文化講座
第9回:「行事食(2)」について学びます
前シリーズでは「私は麺食い人!」と題し、日本独自の発展を遂げたラーメンを始め、アジア各国の食文化ともつながりの深い麺料理など、バラエティに富んだ麺料理をご紹介しました。
今シリーズでは、「日本食って素晴らしい!」というテーマで、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介しております。
「和食」がユネスコ無形文化遺産になって来年で10年目を迎えます。普段、私たちが食べている「日本食」の素晴らしさを一緒に再確認していきましょう。
第9回目のテーマは、「行事食(2)」
日本には人生の節目、四季折々の行事があり、その行事にはそれぞれ地域色豊かな食事がつきものです。
今回は前回に引き続き「行事食」を取り上げます。
日本には高齢者を敬い、長寿を祝う文化があります。今回は長寿の祝いと高齢者の食事について紹介いたします。
長寿を祝う歴史
高齢者の長寿をお祝いするようになったのは奈良時代とされ、貴族の間で始まりました。
715年に長屋王「四十賀」、740年に聖武天皇「四十賀」の賀寿が行われたことが始まりと言われています。当時は様々な環境下において長生きすることは珍しい時代であったため、40歳の初老から10年おきに長寿を祝う儀式があったようです。
貴族の風習が一般民衆に広まったのは室町時代から江戸時代だと考えられており、時代とともに寿命が延び、今では40歳は働き盛りでまだまだ若い世代となり、「長寿祝い」をするのは60歳の還暦からという風習になっています。
還暦
「還暦」とは満60歳のお祝いです。
還暦の「還」とは、かえる・戻るという意味をもち、「暦」は干支を意味しています。
魔除けのため赤色産着が以前は使われていたため、日本における還暦祝いでは「出生時に還る」という意味で赤色の衣服「頭巾やちゃんちゃんこなど」を身に着けてお祝いします。
古希
「古希(こき)」とは数え年70歳(満69歳)のお祝いです。
中国・唐の詩人である杜甫が詠んだ「人生七十年古来稀なり」からきている言葉です。
喜寿
「喜寿(きじゅ)」とは数え年77歳(満76歳)のお祝いです。
「喜」の旧字体「㐂」が「七十七」に見えることから、室町時代に始まったお祝いといわれており、本来は厄年のひとつであったようです。
傘寿
「傘寿(さんじゅ)」とは数え年80歳(満79歳)のお祝いです。
傘寿は「傘」の略字「仐」が「八十」に見えるため生まれたお祝いで、傘は末広がりで縁起が良いことも由来とされています。
米寿
「米寿(べいじゅ)」とは数え年で88歳(満87歳)のお祝いです。
「米」の字画を分解すると「八十八」となるのがその由来です。
卒寿
「卒寿(そつじゅ)」とは数え年で90歳(満89歳)のお祝いです。
卒寿は「卒」の字の略字「卆」が「九十」に見えることから名付けられました。
白寿
「白寿(はくじゅ)」とは数え年で99歳(満98歳)のお祝いです。
「白」は「百」から「一」をとった漢字、すなわち100から1を引いた99歳のお祝いを指します。
百寿
「百寿(ひゃくじゅ)」とは数え年で100歳(満99歳)のお祝いです。 100を意味する漢数字がそのまま使用されています。
日本にはこのように高齢者を祝う多くの行事があります。しかし高齢者になればなるほど、特に食事に気をつける必要があります。以下に、高齢者の食生活のポイントについて紹介します。
高齢者の身体の特徴
- 感覚機能の低下
- 消化吸収機能の低下
- 咀しゃく機能、えん下機能、消化管による運動機能、消化液の分泌低下
- その他身体機能の変化
- 体内水分、骨量の減少
- 糖利用の低下
- 予備力や適応力の低下
- 複数の疾病にかかる人の増加
上記のように、年齢と共に各種の身体機能低下がみられるようになります。
高齢者の食生活のポイントについて
高齢者にとって食事は以下のような要素があります。
- 健康維持の基本
