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インターネット公開文化講座

文化講座

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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第21回 歯の健康から始めるエイジングケア

これまで、様々な病気について解説をし、病気を予防するための食べ方や献立例を紹介してきました。健康な食事をおいしく食べるためには、健康な歯を保つことが大切です。そこで今回は、歯の健康について解説します。

【歯と口の役割】

健康な歯と口を保つことは、食べるために必須です。食べるためには歯で噛み砕き(咀嚼:そしゃく)、飲み込む(嚥下:えんげ)という一連の動作が必要です。食べ物や飲み物は、唇、歯、舌、頬が協調して働くことによって細かくされて、口の中で消化を受けて、消化管に運ばれます。口の中では、細かくされた食べ物や飲み物が舌の上に存在する味蕾(みらい)に作用し、味覚として脳に伝えられます。基本は、甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の5味ですが、これに匂いや歯触り、舌触り、温度、色などの風味を合わせて、食べることを楽しむことができるのです。

咀嚼は顎の骨や顎の周囲の筋肉を強くするだけでなく、表情筋を鍛え、表情を豊かにします。また、きれいに清掃された歯や歯肉、整った歯並びは美しさにもつながり、素敵な笑顔につながることでしょう。さらに表情が豊かになることで話したり、歌ったりとコミュニケーションが活発になるでしょう。

歯が強くなると、運動能力も高まります。「歯をくいしばる」と言うように、力を入れるときには丈夫な歯が必要になりますし、バランスをとるにも歯が重要です。これに関連して、最近では健康な歯が生活習慣病やがんを予防することもわかってきました。

このように、美しさと若さと健康を維持するために、歯と口の機能を健康に保つことが大切なのです。

【8020運動とは】

「生涯、自分の歯で食べる楽しみを味わえるように」との願いを込めて、1989 年、厚生省(当時)と日本歯科医師会は8020運動を開始しました。ハチマルニイマル運動と呼び、80歳になっても20本以上自分の歯を保とう、という運動です。8020運動が始まってから今年で30年を迎えるわけですが、運動開始時には1割も満たなかった8020達成者が、2017年には5割を超えるほどに増えました。

ここで、お口の健康自己チェックをしてみましょう。いくつあてはまるか、数えながらチェックしてください。(8020推進財団ウェブサイトより)

  • 毎年1~2回、歯医者さんで歯科検診を受けていますか?
  • 歯医者さんで定期的に歯面清掃や歯石除去を受けていますか?
  • 虫歯や歯周病などは、処置済みですか?
  • 歯医者さんに通い始めたら、治療が完了するまで通い続けますか?
  • 現在、28本の全てが自分の歯ですか?
  • 差し歯や入れ歯を含めば、歯が28本全て揃っていますか?
  • 歯周病(歯肉炎や歯周炎)の兆候がなく、健康な歯茎を保っていますか?
  • 歯並び、噛み合わせ、歯ぎしり、口臭などの悩みのない良好な状態ですか?
  • 食後はもちろん、間食後も必ず歯磨きやうがいをしていますか?
  • 歯ブラシだけでなく、歯間清掃用具も使っていますか?

いくつあてはまったでしょうか? 歯の健康に留意して頑張って頂きたい方ほどあてはまる数が少なく、8020達成者になれる可能性の高い方ほどあてはまる数が多いでしょう。

1~2個の方:残念な結果です。歯医者さんへ行って歯の健康診断を受け、問題をひとつずつ解決していきましょう!
3~4個の方:要注意。このままでは口のトラブルが頻発し、将来歯を失っていくことに...。口の健康への関心を高めて、生活習慣を見直してみましょう!
5~7個の方:口の健康に関心はあるものの、実践ができていないのでは?歯医者さんの指導を家庭で実行すれば8020も達成できる可能性大!
8~10個の方:口の健康に意識が高く、実行力に富んだ方です。満点を目指して頑張りましょう!

