文化講座
第7回:「カニ」について学びます
前シリーズでは「私は麺食い人!」と題し、日本独自の発展を遂げたラーメンを始め、アジア各国の食文化ともつながりの深い麺料理など、バラエティに富んだ麺料理をご紹介しております。
今シリーズでは、「日本食って素晴らしい!」というテーマで、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介いたします。
「和食」がユネスコ無形文化遺産になって今年で10年を迎えます。普段、私たちが食べている「日本食」の素晴らしさを一緒に再確認していきましょう。
第7回目のテーマは、「カニ」
「カニは宴会に出すな」と、よく言われます。それは「あまりに美味しくて、参加者が話をするのを忘れる」からだとか...。コロナ禍中の宴会には、もってこいの食材かもしれません。
今回は、そんな美味しくて魅力的なカニについて紹介します。
カニとは
十脚目短尾下目(じっきゃくもくたんびかもく)に属する甲殻類の総称です。
箱形にまとまった頭胸部に5対の歩脚があり、このうち最も前端の1対が鉗脚(はさみ)です。
三大蟹といえば、タラバガニ、毛ガニ、ズワイガニを指します。
カニは縁起の良い食べ物
カニは古来より縁起のよい生き物と言われてきました。その理由は個性的な見た目と習性に由来するものです。
カニが持つ最大の特徴と言えば「ハサミ」ですが、このハサミを上下に動かす様子から幸運を招くとされ、泡をふく様子からはお金が湧いてくると伝えられています。
カニの卵もまた、子育てなど家庭を強く結びつけるという意味や、紅色には赤ちゃんの出世や勝利の意味をもたせており、カニの甲羅が真っ赤に染まる様子から、縁起物としてハレの日の定番食材となりました。
カニの種類と特徴
カニの仲間は世界中に6,000種類ほど確認されています。そのうち1,000種類が日本近海に生息していますが、食用として捕獲・流通しているものはわずか10種類に過ぎません。
ズワイガニ(地域によって越前ガニや松葉ガニと呼び名が変わる)、毛ガニ、ワタリガニ(ガザミ)、沢ガニ、タラバガニなどがよく知られています。
ここでは、代表的なカニについて紹介します。
タラバガニ
甲長22cm、甲幅25cmで脚をのばすと1m以上になります。
カニの名がついていますが、分類学的にはヤドカリの仲間です。
95%がロシア産ですが、日本では特に北海道の鱈魚場で多く採れるのでこの名で呼ばれるようになりました。
旬は2回あり、11月~3月と4月~6月です。
札幌市中央卸売市場場外にある
「(株)マルサン三上商店」にてタラバガニを買う筆者
札幌市中央卸売市場場外
「北のグルメ亭」にてタラバガニを食べる筆者
毛ガニ
甲長10cm、甲幅9cm。甲羅は長円形で、濃赤褐色で体全体に羽毛状の突起が密生しています。
水深15~300mの砂泥底に住んでおり、北海道以北に分布しています。
旬は11月~3月です。
毛ガニ
撮影:伊藤華づ枝
ミシュランガイド北海道2017で3つ星に輝いた日本料理店「花小路 さわ田」にて
毛ガニのジュレがけ
花咲ガニ
甲長、甲幅ともに15cmでヤドカリに近い大型のカニ。タラバガニより小さく、脚も短くて太いのが特徴。
北海道、千島、カムチャッカなど北洋に分布しています。花咲半島(根室半島)近海に多いのでこの名がつきました。味はとても良いが、多量には漁獲されません。
旬は8月~9月です。
花咲ガニ
撮影:伊藤華づ枝
ズワイガニ
雄は甲長、甲幅ともに13cmで、両脚を伸ばすと60cm以上になる大型種です。
雌は雄の半分くらいの大きさで、卵巣を賞味します。甲羅は茶褐色。丸みのある三角形で、多数の瘤状(りゅうじょう)突起があります。水揚げされる地域によって名称が異なります。
旬は日本海側:12月~3月、北海道:4月~5月です。
水揚げされる地域によって名称が異なるズワイガニ
