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日常会話に役立つイタリア語

石黒 秀嗣

レッスン27 Sì: sìが響く美しい国の人々


ローマ:ウェスタ神殿
(Roma: Tempio di Vesta)

レッスン27
Sì: sìが響く美しい国の人々

 1861年に、現代のようなイタリア統一国家が誕生し、新しい国の標準語が制定に至るまで長い道のりがありました。現代のイタリアにあたる領土は、476ローマ帝国の滅亡以来、長い間、政治的にも行政的にも分断されてしまいました。467年、ローマ帝政下では公用語としてギリシア語やラテン語が使われていました。しかしその後は理解できるのはごく一部の教養人と教会関係者だけとなり、当時の俗語(le lingue volgari)、すなわち話し言葉であった俗ラテン語(il latino volgare)が、何世紀もの時代の流れの中で新しい言語へと変貌していきました。14~16世紀には古典文芸復興により、死語となったギリシア語やラテン語は見直され、イタリア・ルネサンス芸術や文学が花開くことになります。一方、文学作品や各種の学術論文などは古典ラテン語で書かれていた時代に、ダンテ(Dante Alighieri 1265-1321)は『神曲』(La Commedia)などを、当時のフィレンツェの話し言葉(il fiorentino)で書き、誰でも理解することが出来る俗語でもってその模範を示したのでした。
 そのダンテが『俗語論』の中で、様々な言語の分類を行っています。そしてイタリア各地の言語が異なる言語でありながら肯定する際に「スィ」を用いる点で共通して、互いに似通っていることを指摘しています。ダンテは「イタリア」「イタリア語」という概念がまだ存在していなかった時代に、彼の『神曲』の中で、「...sìが響く美しい国の人々(le genti del bel paese là dove 'l sí suona...)」と表現しています。
 16世紀には活版印刷の普及と共に、その作品をより多くの人々に読まれるためには、イタリアのどの地方でも理解できる共通の文法や語彙などが必要となり、イタリア語の標準語を巡って議論がされました。数世紀にわたってイタリア全領域で「共通語」の役割を果たしてきたのは、14世紀の文学作品に使われたフィレンツェ語だったのです。ただ、この書き言葉が生きた話し言葉であったのは400年以上も前でした。19世紀当時のフィレンツェの話し言葉の要素も取り入れ、そして、そこから方言色の強い要素を取り除いて、標準語「イタリア語」という言葉が誕生したわけです。
今回は、イタリア語の特徴であった響きの「」(スィ)についてまとめてみました。

A. sìの用法について

1. 強めるために繰り返したり、他の副詞を付けたりする。

  • Sì, sì! / Sì, certo! / Sì, bene! / Proprio sì! : (強意)はい、そのとおりです
    例文:
    Sì, sì, è proprio così.
    (そう、そう、本当にそうだ)
  • Ma sì(no)! : (強意)そうですとも(とんでもない)!絶対にそんなことはない!
    例文:
    Non ha un fazzoletto pulito?
    (きれいなハンカチもっていないの?)
    Ma sì.
    (とんでもない=ちゃんともっている)
  • sì, perché sì : 全くそのとおりだ、当たり前だ、きまっている
  • Certo che sì! : きっと、確かに、間違いなく
    例文:
    Non è colpa tua.
    (君のせいじゃないよ)
    Certo che sì.
    (絶対にそんなことはない)

2. sì cheは(驚きや憤慨を表し)実際、全く(=davvero)を意味する

  • 例文:
    Questa sì che è bella.
    (これは本当に素晴らしい)
    Questo fiore sì che è bello.
    (この花は本当に美しい)
    Questa sì che è una novità.
    (これはまさにニュースだ)

3. noとともに用いられて、事柄が交互に起こることを表す。

  • un giorno sì e uno no : 一日おきに、隔日に
  • uno sì e uno no / uno sì e l'altro no : 一つおきに
  • tra il sì e il no : 肯定も否定もせずに、あいまいに

4. 動詞の直接補語になるときは前にdiを付ける。

  • dire di : はいと言う
  • rispondere di : はいと答える
  • sperare di : そうだと期待する
  • parere di : そのように思われる
  • pensare di : そう思う
  • temere di : そうじゃないかと気遣っている

B. sìの名詞的用法について

  • 1. 「はい」という返事
    un sì deciso : 断固とした肯定(承諾)
    stare(essere) tra il sì e il no : 決めかねている、確信が持てない
    Pronunciare il sì : (結婚式で)夫婦が誓いの言葉を言う
  • 2. 賛成(投票)、賛成者
    i sì e i no erano pari : 賛成と反対が同数だった
    Si sono avuti tre sì e quattro no : 賛成が3票で反対が4票だった

C. sì のその他の慣用的用法について

  1. Ah, sì(no)? : あ、そう;悪かったね、だからなんだってんだ!
    相手の質問の内容が肯定(否定)形式の時のあいづち、または抑揚しだいで挑戦・開き直りの決まり文句となる。
    例えば次のような会話では、Arrivi tardi!(遅刻だぞ!)Ah, sì?(あ、そう。だから何だってんだ?)
    また、Non sai come sia successo.(どうなったか君には判らないんだ!Ah, no?(あ、そう。それがどうした?)
  2. invece sì : いや、そんなことはない
    相手の否定表現を日本語では更に否定して内容的には肯定になるが、イタリア語では内容的に肯定する時には形式的にも肯定となるので注意が必要。
    例文:
    Non sognavo nessuno.
    (僕は誰の夢も見ていなかったよ)
    [E] invece sì.
    (そんなことはない。見ていたよ!)
  3. fare sì che : まあ何とか~する;~するようにしむける;が(原因)で~する
    例文:
    L'incidente fece sì che arrivassimo con quattr'ore di ritardo.
    (事故で到着が4時間遅れた)
  4. forse [che] sì e forse [che] no : 何とも言えない
    例文:
    Maria e Paolo saranno felici?
    (マリアとパオロは幸せになるかしら?)
    Forse sì e forse no.
    (何とも言えないね)
  5. Sì e no? : イエスかノーか?どうなの? まあね!
    おそらく;かろうじて、どうにかこうにか;およそ
    例文:
    Si tratta del mio lavoro?
    (私の仕事に関係あることですか?)
    Sì e no, non proprio del tuo direttamente.
    (まあね、君の仕事に、直接関係あると言うほどでもないのだが)
  6. può darsi di sì : おそらくそうだろう
    例文:
    Il perché lo sa Lucia meglio di te?
    (その理由は君よりルチアの方がよく知っているのだな?)
    Puo' darsi di si'
    (おそらくそうだろう)
  7. e si che : しかし、だが
    例文:
    E si che te l'avevo detto più volte.
    (だけど、僕は君に何度となくそう言っておいたじゃないか)
  8. sì che (da) : ...のように、...するように(=sicché)
    例文:
    Fece sì da accontentarlo.
    (彼女はどうにか彼を満足させた)
    Fece sì che lo persuase.
    (彼女は何とか彼を説得してのけた)
  9. sì... sì... : ...あると同様(同時)に...
    例文:
    Lui era pieno d'ignoranza di superbia.
    (彼は無知であったがそのうえ傲慢でもあった)
  10. sì come ... : まるで...のように;どのように;...するや否や(→siccome)
    例文:
    Fece sì com'egli volle.
    (彼は思い通りに振る舞った)


油絵 石黒秀嗣
ヴェネチア:ヴェネチアの小運河
(Venezia: Rio a Venezia)

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