文化講座
第12回:「精進料理と盆」について学びます。
前シリーズでは「私は麺食い人!」と題し、日本独自の発展を遂げたラーメンを始め、アジア各国の食文化ともつながりの深い麺料理など、バラエティに富んだ麺料理をご紹介しました。
今シリーズでは、「日本食って素晴らしい!」というテーマで、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。
今回は「日本食って素晴らしい!」の最終回です。お盆の時期ですから、日本食の原点ともいえる精進料理について紹介します。
第12回目のテーマは、「精進料理と盆」です。
盆の正式名称は、「盂蘭盆会(うらぼんえ)」と言い、先祖の精霊を迎え、追善の供養をする期間です。
7月(新盆)または8月(旧盆)の13日~16日までの4日間と言われています。(地域や宗派等により異なります。新盆を行う地域は東京と一部の地域のみです。)
今回は、盆にはかかせない「精進料理」について紹介します。
盆のはじまり
自分の母親が地獄に落ちて、逆さ吊りにされて苦しんでいることを知ったお釈迦様の弟子が、お釈迦様の教えに従い供養したことがはじまりとされています。
現在と同じように祖先供養の盆として催されたのは606年、推古天皇が僧や尼を招いて食事や様々な仏事を行う「斎会(さいえ)」という行事を行ったのが起源と言われています。平安時代には武家・貴族・僧侶など宮廷の上層階級で主に催され、その後江戸時代に入って庶民の間にも仏壇や盆行事が広まりました。
先祖のお迎え(地域や宗派によっても異なります)
- 13日の夕方、玄関や軒下に提灯をつるし、玄関先や門先でおがら(皮をはいだ麻の茎を乾燥させたもの)を燃やし、先祖が迷わないで家に帰ってくることができるように迎え火をたきます。
- 精霊馬を用意します
キュウリとナスに割り箸や爪楊枝を刺して作ったもので、キュウリは馬、ナスは牛に見立てています。諸説ありますが、一般的には先祖が足の速い馬に乗って早く家に戻ってくることができるように、また帰るときは、少しでも長く家に居て欲しいと牛に乗ってゆっくり帰るようにとの願いが込められています。
精霊馬と牛
盆の供え物
一般的に供えものは、「香」「花」「灯明」「浄水」「飲食」の5つが基本とされ、これら五つをまとめて「五供(ごく)」と呼びます。
香...線香
花...花、仏花
灯明...ロウソクなどの明かり
浄水...水や茶
飲食(おんじき)...炊きたてのご飯や菓子、季節の果物
飲食(おんじき)とは
盆の期間中、先祖にお供えする食べ物をさします。
先祖が戻って来るとされる13日の夕方には「お迎え団子」を供えて長旅の疲れをいやしてもらい、その後は朝昼晩の3食、朝、昼のおやつ、15日の夜には送り団子で先祖を見送るという、一連の食事のことを指します。朝昼晩の食事は、精進料理です。
精進料理
精進料理とは、肉や魚などを使用しない仏教と密接に結びついた料理のことを指します。
仏教における戒律に基づいて、「殺生(生き物を殺すこと)」を避け、「煩悩(人を苦しめ、煩わせる心)」を刺激しないために生まれたのが精進料理です。
「精進」とは仏教用語で、「美食や肉食を避け、粗食や菜食によって精神修養をする」という意味を持っており、精進料理は修行の一つとも言えます。
精進料理の食材は、「精進物」のみを使用するのが特徴です。精進物とは、肉・魚介類を用いない植物性食材のことで、野菜類・穀類・海藻類・豆類・木の実・果実などのことを指します。
もともとは修行僧のための食事であった精進料理ですが、現在では四季折々の旬の食材を楽しめる健康食としても注目が高まっています。
精進料理の例
精進料理は理想的?
寺の日常食で不足しがちなたんぱく質を十分に摂取できるよう、豆腐、生麩、湯葉などをふんだんに盛り込みます。その結果、炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラルなどがバランスよく組み入れられ、高たんぱく、低カロリーの理想的な献立となります。
精進料理の特徴
精進料理では季節感を大切にし、特に「五味」、「五法」、「五色」の組合せ、調理法が重要とされます。
五味は、「しょう油、塩、砂糖、酢、辛」の調味料
五法は、「生、煮る、焼く、揚げる、蒸す」の調理法
五色は、「赤、青(緑)、黄、黒、白」の色彩を現わしています。
精進料理で使ってはいけない食材
1つ目は、「動物性の食材」=肉、魚介、卵などのほか、バターやチーズ、牛乳などの乳製品も動物から搾取しているものなので、使わないのが基本です。
2つ目は、「五葷(ごくん)」と呼ばれる匂いが強い野菜です。ニンニク・ニラ・ネギ・ラッキョウ・ノビルなど、ネギの仲間のことを指し、欲情や怒りの心をおこすとして禁じられています。
精進料理の代表的な料理
野菜の煮物(昆布や干し椎茸などの精進出汁で作る)
ごま豆腐
野菜の天ぷら(精進揚げ)
豆腐料理(大豆製品は重要なタンパク源)
けんちん汁
けんちん汁
お供えの精進料理例(浄土宗の場合)
膳で3食の食事を供える
朝10時と昼3時にはおやつを供える
故人(先祖)の好きだったものを中心に、旬の食材を使い、献立を立てます
この精進料理の画像は、フードコーディネーター・石川明湖さんの指導によるものです
先祖の送り
16日の夜、再び玄関先や門先でおがら(皮をはいだ麻の茎を乾燥させたもの)を燃やし、先祖を送ります。煙と共に天へのぼるよう願いを込めます。
京都の夏の風物詩でもある「五山送り火」も規模の大きい送り火のひとつです。
「五山送り火」の様子
精進料理を提供している寺
ここでは、筆者が参拝した寺の精進料理を紹介します。
<愛知県碧南市「称名寺」>
ごま豆腐、白和え、厚揚げと冬瓜の椀物、蓮根の煮物など
基本の精進出汁
精進料理では「だし」が重要です。
「精進出汁」のとり方について紹介します。
だしとは?
