文化講座
第3回:「イタリアの長寿食」について学びます。
前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介しました。
今シリーズは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしております。
第3回目のテーマは、「イタリアの長寿食」です。
WHO(世界保健機関)が発表した2022年世界の長寿ランキングによると、イタリアは世界第8位、平均寿命83歳の国です。イタリアの人々はどんな料理を食べているのでしょうか?
※ちなみに世界全体の平均寿命は73.3歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。
イタリアの概要
面積:30.13万km2(日本の面積の約4/5)
人口:5,900万人(2023年現在)
首都:ローマ
宗教:キリスト教(国民の約7~8割)
言語:イタリア語
イタリアの国旗
イタリアってどんな国?
イタリアの国土は日本の4/5の大きさであり、長靴のような形をしています。
南ヨーロッパのイベリア半島に位置し、同半島の大部分を占める議会君主制国家です。
国土には独立国である「バチカン」と「サンマリノ」が存在しています。
イタリアは大きく北部・中部・南部の3つに分かれます。
北部の都市...トリノ、ジェノバ、ミラノ、ベネチア、ボローニャなど
ベネチア市街
サンマルコ広場にて(ベネチア)
筆者
ベネチアングラス
中部の都市...フィレンツェ、ペルージャ、ローマ
ドゥオモ(フィレンツェ)
スペイン階段(ローマ)に座る筆者
レストランで前菜を選ぶ筆者
南部の都市...ナポリ、ポンペイ、シチリア
ナポリのレストランにて
筆者
ナポリのピザ店にて
筆者
マーケットにて(シチリア)
筆者
イタリアは「スローフード運動」発祥の地
1986年イタリアのピエモンテ州の小さな村「ブラ」からスタートしたN.P.O.(Non-Profit Operation)運動です。「ファストフード」のような大量生産の画一した味に対抗して、質の良い素材・郷土料理の伝承などを守り続けようという思いを込めて活動が始まりました。
現在ではこの「スローフード運動」は世界中に広がり、日本でも2004年10月に「スローフードジャパン」が設立されています。
スローフードの3つの指針
- 消えていく恐れのある伝統的な食材や質のよい食品、酒を守ること
- 質のよい素材を提供する小生産者を守ること
- 子どもたちを含め、消費者に味の教育をすること
イタリアの食事処の種類
- リストランテ...一般的に中級以上のレストランです。料金も少し高めで、店によっては服装に気をつけなければなりません。
- トラットリア...リストランテよりカジュアルな雰囲気で、料金もすこし安めです。
- オステリア...トラットリアよりも大衆的で気軽に食事やお酒が楽しめます。
- ピッツェリア...ピザの専門店です。パスタやメイン料理を置いている店もあります。
- バール...イタリア人には欠かせない喫茶店で、軽食やアルコールがあります。
イタリア料理の特徴
2010年、イタリア料理はギリシア料理、スペイン料理、モロッコ料理と共に「地中海の食事」として国際連合教育科学文化機関(UNESCO)の無形文化遺産に登録されました。
イタリア料理は、素材を生かした素朴な料理が多いことが特徴です。
地中海に面する地域には魚介類を用いた料理が多く、沿岸諸国以外のヨーロッパの国々で食べられることのないタコやイカも食材として使われています。
一方で、北部や内陸の地域では肉や乳製品を使った料理も多く食べられています。
南北に長いイタリアは地理的にも多様な特徴があることや、イタリア王国による統一まで多数の独立国家があり、その国ごとにまったく特徴の異なる郷土料理が発達しています。
トマトを良く使うこともイタリア料理の特徴です。
トマトはラテンアメリカ原産であり、イタリアに広まったのは16世紀以降です。それ以前の特徴としてはアンチョビの形で魚醤を多く用いて見た目も質素でしたが、トマトが入ってきたことによって色彩も鮮やかになりました。
イタリア料理はフランス料理の原型にもなっています。1533年、フィレンツェの名門貴族であるメディチ家のカテリーナ(後のカトリーヌ・ド・メディシス)がフランスのアンリ2世に嫁いでパリに移り住む際、大勢のイタリア人料理人や香料師を連れてイタリア料理や氷菓、ナイフやフォークの使用といったものをフランスに持ち込んだことで、世界三大料理に数えられている「フランス料理」へと成長したと言われています。
筆者が食べ歩いたイタリア各地の料理
ローマ
イタリアの首都で、約3000年にわたって文化、芸術、建築などの面から、世界にさまざまな影響を与え続けている広大な国際都市です。
ローマの市場
ハムとサラミ専門店にて
著者
ローマで一番有名なティラミス専門店で
ティラミスアイスクリームを食べました
ベネチア
イタリア北部にある118の島からなる海上都市です。世界的に有名なカルパッチョは、この町の「ハリーズ・パー」で生まれた料理です。
