文化講座
第8回:「行事食(1)」について学びます
前シリーズでは「私は麺食い人!」と題し、日本独自の発展を遂げたラーメンを始め、アジア各国の食文化ともつながりの深い麺料理など、バラエティに富んだ麺料理をご紹介しました。
今シリーズでは、「日本食って素晴らしい!」というテーマで、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介いたします。
「和食」がユネスコ無形文化遺産になって来年で10年目を迎えます。普段、私たちが食べている「日本食」の素晴らしさを一緒に再確認していきましょう。
第8回目のテーマは、「行事食(1)」
日本には人生の節目、四季折々の行事があり、その行事にはそれぞれ地域色豊かな食事がつきものです。
今回、次回の2回は「行事食」を取り上げます。
まずは、人生最初の食事を食べる真似となる「お食い初め」、そして、女の子の節句となる「ひな祭り」、男の子の節句となる「端午の節句」の食事について紹介します。
お食い初め(おくいぞめ)
「一生、食べ物に困らないようにという願いを込めて」
平安時代から伝わる正式な儀式としての「お食い初め」は「箸初め(はしはじめ)」、「箸揃(はしそろえ)」とも呼ばれ、男の子は生後120日目、女の子は生後110日目に行うと伝えられています。
新生児は生後100日頃に乳歯が生え始めます。この時期に「一生涯、食べることに困らないように」との願いを込めて食事をする真似をさせる儀式のことを言います。
日本だけではなく、中国や韓国にもその儀式が残っているようです。
伝統的なお食い初めでは、箸、茶碗、椀などを全て新しく用意し、膳も一の膳、二の膳と二つの膳を用意します。
一の膳には鯛などの尾頭(おかしら)つきの魚、赤飯、すまし汁、梅干し(漬け物)、赤ちゃんの名前を書いた小石を添えます。二の膳には紅白の餅を添えるのが本格的な「お食い初め」とされていますが、一般的には、一汁三菜の「祝い膳(いわいぜん)」が用意されます。
梅干しには「しわができるまで丈夫に長生きしてほしい」という意味が込められ、吸い物には、「吸う力が強くなるように」、小石には「固いものが噛める強い歯になるように」との歯固めの意味があります。
料理は用意しますが、赤ちゃんは食べることができないため、食べる真似だけをします。
お食い初めの折の筆者の娘
筆者の孫のお食い初めの膳
調理、撮影:伊藤華づ枝
初節句
初節句とは子供が生まれて最初に迎える節句のことを言います。
男の子ならば最初の端午(5月5日、こどもの日)に、男子の健やかな成長を祈願し各種の行事を行う風習があります。女の子ならば最初の上巳(3月3日、雛祭り・桃の節句)にひな人形を飾り、女の子の健やかな成長を祈る節句の年中行事です。
終戦前後までは旧暦で行われていましたが、現在は通常、新暦でお祝いします。
元々は5月5日の端午の節句と3月3日の桃の節句は、ともに男女の別なく行われていましたが、江戸時代の頃から豪華な雛人形を飾る雛祭りは女の子に属するものとされ、端午の節句(菖蒲の節句)は「尚武」にかけて男子の節句とされるようになりました。
ひな祭り(桃の節句・上巳の節句)
雛祭りは3月3日の節句(上巳の節句、桃の節句)に行われる年中行事です。
江戸時代までは和暦(太陰太陽暦)の3月3日(現在の4月頃)に行われていましたが、明治の改暦以後は新暦の3月3日に行なうことが一般的になっています。しかし東北や北陸など一部の地域では、旧暦3月3日か新暦4月3日に祝うことが多いようです。「桃の節句」と呼ばれるのは、旧暦の3月3日が桃の花が咲く時期であったことによります。
ひな人形を飾るようになったのは江戸時代からと言われています。それまでは「ひな祭り」ではなく「ひな遊び」と呼ばれていました。「ひな」とは紙で作った小さな人形のことで、それで遊ぶ「ひな遊び」は「源氏物語」にも登場しています。
中国では上巳の節句は、神様にお供えした食べ物を神様と共に食べて力をもらう日でした。この行事と体の悪いところを人形で撫でて、それを水に流すことで治るように祈るという日本の古い習慣とが結びついて「ひな祭り」になったのです。
ひな人形と幼いころの筆者の娘
それでは、ここでひな祭りの代表的な食べ物の紹介をします。
ひし餅