京都にある「二条城 ふる田」でズワイガニの最高峰である間人(たいざ)ガニを食べました
ズワイガニの最高峰「間人(たいざ)ガニ」
日本海で揚がる松葉ガニの中でも、丹後半島の「間人(たいざ)港」に水揚げされるカニだけに与えられる名称です
撮影:伊藤華づ枝
「間人ガニのタグ」
船上で「間人ガニ」の文字と船名を刻印した緑色のタグが付けられます
撮影:伊藤華づ枝
「捌いた後の間人ガニ」
京都にある「二条城 ふる田」にて
撮影:伊藤華づ枝
ワタリガニ
甲長7cm、甲幅15cm。甲羅は暗褐色や黄褐色でひし形をしています。最後の脚が平たいのが特徴です。
2020年の国の統計によると、愛知県のワタリガニ水揚げ量は640トンで全国1位です。中でも知多半島は中心的な産地です。
愛知県のワタリガニは、各都道府県の漁連・漁協が「本当においしい魚」として選ぶ「プライドフィッシュ」のひとつにも選ばれています。
雄の旬は9~11月、雌の旬は11月~春ごろまでです。
「茹でワタリガニ」
愛知県知多郡内海町にある「小枡園(こますえん)」にて
撮影:伊藤華づ枝
タカアシガニ
甲長、甲幅ともに15~30cmの大型のカニで、脚をのばすと4m以上にもなり、脚の形状がほぼ円筒の棒状になっています。節足生物の中では世界最大で、カニの中では古い種です。
一般のカニの寿命が3年程度なのに対し、タカアシガニの寿命は100年以上と非常に長生きです。
旬は12月~2月です。
圧巻の大きさの「茹でタカアシガニ」
静岡県沼津市戸田(へだ)にある
「タカアシガニ職人の店 網元 光徳丸 かにや」にて
撮影:伊藤華づ枝
顔の大きさよりも大きいタカアシガニの甲羅
カニは茹でるとどうして赤くなるの?
カニを茹でたときに赤くなる理由は、カニの殻に含まれる「アスタキサンチン」という成分が原因です。
アスタキサンチンは最初はタンパク質と結合しているため、黒っぽい色をしていますが、タンパク質と離れるとアスタキサンチン本来の色である鮮やかな赤色に発色します。
また、カニに含まれている成分のうち、熱に弱く、加熱することによって分解されてしまう成分もあるため、茹でた後のカニは、余計にアスタキサンチンの色が出やすくきれいに発色します。
カニの栄養素について
- 精力を増強するアミノ酸であるアルギニンや、動脈硬化予防に効果のあるタウリンが豊富です。
- 疲労回復に有効なビタミンB2も多く含まれています。
- 殻には動物性食物繊維のキチン・キトサンが多く含まれ、血中コレステロール値の低下や免疫力増強作用の他、腸内環境を整える働きもあります。
- カニに含まれるアスタキサンチンには抗酸化作用があり、がんの予防や老化防止に期待がもてます。
それでは、カニを使った料理を紹介します。
今回は「和」「中」「洋」の3種類から1種類ずつ紹介します。
1品目は、愛知県が漁獲高日本一の「ワタリガニ」を使った「カニの炊きおこわ」を紹介します
カニの炊きおこわ
材料 | 作りやすい分量 | |
---|---|---|
もち米 | 2・1/2カップ(500ml) | |
米 | 1/2カップ(100ml) | |
かつおだし | 600ml | |
ワタリガニ(大・活) | 1杯(350~400g) | |
A | 塩 | 少々 |
酒 | 大さじ1 | |
しょうが汁 | 小さじ1 | |
B | 塩 | 小さじ1強 |
しょうゆ | 小さじ2~大さじ1 | |
しょうが(せん切り) | 25g |
作り方
- もち米と米は洗って炊飯器に入れ、分量の冷やしたかつおだしに30分間程浸水します。
- カニは腹側の殻と足先を取り外し、ガニ(両脇のスポンジ状のもの)の部分も取り去って、大きめのぶつ切りにして、(A)の塩と酒としょうが汁を振って10分間程おきます。
- 1.を炊く直前に、(B)の塩としょうゆを入れて軽くかき混ぜます。
