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インターネット公開文化講座

文化講座

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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第7回 高血糖と糖尿病

第6回では、色と機能が異なる3種類の脂肪があり、白色脂肪は主にエネルギーを貯蓄する機能、ベージュ脂肪や褐色脂肪は主に脂肪を燃やす機能があることを述べました(第6回「3色の脂肪」参照)。肥満になると脂肪細胞から分泌されるホルモンのバランスが崩れ、血糖値が高くなったり、メタボリックシンドロームを発症しやすい状態になったりするので(第4回「いまさら聞けないメタボリックシンドローム」参照)、脂肪を燃やす能力を高めることにより、体脂肪を分解して太りにくい体質を作ることは、メタボリックシンドロームや動脈硬化症の予防にとても重要です。今回は、メタボリックシンドロームのひとつである高血糖と糖尿病について解説し、最近よく耳にする「糖質制限」についてもふれたいと思います。

【糖尿病とは】

いまや、日本人にとっての国民病とも言える糖尿病。厚生労働省の平成28年「国民健康・栄養調査」の結果、「糖尿病が強く疑われる者」の割合は12.1%、「糖尿病の可能性を否定できない者」の割合は12.1%でした。糖尿病にはⅠ型とⅡ型の2種類ありますが、どちらも「インスリン」というホルモンが正常に働かず、糖質を体の中で消費することができないために、血糖値が高くなってしまいます。インスリンは、すい臓から分泌されるホルモンで、食事によって血液中の糖分量が多くなると体の各所(筋肉、肝臓、脂肪など)に指令を出し、効率良く消費させる役割を果たします。それゆえ、インスリンが正常に働かないと血糖値の上昇を抑制できず、糖尿病になってしまうのです。Ⅰ型は、自己免疫疾患のひとつで、自分のすい臓を敵であると認識して攻撃してしまうため、インスリンそのものが作られなくなってしまいます。一方、日本人の糖尿病の95%以上はⅡ型糖尿病です。Ⅱ型糖尿病の発症には、遺伝的な要因の他に環境的な要因、すなわち、ストレスや食べ過ぎ、運動不足などの生活習慣の乱れが大きく関わっています。

【糖尿病が進行すると】

血糖値が高い状態が続くと、血液がドロドロになり、血管が傷つきやすい状態になります。特に、細い血管が傷つくことによって糖尿病網膜症や糖尿病腎症を、神経が傷つくことによって糖尿病神経障害を発症します。これらは糖尿病の三大合併症と言われ、高血糖の早期の症状として発症する確率が高い合併症です。網膜症を放置すれば失明する可能性がありますし、腎症を放置すれば腎臓が機能しなくなり、人工透析が必要となります。また、神経障害により手足がしびれたり、痛みを感じなくなったりしますが、放置すると末端の細胞が死んでしまうため、足の切断を余儀なくされる可能性があります。さらに高血糖状態が続くと、毛細血管のみならず、太い血管にも影響を与えるため、動脈硬化症を発症する場合もあります(図1)。

日本人を含むアジア人は、欧米人と比べてインスリンを分泌する能力が低いので、糖尿病になりやすいです。ちなみに、欧米人はBMI30以上を肥満と定義しますが、日本ではBMI25以上を肥満と定義します。これは、日本人が欧米人ほど太らなくても、糖尿病になりやすいことが理由なのです(BMIは、第5回「異常な脂肪蓄積は死亡への入り口」参照)。

【糖質制限ダイエットとは】

糖尿病、特にⅡ型糖尿病は生活習慣の乱れによる影響が大きいので、生活習慣を改善することによって糖尿病を予防することができます。最近、「糖質制限ダイエット」とか「ロカボダイエット」という言葉をよく耳にしますが、これらは一体何なのでしょうか?「ロカボ」とは、「ローカーボハイドレイト(low carbohydrate=低炭水化物)」のことで、「糖質制限」も「ロカボ」も「低糖質」も、基本的には、糖質の摂取量を少なくすることによって、血糖値を上げにくくすることが目的です。「ダイエット」は食事のこと。単に「やせる」という意味でよく使われがちですが、本来は何かの目的のために食べる食事のことを「ダイエット」と言います。すなわち、「糖質制限ダイエット」とは「糖尿病予防や肥満予防のために糖質量を少なくした食事」を意味します。