ベリーニ
(ピーチのカクテル)
ベネチアのホテルで
カルパッチョ
ベネチアの有名なレストラン
「ハリーズ・バー」にて
そば粉のパスタ
(イワシと玉ねぎのソース)
ベネチアの星付きレストランで
カルパッチョとは
カルパッチョの語源説は何話もあります。
- イタリアの画家であるヴィットーレ・カルパッチョが薄切りの生牛肉にパルミジャーノ・レッジャーノをかけた料理を好んだことから、彼の名を取ってカルパッチョと呼ばれたという説。
- 画家であるカルパッチョは独特の赤色を基調とした作風であることから、皿に並べられた薄切りの生牛肉の色彩に類似しているためにその名があるとする説。
- 1963年にベネチアのヴィットーレ・カルパッチョ生誕500年回顧展の期間中に、同地のレストラン「ハリーズ・バー」で考案された料理との説。
日本では生の牛ヒレ肉を食べる習慣がないことから、マグロやカツオなど刺身を使用したカルパッチョが知られておりますが、その創作者は日本人の著名なイタリアンシェフだとされています。カルパッチョの発祥国イタリアにおいても、世界的な刺身ブームの影響を受け、その他の白身魚やタコなどを使ったカルパッチョや、野菜やフルーツを添えたものも多く出回っています。
代表的なイタリア料理
パスタ
小麦粉を練って作った種々の形態の麺類(パスタ)と、ソースの組み合せが基本の料理です。
パスタはサラダに入れたりスープの具としても用いられ、グラタンもパスタ料理の一種です。
18世紀初めまでは、スパゲッティは民衆の食べもので、チーズだけをかけて手でつかみ、頭上にかざして下から食べるものでした。1770年代、庶民の習慣を深く愛したナポリ国王フェルディナンド2世が宮廷で毎日スパゲッティを供することを命じ、この時にスパゲッティを上品に食べるため、からみやすいように先が4本のフォークが考案されたと言われています。
17世紀末の料理人であるアントニオ・ラティーニが「スペイン風トマトソース」のパスタを作ったことがきっかけとなり、パスタをトマトソースで食べる形が普及しました。
マグロのレモン風味パスタ
(シチリアのレストランにて)
ピッツア
ピッツァ(ピザ)は、平たく伸ばしたパン生地の上に具材を載せて焼いた料理です。
イタリアではリストランテ格の店では商品化していないところが多く、ピッツェリアと呼ばれる専門店で提供されています。
イタリアでは、安く簡単に素早く食事を済ませると言えばピッツェリアでピザを食べることが一般的です。
イタリア各地で味付けや生地に差があり、ミラノのピザが最も薄く、最も伝統あるピザがナポリピッツァです。
筆者はナポリで、生徒と共に有名ピザ店めぐりをしました。
マルゲリータピザ
(ナポリにて・筆者)
米料理
米料理と言えばリゾットが有名ですが、米は小型のパスタと同様に扱われることが多いようです。
米をデザートに用いるのも一般的です。イタリアは欧州一の米どころであり、料理ごとに最適な種類の米を使い分け、カルナローリ米やアルボリオ米といった品種が有名でよく使われています。
アンティチョークと手長エビのリゾット
(ベネチアのレストランにて)
イタリア料理のうまさの秘密と栄養素
ハーブ類
ハーブは食材に深いうま味を加えるだけでなく、肉や魚の臭みを消す働き・香りによって食欲を増進させる働き・料理の彩りを良くする目的があります。
(1)セージ
ソーセージの「セージ」とは、この食材で使われているハーブがセージと呼ばれるものであることに由来しています。抗菌・防腐作用など多くの効能があり、「長生きしたければ5月にセージを食べなさい」といったことわざも存在するほどです。セージの葉には独特の苦味があり、肉・魚料理の臭み消しとして使われています。
(2)イタリアンパセリ
どんな料理とも相性が良く、イタリア料理には欠かせないハーブです。鉄分やビタミンEが豊富です。
強力な抗酸化作用があるため、加齢防止や生活習慣病の予防にも効果が期待されています。
またイタリアンパセリには「アピオール」と呼ばれる香気成分が含まれていて、整腸作用があるとされています。
(3)オレガノ
シソ科。トマト料理と相性がよいハーブです。
オレガノの葉にはポリフェノールが多く含まれており、その抗酸化作用は老化防止、動脈硬化予防、がんの原因となる過酸化脂質の産生を抑制する効果があります。
オレガノに多く含まれるチモールやカルバクロールなどの成分は、細菌やカビに対する抗菌作用を持っており、食中毒の原因菌を殺菌する効果が期待できます。
(4)タイム
魚の臭みを消すため、魚の煮込み料理によく使用されます。
ポリフェノールの一種であるロスマリン酸を含んでおり、抗酸化作用や抗アレルギー作用が期待できます。
代謝を促進し、ダイエットに効果的と考えられているビタミンB1やB2などのビタミンB群が含まれています。
(5)バジル
シソ科。パスタ、ピザ、サラダによく使用されます。
バジルに含まれているβ-カロテンは体内で必要に応じてビタミンAに変換されます。ビタミンAは目の機能向上、皮膚や粘膜の健康を保つために必要なビタミンで、粘膜のダメージを回復する効果や免疫力を高める効果があります。肌荒れ予防にも効果が期待できます。
