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骨董なんでも相談室

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

西洋アンティーク紀行 第2回 イギリス・アンティーク紀行


 今回はイギリスに飛びまして、イギリスのアンティークをご紹介します。イギリスの中でも、私はロンドンが大好きです。過去にも幾度か訪れており、比較的慣れた街です。ロンドンは物価も高めですが、なぜか心安らげる街です。やはり個人主義の徹底したお国振りだからでしょうか、街を歩いていても、店やデパートで見ていても干渉されません。すごく気が楽なのです。これは今回のヨーロッパの旅で最初に滞在したベルリンも同じでした。そのベルリン、テーゲル空港からブリティッシュ・エアウェイズで約1時間、ヒースロー空港に着きました。

 地下鉄の急行でパディントン駅に向かい、そこで乗り換えてグッチストリート駅へ。余談ですが、ロンドンには第二次世界大戦時に作られた地下深く掘られた防空壕が下にある地下鉄駅が八つあり、このGoodge Street駅もその一つです。欧州連合国派遣軍最高司令部として使われ、アイゼンハワーもここから指揮していたそうです。時代が変わり、ヒッピー文化華やかりし頃、スコットランド出身のフォークソング・シンガー、ドノヴァンのアルバム「フェアリーテイル」に収められた「サニー・グッジ・ストリートSunny Goodge Street」(1965)という曲の舞台でもあります。

 宿はここから歩いて10分です。築200年のジョージアン様式のタウンハウスですので、街の雰囲気にすっかり同化しています。有名な画家の邸宅だったそうですが、中はホテル仕様に改築され、豪華でないかわりに居心地良いです。入ると可愛い犬のフランキーちゃんが小さな尻尾を精一杯振って出迎えてくれました。ロンドンで一つだけ不満なのは、ホテル代が大変高いことです。しかし、たいていは朝食代込で、ソーセージやベーコン、ベイクトビーンズ(豆のシチュー)や卵料理等がたっぷりとついたアツアツのイングリッシュ・ブレックファーストが提供されます。長期旅行なので、高級ホテルには泊まれませんでしたが、この小さな宿でも毎朝好みを聞いて卵を調理してくれます。これら料理と一緒に白パンやライ麦パンの英国式の薄切りトーストにバターをたっぷりと塗って食べるとおなか一杯になってしまいます。ここはブルムスベリー地区と呼ばれる文教地区で、大英博物館やロンドン大学カレッジが徒歩圏内に位置しています。オックスフォード・ストリートも近いです。19世紀から20世紀にかけて、作家のチャールズ・ディケンズやサマーセット・モーム、バーナード・ショーが住み、1900年代初頭には、バージニア・ウルフを始めとする芸術家達がブルームスベリー・グループと呼ばれていました。ディケンズの住んでいた家は改装中で見られませんでした。イギリスならではのパブや公園はもちろん、洒落たインテリアショップや軽食をとれる店がたくさんあり、便利なエリアです。ぶらぶらと行ってみたい場所はたくさんありますが、それは後の楽しみにして、翌朝イングランド中央部に向かいました。
早起きして朝食を済ませると、大きな荷物はホテルに預けて、パディントンから列車でオックスフォードへ向かいました。ここで予約していたレンタカーを借りて、コッツウォルズに出発。特別自然美観地域に指定されているコッツウォルズは、東はオックスフォード、南はバース、北はストラットフォード・アポン・エイボンに囲まれた美しい丘陵地帯です。Cots(石の羊小屋)wolds(丘陵)という名が示すとおり、中世には羊毛業で栄えた地域で、個性的な可愛い村が点在しています。しかし、交通の便が悪いので、時間を気にせず自由に回るには、レンタカーが一番良いと思いました。フォルクスワーゲンのポロという1400ccのレシプロ車でしたが、田園地帯は道幅の狭いところも多いので、このくらいのサイズが良いです。秋のカントリーサイドのドライブを楽しみながら、宿泊予定地のバイブリーに着きました。