- 毎日の生活の中での大きな楽しみ
- 生きる意欲を高め、自立を助ける重要な手段
- 食事による充分な栄養摂取は老化現象を遅らせ、体力の増強や疾病の回復・予防に役立つ
食生活のポイント
高齢者の食事では、個々の身体機能に見合った栄養量の確保と、心理的・社会的・経済的特徴を考慮する必要があります。
(1)栄養バランスのとれた食生活と消化の良い食事
多様な食品(1日25~30種類)を食べることが大切です。
毎食、主食・主菜・副菜を上手に組み合わせた食事をとります。
- たんぱく質は「質」と「量」を考えて
- 牛乳や乳製品を積極的にとる
- 野菜や海藻も充分とる
(2)個人の身体機能、生活活動に見合った食事内容
高齢者は個人差が大きいので、低栄養や過剰栄養にならないように身体状況、ライフスタイルなどを考慮して食べることが大切です。
筆者の著書「寝込まないボケない家庭料理~すてきな老いをめざして~」:高齢社会を強く明るく元気に、幸せを得るためのヒントを記しました
(3)食生活にリズムをつける
毎日3食、規則正しい食事時間と食事量をとります。
食生活にリズムがつき、生活にメリハリができます。
食欲不振の解消、栄養不足や過剰栄養を防止します。
(4)おいしく、楽しい食事にする工夫
昔から「おいしさ」は味覚・視覚・嗅覚・聴覚・触覚の五感で感じるといわれており、味覚はたった5%に過ぎず、視覚は全体の80%以上の割合を占め、おいしさを感じます。
味付けの工夫、見た目のおいしさや香り、食べやすい形態、料理温度、食卓の雰囲気作り(テーブルクロス、音楽、花などを用意)、家庭や友人と一緒に楽しい会話をしながらの食事(食欲増進のため高齢者には特に重要)などを工夫します。
(5)嗜好、食習慣を尊重する
昔から食べているなつかしい料理、和風の味付けの料理、行事食や郷土料理なども取り入れ、個人の嗜好を満足させることも大切です。
(6)噛むことの重要性
- 噛むことで脳の働きを活発にします
- 唾液が十分に出ることで胃腸での消化が良くなり、内臓の働きを助け、ガンを予防するペルオキシターゼが分泌されます
- 心を落ち着かせます
- 満腹中枢を刺激するので、食べすぎを防止します
- 痛風、糖尿病もよく噛むと症状が軽減します
それでは、高齢者に優しく消化も良く、見た目にも楽しいメニューを紹介します。
まずは高齢者が特に好む寿司です。蒸し寿司にすることで消化が良くなります。
蒸し寿司
材料 | 4人分 | 2人分 | |
---|---|---|---|
米 | 2カップ(400ml分) | 1カップ(200ml分) | |
すし酢 | 大さじ3~4 | 大さじ1・1/2~2 | |
干ししいたけ | 4枚 | 2枚 | |
かんぴょう(乾) | 10g | 5g | |
A | しいたけの戻し汁 | 200ml | 150ml |
しょうゆ | 大さじ2 | 大さじ1 | |
砂糖 | 大さじ1・1/2 | 大さじ1弱 | |
B | 卵 | 2コ | 1コ |
塩 | 小さじ1/4 | 小さじ1/8 | |
サラダ油 | 適量 | 適量 | |
カニの身 | 4本(60g) | 2本(30g) | |
うずら卵(茹で) | 4コ | 2コ | |
うなぎの蒲焼き | 8切れ(160g) | 4切れ(80g) | |
イクラの醤油漬け | 適宜 | 適宜 | |
木の芽 | 4枚 | 2枚 |
作り方
- 米は洗ってやや少なめの水に浸けて1時間程おき、炊いてから10分間程蒸らします。
- 1.にすし酢を手早くうち、人肌まで冷まします。
- 干ししいたけはゆっくり戻し、粗みじん切りにします。
- かんぴょうは水で洗って塩でもみ、たっぷりの熱湯で10分間茹でてみじん切りにします。
- 鍋に3.と4.と(A)を入れ、汁気がなくなるまで煮て冷まします。
- (B)を混ぜ合わせ、フライパンを熱して油を入れて数回に分けて薄焼き卵を作ります。端から細く切り、錦糸卵を作ります。
