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骨董なんでも相談室

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

骨董なんでも相談室 2回目 「古美術・骨董商との付き合い方」

骨董の買い方 値切り方

 前回は「古美術・骨董の美」について書きました。その後も、ある講座で中年男性の受講生さんから、「私はどうしても美についてわからない」というお声がありました。いろいろなものを観られているとのことでした。私は、古美術・骨董に限らず、ご自分が面白いと思える観点からアプローチしてみてくださいと申し上げました。たとえば歴史、文学、哲学、なんでもよいのです。興味をひかれるものは必ずあるはずですから、そこから始めてみてはいかがでしょう。
 感動することは、どなたにもなにかしらあるはずです。もしも皆無であったとしたら、それはあまりにもさみしい人生に思えます。


著者の大切にしている岡本太郎『挑』の色紙

 さて今回はみなさんが楽しく骨董・古美術に親しんでいただくためには、どうしても避けて通れない「骨董商・古美術商」との良い関係を築く付き合い方についてお話いたしましょう。実は私は「うまい付き合い方」という表現はあまり好きではありません。本当に好きなら「人間」として仲良くなりたいのです。それはどんな人間関係でも同じです。それから最低限の約束が必要です。それは「すべて自己責任」ということです。なにがあっても自己責任で楽しむ、それを忘れないでください。「責任転嫁」、人のせいにする、これだけはしないでください。誰でも相手がいいかげんであれば怒りますが、その結果を招いたのは「自分」なのですから。そういう人と付き合った自分の責任なのです。贋作を買ったことも自己責任、その点は中国人の商人ははっきりしていて、日本人は学ぶ点があると思います。彼ら中国人は「偽物を買うのは、自分が勉強しないから悪い」という論理です。日本は「店の信用」すなはち「のれんの信用」を重視しますから、客は店を信用します。大陸でもまれて生きてきた人と、島国の中でのんびり生活してきた日本人との大きな差です。それはいい面と悪い面をともに持っていると思います。しかし骨董・古美術ということから考えますと、大陸的思考方法の方が優れているように思います。楽しむことは勉強することですし、より優れた美術品を手にするには、当然その勉強と感性を豊かにする、厳しい鑑賞眼を養わねばなりません。気心がわかれば信頼関係が生まれますが、最初は相手の骨董商・美術商の人柄はわかりません。顔ではにこにこ笑いながら、心では警戒しながら対応するというのが、偽らざる気持ちでしょう。


志野茶碗 (桃山時代) おおらかな絵です。

 人間が仲良くなるためには、いろいろな試練が必要です。友人でも夫婦でも同じです。「雨降って地固まる」のことわざ通りです。それと同じように、骨董業界もいい人間関係を築くのには時間がかかります。特にお金がからむと事は複雑になります。「買う」ことはもちろん大切なことです。買うことは、お金を支払うことです。高価になると分割ということになります。その時に出てくるのが「信用」という言葉です。
 私は、信用とは「金を含めた約束を守ること」だと思います。そこにすべての人間性が出ます。お互いにそこだけは最低守る、そうすれば人間関係はうまくいきます。うまく行かなくなるのは、こちらか相手側がそれを守らない、そのどちらかがあるからです。
 骨董・古美術の人間関係も同じです。そこにもっとも人間にとって厄介な「欲」が絡むとまた複雑になりますが、基本は同じです。
 わたしはどんなことでも人間関係の確立に大切なのが、相手が大人でも子供でも、ほめることが一番だと思っています。相手のいい面をほめる。「先日いただいた蕎麦猪口、気に入って毎日使っています。いいものを分けてくださってありがとうございました」こう言われた骨董屋さんが喜ばないわけはありません。こんなさりげない会話が、相手と自分をぐっと近くしてくれるのです。
 要は自分次第なのです。マイナス思考とか、プラス思考とかいう言葉がありますが、世の中は絶対にプラス思考にかぎります。
 ただそこに一つだけ、思考回路に入れていただきたいことがあります。かつてドイツにヘーゲルという哲学者がいて、その人がこう書いています。
 「まず肯定して受け入れる、次に疑う、そして真実に至る」と。それは弁証法という考え方ですが、これは骨董・古美術に最もあてはまる名言だと思います。まず作品を観て感動する、それと同時に偽物ではないかと疑い、検証する。そして疑いは晴れていいものだと確信する。その一連の作業をヘーゲルは正・反・合といいます。これは大切です。感動だけではだめです。感動と同時にすぐ醒めた眼で見て一旦は疑う、この作業が大切です。デカルトも確か同じようなことをいっています。「COGITO ERGO SUM」我思う、ゆえに我あり。このCOGITOはラテン語で思うと訳していますが、ラテン語の原語には「疑う」という意味もあります。もともと西洋では「思う」ということは疑うという意味が含まれているのかもしれません。


黄瀬戸振出し(桃山時代) 落ち着いた黄色が味わい深いです。

 それから、気持ちの問題ですが、相手の骨董屋さんに行くときは、さりげなく飲み物か何かを買っていく。みかんでも缶ジュースでもコーヒーでもいいです。安くて結構、気持ちで何かを買っていく、こんな簡単な行為が人間関係をぐっと良くしてくれます。
 値切り方と表題に書きましたが、実はそのことと同じなのです。人間関係が良くなれば、必然的に安くしてもらえるものなのです。しいて安くしてもらう技術があるとしたら「まとめて買う」ことくらいでしょうか。3個まとめて買うから安くして、ということでしたらかなり安くしてくれるはずです。露店や店では経費がかかりますから、あまりエゲツナイ値切りはしない方がいいと思います。骨董・古美術は文化です。文化は礼節ですから、それは骨董・古美術への気持ちの問題になってくるからです。外国人たちの「値切り」は、エゲツナイと日本の骨董業者さんは皆さんいいます。それは先に述べましたように、すべての人がということではありませんが、勉強した方が勝ち、取った方が勝ち、安く買った方が勝ちという考え方が優先して、その国の文化と美に対する敬意という感覚に乏しいからではないかと思います。合理主義の一面であると思います。
 心から楽しみながら、骨董・古美術を愛してください。そしてその骨董・古美術品を持っている骨董商・古美術商と仲良くして、いい関係を築いてください。それがすばらしい骨董品・古美術品を手にする最短距離であると思ってくださって間違いはありません。


骨董なんでも相談室
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