- 3.の上にカニとせん切りのしょうがをのせ、普通に炊きます。
- 10分間程蒸らしてから、よくかき混ぜて盛り付けます。
※盛り付けの際に、カニの殻を添えると豪華さが演出できます
2品目は、ズワイガニの缶詰を使用した「カニシュウマイ」です。お子さんからお年寄りまで人気の一品です
カニシューマイ
材料 | 4人分 | |
---|---|---|
玉ねぎ | 1コ(280g) | |
白はんぺん | 1/2枚(50g) | |
しょうが(薄切り) | 1かけ | |
A | ゴマ油 | 小さじ1 |
塩 | 小さじ2/3 | |
こしょう | 少々 | |
しょうゆ | 小さじ1 | |
片栗粉 | 大さじ4 | |
パン粉 | 大さじ4 | |
カニ缶 | 1缶(90g) | |
豚ひき肉 | 150g | |
マヨネーズ | 大さじ2 | |
シューマイの皮 | 30枚 | |
かにの身(ゆで) | 40g | |
辛子じょうゆ | 適宜 |
作り方
- 玉ねぎとはんぺんは適当な大きさに切ります。しょうがは薄切りにします。
- 1.と(A)をみじん切りにするか、フードプロセッサーにかけます。
- 2.をボウルに入れ、軽く汁けを切って手でほぐしたカニ缶と、豚ひき肉とマヨネーズを加えて混ぜます。
- 3.を適当な大きさに分け、シューマイの皮で包み、上にほぐしたかにの身をのせます。
- 蒸し器のサナに、竹串などで穴をあけたクッキングペーパーを敷きます。その上に4.をのせ、10分間蒸します。(蒸し器が2段の場合は5分で上下を入れ換えます)
- 好みで辛子じょうゆにつけて召し上がります。
※カニ缶は「ズワイガニ」を使用しました
3品目は「ハレの日」にふさわしい見た目も豪華で鮮やかな「テリーヌ」の紹介です
カニと野菜のテリーヌ
材料 | 18cm×8.5cm×7cmパウンド型1本分 | |
---|---|---|
A | 鶏手羽先 | 3本 |
くず野菜(玉ねぎやにんじんなど) | 適宜 | |
水 | 6カップ | |
キャベツ(大葉) | 5~6枚 | |
ヤングコーン | 15本 | |
グリーンアスパラガス | 6本 | |
ブロッコリー | 1株 | |
ミニトマト | 10コ | |
B | ブイヨン | 800ml |
塩 | 小さじ1/2強 | |
白こしょう | 少々 | |
板ゼラチン | 30g | |
カニの身 | 10本 | |
スモークサーモン | 100g | |
ケッパー | 10g | |
ディル | 2枝 | |
生クリーム | 50ml | |
マヨネーズ | 50g | |
ピンクペッパー | 適宜 |
作り方
- 鍋に(A)を入れて火にかけ、沸騰したらアクを取って20分以上中火で煮て、ブイヨンを取ります。
- キャベツはきれいに1枚ずつはがし、軸を切り取ります。
- ヤングコーン、アスパラは熱湯で茹でます。ブロッコリーは小房に分けて塩茹でします。
- ミニトマトはヘタの部分を切り落とします。
- 鍋に(B)を煮立て、キャベツを茹でます。(B)の一部を取って冷やし、3.を浸します。キャベツを茹でた後に、氷水で戻して水気をしぼった板ゼラチンを入れて溶かします。
- パウンド型にラップを敷き、茹でたキャベツを周りに貼ります。ヤングコーン→ミニトマト→カニの身→アスパラ→スモークサーモン→ちぎったケッパーとディル→ブロッコリーを順に並べ、途中で5.の液を流します。キャベツとラップでフタをします。
- 型を氷水で冷やし、もうひとつの型に水を入れて重石をします。
- 固まったら型から取り出し、6等分にして器に盛ります。
- 生クリームを8分通り泡立て、マヨネーズを加えて混ぜてソースを作ります。
- 8.の器にソースを絞り出し、ピンクペッパーを添えます。
※写真には生ハムをバラの花のように巻いたものと、青味を添えました