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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第61回 老いるオイルと老いないオイル(12)コレステロール

第50回から始まったシリーズ「老いるオイルと老いないオイル」では、脂質について基礎から詳細に知り、ご自身の食生活にどう活かせるか、考えていきます。

シリーズ12回目の最終回は、コレステロールと健康への影響について解説をします。

【コレステロールとは】

コレステロールは、私たちの体の中に存在する脂質のひとつで、細胞の膜や、ホルモン、胆汁酸を作る原材料となっています。コレステロールは体に良くないと考える人は少なくないと思いますが、体にとっては必要な脂質のひとつなのです。

「卵を食べ過ぎるとコレステロールの値が高くなりますよ」と言われたことがある方もいらっしゃるように、コレステロールは食事中から摂取しています。ただし、食事中から摂取しているのは体の中に存在するコレステロールのうち2~3割であり、残りの7~8割は糖や脂質を使って肝臓で合成されます。食事中からのコレステロール量が少ないときには、肝臓でコレステロールを合成することによって体内のコレステロール量が少なくなり過ぎないように調整しています。逆に、食事中のコレステロール量が多過ぎるときには、肝臓でのコレステロール合成を抑制することによって体内のコレステロール量が多くなり過ぎないように調整しています(図1)。

図1. 体内でのコレステロール量の調節
食事中のコレステロールが少ないときには
肝臓でのコレステロール合成が亢進し(左)、
食事中にコレステロールが多いときには
肝臓でのコレステロール合成が抑制される(右)

このような体内のコレステロール量の調節の仕組みを鑑みて、厚生労働省は、2015年に改定された「日本人の食事摂取基準(2015年度版)」において、それまで成人男性750mg、成人女性600mgを上限としていた食事からのコレステロール摂取目標量を撤廃しました。つまり、健康な人であれば、1日に卵何個まで、というようなコレステロールの摂取量を気にしなくても良いでしょうというわけです。ただし、血中コレステロール値の高い方、特にLDLコレステロールの値が高い方は、今まで通り、飽和脂肪酸やコレステロールの摂取量に気をつける必要があります。

【脂質の消化・吸収】

食事中から脂質を摂取すると、十二指腸で胆汁によって乳化(ミセル化)され、その後、膵臓からの消化酵素・リパーゼの働きによって分解されます。中性脂肪(トリアシルグリセリド)が分解されてできたモノグリセリド(グリセロールに脂肪酸が一つだけ結合したもの)や脂肪酸は、小腸から吸収されます。コレステロールは吸収されにくいため、膵臓で分解された後、モノグリセリドや脂肪酸、胆汁に含まれる胆汁酸やリン脂質などとともに「胆汁酸ミセル」という親和性の高い集合体を形成し、小腸から吸収されます。脂肪酸のうち、短鎖脂肪酸や中鎖脂肪酸は小腸から門脈を介して肝臓に運ばれ、エネルギーとして使用されますが(第59回「老いるオイルと老いないオイル(10)MCTオイルとMCTダイエット」参照)、それ以外は、中性脂肪、コレステロール、リン脂質とタンパク質が球状に結合した「カイロミクロン」を形成して肝臓に運ばれます。

【悪玉コレステロールと善玉コレステロール】

悪玉コレステロールは、LDLコレステロールのことを言います。前述のように、コレステロールは全身の細胞の膜を形成する材料であるため、全身に運ばれなければなりません。肝臓で作られたコレステロールは、LDLコレステロールとして全身に運ばれます。

一方、全身に運ばれた後、使われずに余剰となってしまったコレステロールは、肝臓に戻されます。全身から肝臓へ戻す役割を果たしているのが善玉コレステロール(HDLコレステロール)です。肝臓に戻された後、必要分は体内で再利用され、不必要となったものは体の外へ排泄されていきます(図2)。

図2. LDL(悪玉)コレステロールとHDL(善玉)コレステロール
食事から摂取し、小腸から吸収された脂質は肝臓に運ばれた後、LDL(悪玉)コレステロールとして全身に運ばれる。全身で使われなかった余剰分は、HDL(善玉)コレステロールとして肝臓に戻された後、体外へ排泄される

血液中に含まれる全てのコレステロールを「総コレステロール」と言いますが、これはLDLコレステロールとHDLコレステロールの総和です。LDL(悪玉)コレステロール値が高過ぎると、全身にコレステロールが運ばれ過ぎる結果、血管にもコレステロールが蓄積し、動脈硬化の危険性が高まりますし、HDL(善玉)コレステロール値が低過ぎても、全身から肝臓へコレステロールを戻す作用が低下してしまうため、血管にコレステロールが蓄積しやすく動脈硬化の危険性が高まってしまいます。このため、健康診断の結果は、LDLコレステロールとHDLコレステロールの値がそれぞれどの程度かを注意してみる必要があります。

