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骨董なんでも相談室

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

西洋アンティーク紀行 第1回 ベルリンの骨董市をめぐる

 先月1ヶ月間、ヨーロッパを回ってきました。これから12回にわたり各地のおもしろい骨董市をご紹介したいと思います。ベルリンは初めてですが、わたしは子供のころから、父の蔵書の戦前のドイツ写真集で見て親しんできました。そこにはひげ文字で古き良き時代のベルリンをはじめとしたドイツの都市の写真がたくさん掲載されていました。その本は子供には異次元の世界であり、車や電車など動くものが好きなわたしは見慣れない複葉飛行機やらツェッペリン飛行船に大きな好奇心をもって憧れたものでした。ベルリンはブランデンブルグ門近くにヒトラーの総統指令部があったため、第二次世界大戦の折りには集中爆撃を受けて破壊しつくされました。戦後、ドイツは東西ベルリンに分割され、特に東ドイツはソ連(今のロシア)に占領され、発展が遅れましたが、東西ドイツが統合されて以来、首都であるベルリンはドイツ人の懸命な努力で復興の道をたどって来ました。私が宿泊したのはアレキサンダープラッツというかつての東ドイツの駅に近いところでした。それだけにやや古ぼけてはいますが、広い通りが日本と違いゆったりした感じがします。

 ドイツに着いて少し経った11月4日の日曜日、調べたら4ヶ所の蚤の市、骨董市があるので行ってみました。陽の短くなったドイツで4ヶ所の骨董市を回れるかと心配したのですが、電車(Sバーン)、地下鉄(Uバーン)、トラム(市電)を駆使してなんとか回り切りました。まず最初が、 ●「マウアーパーク(Mauerpark )蚤の市」

 UバーンのBernauer strasse下車、徒歩5分のところです。なぜ最初にこちらに来たかといいますと、一番早い午前7時から始まるからです。7時はまだこの時期真っ暗です。
蚤の市と言ってもアンティークもかなりあります。たくさんの人でにぎわってます。陶器やら装飾品、古本、日用品の古いもの、さすが音楽の国だけあり楽器も多く見られます。レコードは重いから買えなかったのが残念です。上着や服もいいのがたくさん下がってます。これも荷物がかさ張るから断念。中には古いブリキのオモチャやクマの人形などもあり、人気があるようです。丁度クリスマスに近いことから、色とりどりのかわいい綿でできたエンジェルをケートさんという女性のお店で見つけました。

 ふわふわでかわいいエンジェルです。いろいろ見ながら回ると、本当に楽しいところです。
オヤッと見ると、ある店にとても古そうな手の取れた磔刑のキリスト像があり、眼に入りました。柘植の木みたいなよごれた黄色い固い木に上手に彫りが入ります。手に取るとズシリと重い。やはり柘植です。18世紀後半のポルトガルあたりのもので、遠く海外に運ばれたものでしょう。顔の彫りも素晴らしいし、木の古色、味わいがなんともいいし、気品があります。これは古くていいものだと直感的にわかりました。もっと出来の悪いキリスト像を日本で見たときは8万円という値段で、買いませんでした。前から古くていいキリスト像が欲しかったので、これいくらですか?と尋ねたら、100ユーロだけど、80にするというのです。安い。1ユーロ105円でしたから8400円くらいです。鼻の欠け直しや穴埋め補修がないか、最終的にルーペで確認して買いました。木彫の場合は鼻が欠けて、修復してあるケースが多いのですが、これはオリジナルです。

 これに満足して次の●「ボックスハーゲナー広場の蚤の市」Boxhagener Platz へ向かいます。アレキサンダープラッツに戻り、Uバーン5でFrankfurter Tor下車、徒歩7分、10時開始。このあたりには軽食屋さんが軒を連ねていて、ランチには最適。食べたいのはやまやまですが、明るいうちに4ヶ所回ることが頭に浮かび、がまんして蚤の市へ。

 広場を埋め尽くす露店また露店。ドイツ人ではない外国人骨董商もかなりいます。眼に入ったのが古本屋さん。よく見たら子供のころから、父の本で眼にしてきたツェッペリン飛行船の100年記念写真集でした。日本にはない貴重な本がなんと5ユーロ。買いました。場所柄か東ドイツ製の軍装品、軍服や毒マスクなども。

 今 ベルリンでは東ドイツ時代のマークの付いた小物、例えばカップなどに人気があるとのこと。きっとこれらは、東西ドイツ統一後のベルリンから消えつつあるノスタルジックなものなのでしょう。ここでは他に古い百科辞典の美しいエッチングの挿し絵のバラ売りに素晴らしいものがあり、私もモノクロのクラゲと鳥のカラー図版を買いました。1枚3ユーロから5ユーロ。額に入れると映えそうです。装飾品も女性の人気をあつめています。

 さて次は●「ボーデ美術館アンティーク&古書市」

 Antique und Buchmarkt am Bodemuseum. SバーンでFriedrichstrasse 下車、徒歩5分 ここは私の好みの市です。アンティークはやや少な目ですが古本好きにはたまりません。たくさんあり、素晴らしい。古書専門家が扱うから本の状態がいい。まず眼にとまったのが、Wir Luftshiffer . 「我ら飛行船乗り」これはツェッペリンものの一連の資料で、1909年発行の本で大変貴重な、ひげ文字ドイツ語古書。160ユーロのところを70ユーロで買えました。

 日本ではこの手の本は極めて高価なので、満足です。横にいいにおいの焼きソーセージを売っている屋台があり、パンにはさんでもらい、コーラでスカッとのどを潤しながら一休み。さすがにお腹がすいていたからおいしい。

 ドイツでは毎日焼きソーセージを食べてますが、不思議にも飽きませんでした。欲しい古書は数知れず、カフカ全集、ニーチェ全集、ツヴァイク全集などなどは、やはり買っておけば良かったと後悔。運ぶことを考えて二の足を踏んだら、ベルリンなら船便で送る手があったことに後で気がつきました。1冊3ユーロ程度だから、日本では絶対買えない安さでした。ここは通称、博物館島と呼ばれる博物館密集地帯の一角。必見の博物館見学とあわせてこの市を楽しむのもよいでしょう。

 ●最後は「6月17日通り蚤の市 」

 Troedelmarkt Strasse des 17 Juni。 ここはSバーンのTiergarten 下車すぐ駅前です。おそらくベルリンで一番のアンティーク市でしょう。レベルが高く、家具も素晴らしいものがある。その他銀器やガラスにもいいものが多い。装飾品も充実。すべての店がテント張りだから、雨でも大丈夫です。ドイツはもともと雨はしとしとの小雨なので、簡単な帽子をバッグに入れておけば万全。コイン商もかなりいて、コレクターが多いことをうかがわせます。私はここの銀屋さんで、イギリスのシルバーホールマークの入ったかわいいシュガースプーンを安く買いました。バーミンガムの1896年の作品で35ユーロ。ドイツは敗戦国で、しかも徹底爆撃されてソ連に占領された都市なので、骨董品は少ないだろうと思ってベルリンに来ましたが、この6月17日通りの骨董市に来て安心しました。

 ●一通りベルリンの骨董市、蚤の市を堪能しました。時間がない場合、全般的にレベルの高いのは6月17日通り蚤の市、掘り出し目当てならマウアーパーク、古書探しはボーデ美術館アンティーク&古書市がお薦めです。それにしても一日に4ヶ所の骨董市めぐりは大変でしたが、欲しい骨董や古書が買えて大いに満足しました。

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