ひし餅のルーツは古代中国の上巳節で食べていた母子草のお餅で、母と子が健やかであるようにという願いが込められています。それが日本では、よもぎ餅となり江戸時代に菱を入れた白い餅が、明治時代にくちなしを入れた赤い餅が加わって3色となりました。3色にはそれぞれに「健やかな子に育ってほしい」という願いが込められています。
桃色:赤いクチナシの実には、解毒作用があり、赤は魔よけの色
白:血圧を下げるひしの実が入り、子孫繁栄、長寿、純潔を願う
緑:強い香りで厄除け効果があるよもぎ餅。健やかな成長を願う
ひし餅
おこしもん(おこしもの)
おこしもんは、愛知県で桃の節句に供えられる和菓子の一種です。「おこしもの」や「おしもん」、「おこしもち」、「おしもち」とも呼ばれています。
基本的な作り方は、熱湯でこねた米粉を鯛や扇などの木型に入れて成型し、食紅で着色してから蒸し器で蒸しあげます。
そのまま砂糖しょうゆをつけて食べたり、少し硬くなったものを焼いて食べます。起源については諸説ありますが、木型から起こすから・木型に押しつけるからという意味からきているようです。
いろんな形のおこしもん
撮影:伊藤華づ枝
いがまんじゅう
いがまんじゅうは、愛知県三河地域で桃の節句に供えられる和菓子の一種です。
粒あんか漉しあんを米粉で包み、表面に着色したもち米をつけた菓子で、愛知県以外にも京都や九州にも「いがまんじゅう」はあります。ひな祭りの行事食として食べるのは西三河地域独特の風習です。
「いがまんじゅう」の名の由来としては諸説あり、表面につけるもち米が栗の"いが"に似ているというもの、家康の"伊賀越え"からきたというもの、まんじゅうを蒸す時の"香り(飯の香:いいのか)"からきているという説などがあります。
「いがまんじゅう」は、ピンク・黄色・緑に着色された米が上に載っていますが、ピンクは桃の花、黄色は菜の花、緑色は新芽を意味するほかに、ピンク(赤)は魔除、黄色は豊作祈願、緑色は生命力を意味するという説もあり、この鮮やかさがひな菓子として定着したゆえんではないかといわれています。
三河地域のひな菓子
「いがまんじゅう」
はまぐりやあさりの貝料理
旧暦の3月3日に、海や川で遊んだり食事をする磯遊びの風習の名残ともいわれています。はまぐりなどの二枚貝は、対の貝殻しか絶対に合わないことから、何事にも相性の良い結婚相手と結ばれて仲睦まじく過ごせることを願っています。盛りつけるときに、開いた貝の両側にそれぞれ身をのせ(1つの貝に2つ分の身がのる)、将来の幸せを祈っていただきます。
はまぐり
筆者の出身の桑名市は「はまぐり」が名物です
撮影:伊藤華づ枝
ちらし寿司
海の幸を多用し、えび(長生き)、れんこん(見通しがきく)、豆(健康でまめに働ける)など縁起の良い具も祝いの席にふさわしく、みつば、玉子、にんじんなどの華やかな彩りが食卓に春を呼んでくれるため、ひな祭りの定番メニューとなりました。
ぜいたくちらし寿司
調理、撮影:伊藤華づ枝
端午の節句
端午の節句とは、男の子のすこやかな成長と健康を願ってお祝いをする日です。
端午の節句は、菖蒲をさまざまな形で用いるため「菖蒲の節句」とも呼ばれます。旧暦の5月は、春から夏への季節の変わり目で、この時期になると病気や厄災が増えることから、邪気を払うために菖蒲を使用したと考えられます。
端午の節句が男の子の節句とされるようになったのは江戸時代ごろからで、5月5日は徳川幕府にとって重要な日と定められ、大名や旗本が江戸城へ行って将軍にお祝いを奉じており、将軍に男の子が産まれると玄関前に馬印や旗を立ててお祝いしていました。
それが現代では、「こいのぼり」になったとされています。鯉は綺麗な川だけでなく沼や池でも生きていける強い生命力を持っているため、子どもにも強く逞しく生きて欲しいとの願いも込められています。また、五月人形は子どもを病気や事故から守ってくれるように、力強く成長してくれるようになどといった願いが込められています。
端午の節句の菓子の代表と言えば柏餅ですが、柏は新芽が育つまでは古い葉が落ちないことから、「子孫繁栄」につながるとされる縁起のいい植物であることから、柏が使われています。
今回は、「お食い初め」の代表料理の「赤飯」、愛知県の郷土菓子である「おこしもん」、端午の節句の料理として「こいのぼり形いなり寿司」のレシピを紹介します。
本格・蒸し赤飯
材料 | 4~6人分 | |
---|---|---|
あずき(上質) | 1/2カップ(100ml分) | |
あずきの茹で汁+水 | 500ml | |
