文化講座
第4回:「蕎麦」について学びます
前シリーズでは「私は麺食い人!」と題し、日本独自の発展を遂げたラーメンを始め、アジア各国の食文化ともつながりの深い麺料理など、バラエティに富んだ麺料理をご紹介しました。
今シリーズでは、「日本食って素晴らしい!」というテーマで、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介いたします。
「和食」がユネスコ無形文化遺産になって来年で10年目を迎えます。普段、私たちが食べている「日本食」の素晴らしさを一緒に再確認していきましょう。
第4回目のテーマは蕎麦 ~蕎麦のルーツと大晦日~
毎月30日は「そばの日」です。
そばの日が制定された理由は、消費者に美味しい蕎麦をたくさん食べてもらうためです。そばは春と秋の2回収穫時期があり、それぞれ収穫時期で味が変わることから、通年で食べて味の違いを知ってもらいたいことも理由の1つだそうです。
今回は寿司や天ぷらと並ぶ代表的な日本料理の1つである蕎麦について、蕎麦のルーツや大晦日との関係などについてご紹介します。
三重県いなべ市のそば畑
日本そばのルーツ
蕎麦の歴史は古く、縄文時代にまで遡るとされています。高知県にある遺跡から蕎麦の実の花粉が発見されており、9000年以上前から日本人にとって馴染みが深い植物、食べ物であったことが分かります。
蕎麦が食べ物として用いられるようになったのは奈良時代以前ですが、当時は今のように麺としてではなく、粒のまま粥にしたり、粉にして練って作る蕎麦がき、水で溶いて焼いた蕎麦焼きとして食べられ、小麦粉の代用として使われるものでした。
美味しさというにはほど遠く、飢えをしのぐためといった目的でした。米や小麦に比べて蕎麦は荒れた土地でも育ち、種をまいた後4~5日で発芽し70~80日で収穫できます。このように米や麦と比べて生育が格段に早くて年に2回~3回収穫できたために、飢えをしのぐ食材として適していました。つまり救荒食品だったのです。
現在の形状に近付いたのは江戸時代で、この頃に蕎麦を麺として食べるようになり、蕎麦がきと区別するために「蕎麦切り」と呼ばれるようになりました。
蕎麦の実
縁起物としての蕎麦
蕎麦の日が毎月30日になった理由は、「江戸商人の慣習」にあります。江戸時代中期には、商家に月の末日に蕎麦を食べる三十日蕎麦(みそかそば)という習慣がありました。当時の江戸商人は毎月末日に縁起物として、また、働いてくれる奉公人を主人がねぎらうための食事として蕎麦を食べる習慣を持っていました。
これは蕎麦は細くて長いので、家の財産を長く保つ縁起物であると考えられていたことに由来しています。
年越しそばを食べる理由
日本では古くから、12月31日に年越し蕎麦を食べる習慣が根付いています。ではなぜ大晦日に年越し蕎麦を食べるのでしょうか?多くの説があるのでご紹介します。
- 「長寿祈願のため」です。そばの細長い形状から、長寿を祈願して食べられ始めたと考えられています。
- 「運気を高めるため」です。鎌倉時代には、「世直しそば」と称してそば餅がふるまわれたといわれています。食べた人たちは翌年に運が向いてきたため、大晦日にそばを食べる習慣が始まりました。ここから「運そば」や「福そば」とも呼ばれています。
- 「厄や災難を切り捨てるため」です。そばは小麦から作るめん類に比べて切れやすい特徴から、厄や災難を切り捨てると考えられていました。そこから新年を迎える前に、災厄を落とすために食べられるようになったようです。年越しそばは、別名「縁切りそば」とも呼ばれます。
- 「健康祈願のため」です。そばは強い植物で、雨や風に強くうたれても日光を浴びると元気になります。この様子から健康を願ってそばを食べるようになりました。
- 「金を集める縁起物のため」です。その昔、金銀細工師が散らばった金粉を集めるために、そば粉を練ったものを使っていました。そこからそばは金を集めるという縁起物とされ、大晦日に食べられるようになったそうです。
年越しそばを食べるタイミング
みなさんは年越しそばを、どのタイミングで食べていますか?
家庭によって違いますが、大晦日の夕飯に食べたり、夕飯のあとの夜食として食べたりすることが多いようですね。夕飯以降に年越しそばを食べることが多いのも、1年をねぎらおうという意味があるのかもしれません。
もちろん年越しそばを食べるタイミングに決まりはありませんから、午前中やお昼などの明るいうちに食べても良いでしょう。
年越しそばなのに、食べるのがお正月?
実は年越しそばは地域によって食べる時間が異なります。12月31日以外にそばを食べる風習がある地域があります。
福島県の会津地方の一部の地域では、年が明けてから元日や2日にそばを食べるそうです。お正月にはごちそうを食べる風習が各地域であるように、会津でそばは特別なものとされていてお正月の縁起のよい料理として食べられています。
また新潟県の一部地域では元日のほかに、小正月の前日である1月14日にそばを食べる「十四日そば」という風習があります。
この十四日そばの風習は、節分になぞらえたともいわれています。江戸時代には暦が冬から春に変わる2月3日の節分を1年の節目の日と考えていました。その節目の節分にそばを食べて年越しそばと呼んでいたともいわれています。
蕎麦にもいろんな種類がありますが、今回は、普段と違う変わり種の蕎麦を2種類紹介します。
どちらのメニューも具沢山で、栄養素のバランスも優れています。
今年の大みそかはこれまでとは違う「蕎麦」で年越しをしてみてはいかがでしょうか?