【虫歯と歯周病】

(虫歯)
虫歯菌は甘いものが大好きです。糖質を栄養にしてネバネバした物質を作り、食べ物のカスとともに歯垢(しこう、プラーク)を作ります。歯磨きを忘れると、歯の周りにベタベタとした白いものがまとわりつくことがありますが、これがプラーク。プラーク1mg中(1mgは1gの1/1000)には700種類以上、10億個以上の細菌が存在しています。

通常、口の中は弱酸性に保たれていますが、虫歯菌が増えて酸を作ると、硬い歯の表面をコーティングしているエナメル質が溶かされ、その部分に穴が空いてしまいます。これが虫歯の始まりです。この後放置してしまうと、虫歯菌は内部へと進行していき、象牙質というエナメル質の下の部分や歯髄(しずい)という血管や神経が集まる部分にまで到達します。そうなってしまうと痛みも強くなり、治療も大変になります。

(歯周病)
虫歯は、虫歯菌の感染によって歯自体が溶かされて進行するのに対し、歯周病は、歯周ポケットという歯と歯肉の境目の溝に歯周細菌が感染して歯を支える歯槽骨(しそうこつ)が溶かされることによる炎症です。

健康な歯肉はピンク色で硬く、出血がない状態ですが、歯周病が進行すると、歯肉が赤く丸くなってブヨブヨと柔らかくなったり、歯磨きの刺激でも出血したりします。さらに進行すると、歯を支えられなくなって歯がぐらついたり、抜けてしまったりすることがあります。

歯茎に赤く腫れた部分がある人、歯茎がやせてきたように感じる人、歯と歯の間に食べ物が詰まりやすくなってきた人、歯磨きの後に出血がある人、歯茎から膿(うみ)が出たことがある人、グラつく歯がある人、口臭が気になる人などは、早めに歯科医の先生に相談しに行きましょう。早めに治療を開始することが健康な歯を保つ秘訣です。

【どうして虫歯や歯周病になるの?】

虫歯や歯周病の原因としては、虫歯菌が口の中にたくさん残ってしまうこと、歯並び、唾液の量があります。これに関連して、喫煙やストレスがあると、唾液が少なくなり口の中が乾燥しやすくなるために虫歯や歯周病になりやすくなりますし、不規則な生活などの生活習慣の乱れも虫歯のなりやすさに影響します。最近では老化や遺伝子などの影響に加えて、糖尿病や肥満、骨粗しょう症などの生活習慣病があると虫歯や歯周病になりやすいこともわかってきています(図1)。一方で、歯周病があると、糖尿病や動脈硬化性疾患のリスクが高まったり、感染症による悪影響を受けやすくなったりすることも明らかになってきています。

特に、歯周病と糖尿病については研究が進んでいます。歯周病があると慢性炎症として血糖コントロールに悪影響を及ぼし、歯周病が悪化するほど糖尿病が悪化することが報告されています。一方で、糖尿病患者が歯周病治療をすることによって、血糖値が改善することも報告されており、歯の健康を保つことが全身の健康を保つことにつながると考えられています。

【虫歯や歯周病を予防するために】

・歯垢を除去しましょう
虫歯を予防するためには、虫歯の原因となる虫歯菌と虫歯菌を含む歯垢をしっかり除去することが大切です。毎食後に歯磨きをして常に口の中を清潔に保つことが大切です。歯ブラシで不十分なものは歯間ブラシやフロスを用いて、しっかりと除きましょう。

・規則正しい生活をしましょう
間食が多く、ダラダラと食べていると、歯みがきの回数が少なくなり、口の中が酸性に傾きますので、虫歯ができやすくなります。決めた時間に食事を食べ、すぐに歯磨きをするのが理想的です。

・フッ素入り歯みがき剤を使いましょう
フッ素には歯の分解を抑制して、歯の形成を促進する効果があります。

【よく噛んで食べることのメリット】

よく噛んで食べましょう、と言いますが、その理由は何でしょうか?現代人は食事中に噛む回数が少ないということがわかっています。そのせいでしょうか、食事の時間も短くなり、顎の形も細くなってきています。よく噛むことには次のようなメリットがあると言われています。いつもよりよく噛むように意識して食事をすると歯と口の健康、そして体の健康を向上できるかもしれません。

