文化講座
第5回:東海地方(静岡・岐阜・愛知・三重)
前シリーズでは「発酵食品の魅力にせまる」と題し、代表的な発酵食品を毎月順番に取り上げ、その特徴や健康効果、おすすめの料理をご紹介しました。今シリーズでは、筆者が全国各地を食べ歩いて研究した郷土の味、その土地の人々から愛されてきた逸品を、作りやすいレシピにしてご紹介しています。
第5回目の今月は、東海地方「静岡・岐阜・愛知・三重」です。
1.東海地方
静岡県
- 面積:7,780.60km2
- 人口:3,715,901人(2013年10月現在)
- 県庁所在地:静岡市
岐阜県
- 面積:10,621.17km2
- 人口:2,053,286人(2013年10月現在)
- 県庁所在地:岐阜市
愛知県
- 面積:5,165.12km2
- 人口:7,434,996人(2013年10月現在)
- 県庁所在地:名古屋市
三重県
- 面積:5,773.31km2
- 人口:1,829,063人(2013年10月現在)
- 県庁所在地:津市
2.東海地方の食文化
温暖な気候が多い東海地方は海の幸・山の幸にも恵まれ、全体として豊かな食文化が育まれています。
特徴的な点は「豆みそ文化」であることです。
「土手煮」・「みそ煮込み」・「朴葉みそ」など、東海地方の郷土料理に多く使用されています。
愛知県岡崎市の名産品である「八丁みそ」は、大豆を麹にして作る豆味噌です。
他のみそと違って熟成に時間がかかり、特有の香り・渋み・濃厚な旨味があり、濃い赤褐色をしています。
江戸時代に徳川家の家臣が現在の岡崎市から船で江戸へ持ち込み、江戸から各地へと八丁みそが広まりました。
そのみそ蔵元が徳川家の権力に保護されながら、代々受け継がれて八丁みそ文化が伝えられてきました。
3.東海地方の名産品と郷土料理
東海地方には数多くの名産品がありますが、ここではその一部を紹介します。
☆静岡県
とろろ汁
旧東海道の鞠子宿(現在の丸子(まりこ))には、宿場の名物料理として江戸時代から「とろろ汁」が知られており、現在も有名店があります。
麦飯に、すりおろした自然薯(じねんじょ)の汁をかけて食べる料理です。
◇待月楼(静岡県静岡市駿河区丸子3305)
大正8年に八木栄治が創業した料亭です。
歴史を活かした雰囲気の中、おいしい自然薯(じねんじょ)料理が食べられます。
とろろ汁(伊藤華づ枝作)
浜松ギョーザ
静岡県浜松市は餃子専門店が約80軒あります。
キャベツをたっぷりと使った甘みが特色で、茹でたもやしを添える独特のスタイルで提供されています。
浜松ギョーザの特長は、「タレなしで食べられる味つけ」・「シンプルな具材」・「持ち帰りが多い」などがあげられます。
◇石松餃子
1954年創業で浜松餃子の元祖といわれ、浜松エリアで1・2の歴史を誇る老舗です。
先代が屋台で餃子を売っていた頃、この屋台は伝説になるほどの繁盛ぶりだったとか。
石松餃子(静岡県浜松市浜北区小松1145-1)の店先での筆者
名物・浜松餃子(2009年6月)
他にも「福みつ」、「喜慕里」、「むつぎく」、「きよ」などの店で、浜松ギョーザが食べられます。
桜エビ料理
日本国内の水揚げ量の100%が駿河湾産です。
駿河湾で桜エビが獲れるようになった歴史は浅く、1894年(明治27年)に由比の漁師が、アジの網引き漁をしていた際に網が深くもぐってしまい、偶然にも桜エビが大量に獲れた事が始まりとされています。
生桜エビ(冷凍)・干し桜エビ(干物)として流通しています。
かき揚げやお好み焼きなどに使われます。
桜エビと新玉ねぎの炒り煮を乗せた丼物(伊藤華づ枝作)
☆岐阜県
アユ料理
豊かな水量の川に恵まれた岐阜では、川魚が獲れます。中でも長良川のアユは有名です。
有名なアユ料理の店を紹介します。
1.旬彩料理・日野坂さか井
山々に囲まれた、自然豊かな地に建つ会席処です。
アユを使った多彩な料理で目や舌を楽しませ、「最上のもてなし」が満喫できる名店です。
旬彩料理・日野坂さか井(岐阜県岐阜市日野東8-2-16)の料理写真(アユの塩焼き・アユのおかき揚げ)
