文化講座
第4回:「イギリスの長寿食」について学びます。
前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。
今シリーズは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしてまいります。
第4回目のテーマは、「イギリスの長寿食」です。
WHO(世界保健機関)が発表した2022年世界の長寿ランキングによると、イギリスは世界第25位、平均寿命81.4歳の国です。イギリスの人々はどんな料理を食べているのでしょうか?
※ちなみに世界全体の平均寿命は73.3歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。
イギリスの概要
面積:244,820km2(日本の2/3)
人口:6,812万人(日本の1/2)
首都:ロンドン
宗教:キリスト教
言語:英語
イギリスの国旗
イギリスってどんな国?
イギリスという名は通称です。正式には「グレートブリテン及び北アイルランド連合王国」です。
ヨーロッパ大陸北西岸に位置し、グレートブリテン島、アイルランド島北東部その他多くの島々から成る立憲君主制国家であり、大航海時代を経て世界屈指の海洋国家として成長しました。
イングランド
連合王国の政治経済の中心地です。
ブリテン島の2/3を占めるイギリスの中心となる国であり、ヨーロッパを代表する都市ロンドンをはじめ、コッツウォルズや湖水地方など、人気観光地が数多く集まる場所です。
ロンドンの象徴「ビッグベン(時計台)」と筆者
スコットランド
独特の文化と起伏に富む地形です。
グラスゴーなどの個性的な都市とダイナミックな自然が併存する街です。
アーカート城とネス湖
北アイルランド
複雑な歴史を持つ島国です。
最後に連合王国に編入されたのがアイルランドであり、宗教や民族の違いから独立したものの、北部の6州は連合王国の一部として残りました。長年紛争が続いていましたが、現在は落ち着いています。
世界遺産にも登録されている奇景
「ジャイアンツ・コーズウェー」
ウェールズ
独自のケルト文化を維持する地域です。
長くイングランドの統治下にありますが独自の文化を保ち、現在もウェールズ語を話す人が多く、ケルト色が色濃く残っています。
アーサー王伝説など多くの伝説が生まれた土地でもあります。
アーサー王が生まれたとされる
「ティンタジェル・キャッスル」
アフタヌーンティーとは
アフタヌーンティーは、もともと英国で始まった夕方のお茶の習慣です。
単にお茶やお菓子をいただくだけではなく、社交の場として定着していきました。
社交の場として発展したことにより、レースや柔らかな布でできた「ティーガウン」と呼ばれるお茶会用のドレスが流行するようになり、マナーも生まれました。
ティーガウン
アフタヌーンティーの歴史
イギリスでアフタヌーンティーの習慣が生まれたのは19世紀の中ごろ、今から150年ほど前のことです。
上流階級の人々にとって夕方はオペラ鑑賞や観劇のひとときであり、夕食は夜の8時か9時頃と遅い時間に始まりました。第7代ベッドフォード侯爵夫人のアンナ・マリアさんが、夕食までの空腹を満たすために、メイドにバター付きのパンと紅茶を運ばせたことがアフタヌーンティーの始まりです。この習慣が瞬く間に貴族の社会に広がりました。
庶民の習慣に根付いたのはさらに数十年後であり、当時は食習慣でありながらも社交の場としての意味合いが大きく、優雅な食器や料理を披露し、インテリアや花などあらゆる分野の造詣を必要とされ、歓談を楽しんだようです。
イギリスで紅茶が好まれる理由
イギリスに紅茶を飲む習慣が広がったのは、以下の理由によるものとされています。
- 当時のイギリスには、エール(ビール)と水くらいしか飲み物がなかったこと(ワイン造りが盛んではなかった時代がある)
- イギリスの水が紅茶によく合っていたこと
お茶はどこから来たのか?