- 2.と5.を合わせて器に盛ります。
- 7.の上に6.の錦糸卵を敷きつめ、カニの身、茹でて殻をむいたうずら卵、一口大にそぎ切りにした蒲焼きをのせます。
- 蒸気の上がった蒸し器に8.を入れて5分間程蒸し、イクラと木の芽をのせます。
大豆は小豆よりも大きいからということではなく、大豆の「大」は大切なとか重要なという意味があります。健康に良い大豆をにんじんや玉ねぎ・ツナと共に煮ました。そのまま食べても、ご飯にのせたり、混ぜたりして食べてもおいしいです。
おかず大豆※大豆(乾燥の状態)1カップ(150g)分のレシピ
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
大豆 | 茹でたものを2~2.5カップ(400~500ml分) | |
にんじん | 60g | |
玉ねぎ | 60g | |
さやいんげん | 40g | |
しょうが | 10g | |
オイルツナ | 1缶(70g) | |
サラダ油 | 大さじ2 | |
A | 大豆の茹で汁(又は水) | 100ml |
しょうゆ | 大さじ3 | |
砂糖 | 大さじ1 |
作り方
- 大豆は茹でたものを2~2.5カップ分用意します。
- にんじん(下茹でしても良い)、玉ねぎは1cm程の角切りにします。
- いんげんは1cm程の輪切りにします。
- しょうがはせん切りもしくは粗みじん切りにします。
- フライパンにサラダ油を敷き、4.を香りが出るまでじんわり炒めたら、2.と3.を加えてじんわり炒めます。
- 5.が柔らかくなったら、(A)を加えて煮ます。
- 汁けを少し残して仕上げます。
※ご飯にのせる・ご飯に混ぜるなどして食べます
【大豆の戻し方・茹で方】
- 豆は洗って、たっぷりの水で戻します(浸水します)。
※浸水時間は6時間以上、8時間を目途にします。戻った状態で冷蔵庫にて保存可。 - しっかり戻った大豆を鍋に入れ、戻した大豆の4倍以上の水を入れて火にかけます。
- 沸騰したら浮いてくる泡を丁寧にとります。中強火で約50~60分間を目安に茹でます。
※食べてみて柔らかい感じになるのを目安にします。
※フタをするとふきこぼれるので、フタをしない方が良いです。
※乾燥大豆1カップ(150g)を水で戻すと2.5カップ(350g、2.5倍)になります。
※茹であがった大豆は、そのままおろし大根をのせてしょうゆをかけて食べたり、味噌汁やオムレツに入れるのも良いでしょう。
高齢者になると骨がもろくなり、「老人性骨粗しょう症」を発症する方も増えてきます。予防するには、カルシウムの吸収率が高い牛乳や乳製品の摂取と栄養のバランスをとることが重要です。
ここでは生クリームを使い、季節のいちごを使ったデザートを紹介します。
いちごミルクのババロア
材料 | 4人分 (120ml容量カップ4コ分) |
|
---|---|---|
粉ゼラチン | 2袋(10g) | |
水 | 50ml | |
A | グラニュー糖 | 60g |
水 | 100ml | |
B | いちご | 100g |
水 | 100ml | |
レモン汁 | 小さじ2 | |
生クリーム | 50ml | |
いちご | 100g | |
C | グラニュー糖 | 大さじ1 |
洋酒(コアントロー) | 小さじ1 | |
いちご | 3コ(100g) | |
ミント | 適宜 |
作り方
- ゼラチンは分量の水でふやかします。
- 鍋に(A)を入れて火にかけ、シロップを作り、1.を加えて煮溶かし、水の上で粗熱を取ります。
- (B)をミキサーにかけます。
- 2.へ3.とレモン汁、生クリームを入れて混ぜ合わせ、型に流して冷やし固めます。
- いちごはヘタを取り、輪切りにして(C)をまぶし、ミキサーにかけてソースを作ります。
- 4.に5.のソースとヘタを取って縦に切ったいちご、ミントを添えます。