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インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第4回 いまさら聞けないメタボリックシンドローム

第4回は、メタボリックシンドロームについて。 「メタボ」という言葉が定着し、公的医療保険に加入している40~74歳を対象にした「メタボ健診」が開始されて10年を迎えようとしています。「メタボって何?」と、いまさら聞けないという人も多いのでは?「メタボ」とは、「メタボリック(代謝)シンドローム(症候群)」の略であり、内臓脂肪型肥満に脂質代謝異常や高血圧、高血糖が組み合わさることによって、心臓病や脳卒中などの動脈硬化症を招きやすい状態になることを言います。

前回、日本人の死因の1/3を占めるのが、動脈硬化による病気であることを述べました(第3回「あなたの血管は欠陥だらけ!?」参照)。動脈硬化を進展させる危険因子としては、コレステロールや中性脂肪の値が高い高脂血症だけでなく、高血圧や糖尿病、肥満なども挙げられます。脂質代謝異常、高血圧、糖尿病、肥満の4つの危険因子を全く持たない人と比べると、ひとつでも持っている人は、動脈硬化症を発症するリスクが約5倍になります。さらに、危険因子を3つ以上持っている人は、動脈硬化症を発症するリスクがなんと、約36倍にもなるという研究結果が報告されているのです!

それぞれの危険因子が軽度であっても、複数重なることによって飛躍的に危険度を増してしまうので、メタボリックシンドロームにならないように対策することが大切です。

【メタボリックシンドロームの診断基準】

2008年からスタートした「特定健診・特定保健指導」、いわゆる「メタボ健診」。対象となっている40~74歳のうち、男性の2人に1人、女性の5人に1人がメタボリックシンドロームの該当者、あるいは予備軍であると考えられています。

日本では、ウエスト周囲径(おへそ周りの腹囲)が男性85cm、女性90cm以上(内臓脂肪面積が100㎠以上に相当)で、脂質代謝異常、高血圧あるいは高血糖の3つのうち2つ以上が当てはまるとメタボリックシンドロームと診断されます(図1)。ウエスト周囲径が基準値以下であっても、内臓脂肪面積が100㎠以上である可能性もありますので、正確に知るためにCTスキャンで内臓脂肪面積を測定する場合もあります。

【内臓脂肪と皮下脂肪】

体脂肪には「内臓脂肪」と「皮下脂肪」があり、どちらも余剰のエネルギーを貯蔵しておくための臓器です。内臓脂肪は、その名の通り内臓の周りにつく脂肪のことです。腸を支える腸間膜につくため、つまもうと思ってもつまめません。内臓脂肪型の肥満は、ポッコリとお腹が出た「リンゴ型」の体型となり、男性に多く見られます。一方、皮下脂肪は、腰回りやおしり、太ももなどにつく脂肪で、つまむことができます。皮下脂肪型肥満は、下半身に脂肪がついた「洋ナシ型」の体型となり、女性に多く見られます。

メタボリックシンドロームは、内臓脂肪症候群とも呼ばれており、上記の診断基準の中にもウエスト周囲径あるいは内臓脂肪面積があるように、内臓脂肪が増えることが危険なのです。 そのため、メタボリックシンドロームの診断基準では、男性のウエスト周囲径の方が女性よりも小さく設定されているのです。

このように、内臓脂肪は貯め込みたくない脂肪ですが、皮下脂肪と比べると比較的減りやすい脂肪でもあります。食事に気をつけ、運動を取り入れることによって成果が出やすいので、ベルトの穴がひとつ大きくなったというあなたも、日々の生活を少し改善するだけでメタボ対策ができるでしょう。

【脂肪組織から分泌されるアディポサイトカイン】

脂肪組織は、単にエネルギーを貯蔵しておくための臓器であるだけでなく、「アディポサイトカイン」と呼ばれる様々な物質を分泌することが近年の研究からわかってきました。アディポサイトカインには、たくさんの種類がありますが、体に良い働きをする「善玉」と体に悪影響を及ぼす「悪玉」があり、体重が適度な人は、善玉アディポサイトカインが多く存在しています。一方で、肥満が進行すると悪玉アディポサイトカインが増え、全身の様々な臓器に弊害を及ぼすことによって、脂質代謝異常や高血圧、高血糖などを引き起こして、動脈硬化の発症リスクを高めてしまいます。

【メタボリックシンドロームを予防するために】

内臓脂肪をためないようにするために、食べ過ぎは禁物です。特に、エネルギーになる食品(炭水化物、タンパク質、脂質を含む食品)を食べ過ぎて、運動しないでいると、どんどん余剰のエネルギーが脂肪として蓄えられてしまいます。野菜不足に気をつけて、バランス良く食べましょう。 毎晩晩酌は欠かせないという方は、ご飯一杯を控えるなど、カロリー過多にならないように気をつけましょう。お腹が一杯になるまで食べてしまう方は、誰かと一緒に話しながら食べることで、よく噛み、ゆっくり食べることができるので、少量で満腹感を感じられることでしょう。

また、適度に運動を取り入れることが大切です。ビール1本(350ml)のエネルギーを消費するためには、30分以上のジョギングや30分以上の水泳をする必要があります。エネルギーを効率良く消費するためには、筋肉をつけることが大切です。姿勢良くすることでインナーマッスルが鍛えられます。毎日少しずつでもいいので、意識して生活しましょう。

【メタボリックシンドロームを予防する献立例】

魚介のパエリア

少量のオリーブオイルでにんにくと玉ねぎを炒め、米とアサリやエビ、イカなどのたっぷりの魚介を炊き込んだスペインのご飯料理。レモンを絞ると、爽やかな地中海の味に仕上がります。

(栄養のポイント)
アサリやエビ、イカなどの魚介類は、高タンパク質で低脂質ですので、筋肉をつけたいけれど、エネルギーを摂り過ぎたくない方におすすめの食材です。
アサリに含まれるビタミンB群には代謝を促進する効果が、亜鉛にはイライラを防止する効果があります。
ガスパチョ

トマト、玉ねぎ、パプリカ、きゅうりに塩、こしょう、酢、レモン汁などの調味料を加えてミキサーにかける冷製スープです。

(栄養のポイント)
飲むサラダと言われるほど、野菜たっぷり、栄養満点のスープです。
加熱しないので、壊れやすいビタミンCをそのままとることができて美容効果もバツグンです。
にんじんのオレンジマリネ

千切りにしたにんじんを、にんにくの香りをつけたオリーブオイル、塩、オレンジと酢のドレッシングで和えたサラダです。

(栄養のポイント)
にんじんは、緑黄色野菜の王様と呼ばれるほど栄養満点な野菜です。βカロテン(ビタミンA)、ビタミンB群のほか、食物繊維が豊富なので、抗酸化作用や代謝促進作用、整腸作用があります。
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