バイブリーの石灰岩の古民家の家並み

澄んだ水の流れる小川

 ここはイギリスの「モダンデザインの父」といわれた詩人、デザイナーのウイリアム・モリスが「イギリスで最も美しい村」と絶賛した場所です。すばらしい自然環境の中、イギリスの古民家が極めてよく保存されている街です。是非とも行っていただきたい場所です。コッツウォルズは現在でも石灰岩が採掘されており、近隣のオックスフォード大学の建物ばかりか、ロンドンのセント・ポール寺院や、オーストラリアのメルボルン寺院の建造にもここの石灰岩が使用されています。「はちみつ色」と表現される、奥ゆかしい黄色い石灰岩の家並みは、時代の波に洗われたオールド・イングランドの落ち着いた雰囲気を持ち、周りの緑や川のせせらぎがよく似合います。ひんやりと澄んだ空気の中でこの景色に囲まれていると、おとぎの国に来たみたいな感じです。


バイブリーのホテルの居心地の良いラウンジ

 ホテルも、昔の建物を生かしながら、とても可愛い内装が施されています。ラウンジの暖炉の前で体を温めていると、まるでここの領主になったような気分で、うとうとと昼寝をしたくなります。しかし、まだ明るいうちにストウ・オン・ザ・ウォルドへ、約1時間のドライブをすることにしました。


Stow on the Woldの広場

 標高約244メートルと、コッツウォルズで一番高い丘にあるストウ・オン・ザ・ウォルドの歴史は先史時代にまで遡れ、現在も年に一度馬市が開催されることでも知られています。ここも、古い景観を保っていますが、牧歌的なバイブリーと比べると、ちょっぴり都会的です。


雰囲気の良いアンティーク店が並んでいます

 コッツウォルズ・アンティーク協会に属しているアンティーク店が軒を連ねているので、駐車場に車を置き歩いて回ってみました。


それほど古くないものも並んでいます

銀製品もいろいろです

地震がないのがうらやましいです

 アンティークというほど古くはない、いわゆるエステート・ジュエリーの店や、陶器、銀器を扱っている店など様々です。私は、簡素でかわいい店構えのFox Cottage Antiquesという店に魅かれて入ってみることにしました。


Fox Cottage Antiques 簡素ながら、誘い込まれます

 店主らしき二人の老紳士が紅茶を飲みながら、談笑しています。カントリースタイルの英国紳士、といった風情で、この町や店の雰囲気にピッタリです。私が軽く挨拶をして、店内を拝見してよいですか、と聞くと、「どうぞ、ご自由に」と和やかに答えてくれた後、また二人は会話に戻り、全く干渉されませんでした。お陰で私は、自由にゆっくりと、思ったより奥深いこの店内の品々を見て回ることができました。


所狭しとアンティークが並んでいるのに、完璧に掃除されています

 2階まであり、いくつかの小部屋に分かれて、ガラスからジュエリー、陶磁器、絵などなどたくさんの骨董品が所狭しに並んでいます。品物も粒揃いで。さすが店主の風貌と合っています。江戸時代後期の色絵伊万里壺もありました。これだけバラエティーに富んだ品が揃っているのは、委託品が多いからです。委託品の場合はあまり値引きを期待できません。しかし、この店はとんでもない値段はついていないので、好感が持てました。1階奥には、中庭のテラスに面した小さなサンルームがあり、そこには古いガーデニング用品やら、厚手の食器などが色合いも美しくディスプレーされており、ここもまた、不思議の国に迷い込んだような楽しい雰囲気のお店でした。


小さなサンルームの窓辺 外のテラスの緑とガラスの色が調和して美しいです

 今回は銀器を見ることが目的でもありますから、そこに集中しました。ジョージアン様式のシルバーを探していたのですが、店主に尋ねてみたら、残念ながらないとの返事。そのかわりに、ビクトリアンのシュガートンクの良いものがあり、購入しました。ベルリンでも一つ買いましたが、こちらは柄の部分にねじりと人物像が入り、繊細です。アフターヌーンティーなどで、これで砂糖を振ったらなんとも優雅ではないですか。もう一人の紳士に店主と記念写真を撮ってもらいました。


店主と記念撮影

 コッツウォルズにはこの他にも清らかな川の流れるボートン・オン・ザ・ウォーターなど、素敵な村がたくさんあります。


Bourton on the Water は可愛いティーハウスやお土産屋さんがたくさんあります

今回のシリーズは、アンティーク紀行ですので、次回はこの続きとロンドンの骨董市とすばらしい銀器のお店をご案内いたします。

骨董なんでも相談室
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