味の出る材料を煮出したり、水に浸してうまみ成分を引き出した汁のことを言います。
精進料理では、動物性のだしを使いません。
基本の精進出汁
~高野山の精進料理を参考に~
《材料》
・水 30カップ(6リットル)
・酒 大さじ3
・日高昆布 1枚
・どんこしいたけ 10個
・かんぴょう 30g
・煎り大豆 30g
・炒り米 50g
炒り米・煎り大豆を準備します
140℃のオーブンで20~25分間焼きます
《作り方》
1.炒り米を除いた材料を水と酒に浸し、しいたけがある程度柔らかくなったら火にかけます
2.沸騰しない程度の火加減に保ち、昆布が柔らかくなるまで煮出し、昆布とかんぴょうを引き上げます
3.しいたけと大豆を取りあげたら煎り米を入れ、すぐに漉して完成です
※高野山の精進料理本の出汁を参考にして、筆者が実際に作って写真撮りをしたものです
■もろこし豆腐椀
旬の食材である「とうもろこし」を使ったもろこし豆腐を紹介します
もろこし豆腐椀 15cm×12cm×4cmの流し缶1缶分
材料 | 4~6人分 | |
---|---|---|
とうもろこし | 1本 | |
出汁 | 300ml | |
吉野くず | 70g | |
出汁 | 200ml | |
A | うすくちしょうゆ | 大さじ1/2 |
酒 | 大さじ2 | |
塩 | 小さじ1/2 | |
B | 出汁 | 700ml |
うすくちしょうゆ | 少々 | |
酒 | 少々 | |
みりん | 少々 | |
巻きエビ | 4尾 | |
ダツ | 4人分 | |
たたきオクラ | 適量 | |
青柚子 | 適量 | |
たたき梅 | 適量 |
作り方
- とうもろこしは適当な長さに切って、芯ごと水から茹でます(沸騰後2分)。
- 茹で上がったら、実をそいで出汁と共にミキサーにかけます。
- ボウルに吉野くずを入れ、出汁を少しずつ加えながら手で塊をほぐして溶かします。
- 3.をザルなどで漉し、鍋に入れて(A)と2.を加え、よく混ぜながら火にかけます。
- 4.が沸騰したら、中強火で5~10分間程度練ります。(写真)
- 5.をぬらした流し缶に入れ、水に浮かべて冷やし固めます(途中、水がぬるくなったら冷水に入れ替えます)。
- 添え物を下準備します。
- (B)を煮立ててつゆを作ります。
- 椀にもろこし豆腐を盛り、添え物を入れ、8.のつゆをはります。
※写真にはエビを入れておりますが、精進料理の場合は入れません
■精進煮物
精進出汁を使った煮物を紹介します
精進煮物
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
干ししいたけ(中) | 8枚 | |
かんぴょう | 適量 | |
高野豆腐(1コ7cm角) | 5コ(1箱) | |
にんじん(中) | 1本 | |
十六ささげ | 適宜 | |
精進出汁 | 800~1000ml | |
A | うすくちしょうゆ | 大さじ5 |
酒 | 大さじ2 | |
みりん | 大さじ2 | |
砂糖 | 大さじ1 | |
塩 | 小さじ1/3 |
作り方
- 干ししいたけとかんぴょうは精進出汁で使ったものを使用します。
- 高野豆腐は10秒間程水につけ、戻します。すぐに両手で中の水分をおさえて、1つを4等分に切ります。
- にんじんは乱切りにして、沸騰した熱湯で5分間程茹でて、水に取ります。
- ささげは茹でて適当な長さに切ります。
- 精進出汁と(A)を鍋に合わせます。
- 5.が沸騰したら、高野豆腐としいたけ、適当な長さに切ったかんぴょうを入れて煮ます。にんじんを加え、中弱火で10分間程煮含めます。
- 6.を器に盛り、ささげを添えます。
※写真にはこんにゃく、ふきを使用し、木の芽を添えました
1年にわたって紹介してきた「日本食って素晴らしい!」シリーズ、お楽しみいただけましたでしょうか?
海外からの観光客の多くが日本に訪問する際の楽しみとして、「日本食」をあげています。
日本には、四季があり、海・山・里の幸など多くの素晴らしい食材があり、それを活かした日本食を日本人のみならず海外の方々にももっと知っていただきたいと願っております。
次回からは、新たなシリーズをご紹介したいと思います。
「世界の長寿食」を予定しております。
世界各国には、地元の人に愛されている健康的でおいしい料理がたくさんあります。各国の人々は何を食べて健康を維持してきたのかをお伝えし、日本でも手に入る食材でレシピ紹介すると共に、含まれる栄養素の効能についても執筆致します。
引き続き、どうぞよろしくお願い致します。