ちゃんぽん(卓袱そば)
「ちゃんぽん」と言えば長崎が有名です。
長崎は鎖国時代に唯一外交を許された港があり、その港から中国やオランダの文化が入ってきました。
卓袱料理もその一つです。その卓袱料理を気軽に楽しめるようにしたのが卓袱そば(ちゃんぽん)という説があります。卓袱(しっぽく)とは、中国風の朱塗りのテーブルやそれを覆う布、その上に並べた料理のことです。
今回は、具沢山の卓袱そば(ちゃんぽん)を紹介します。
長崎の郷土料理にしっぽく料理がありますが、「しっぽく」というのは、それと同じように、いろいろな種類があるという意味で、江戸時代の五目そばです。
長崎名物 ちゃんぽん麵
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
にんじん | 60g | |
きくらげ(あれば生) | 40~50g | |
茹でたけのこ | 50g | |
白菜 | 250g | |
もやし | 100g | |
うずら卵(茹で) | 8コ | |
豚肩ロース薄切り肉(こま切れ可) | 100g | |
むきエビ | 100~120g | |
紅かまぼこ | 90~100g | |
油 | 大さじ2 | |
ちゃんぽん麺(生麵・又は中華麺・日本そば) | 100g×4玉 | |
A | 豚骨スープ※(又は鶏ガラスープ) | 1200ml(6カップ) |
塩 | 小さじ2・1/2 | |
白こしょう | 少々 | |
錦糸卵(あれば) | 少々 | |
※豚骨スープの取り方 | ||
A | 豚骨 | 700g |
鶏手羽元 | 300g(6本) | |
B | にんじん | 1/4~1/3本 |
玉ねぎ(小) | 1コ | |
しょうが | 2かけ | |
ねぎ | 1/2本 |
作り方
- にんじんは縦半分に切り、斜め薄切りにします。
- きくらげは手でちぎるか、せん切りにします。
- たけのこは薄切り、白菜はやや太めのせん切り、もやしはきれいに洗います。
- うずら卵は茹でて殻をむきます。
- 豚肉はざく切り、むきエビは酒(分量外)をふってもみ洗いして、サッと茹でます。
- かまぼこはせん切りにします。
- 大きなフライパンに油を入れ、かたいものから順に炒めます。
- 麺をタイミングよく茹でます。
- 7.に(A)を入れて調味します。
- 丼に茹でた麺を入れ、9.を注いで出来上がりです。あれば錦糸卵をのせます。
※豚骨スープの取り方
- (A)を丁寧に洗って沸騰した湯で10分程茹でてアクを取ります。
- 1.を再度洗って圧力鍋に入れ、たっぷりの水と(B)を入れて沸騰したらアクを取り、30分間煮ます。
- 2.をザルで漉して一晩置くと、上に脂が浮くのできれいに取ります。
- 3.を煮立ててスープとします。
つけ麺
つけ麺(つけめん)とは、麺をつゆにつけて食べるスタイルの麺料理です。日本では、古くから「ざるそば」がつけ麺スタイルで食べられており、つけ麺の元祖といっても過言ではないかもしれません。
今回は、焼きねぎと舞茸のつけ麺を紹介します。
白ねぎ、舞茸、ごぼう、豚肉と具沢山のつけ汁で、栄養バランスを考えました。
焼きねぎと舞茸のつけ麵~日本そばで~
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
かつお出汁 | ||
水 | 900ml | |
花かつお | 20g | |
具 | ||
白ねぎ | 1~1/2本 | |
舞茸 | 100g | |
ごぼう | 1/2本 | |
豚薄切り肉(しゃぶしゃぶ用) | 150g | |
油 | 大さじ2 | |
  | ||
日本そば (又はひやむぎ、中華麺など) |
乾麺で400g | |
  | ||
A | かつお出汁 | 600ml |
みりん | 80~90ml | |
しょうゆ | 80~90ml | |
薬味と温泉卵 | ||
①粉山椒 | 適宜 | |
②一味唐辛子 | 適宜 | |
③白ごま | 適宜 | |
④温泉卵(あれば) | 4コ |
作り方
- 分量の水を煮立て、花かつおを入れて2分程煮出します。味が良いことを確認して火を止め、漉して出汁を取ります。
- ねぎは3~4cm長さにぶつ切りにします。
- 舞茸は粗くほぐします。
- ごぼうは斜め薄切りにし、5分程下茹でします。
- 豚肉はざく切りにします。
- そばはたっぷりの湯でタイミング良く茹でて水洗いし、ぬめりを取ります。
- 1.で取ったかつお出汁の分量を取り、混ぜ合わせておきます(A)。
- フライパンに油大さじ1を入れて、2.のねぎを水気をふいて入れ、焼きつけて一旦取り出します。
- 8.のフライパンに油を足して、ごぼうと豚肉を炒め、(A)と3.の舞茸を加えて煮立てます。8.のねぎを入れてサッと煮ます。
- 9.にそばを少量つけて味を確かめます(試食する)。
- 器に9.を盛ります(麵を入れて食べるので、小さすぎる器はふさわしくない)。
- 別皿に食べやすく小分けしたそばを盛り、11.の具入りのつゆとお好みで薬味や温泉卵を添えます。