お茶が東洋から西洋にはじめて伝えられたのは、オランダの東インド会社の手によるもので、今からおよそ400年前でしたが、もともとは紅茶ではなく緑茶でした。定説はありませんが、ヨーロッパでは烏龍茶系の発酵した茶葉が好まれたことから製造業者が買い手の嗜好に合わせて強く発酵させた紅茶を作るようになったのではないかとされています。
お茶はもともと不老長寿の飲み物とされていて、東洋へのあこがれと相まって、まるで魔法のように上流社会に広がって行ったのです。
世界三大銘茶
- スリランカの「ウバ」
バラやすずらんに似た香りと爽快な渋みが特徴です。 - インドの「ダージリン」
紅茶のシャンパンともいわれ、マスカットのようなさわやかな芳香が特徴です。 - 中国の「キーマン」
ランやバラを思わせる香りが特徴です。
スリランカの「ウバ」
インドの「ダージリン」
中国の「キーマン」
お茶が大好きなイギリス人
イギリスの生活の豊かさや潤いの象徴的存在として、紅茶はいろいろな形で楽しまれています。
朝 | 「アーリーモーニングティー」や「ブレックファーストティー」 |
---|---|
午前 | 「インブンジィズ」 |
昼 | 「フォーマルアフタヌーンティー」 アフタヌーンティーは「4 o'clock tea」とも呼ばれ、午後4時ごろにゆっくり楽しむティータイムであり、イギリスのティータイムの中でもっとも有名です。サンドイッチなどを食べます。 |
夕方 | 「アフタヌーンティー」 親しい友人とカジュアルに集うお茶の時間です。 午後3時から4時頃の間にスタートします。 上流階級から生まれた華やかなフォーマル・アフタヌーンティーと違って、家庭で簡単にできるものです。 |
夜 | 「ハイティー」 午後6時頃に行います。 料理やお酒と楽しむ夜のティータイムです。 夕食とティータイムを合わせたようなティースタイルのことをいいます。 |
筆者はイギリスで何度かアフタヌーンティーを楽しみました
The Lanesborough
(ザ・レーンズボロ)
このホテルは、19世紀はじめに建てられた旧レーンズボロ伯爵邸だった建物で、とても落ち着いた雰囲気です。
筆者
Brown's Hotel The English Tea Room
(ブラウンズホテル ザ イングリッシュティールーム)
重厚で落ち着いた雰囲気と、細部にまで行き届いたサービスです。
ロンドン通の間で「アフタヌーンティーならここ!」と高い評価を得ていました。16種類から選べる紅茶(又はハーブティー)のアフタヌーンティーの他にシャンパン付きもあります。
うれしい事にケーキ類は食べ放題で、店内ではピアノの生放送もありました。
筆者
クリーム・ティーとは
クリーム・ティーとは英国等の喫茶習慣であり、アフタヌーンティーの一種です。
基本は紅茶とスコーンのセットで、クロテッドクリームとジャムが添えられます。
クリーム・ティーには、きゅうりのサンドイッチを添える事もあります。
社交の場であったアフタヌーンティーにおいて、新鮮なきゅうりを使ったサンドイッチを提供できるという事は、招待客に「私は新鮮なきゅうりを栽培できる広大な土地を持っている」・「冷涼なこの地ではなかなか育ちにくいきゅうりを高価な温室を使って育てている」・「それを栽培できる使用人がいる」という自分自身の財力を自慢しました。
ゆったりとしたお茶の時間に、このように高いプライドを持つことが、長寿の秘訣のひとつとなったのではないかと思います。
MULLED(マーメイド)で
クリームティーを楽しむ筆者
※クロテッドクリーム...イギリスの乳製品であり、全乳を蒸気や水浴で間接的に加熱し、浅い鍋に入れてゆっくりと冷やした濃厚なクリームです。クロテッドクリームはクリーム・ティーには欠かせない食材です。
イギリス料理の特徴と栄養素
スパイスの多用
イギリスにはケルト人、ローマ人、アングロ・サクソン人、バイキング、ノルマン人と様々な民族が移り住み、こうした民族の流入がイギリスの食文化に大きな影響を与えました。
現在のイギリス料理に欠かせないハーブやフルーツの多くは1~4世紀に支配していたローマ人が残していったものであり、ペイストリー生地やスパイスの使い方、ソーセージ製法もローマから伝わったものです。
カレーは18世紀にインドからイギリスに伝わりました。イギリスはインドを植民地として支配しており、インドのベンガル地方の総督だったイギリス人が紹介したといわれています。
19世紀のイギリスでは、いろいろなスパイスを組み合わせ、手軽にカレーが再現できるカレー粉が作られました。
カレーに含まれている代表的なスパイスは以下のとおりです。スパイスにはいろいろな効果が期待できることから、長寿につながっているのではないかと思います。
ターメリック
ウコンとも呼ばれる鮮やかな黄色が特徴のターメリックは、土のような香りとほのかな苦みを持ち、カレー特有の黄色い色を出してくれるスパイスです。
