文化講座
第11回:「うなぎ」について学びます。
前シリーズでは「私は麺食い人!」と題し、日本独自の発展を遂げたラーメンを始め、アジア各国の食文化ともつながりの深い麺料理など、バラエティに富んだ麺料理をご紹介しました。
今シリーズでは、「日本食って素晴らしい!」というテーマで、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介いたします。
「和食」がユネスコ無形文化遺産になって来年で10年目を迎えます。普段、私たちが食べている「日本食」の素晴らしさを一緒に再確認していきましょう。
第11回目のテーマは、「うなぎ」です。
今夏の土用の丑の日は7月30日(日)です。
土用の丑の日が近づくと、うなぎ屋はもちろんのこと、スーパーやコンビニエンスストアでもうなぎの注文が始まり、丑の日には店頭で蒲焼され、良い香りが漂います。普段は高価でなかなか手が出にくいうなぎですが、この日ばかりはと多くの方がうなぎを食すのではないかと思います。
今回は、この時期には必ず食べたい魅力的な「うなぎ」について紹介します。
鰻(うなぎ)の由来
うなぎは昔「むなぎ」と呼ばれていました。万葉集などの書物に「武奈伎(むなぎ)」と書かれています。
「むなぎ」という呼び名には諸説があります。
諸説(1)→うなぎの胸の部分は黄色っぽいので「胸黄(むなぎ)」がうなぎへと変化した。
諸説(2)→「む」:身、「なぎ」:長いという意味
諸説(3)→家屋の丸くて細長い「棟木(むねぎ)」から
諸説(4)→姿形が似ている「ナギ」=蛇類の総称から
また、漢字の「鰻」には次のような由来があります。
「曼」には「つや・長い」という意味が含まれ、つやのある長い魚という事で、「鰻」という漢字が出来ました。
うなぎの歴史
約5000年前(縄文時代)の貝塚から、うなぎの骨が出土されています。うなぎの血液中には毒素があり、舌を刺すような味と生臭さで生の状態では食べられないことから、火を用いて食べていたと思われます。
うなぎの種類
太平洋、大西洋、インド洋の温帯域から熱帯域にかけて広く分布し、世界には19種類生息しています。そのうち食用になるのは「ニホンウナギ」「ヨーロッパウナギ」「アメリカウナギ」「ビカーラ種(東南アジア生息)」の4種類。
魚類の中のウナギ目ウナギ科に属し、日本には主に「ニホンウナギ」と「オオウナギ」の2種類が生息しています。
日本うなぎ
うなぎの特徴
ここでは、日本で一般的に食べられている「ニホンウナギ」について紹介します。
目は小さく、身体は細長い円筒形で腹びれはなく、背びれは尾までつながっています。
成魚のときは川や湖の淡水で生息しますが、産卵や孵化の時期は海に生息します。サケやアユのように川で産卵し、海で育つ魚は比較的多く知られていますが、海で産卵し、川で育つ魚は、うなぎを含め種が非常に限られています。
うなぎの栄養素
良質たんぱく質・ビタミンA・D・E・B1・B2・カルシウムなどをバランスよく豊富に含みます。
夏場に体力が落ちやすいこの季節に特にうってつけの理由は、免疫力を高めるビタミンAを多く含むことがあげられます。また、うなぎに含まれるDHAは脳細胞を発達・活性化し、記憶力や学習能力を向上させる効果があります。
うなぎのぬめりの働き
たんぱく質の一種の「ムチン」や「ムコプロテイン」がうなぎの体表から分泌されているため、うなぎはぬるぬるしています。このぬめりが体の水分を保つ働きもあり、うなぎの皮膚呼吸を助けたり、この分泌物が皮膚表面の浸透圧を調整する働きがあり、淡水や海水という水質の変化に耐えられるしくみになっています。
うなぎの血には毒がある
「イクチオヘモトキシン」という毒が含まれています。この毒は60度以上で加熱すると毒素がなくなるため、古代からうなぎは加熱して食されています。同じウナギ目に属するアナゴや、ウツボ、ハモの血にも毒が含まれています。
うなぎの性別はいつ決まる?