【糖質制限ダイエットはカロリー制限とは異なります】

栄養素は大きく5つに分けられます(図2)。糖質、脂質、タンパク質、ビタミン、ミネラルです。このうち、糖質、脂質、タンパク質は三大栄養素と呼ばれ、主に体の構成に役立ちます。一方、ビタミンとミネラルは主に、三大栄養素が体の中で代謝されるときに補助をする役割を担います。三大栄養素がどれだけ含まれるかによって、食事のカロリーが計算されます。厚生労働省は、糖質:脂質:タンパク質を60:25:15で摂取することを基準としているので、総カロリーの60%を糖質から摂取するのが現在の摂取基準です。しかし糖質制限ダイエットでは、糖質摂取量を1/3以下、すなわち、総カロリーの20%に抑えることが効果的であると言われています。糖質制限ダイエットは、総カロリー量を変える必要はなく、糖質のみを制限する食事のことであるので、糖質、脂質、タンパク質の全ての摂取量を減らすカロリー制限とは異なります。それゆえ、糖質制限ダイエットでは、糖質を減らすかわりに脂質とタンパク質の量を増やす必要があります。糖質を減らすけれど、脂質やタンパク質の量はそのままにしてしまうと、カロリー不足になり栄養不足になってしまいますので、注意が必要です。

【糖質制限で気をつけるべき点】

糖質を含む食品には、ご飯、パン、麺類、果物、イモ類、砂糖を使ったデザート、清涼飲料水などがあります。この中で、何も気にせず食べることをやめてもいいのは、砂糖を使ったデザートと清涼飲料水です。ご飯やパン、麺類、果物、イモ類には糖質以外にも食物繊維やビタミンなど、体に必要な要素もたくさん含まれますので、これらを一切絶ってしまうと、食物繊維不足で便秘気味になったり、腸内環境が悪くなって体調を崩したりする可能性があります(図2)。また、ビタミン不足にもなりがちです。糖質制限するときには、野菜や海藻なども忘れずに、むしろいつもよりも多めに食べることを心がけましょう。

もう一点重要なことがあります。誰もが糖質制限ダイエットを取り入れても良いというわけではないということです。特にⅠ型糖尿病の方、腎臓の機能が弱っている方は、病状が悪化する可能性がありますので、糖質制限はしてはいけません。その他の方も、極端に糖質制限をすることにより、イライラしたり、気分が悪くなったり、集中力がなくなることがありますので気をつけましょう。先ほど述べたように、推奨される糖質制限は糖質を30%以下に抑えることですので、例えば毎食白飯を1杯食べるという方は3食のうち1食のみにするというような、無理のない範囲で行うことをおすすめします。

【食べる順番を考えましょう】

糖尿病を予防・改善するためには、糖質を控えることも大切ですが、糖質を控えるのはストレスのもとでもあります。白飯を食べたいし、パンや麺類も、時々は食べたいもの。食生活を大きく変えることは大変ですが、食べる順番に気をつけることで、血糖値の上昇を緩やかにすることができます。まず、血糖値の上昇を抑えるような食品を食べます。例えば、食物繊維を豊富に含む野菜類、きのこ類、海藻類などです。これらの食品は糖質の吸収を抑制するので、緩やかに血糖値を上げる効果があります。その次に、肉や魚、卵、豆類などのタンパク質を食べましょう。そして、最後にご飯やパン、麺類やデザートなどの糖質を食べるようにしましょう。そうすることで、食べ過ぎや急激な血糖上昇を防ぐことができます。

【糖尿病を予防する献立例】

カポナータ

にんにく、玉ねぎ、なす、ズッキーニ、パプリカなどの野菜をオリーブオイルで炒め、トマトを加えて煮込んだ料理。イタリア・シチリアが発祥の料理です。仕上げにバジルの葉を散らし、パプリカは赤や黄色など使うとカラフルに仕上がり食卓が明るくなるでしょう。

(栄養のポイント)
野菜たっぷりなので、病気知らずの煮込み料理とも言えます。特に糖質制限ダイエットをするときには野菜不足になりがちですので、しっかり野菜を食べましょう。
血液サラサラ効果のある玉ねぎ、ビタミンたっぷりのパプリカ、利尿作用のあるなすやズッキーニを含み、食物繊維も豊富です。
トマトケチャップは糖質を含むので、煮込み用のトマトは生のトマトやホールトマト缶を使うと良いでしょう。
イワシの香草パン粉焼き

イワシの頭と腹わたを除いて手開きし、塩、こしょう、小麦粉を軽くまぶします。溶き卵にくぐらせて、バジルやシソなどの香草を混ぜたパン粉をまぶして、オリーブオイルで焼く料理です。アジでも同様に作ることができます。

(栄養のポイント)
イワシやアジなどの青魚には、動脈硬化予防効果のあるEPAや認知症予防として知られるDHAが豊富に含まれます。
パン粉に香草だけでなく粉チーズを混ぜることによって、カルシウムの補給にもなるでしょう。
魚のトルティージャ

スズキやタラなどの白身魚を焼いてほぐします。溶いた卵に魚と細かく刻んだ赤パプリカとネギを混ぜてフライパンで焼くスペインのオムレツです。

(栄養のポイント)
タンパク源を魚と卵の両方で摂ることにより、たっぷりとタンパク質を摂ることができ、またバランス良くアミノ酸を摂取できます。
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