・肥満防止
満腹感が得られるので、食べ過ぎや肥満の予防につながります。

・味覚の発達
よく噛むことで、食べ物の味を感じやすくなります。

・言葉の発音の向上
よく噛むことで、咀嚼筋や表情筋が鍛えられるため、表情が豊かになり、滑舌もよくなります。

・脳の活性化
脳の血流が活発になります。あごの運動が脳に刺激として伝わり、記憶力や集中力が高まります。子どもの知育を助け、高齢者は認知症の予防にもつながるでしょう。

・歯の病気を予防
よく噛むと唾液がたくさん出るので、口の中をキレイにし、虫歯や歯周病を防ぎます。

・がん予防
唾液には、発がん物質を分解する酵素が含まれていると言われています。

・胃腸の働きを促進する
唾液には消化酵素が含まれるので、よく噛んで口の中で消化することによって、胃腸に負担をかけません。

・全身の体力向上と全力投球
よく噛んで筋肉を鍛えることで歯をくいしばることができ、全身に力を入れることができます。

【唾液の役割】

人は1日に1~1.5リットルの唾液を分泌します。唾液には、口の中を酸性に保って、虫歯菌の増殖を防いだり、食べカスなどが口の中に残りにくくしたりする役割があります。また、歯の修復を促し、粘膜の保護や義歯の安定にも役立っています。唾液の中には消化酵素が含まれているので、食べ物の消化を促進してうま味を感じやすくする効果がありますし、口臭予防にも大切です。

口臭は、舌の上に死んだ虫歯菌や食べカスが溜まることによってできる舌苔(ぜったい)が原因になることがあるため、歯磨きの際には、歯ブラシで舌の上を軽く擦ることが推奨されていますが、激しく舌の上を磨きすぎると、唾液が少なくなり、口の中の乾燥から、かえって口臭がきつくなる可能性がありますので注意が必要です。

また、年齢を重ねるごとに唾液量が少なくなってきます。唾液を十分に出すためには、高塩分や香辛料、カフェインなどの刺激物が少ない方が良いでしょう。逆に酸味のある食べ物は唾液の分泌を促します。うがいをするときにはアルコールを含まないものを選ぶようにしましょう。唾液腺を刺激するマッサージを擦るのも良いでしょう。耳の前・奥歯のあたりをクルクルとマッサージしたり、親指で顎の下を押したりすると唾液腺が刺激されます。

【歯と口を健康に保つための献立例】

ハーブチキンのグリルステーキ

鶏もも肉に切り込みを入れ、みじん切りにしたローズマリー、バジルなどお好みのハーブ、にんにく、パプリカなどでマリネします。フライパンまたは魚焼きグリルで10分ほど焼いたチキンのステーキです。

(栄養のポイント)
丈夫な歯にはタンパク質が欠かせません。鶏肉や魚など、脂質の少ない良質のタンパク質を食べましょう。
ハーブを使うことで風味が豊かになり、塩分を控えることができるでしょう。
ガパオライス

タイの定番料理です。豚ひき肉と玉ねぎ、ピーマン、黄パプリカ、赤パプリカなどをにんにく、しょうが、干しエビ、バジルと共に炒めます。ポイントはナンプラー、オイスターソースを使うこと。エスニックな味に仕上げて白ご飯にかけて食べます。

(栄養のポイント)
野菜をたっぷり食べることができる料理です。タンパク質を効率良く歯の成分にするため、ビタミンAやビタミンCを摂ることが大切ですが、パプリカにはどちらも含まれます。
豆乳プリン

豆乳と牛乳を混ぜて、ゼラチンと寒天で固めたプリンです。

(栄養のポイント)
豆乳からは植物性のタンパク質を摂ることができます。
牛乳にはカルシウムが含まれ、丈夫な歯を維持するのに役立ちます。
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