稚魚の段階では、オス・メスの違いはなく、体長が20cmを超えた頃に決まります。
天然うなぎと養殖うなぎ
天然うなぎ
2019年の漁獲量は66トンで2016年の68トンと比べ、減少しています。
さっぱりした味で脂が少なく、身が少し硬く、泥臭さが残っており、あまり美味しいものではなく、天然ものをそのまま店頭で出すことはほとんどありません。
天然うなぎの漁獲量は「茨城県」「島根県」が共に第一位となっています。
天然うなぎの漁獲量
養殖うなぎ
日本で消費されるうなぎの99%以上は養殖によるものです。
うなぎ養殖の生産者は、シラスウナギの確保を100%天然に依存しており、川や海岸線で獲ったシラスウナギを養殖しています。
うなぎを人工的に飼育して産卵させ、稚魚を育てる完全養殖の技術は難しく、まだ完全には確立されていません。
養殖うなぎは、めまぐるしく変化する自然環境とは違い、安定下で良質な餌のもと飼育されるため身がふっくらで脂乗りが非常によく、皮も薄く、管理水質下なので臭みなくとても美味です。
全国の養殖ウナギ生産量は2019年(令和元年)で17,073トンです。以下が生産量トップ4の県です。この上位4県で全国の90%以上の養殖ウナギを出荷しています。
1位 鹿児島県 7,086トン
2位 愛知県 4,362トン
3位 宮崎県 3,070トン
4位 静岡県 1,534トン
うなぎの養殖場
東西で違ううなぎの開き方
関東では背開き
関東ではうなぎを背側から開きます。背側から開く理由は諸説あります。
諸説(1)→昔、江戸の町には侍が多く、「切腹」を連想させる腹開きは縁起が悪いとされ、背開きが主流になった。
諸説(2)→1700年代の江戸時代には熟練した料理人が少なく、難易度の高い腹開きができる職人が限られていたのではないか。
うなぎは背側から開くとおとなしく捌きやすいので、料理効率が良く時間も短縮され、背開きが好まれた。
諸説(3)→うなぎの腹には脂が乗っているので、その旨みを逃さないため。
背開き・腹開きの違い
関西では腹開き
関西ではうなぎは腹開きが主流です。
江戸の町が武家社会だったのに対し、関西は商人文化だったので、「腹を割って話す」ということを意味する腹開きが好まれました。
東西で違ううなぎの焼き方
関東のうなぎは蒸す
うなぎは背開きにして、内臓と骨を取って頭を落とします。その後白焼きにして、ふっくら柔らかく蒸す。蒸し上がったらタレをつけて焼き上げます。甘くないあっさりとしたタレが特徴。
関西のうなぎは蒸さない
うなぎを腹開きにし、内臓と骨を取るが頭は落としません。蒸さずにそのまま焼きます。
「蒸し」の工程がなく脂が多いので、その脂に負けない強く垂れないとろっとしたタレを使用するのが特徴。
土用の丑の日
江戸の学者であった平賀源内が、ひいきにしていたうなぎ屋から夏枯れ対策に妙案はないかと相談を持ち掛けられ、『本日、土用丑 うなぎ召しませ』と看板を掲げたところ大評判となりました。これを見た他のうなぎ屋も真似るようになり、「土用の丑」の日にうなぎを食べる習慣ができました。
なぜ、うなぎには山椒?
うなぎには山椒が添えられていますが、なぜでしょうか?これにも諸説あります。
諸説(1)→昔は養殖のうなぎがなく、天然うなぎは泥臭さが強かったので、山椒でその臭みを和らげた
諸説(2)→うなぎは脂っぽく消化に悪いところもあるので、古くから生薬としても用いられ胃腸を温めて消化促進するとされる山椒の効果を期待した
諸説(3)→昔は風味を楽しむというよりは山椒に毒消しの効果を期待していて、現在もその名残がある
名古屋名物「ひつまぶし」
国内外から人気の名古屋めし。その中での人気が高いのが「ひつまぶし」です。
ひつまぶしの語源
大きなお「櫃(ひつ)」でうなぎとご飯を混ぜる(まぶす)ことからきています。
ひつまぶしの由来
出前で使われていた陶器の器では割ってしまうことが多く、代わりに大きくて丈夫なお櫃を使い、数人分の鰻丼を入れて出前をしていた。その鰻丼を皆で食べるには蒲焼きでは公平に分けられないので、細かく刻んで皆で均等に食べられるように工夫したことが由来と言われています。
ひつまぶし
伊藤華づ枝作
ひつまぶしの食べ方
1杯目はそのまま、2杯目は薬味をのせて、3杯目は出汁をかけて。
うなぎの名店にて
美味しい「うなぎ」を求めて、研修のために各地へ出かけました。
鰻の千代幸・2020年7月に訪問
三重県伊勢市小俣町(おばたちょう)にひっそりと佇むお店「鰻の千代幸」
肝わさ・うざく・半助(鰻の頭)南蛮漬・骨せんべいとうなぎを余すことなく、フルコースで食べさせてくれます。
撮影:伊藤華づ枝
鰻の薄造り(刺身)を出せる店はほとんどありません!!