コース料理の八寸
日野坂さか井主人と女将の間が筆者(2013年7月)
2.河原町・泉屋
様々な著名人が訪問する「河原町・泉屋」。
紀州備長炭でじっくり焼き上げるアユの塩焼きは、頭から骨まで残すところなく食べられます。
長良川の鵜飼と共に生まれたアユ製品の製造にも力を入れており、新鮮な鮎をじっくり焼いて北海道産の良質の昆布で巻いた「鮎昆布巻」などが人気で、インターネットでも取り寄せ可能です。
河原町・泉屋(岐阜県岐阜市元浜町20)の店先での筆者
アユのリエット(写真左)
※アユ塩焼のほぐし身と濃厚なアユうるか(内臓の塩辛)をアユの油や玉ねぎと共に炒めて作ったパテ
白熟クリーム(写真右)
※子持鮎熟れ寿しの熟成したご飯(米)に生クリーム、サワークリームがブレンドされた濃厚クリーム(2011年8月)
焼きアユご飯(伊藤華づ枝作)
朴葉寿司
朴の木の葉で巻いた寿司で、作り方は地域によって様々です。
朴葉寿司の時期が田植えの時期とも重なる点については、朴葉に殺菌作用があること・携帯性があること・近隣との作業の助け合いの中でまかないに便利な点などがあげられます。
◇ダイニング・匠(たくみ)
岐阜の郷土料理を名古屋で味わう事ができる店です。
日本料理の職人の心意気が詰まった一品です。
店主の木間治男さん
(2008年2月)
ダイニング・匠(愛知県名古屋市中区栄3-5-1名古屋三越栄店B1F)匠の朴葉寿司
朴葉みそ
乾燥させた朴葉に自家製のみそ・ねぎなどの薬味・きのこ・肉などをのせて焼いた料理です。
牛肉と野菜の朴葉みそ焼き(伊藤華づ枝作)
☆愛知県
かしわ料理
愛知県では鶏肉のことを、「かしわ」と呼びます。特に名古屋コーチンは味が良いことで知られています。
愛知県の揖斐川と木曽川にはさまれたあたりの風土が、養鶏に適していると言われています。
江戸時代からの伝統的な飼育技術があり、「やはり鶏は名古屋に限る」と土地の人は自慢します。
◇かしわ・うなぎ料理「宮鍵」
明治32年に創業した老舗です。創業者の鍵次郎は当時、愛知県で盛んだった養鶏業者から鶏肉を仕入れ、鶏と鰻という珍しい組み合わせの料理屋を始めました。
現在は三河の赤鶏を使用しています。
「宮鍵(名古屋市中村区名駅南1-2-13)」の店前での筆者(1990年11月)
ひつまぶし
「ひつまぶし」は「あつた蓬莱軒」の登録商標で、ウナギの蒲焼を用いた愛知の名物料理です。
ウナギの蒲焼を細かく刻み、小ぶりのおひつに入れたご飯にのせて出され、ご飯に混ぜて食べることから「ひつまぶし」と呼ばれるようになりました。
◇あつた蓬莱軒
「あつた蓬莱軒(名古屋市熱田区神戸町503)」の総料理長
筆者が食べたあつた蓬莱軒のひつまぶし(2008年5月)
ひつまぶし(伊藤華づ枝作)
どて煮
牛や豚の内臓を、赤みそでじっくり煮込んだ料理。
赤みそ独特のコクのある風味でモツの臭みは消え、じっくり煮る事で具がとても柔らかくなるので、老人や子供にも喜ばれます。
モツの代わりに牛スジを使ったり、ゆで卵を入れてもおいしいものです。
◇串カツラブリー
名古屋市東区東桜にあるこの店は、カウンター席とテーブル席8席のこじんまりとした居酒屋です。
しかし平日でも17:30の開店以降、外にまで人が並ぶほどの人気店。
大鍋で煮た土手煮に串カツをつけて食べ、〆の土手飯を食べるのが定番です。
「串カツラブリー(名古屋市東区東桜1-9-1)」の土手煮(2011年10月)
牛すじ土手煮(伊藤華づ枝作)
みそ煮込みうどん
土鍋に入れた硬めのうどんと具を、赤みそで煮込みます。
フタには穴がなく、フタを取り皿にして食べます。
◇山本屋本店
「山本屋本店・栄中日ビル店(名古屋市中区栄4-1-1中日ビル地下2階)」で松茸入りみそ煮込みうどんを食べている筆者
山本屋本店のみそ煮込みうどんの土鍋(2009年8月)
☆三重県
手こね寿司
赤身の魚をしょうゆベースのタレに漬け込んだ後、寿司飯と合わせるちらし寿司。
好みで青じその葉やしょうが、糸のりなどをちらします。
