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予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第1回 「食」は生きる基本

はじめまして。医学博士で食医学者の伊藤綾香と申します。 食・栄養・健康・医学に関して、大学で研究を遂行しつつ、料理教室や市民講座などで啓蒙活動をしております。本講座を通じて、予防医学としての食の大切さをお伝えできればと思っております。よろしくお願い申し上げます。


大学研究室での研究の様子


料理教室で指導する様子


料理教室で講義をする様子

早速ですが、あなたにとって「食」とは何ですか?空腹を満たすためのもの?健康を維持するためのもの?家族や友人との時間を楽しむためのもの?

「You are what you eat」という英語のことわざがありますが、これは、「あなたはあなたが食べたものである」という意味です。わたしたちの身体は60兆個の細胞から成り立っており、血液の成分である赤血球は120日(約4ヶ月)、皮膚を構成する表皮細胞は約1ヶ月、消化管上皮細胞は3〜4日で生まれ変わります。すなわち、わたしたちの身体は日々生まれ変わっているのであり、健康な食生活をすれば健康な身体やこころを作ることができるでしょうし、不健康な食事が続けば 病気になりかねないのです。

今や日本は世界一の長寿国であり、厚生労働省によって公表された2015年の平均寿命は、男性80.75歳、女性86.99歳。100歳以上の人口が、6万人を超えています。一方で、健康寿命とは、2000年にWHO(世界保健機関)によって提唱された概念で、寝たきりなどの健康上の問題がなく、自立して日常生活を送れる状態のことをいい、日本人の健康寿命も、世界トップの水準にあります。

しかしながら、平均寿命の延びに健康寿命の延びが追いついていないのが現状です。2013年時点の健康寿命は、男性71.19歳、女性74.21歳であり、平均寿命と健康寿命の差が、男性では9.56年、女性では12.78年もあります。すなわち、約10年、あるいは13年は寝たきり、あるいは要介護の状態になることを意味しています(図1)。 医療費や介護費が増加の一途を辿る今、いかに健康寿命を延ばすかは、国をあげた大きな課題となっています。

寝たきりや要介護の原因を見てみると、関節疾患や骨折・転倒、高齢による衰弱など、骨や筋肉の衰えによるものが最も多く37.1%、脳血管疾患や心血管疾患によるものが21.9%、認知症によるものが16.4%となっています(図2:2013年厚生労働省「国民生活基礎調査」)。このような寝たきりや要介護の原因を回避することによって、より健康に長生きすることができると考えられます。

「食」は、わたしたちの生命活動を維持し、健康な身体を作るために必要不可欠である一方、「食」の記憶はわたしたちの嗜好を決定したり、ある時の出来事を鮮明に追想したりします。また、わたしたちは「食」を通じて、家族や友人、恋人と会話や時間を楽しみ、 人生に彩りを与えるものでもあります。「食」は生きる基本であると言えるのです。

骨や筋肉の衰えはどうして起こるのか、脳血管疾患や心血管疾患はどうして起こるのか。次回以降、病気の発症メカニズムに対する理解を深めながら、美味しく楽しく食べて、美しく健やかに生きるための秘訣を紹介してまいりたいと思います。

予防医学としての食を学ぶ
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