適度な歯ごたえがあり、臭みは全くなく、淡白な味がおいしい!
皮は香ばしく、弾力があります。撮影:伊藤華づ枝
千代幸名物「鰻の白焼」
白焼は、タレの味ではごまかせない、うなぎ本来のうま味を味わうことができます。
うなぎ本来の味を引き出すべく、塩・山葵で食べます。
撮影:伊藤華づ枝
三重伝統野菜のひとつ「伊勢芋」のとろろを鰻にかけて食べます。
伊勢芋の濃厚なコクが鰻とよく合い、とても食べやすく、さらっと食べることができます。
撮影:伊藤華づ枝
かも川茶寮うを完・2020年6月訪問
岐阜県美濃加茂市にある「かも川茶寮 うを完」前の筆者
もともとは鰻屋だったという「うを完」の鰻ご飯。
新生姜の時期だったので、普段は白飯ですが
今回は鰻の下には新生姜ご飯。爽やかな新生姜の香りと鰻の甘辛いタレがよく合いました!
撮影:伊藤華づ枝
高知県四万十市・2020年8月に訪問
漫画美味しんぼにも登場した「四万十屋」の前の筆者
四万十屋の数量限定「天然うな重」
天然うなぎは黄色いのが特徴で、蒲焼も黄色がかっています。
天然うなぎの流通量は日本全体のわずか0.3%未満でとても貴重です。
撮影:伊藤華づ枝
天然うなぎを求めて
「厨房わかまつ」前の筆者
厨房わかまつの「天然うなぎの蒲焼き」
天然うなぎだけあって、脂が少なく身がしっかりとして力強い味わい。
蒲焼きのタレの味がとても美味しい。
それでは、家庭で手軽に楽しめるうなぎ料理を2つ紹介します。
1つ目は、「うなぎの土鍋飯」、2つ目は、白焼きうなぎのサラダの紹介です。
うなぎの土鍋飯
材料 | 4人分 (実習分量) |
|
---|---|---|
米 | 3カップ(600ml分) | |
水(又はかつお出汁) | 3.9カップ(780ml分) | |
A | かば焼きのタレ | 大さじ1~2 |
しょうゆ | 大さじ1~2 | |
うなぎのかば焼き(中~大) | 2本 | |
卵 | 3コ | |
B | 混合出汁 | 50ml |
片栗粉 | 大さじ1/2 | |
砂糖 | 小さじ1弱 | |
うすくちしょうゆ | 大さじ1弱 | |
茹でた青菜(あれば) | 適量 | |
木の芽(あれば) | 適量 |
作り方
- 米を洗って分量の水に1時間程浸水します。
- 土鍋に1.と(A)を入れ、刻んだうなぎを1・2/3本分のせて炊きます(中強火→中火→弱火で約15分で炊き上がる)。
- 卵をしっかり溶きほぐし、(B)をよく混ぜ合わせて加えます。
- 卵焼き鍋に油(分量外)を薄く塗り、3.の卵を薄く広げて焼き、1/3本分の刻んだうなぎを横一列に並べて順に巻き、う巻き卵を作ります。
- 炊き上がったら、1本を4等分にしたう巻き、あれば茹でた青菜をのせて10分程蒸らします。
- あれば木の芽を添えます。
白焼きうなぎのサラダ~バルサミコとはちみつのドレッシングで~
材料 | 2~3人分 | |
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うなぎ白焼き | 1/2尾(60g) | |
ベビーリーフ | 30g | |
ミディトマト | 2~3コ | |
A | オリーブオイル | 大さじ3 |
バルサミコ酢 | 大さじ1 | |
はちみつ | 小さじ1強 | |
塩 | 小さじ1/2 |
作り方
- うなぎは縦1/2に切ったものを1/2尾用意し、一口大のそぎ切りにします。
- ベビーリーフをきれいに洗ってザルにあげ、水気を取ります。
- 器にベビーリーフとうなぎを盛り、トマトを散らします。
- (A)を混ぜ合わせたドレッシングをかけ、いただきます。