ビタミンEも豊富に含まれており、強い抗酸化作用を持ち、体をストレスから守り、老化を抑える効果があります。不飽和脂肪酸の酸化を防いでシミやしわの増加を防ぐ、毛細血管を広げて血行を改善する、悪玉コレステロールの酸化を防止して動脈硬化を予防するなどの効果が期待できます。
(6)ローズマリー
使用頻度が高く、肉、魚、野菜料理に使用され、特に肉の臭みを消します。フォカッチャというパンにも使われます。
ローズマリーには、ポリフェノールの一種であるカルノシン酸が多く含まれており抗酸化作用が期待され、ビタミンB1やB2、Cなどのビタミン類やタンニンが多く含まれています。また、脳神経を正常に働かせるために役立つナイアシン、カルシウム、リン、マグネシウムなども含んでいます。
セージ
イタリアンパセリ
オレガノ
タイム
バジル
ローズマリー
トマト
イタリアのトマトは皮が比較的薄く、果肉が肉厚でしっかりとしており、ゼリー状の部分や種が少なく、加熱しても煮崩れしにくいということや、水っぽくならない事、そして何より旨みが多く、加熱することでよりおいしくなると言う特性を持っています。トマトソースの材料に最適なトマトといえます。
- リコピンの強力な抗酸化作用が老化防止に役立ちます
リコピンは有害な活性酸素の働きを抑える強い抗酸化作用があり、がんを予防する効能が高いといわれています。血中のコレステロールの酸化を予防して血流を改善する働きや肥満予防にも有効な成分です。 - β-カロテン、ケルセチン、ピラジン、ビタミンC、ビタミンEなど豊富な栄養素!
トマトにはリコピンの他に上記のように豊富な栄養素が含まれます。これら栄養素に共通するのが抗酸化作用です。そして過剰に発生する活性酸素を抑え、細胞や血液を健康に保ってくれます。
生活習慣病や動脈硬化などの病気を予防・老化の防止効果も高く、アンチエイジングに役立つと期待されています。 - 血液サラサラ効果!
ケルセチンやピラジンは血液をサラサラにする作用があり、血管を丈夫にする効能があります。
イタリア料理のホームパーティを開きました・2023年8月
当日のイタリア料理パーティーの様子
当日のメニュー表
アンティパスト(前菜)盛り合わせ。手前は桃のスープ
撮影:伊藤華づ枝
デザート盛り合わせ
撮影:伊藤華づ枝
今回は、イタリア南部の島・シチリア島発祥の煮込み料理「カポナータ」と、アンティパスト(前菜)の1品として白いトウモロコシを使った、くちどけが滑らかな「塩味パンナコッタ」を紹介します
カポナータ(シチリア名物・揚げナスの甘酢煮)
材料 | 4~6人分 | |
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なす | 3本 | |
セロリ | 2本 | |
赤パプリカ | 1コ | |
玉ねぎ(大) | 1コ | |
ズッキーニ | 1本 | |
揚げ油 | 適量 | |
アンチョビ | 10g | |
バジル(葉) | 5~6枚 | |
A | 塩 | 小さじ1・1/2 |
白こしょう | 少々 | |
B | 赤ワインビネガー | 100ml |
グラニュー糖 | 大さじ3 | |
バジル(飾り用) | 2~3枚 |
作り方
- なすは大きめの乱切り、セロリはスジを取って乱切り、赤パプリカも乱切りします。
- 玉ねぎは2~3センチの角切り、ズッキーニは太さを見ながら輪切りか半月切りにします。
- 1.と2.を順に、やや高温の油で色づくほどに揚げます。
- 3.をボウルに入れて(ペーパータオルで油分を吸い取ること)、(A)で下味をつけます。
- 4.に細かく刻んだアンチョビとせん切りバジルを加えます。
- (B)を小鍋に入れて煮立て、冷まします。
- 5.に6.を加えて味をなじませます。
- 器に盛って、飾り用のバジルを添えます。
白とうもろこしの塩パンナコッタ
材料 | 50mlの小カップ12個分(出来あがり600ml分) | |
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白とうもろこし | 2本 | |
A | チキンスープストック(又は水) | 200ml |
塩 | 小さじ1 | |
B | 生クリーム | 200ml |
牛乳 | 200ml | |
塩 | 小さじ1/3 | |
チキンスープ(又は水) | 100ml | |
ゼラチン | 1~2袋(5~10g) | |
水 | 30~50ml |
作り方
- 白とうもろこしは、皮をむいてから半分に切り、水から茹でて沸騰したら7分茹でます。
- 1.を(A)で5~10分煮て、ミキサーにかけます。少量をそのまま残す。(トッピング用)
- (B)を煮立ててから、ミキシングしてピュレして裏漉した2.と、ふやかしたゼラチンを入れて完全に煮立てて冷まします。
- 3.を用途に応じて器を選び、注ぎ分けます。
- 4.を氷水の上で冷ますか、冷蔵庫で冷やします。
表面が固まったら、トッピング用のとうもろこしを散らします。