漁師が漁の合間に食べた食事がもとであり、考案したのは志摩町和具(志摩市)の漁師とされ、沖での忙し
い鰹漁のさなかの食事として、獲れた鰹を刺身にしてしょうゆに漬け、炊きたてのご飯に手で混ぜて食
べたのが始まりとされています。
◇すし久
伊勢のおかげ横丁を代表する、一番人気の料理屋です。
中でも「手こね寿し」をはじめ、伊勢芋を使った「麦とろろ」や国産うなぎの「ひつまぶし」などは、すし久の名物料理です。
筆者が食べたすし久「伊勢市宇治中之切町20」の手こね寿司(2013年8月)
手こね寿司(伊藤華づ枝作)
とんてき
分厚い豚肩ロース肉(250g位)を柔らかく焼き上げ、大ぶりのにんにくとソースをからめた豚(トン)テキ(ステーキ)です。
50年ほど前、四日市の西新地に大人気の中華料理店「来来憲(らいらいけん)」がありました。
下田憲雄さんが切り盛りしていた「来来憲」の看板メニューが「とんてき」でした。
その店で10年間修業をした人が、現在の「とんてきナンバー1」の店、四日市・松本の「来来憲」のオーナーです。
1.来来憲
1978年創業以来、素材や味付けを一切変えず、元祖の味にこだわっています。
山盛り一杯に盛り付けてあるキャベツと、肉のタレをからめて食べると美味しいです。
「来来憲(四日市市松本2-7-24)」の店前での筆者
筆者が食べた四日市名物大とんてき(2009年7月)
2.あさひ食堂
近鉄四日市駅前アーケード商店街内に位置する、昔ながらの食堂。
おうちで食べていたとんてきを、お店に提供し始めたというこの味はさっぱりタイプで、毎日食べても飽きません。
筆者が食べた「あさひ食堂(四日市市諏訪栄町6-15)」のとんてき(2009年4月)
4.東海の郷土料理レシピ
定番のギョーザを浜松ギョーザスタイルに盛り付けました
材料(24コ分) | 分量 |
豚ひき肉 | 170g |
A | |
しょうが(すりおろし) | 1かけ |
塩 | 小さじ1/2 |
しょうゆ | 大さじ1・1/2 |
こしょう | 少々 |
ごま油 | 小さじ1/2 |
キャベツ | 300g |
にら | 5本 |
ギョーザの皮(大判) | 24枚 |
サラダ油 | 大さじ1 |
もやし | 適宜 |
赤パプリカ | 1/4コ |
B | |
しょうゆ | 大さじ3 |
酢 | 大さじ1・1/2 |
ラー油 | 少々 |
作り方
- ボウルにひき肉を入れ、(A)で調味して手でよく練ります。
- キャベツはサッと熱湯に通し(ゆですぎないようにします)、みじん切りにして十分に水気をしぼり、ニラは小口切りにします。
- 1.と2.を混ぜ合わせて24等分し、ギョーザの皮で包みます。
- フライパンを熱してサラダ油を入れ、火を止めて3.を並べ、ギョーザの高さの1/4~1/3分量の水を入れ、中火にかけてふたをします。
- 水分がとんでなくなったら、ふたをとって底面に焼き色が付くまで強火で焼きあげます。
- もやしとせん切りのパプリカを熱湯でサッとゆで、水で冷やします。
- 5.と6.を器に盛り、(B)を添えます。
彩り鮮やかな三重県の郷土料理
材料 | 作りやすい分量 |
米 | 2カップ |
水 | 450ml |
酒 | 大さじ2 |
A | |
酢 | 50ml |
砂糖 | 大さじ3 |
塩 | 小さじ1 |
マグロ(刺し身用・塊)(又はカツオ・ブリ等) | 200g |
B | |
しょうゆ | 大さじ2 |
砂糖 | 大さじ2 |
青じその葉 | 10枚 |
卵 | 1コ |
砂糖 | 少々 |
塩 | 少々 |
油 | 適宜 |
紅しょうが | 20g |
糸のり | 適宜 |
作り方
- 米に分量の水と酒を入れて1時間程浸水してから炊き上げ、10分間程蒸らします。
- 1.に(A)の合わせ酢を打ち、手早く人肌まで冷まします。
- 魚は刺身より薄く小さく切り、(B)の中に漬け込みます。
- 青じそはせん切りにします。
- 卵は薄味をつけて焼き、せん切りにします。
- 2.に3.の汁気を切ったものと4.を手早く混ぜ合わせ、5.と紅しょうが、糸のりをふります。