわたる樽熟成が特徴です。マイユというブランドが知られています。
油
ヘルシー志向の影響から、バターよりもオリーブオイルを使うという流れも出てきています。
香辛料
シナモン、クローブ、コショウ、ナツメグなどがありますが、代表的なフランス料理のブイヤベースに欠かせない香辛料と言えばサフランです。αカロテン・βカロテンをはじめとして、カロテノイドと呼ばれる黄色色素のクロセチンが含まれており、香辛料の香り成分であるサフラナール、苦味成分のピクロクロシンも含まれます。
サフランの花
酒・ドリンク
赤ワイン、白ワイン、シャンパン、ビール、コーヒーなど
赤ワインや白ワインを料理に使うことも特徴の一つです。
フランス料理にはソースを作ったり、肉の煮込みを作るときにはワインが欠かせません。その理由は、ヨーロッパの中でもフランスの水は、カルシウムやマグネシウムを多く含んでいるため、水を使うと料理全体の味に影響が出てしまうため、水の代わりにワインが使われるようになりました。
今回は、代表的なフランスの魚料理としての「白身魚のデュグレレ」と海老の旨味をくまなく活かしたスープ「エビのビスクスープ」を紹介します。
白身魚のデュグレレ風
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
スズキなどの白身魚(骨付き2枚卸し・1切れ100g) | 4切れ | |
塩 | 小さじ2/3 | |
こしょう | 適宜 | |
玉ねぎ(中・みじん切り) | 1/2コ | |
トマト(湯むきして粗みじん切り) | 1コ | |
A | 白ワイン | 100ml |
水 | 150ml | |
生クリーム | 100ml | |
塩 | 小さじ1/3 | |
こしょう | 適宜 | |
青味(セルフィーユなど) | 適宜 |
作り方
- 白身魚に塩とこしょうをふります。
- 玉ねぎはみじん切りにします。トマトは湯むきして横に切り、種を取って粗みじん切りにします。
- フライパンに玉ねぎを敷き、白身魚の身を上にして並べ、魚の上にトマトをのせ、(A)を入れて沸騰したらフタをし、6分間程蒸し煮します。
- 3.の魚を器に盛り、フライパンに残ったソースを少し煮つめ、生クリームを加えて塩とこしょうで調味します。
- 魚の上から4.のソースをかけ、青味を添えます。
デュグレレとは19世紀後半のフランスの料理人の名前に由来しています。魚料理にこの名前がつくと、玉ねぎやエシャロット、トマトなどを炒めてフュメ・ド・ポワッソン(魚のだし汁)を加え、バターでとろみをつけたソースを意味します。
エビのビスクスープ
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
有頭エビ | 300g(1尾30g×10尾) | |
バター | 20g | |
A | セロリ(スジを取って薄切り) | 1/2本(50g) |
玉ねぎ(短いせん切り) | 1/2コ(100g) | |
にんじん(いちょう切り) | 50g | |
ブランデー | 大さじ2 | |
B | 水 | 800ml |
トマトペースト | 大さじ1(18g) | |
レモン汁 | 大さじ1/2 | |
C | 生クリーム | 50ml |
塩 | 小さじ1/3~1/2 | |
こしょう | 少々 | |
ガーリックトースト(フランスパンで) | 4枚 |
作り方
- エビは頭をとり、殻をむきます。(頭のミソが大切なのでここで洗わないこと)
- 1.のエビの頭はキッチンバサミで開いておきます(ヒゲは切り落とします)。
- 厚手鍋に分量のバターを入れ、(A)の野菜をしんなりするまで炒めてから2.のエビの頭とエビの殻を加えて中強火で良い香りがするまで炒めます(焼き付けるようなイメージで)。
- 3.に分量のブランデーを注ぎ、しみこませます。
- 4.に(B)を加えて15~20分程煮ます。アクは取りません。
- エビの身を開いて背ワタを取り、5.のスープの一部で手早く火を通します。
- 5.のスープを殻と少量のスープと共にミキサーにかけます。
- 7.の鍋に戻し入れ、しばらく煮てから再び漉して(C)で調味します。
- 器に8.を盛り、6.のエビを添えます。お好みでガーリックトーストを添えます。