もち米 | 3カップ(600ml分) | |
塩 | 大さじ1/2 | |
水 | 700ml | |
蒸し布 | 1枚 | |
黒ごま | 適宜 | |
塩 | 適宜 |
作り方
- あずきを洗って鍋に入れ、たっぷりの水を加えて茹でます。
- あずきが全体に浮き上がり、水に少し色が付く程度になったらザルに上げ、冷水で洗います(これをびっくり水といい、皮が柔らかくなります)。
- 2.を鍋に戻し、あずきの6~7倍量の水を入れて再び火にかけ、食べてみて芯がない程度を目安に、8分通り茹でます。
- 3.の茹で汁とあずきを別にし、あずきは皮が破れないように冷水に浸けます。茹で汁は玉じゃくしですくっては落としを繰り返し、よく練ります(空気によく触れさせ、色をよくする目的)。
- 冷ました4.の茹で汁に水を足して500mlにし、ここに洗ったもち米と4.のあずきを入れて約半日くらい浸水します。
- 5.をザルに上げ、蒸し器のサナにぬらした蒸し布を敷いて米を入れ、強火で15分間程蒸します。
- 分量の塩水を作って6.の米全体に勢いよくかけ、蒸し布の四方をつまんで軽くゆすり、混ぜ合わせるようにして均等にならします。
- 7.を再び強火で15分間蒸して仕上げます。
※写真は水でぬらした物相型で抜き、ごま塩を振り、南天を添えたものです
おこしもん(おしもち)
材料 | 押し型15コ分 | |
---|---|---|
上新粉 | 500g | |
塩 | 3つまみ | |
熱湯 | 500~550ml | |
上新粉(打ち粉) | 適宜 | |
水 | 適宜 | |
食紅(赤・黄・緑) | 適宜 | |
A | 砂糖 | 適宜 |
しょうゆ | 適宜 |
作り方
- ボウルに上新粉と塩を入れ、菜箸4本で粉を混ぜながら、一気に熱湯を入れてよく混ぜ、両手にビニール手袋をしてこねます。熱いので注意する。
- さらしの布巾に上新粉(打ち粉)を入れて包み、型に粉をはたきつけます。(生地が型にくっついてはがれにくくなることを防ぐため)
- 1.を2.の型に詰め、型からはがれやすいように指先で生地を盛り上げます。型を裏返して型の角をたたいて、生地を型からはずします。型の裏側に生地の適量をgで記しておくと、毎年分量がわかりやすくて便利です。
- ボウルに水を入れ、少しずつ食紅を溶かします。生地の裏に一度色を塗り、色具合を確かめます。黄と緑を混ぜて黄緑にすると美しい。
- 3.の表面をハケで粉をはたき落とし、筆を使って4.で色づけをします。粉をはたき落とすと色がにじみにくくなります。
- オーブンペーパーを敷いた蒸し器に5.をのせ、15分ほど蒸します。
- 6.が蒸し上がったら、網の上にオーブンペーパーを敷き、まず表面を乾かしてから裏面も乾かします。
- そのまま食べても美味しいが、少しかたくなったものを焼いて(A)を付けて食べると更に美味しいです。
<ポイント>
- 型がない場合は好きな形を作り、色づけすると楽しいですね
- お子さんの成長を願い、家族で手作りすると良いでしょう
こいのぼり形いなり寿司
材料 | 16コ分 | |
---|---|---|
米 | 2カップ(400ml分) | |
水 | 450~460ml | |
A | 酢 | 50ml |
砂糖 | 大さじ2・1/2 | |
塩 | 小さじ1 | |
油揚げ(6cm×7cm) | 16枚 | |
B | かつおだし | 400ml |
砂糖 | 大さじ3 | |
しょうゆ | 大さじ5 | |
みりん | 大さじ3 | |
うずら卵(茹で) | 適宜 | |
のり | 少々 | |
きゅうり | 適宜 | |
ラディッシュ | 適宜 |
作り方
- 米は洗って分量の水に1時間程浸水します。
- 1.を炊き上げ、10分間程蒸したら(A)の合わせ酢を混ぜ、手早く冷まして寿司飯を作ります。
- 油揚げは口を切り、中を袋状にしてから熱湯で充分に油抜きをします。
- 3.をザルに上げて軽く水気を切って鍋に戻し、(B)を入れて油揚げの色が均一になり、煮汁が少なくなるまで煮含めます。
- 4.の油揚げを軽く絞り、2.の寿司飯を少し押すようにして詰めます。
~こいのぼりのいなり寿司~
- 油揚げには少なめの量の寿司飯を詰め、油揚げの端を中へまるめるようにします。
- 輪切りにしたうずら卵とのりで目を作り、半月に切ったきゅうりやラディッシュでうろこ形にします。