「クルクミン」という成分が肝機能を活性化させるのでコレストロール値の低下が期待され、抗酸化作用にも優れているので、美肌効果に期待が持てるとされています。
クミン
カレーの香りといえばこのスパイスです。クミンはセリ科の植物の種で、一種類だけでもカレーの風味を強く感じます。ホールで使うと噛むたびに香りと食感を生むため、カレーを構成するスパイスの中でも最も重要なスパイスです。
消化液の分泌を活発化してくれるので整腸や解毒作用に効果があり、食欲増進や消化の促進につながり、また、抗酸化作用があり免疫力を上げる効果もあるとされています。
コリアンダー
柑橘のような甘い香りと苦みを持ち、さわやかでほのかにスパイシーな香りが特徴的です。葉の部分はパクチーとしても知られ、スパイスの風味をやさしくまとめてくれます。
タイではパクチー、中国ではシャンツァイ(香菜)とも呼ばれていて、世界各国で愛されているスパイスです。コリアンダーには発熱の緩和や食欲増進、血液の浄化などの効果があるとされ、西洋では消化器系の家庭薬として使われています。
乳製品の摂取
前述したように「クリーム・ティー」は、紅茶とスコーンのセットで、クロテッドクリームとジャムが添えられます。
クロテッドクリームは乳脂肪分を多く含むクリームであり、1998年に制定された原産地名称保護制度によると、クロテッドクリームの脂肪分は最低でも55%となっており、牛乳の平均乳脂肪分3.5%と比べると約16倍もの乳脂肪分が含まれています。
乳脂肪および牛乳・乳製品の摂取は、肥満や生活習慣病には影響しない、むしろ予防的に働くという結果も近年の研究で示されているなど、健康的な生活にはぜひ取り入れたい食品です。
毎日のアフタヌーンティーの際にクロテッドクリームなどの乳製品を摂取することは、イギリス人の健康長寿につながっているのではないかと推測されます。
アフタヌーンティーパーティを行いました・2021年
筆者
紅茶のパンナコッタ・さくらんぼ添え
料理作成・撮影:伊藤華づ枝
ケーキやフィンガーサンド
料理作成・撮影:伊藤華づ枝
今回は、インド料理に由来を持つイギリス料理である「ケジャリー」とクリーム・ティーには欠かせない「スコーン」のレシピを紹介します。
イギリスのカレーピラフ(ケジャリー)
料理作成・撮影:伊藤華づ枝
材料 | 4~6人分 | |
---|---|---|
米 | 3カップ(600ml分) | |
レンズ豆(あれば) | 大さじ3 | |
チキンスープ | 4カップ(800ml分) | |
甘塩鮭 | 200g(約2切れ分) | |
バター(有塩) | 20g | |
玉ねぎ(1~2cm角切り) | 200g(中1コ) | |
にんじん(いちょう切り) | 120g | |
カレー粉(純カレー) | 大さじ1 | |
レーズン(水洗いして使う) | 大さじ3 | |
塩(A) | 小さじ1/3 | |
こしょう | 少々 | |
塩(B) | 小さじ1弱 | |
ローリエ(あれば) | 2枚 | |
卵(ゆで) | 2コ | |
枝豆(又はグリンピース) | 8~10さや |
作り方
- 米とレンズ豆を一緒に水洗いし、チキンスープに30~60分程浸水します。
※チキンスープの代わりに水を使い、鶏肉を刻んで入れてもよい - 鮭はフライパンに少々の油(分量外)を入れ、中火でフタをして焼くかグリルで焼きます。その後、骨と皮をとって身を粗くほぐします。
- 2.のフライパンをきれいに洗ってふき、分量のバターで玉ねぎとにんじんを炒めます。
- 3.に分量のカレー粉をまぶしつけ、塩(A)とこしょうで調味します。
- 1.に4.と2.の鮭と塩(B)・ローリエを入れ、すぐに炊きます。
- 器に盛り、ゆで卵や枝豆の実を添えます。
スコーン
料理作成・撮影:伊藤華づ枝
材料 | 8~10コ分 | |
---|---|---|
A | 小麦粉 | 440g |
ベーキングパウダー | 大さじ1・1/2 | |
グラニュー糖 | 60g | |
バター(無塩) | 120g | |
B | 卵 | 2コ |
生クリーム | 100ml | |
サワ-クリーム | 100g | |
打ち粉 | 適量 | |
牛乳 | 少々 | |
クロテッドクリーム (又は泡立てた生クリーム) |
適量 | |
ジャム | 適量 |
作り方
- ボウルに(A)を混ぜ合わせます。
- 冷蔵庫から出したてのバターを1.に加え、手でこすりあわせてバターの塊をほぐします。
- 2.に(B)を加え、さっくり混ぜ合わせます。
- 打ち粉をして3.を2cm程の厚さに伸ばし、型で8~10コに抜きます。
- 4.の上に牛乳を塗ります。
- 5.をオーブンシートにのせ、160~170度のオーブンで約20分焼きます。
- クロテッドクリームや、ジャムをつけて食べます。