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インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第3回 あなたの血管は欠陥だらけ!?

第3回は、血管の話。
「人は血管とともに老いる」といわれ、血管の老いは、全身の老いに反映されます。一般的に加齢とともに血圧が高くなり、高血圧や心臓病、脳梗塞などの動脈硬化症が発症しやすくなります。

日本人全体の死因の第1位はがん(28.7%)ですが、その次に大きな死因は動脈硬化症です。動脈硬化症に含まれる心疾患(15.2%)、脳血管疾患(8.7%)、大動脈瘤および解離(1.3%)による死亡率を合わせると25.2%となり、がんによる死亡率に匹敵するのです(図1)。ですから動脈硬化症を予防することは健康に長生きするための大きな鍵となります。

【動脈硬化とは?】

動脈硬化症とは何でしょうか?一言でいうと、動脈が弾力(しなやかさ)を失い硬くなることです。

体を流れる血液の量は、男性で体重の8%、女性で体重の7%です。すなわち、男性の場合、66kg(成人男性の平均体重)の人で5.28L、女性の場合、53kg(成人女性の平均体重)の人で3.71Lの血液が全身を巡っており、平均して1分間に5Lもの血液が心臓から送り出されて循環しています。これだけの血液が流れるためには、かなりの圧力が血管にかかります。この圧力に耐えられるように、 血管は、内側から内膜、中膜、外膜の3層で構成されており、内膜の表面は内皮細胞という細胞に覆われています(図2)。この構造によって、血管は頑丈かつしなやかに保たれているのです。
動脈硬化は、血管のうち動脈にコレステロールや中性脂肪が蓄積したり、高血糖や感染症によって内皮細胞が傷ついたりすることと、それを清掃・修復しようと呼び寄せられる「マクロファージ」という細胞が引き金で起こります。マクロファージは、血管の内側に溜まったコレステロールなどの不要物や傷ついて死んでしまった細胞を食べて清掃しますが、不要物を食べ過ぎると死んでしまいます。そこに死んでしまったマクロファージを清掃するための、新たなマクロファージが呼び寄せられます。これを繰り返している間、血管内では炎症が起こり、それを修復するために多くの免疫細胞が集積するため、血管内腔が徐々に狭くなり硬くなっていくのです(図2)。

【動脈硬化が引き起こす病気と原因】

動脈硬化によって血管が狭くなっても、一定量の血液を全身に送り届けなければいけませんので、その分より高い圧力がかかり、「高血圧」の状態になります。動脈硬化によって引き起こされる病気を「動脈硬化症」といい、以下のようなものがあります。

心臓 : 心肥大、心不全、心筋梗塞、狭心症
: 脳卒中、脳梗塞、脳血栓、脳出血、くも膜下出血
: 下肢閉塞性動脈硬化症
大動脈 : 大動脈瘤、大動脈解離

これらの病気は、働き盛りに突然発症することもあることから、社会的にも損失が大きく、死を免れても後遺症で苦しむケースが多くあります。血管の老いや動脈硬化は、加齢とともに避けられない現象ですが、食生活や生活習慣の改善によって進行を遅らせることができますので、食事による予防法を以下でご説明したいと思います。

動脈硬化を促進する因子として、コレステロールや中性脂肪が高いといけないことはよく知られています。悪玉のLDLコレステロールや中性脂肪が高い、あるいは善玉のHDLコレステロールが低い状態を脂質代謝異常症といい、これが動脈硬化を促進します(図3)。では、コレステロールや中性脂肪を食事中から摂らないようにしたらいいのかというと、そうではありません。コレステロールも中性脂肪も、私たちの体を維持するために必要なものだからです。ポイントは脂質の質を変えることです。

この他、肥満や糖尿病、喫煙習慣も動脈硬化を促進する危険因子です。喫煙を控え、肥満や糖尿病、脂質代謝異常症などにならないような食生活をすることで、動脈硬化の進行を防ぎ、動脈硬化による病気を予防しましょう。

【動脈硬化を予防するために】

牛肉や豚肉に含まれる長鎖飽和脂肪酸には、動脈硬化を促進するような作用があります。一方で、魚に含まれる不飽和脂肪酸には、動脈硬化を予防するような効果があります。EPA、DHAという言葉をお聞きになったことがあるかもしれませんが、これらは魚の油に含まれる不飽和脂肪酸です。EPAには動脈硬化を予防する以外にも、中性脂肪を下げる効果もあります。実際、福岡県は糟屋郡にある久山町の住民を対象に動脈硬化症について研究した、久山町研究という疫学調査があります。この研究では、魚をたくさん食べている人ほど、心臓病で亡くなる率が低くなることが報告されています。またDHAには、脳に働いて記憶力を向上させる効果がありますので、魚は、健康に生きるために積極的に食べたい食品のひとつです。

塩分の摂りすぎにも要注意です。高塩分は、高血圧のリスクが高まり、動脈硬化の原因になります。香辛料や香味野菜、酸味などを取り合わせたり、だしを使ったりして風味を楽しむことにより、塩分を控えることができます。

食事に気をつけ、喫煙を控え、運動をすることで、血管年齢を若く保ちましょう!

【動脈硬化症予防のための献立例】

サバのしょうがじょうゆ焼き 〜なます添え〜

サバをしょうがじょうゆに漬け込み、焼いただけの簡単レシピ。にんじんと大根のなますを添えました。

(栄養のポイント)
EPA、DHAを豊富に含む青魚は、動脈硬化の進展を防ぐために積極的に食べたい食品のひとつです。
酢には、血管を拡張させ血液の循環を促進することにより高血圧を予防する効果があります。また、酢を使うことで塩分を控えることができます。
筑前煮

れんこん、にんじん、 こんにゃく、干ししいたけ、鶏肉を油で炒めた後、かつおだしで煮た料理です。

(栄養のポイント)
野菜不足は動脈硬化を促進します。根菜類やこんにゃくには食物繊維が豊富に含まれ、血液中の余剰なコレステロールや老廃物などを排泄する効果があります。
にんじんに含まれるカロテンというビタミンAは、油で炒めることによって吸収率が良くなります。
かつおだしを効かせることで、塩分を控えるようにしましょう。
ほうれん草と柿の白和え

茹でたほうれん草と刻んだ柿を豆腐と白ごまで和えた料理です。

(栄養のポイント)
ほうれん草と柿にはビタミンCが、白ごまにはビタミンEが豊富に含まれます。ビタミンCとビタミンEには抗酸化作用があり、動脈硬化を予防します。
豆腐には良質のタンパク質が含まれます。魚と豆腐を取り合わせて、バランスの良いタンパク質源となります。
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