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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

食の安全について考える(4)生体異物とその代謝

2023年9月からは「食の安全について考える」というテーマを取り上げています。私たちは日々、食品を食べて生きており、食生活は、住んでいる場所や気候、個人の生活習慣、好き嫌い、経済状況などを反映しています。いかに食の安全を確保するかは、私たちの健康を左右する大きな要因のひとつです。本シリーズでは、食の安全について考え、ご自身の食生活をより豊かにできるよう、情報をお伝えしていきたいと思います。今月は、生体異物とその代謝について解説します。

【生体異物とは】

私たちは、食事から栄養素を摂取すると同時に、さまざまな化学物質も摂取しています。生体内に存在する化学物質のうち、自然には産生されないもの、または存在するはずのないものを生体異物と呼びます。

生体異物の中には、意図的に摂取するものもあれば、意図せず摂取するものもあります。食品添加物や農薬、環境汚染物質などが該当します。これらは、いかにも生体異物であると認識できますが、一方で、嗜好品として飲むアルコールや炭酸飲料、食欲増進の目的で食品に使われているフレーバー(香気成分)なども、生体異物に含まれます。また、グレープフルーツやシナモン、バニラに含まれるような独特な香気成分や、ゴーヤや緑茶に含まれる苦味成分、ジャガイモやコショウなどに含まれるアルカロイド成分と呼ばれる化学物質も生体異物です。すなわち、私たちは日常の食生活から無数の生体異物を取り込んでいると言えます。

日々、生体異物に晒されているにも関わらず、健康を維持できるのは、なぜでしょうか?それは、私たちの体に生体異物を不活性化するような代謝システムが備わっているからです。

【栄養素の代謝】

食事中から栄養素を取り込むと、口腔、食道、胃、十二指腸を通って小腸に運ばれ、小腸から必要な栄養素が吸収されます。吸収された栄養素は門脈を通じて肝臓に運ばれ、必要なものは肝臓から全身に循環して、各臓器で利用されます(図1、第62〜73回「栄養と代謝」シリーズ参照)。肝臓は、栄養素を全身に分配する役割から、栄養の中枢であると言えます。

図⒈ 栄養素の代謝
食事中から栄養素を取り込むと、消化管を通って小腸に運ばれる。小腸から吸収された栄養素は門脈を通じて肝臓に運ばれ、必要なものは肝臓から全身に循環して、各臓器で利用される。

【生体異物の代謝】

生体異物も栄養素と同様に、口から入ってきたものは食道、胃、十二指腸を通って小腸に運ばれます。しかしその後、全身に生体異物が入っていかないようにするためのシステムが各所に備わっています。

(小腸での異物代謝)

脂溶性(水に溶けにくい)異物を経口摂取した場合、小腸で、水に溶けやすく、吸収されにくい形に変換(代謝)されます。そのため、摂取量が少量である場合には、小腸から吸収されることはありません。

また、小腸には異物を排泄するためのポンプ(トランスポーター)が存在するため、小腸から吸収されてしまった場合でも、速やかに腸管に排泄し、私たちの体への侵入を阻害することができます。例えば、植物には植物ステロールという、コレステロールに似た化学物質が存在しますが、私たちの体は、コレステロールだけを選択的に吸収し、植物ステロールが入ってきたときには、ABCG5やABCG8といったトランスポーターを介して植物ステロールを体外に排泄するような仕組みが備わっています。

(肝臓での異物代謝)

脂溶性が高い物質の場合、あるいは小腸での異物代謝が十分に働かない場合、門脈を通じて肝臓に入ってきてしまいます。この場合には、肝臓での異物代謝システムが働きます。

肝臓における生体異物代謝は、2段階で行われます。まず、第一相反応として異物の酸化反応を行い、その後、第二相反応として、グルクロン酸、硫酸やグルタチオンと抱合(結合)することによって無毒化され、胆汁か血液へ排出されます。これらの反応で十分に水溶性となれば、全身循環を経て腎臓から排泄されることになります(図2)。

第一相反応を担う主要な酵素・シトクロムP450(CYP450と略します)は、ヒトでは50種類以上が存在し、異物代謝だけでなく、コレステロール、ステロイドホルモンの生合成や、胆汁酸、ビタミンD、脂肪酸などの代謝にも関与しています。

図2 生体異物の代謝
脂溶性異物が体内に侵入すると、肝臓では2段階の反応により、無毒化される。水溶性になった異物の代謝物や水溶性異物は、腎臓で濾過され、体外へ排泄される。

(腎臓での異物代謝)

腎臓には、血液の20〜25%が流入しており、毎日200リットルもの血液を濾過しています。水溶性異物や、肝臓で水溶性になり、血液を介して全身循環している代謝物は、腎臓で濾過(ろか)され、体外へ排泄されます。

【生体異物代謝の個人差】

生体異物の代謝は、どのCYP450酵素をどれだけ発現しているか、などの遺伝要因のほか、環境要因によって決まります。環境要因として知られているものは、アルコール摂取、発熱の有無、食事の種類、住環境、1日の照明時間、妊娠の有無などがあります。腸内細菌もまた、異物代謝の効果に影響することが明らかになってきています。

【まとめ】

今回は、生体異物とその代謝について解説しました。私たちは日々の食生活から、さまざまな生体異物を意識的・無意識的に摂取していることがお分かり頂けたと思います。また異物代謝には、肝臓や腎臓が主要な役割を果たすことから、肝臓や腎臓を健康な状態に保っておくこと、そして、肝臓や腎臓に負担をかけないように過ごすことが大切だと言えます。次回以降、生体異物について詳細に取り上げて解説していこうと思います。

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