LDLコレステロールが140mg/dl以上の場合は、高LDLコレステロール血症、120~139mg/dlの場合は、境界域高LDLコレステロール血症となり、高い方が動脈硬化の危険性が増します。また、HDLコレステロールが40mg/dl未満の場合には、低HDLコレステロール血症となり、低い方が動脈硬化の危険性が増します。すなわち、LDLは低く、HDLは高く保っておくのが良いとされます。HDLが高くても、LDLも併せて高ければ総コレステロールが高くなることになり、この場合にも動脈硬化の危険性が高くなることが明らかにされているため、注意が必要です。

【LDLコレステロールを上げないための食べ方】

LDLコレステロール値が高いことが気になっている方は、五大栄養素(糖質・脂質・タンパク質・ビタミン・ミネラル)をバランス良く食べられているか、いま一度気にかけてみましょう。その上で食物繊維を含む野菜類や豆類を意識して食べると良いでしょう。特に野菜は1日350g以上を食べることが推奨されています。緑黄色野菜を中心に食べるとなお良いと考えられます。また、大豆・大豆製品も動脈硬化を抑制する作用があるとされます。

脂質の摂り方もコレステロール値に影響します。既に「老いるオイルと老いないオイル」シリーズで解説したように、飽和脂肪酸(肉類に多く含まれる脂肪酸)の摂取量が多かったり、オメガ3多価不飽和脂肪酸(魚介類に多く含まれる脂肪酸)の摂取量が少なかったりすると動脈硬化を招きやすい状態になります。肉類を控えめにして魚介類を積極的に食べるように心がけましょう。

先に述べたように、健康な人(コレステロールの値に異常がない人)は、食べるコレステロール量によって肝臓が作る量をコントロールするため、さほど気にする必要はありませんが、既にコレステロール値が高い人にとっては、コレステロールを含む食品の摂取を控えるのも大切なことです。卵黄最もコレステロールを多く含む食品です。卵黄のほか、いくらやたらこなどの魚卵、あん肝や牛、豚、鶏のレバーなどの動物の肝にはコレステロールが多く含まれますので、食べ過ぎないように気をつけましょう。また、シュークリームやケーキなど、卵をたくさん使う洋菓子も食べる頻度や食べる量に気をつけると良いでしょう。

【LDLコレステロールに配慮したレシピ】

野菜類と豆類を積極的に食べ、肉類は控えめにすることでLDLコレステロールを上げないように心がけましょう。今回のレシピはひよこ豆と牛肉のトマトスープです。牛肉を使う場合、塊になっている脂身があれば、その部分を除いてからお使い頂くことで、飽和脂肪酸の摂取量を控えることができます。

(材料・4人分)
・ひよこ豆(乾燥) 100g
・牛肩ロース肉(塊) 200g
・塩 少々
・黒こしょう 少々
・玉ねぎ 1/2コ
・イタリアンパセリ 4~5本
・オリーブオイル 大さじ2
・にんじん 1/2本(80g)
・ターメリック 小さじ1/3
・パプリカパウダー 小さじ1/3
・チリパウダー 小さじ1/3
・トマトソース 1缶(300g程度)
・水 600ml
・トマト 1/2コ
・塩 小さじ2/3
・こしょう 少々
・イタリアンパセリ 少々

(作り方)

  1. 1)ひよこ豆は一晩水に浸けて戻し、やわらかくなるまで茹でます。
  2. 2)牛肉は1.5cm角に切り、塩とこしょうを振ります。
  3. 3)玉ねぎをみじん切りにし、パセリは粗く刻みます。
  4. 4)鍋にオリーブ油を入れて玉ねぎをじっくりと炒め、パセリと②、4~5mm厚さのいちょう切りにしたにんじんを加えます。
  5. 5)④に(A)を加えて炒め、トマトソースと分量の水を入れて煮込みます。
  6. 6)⑤に種を取ってすりおろしたトマトと①を加え、塩とこしょうを入れて煮込み、器に盛ってパセリを散らします。

【まとめ】

1年間にわたってシリーズで解説してきた老いるオイルと老いないオイル。脂質は私たちの体にとって必要不可欠なものであると同時に、その摂取の仕方(脂質の質)によって私たちの健康が大きく左右されることも学んで頂けたことと思います。少しでも皆様の健康に役立つ情報がありましたら嬉しく思います。油断大敵、油を絶たずにその質を変えて、健康にお過ごし下さい。

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