愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

予防医学としての食を学ぶ

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第18回 時間栄養学 ~体内時計に基づく理想的な食べ方~

前回は、睡眠について述べました。快適な睡眠を得るためには、規則正しくリズムを刻むことが大切であり、トリプトファンを含む乳製品や魚肉類のようなタンパク質と共に、炭水化物とビタミンを取り入れたバランスの良い食事によっても睡眠の質を高められることを紹介しました(第17回「快眠生活で健康に!」参照)。特に、朝食にトリプトファンを含む食事を取り入れると、夜に効率良く睡眠誘導ホルモンが作られ、眠りを誘導することができます。すなわち、いつ、何を食べるかが大切だということです。今回は、「いつ何をどのように食べるのか」に着目しながら健康を保つ秘訣をお伝え致します。

【時間栄養学とは】

わたしたちの体には1日24〜25時間の周期でリズムを刻む体内時計が備わっています。体内時計は、単に朝になると起きる、夜になると眠くなる、一定時間におなかが空く、という現象だけでなく、食べたものを消化・吸収しやすい時間帯、筋肉を作りやすい時間帯なども決めています。「時間栄養学」とは、体内時計に基づいて、いつ何をどれだけ、どのように食べたら良いかという栄養学で、近年注目を集めています。

【体の中の1日の変化】

わたしたちの体は、昼夜のリズムに合わせて、体の中でも大きな変化が起こります。例えば、第16回でもお話ししたように、日中、起きているときは緊張感があり、交感神経が活発化している一方、寝ている間はリラックスしている状態であり、副交感神経が活発化しています(図1、第16回「自律神経を整える」参照)。

このほか、経験的に知っている人も多いかもしれませんが、体温は起床後から徐々に高くなり始め、午後2時頃にピークを迎えて、就寝時間頃には最低値となります。夜になると消化吸収能力が低くなるため、夜ご飯を食べ過ぎたり、お酒を飲み過ぎたりすると太りやすくなることを経験している人もいるでしょう。

また、体温の上昇に合わせて肺活量や筋力の増加・増強が起こり、運動能力が高まります。すなわち、運動をするならば、午後の運動能力が高い時間に行うのが理想的であると言えます。一方、運動をするためには、酸素の供給が必要です。酸素を体中に供給するためには鉄分が必要ですが、午前中には鉄分が多く利用されてしまいますので、朝食あるいは昼食に鉄分をしっかり食べておくことが運動能力のさらなる向上につながります。特に、活動を始める朝食に良質のタンパク質を食べると血液中の鉄分量が増えやすいという報告もありますので、朝食にタンパク質(魚、肉、大豆製品、卵、乳製品など)と鉄分(ほうれん草などの緑黄色野菜、海藻、レバー、魚など)を食べると良いと考えられます。

さらに、午後には記憶力が高まるので、集中して仕事や勉強に取り組むのに適した時間帯であるとも言えます。深夜には免疫細胞数が増えたり、「寝る子はよく育つ」というように成長ホルモンの分泌が増えたりするので、質の良い睡眠をとることが大切です。

【体内時計に基づく食べ方】

前項でも述べたように、わたしたちの体の中で起こっている変化を知ることで、運動能力や学習能力を高めることができます。肝臓や胃、膵臓などの消化吸収に関わる臓器の活動は、朝から夕方にかけてピークを迎えます。ですので、夕食は食べ過ぎないように気をつけることで太りやすい体質を改善することができます。一般的に食事は起きてから12時間以内におさめて、夜9時以降は飲食を控えるようにすることが勧められており、朝食:昼食:夕食は3:3:4あるいは3:4:3が理想的です。では、朝食、昼食、夕食のそれぞれに何をどのように食べたら良いのでしょうか。

(朝食)

  • 朝は血圧を高くするためのホルモンが分泌されるため、食塩の摂取を少なくしましょう。
  • 午前中には鉄分の利用が高まります。鉄分を多く含む食品(ほうれん草、肉、魚など)や、鉄分の吸収を高めるタンパク質(肉、魚、卵、大豆)を摂ると良いでしょう。
  • 起床後速やかにエネルギーとなる糖質と、昼食までエネルギーを持続させるための脂質が不可欠です。
  • 乳製品、卵、野菜、海藻、魚介類、肉類、豆、穀物のうち、なるべく多くの食材を摂るようにするといいでしょう。
  • 血圧や体温が最も低い早朝は激しい運動は控えましょう。

(昼食・おやつ)

  • 朝食で摂ったエネルギーは午前中にほぼ使い果たされるので、午後のエネルギー源として、しっかり昼食を食べましょう。
  • 朝食同様、豊富な種類の食材をバランスよく摂ること、特にタンパク質とビタミン類をたっぷり摂りましょう。
  • 午後に運動をすると、夜間の成長ホルモンの分泌が促進されます。
  • 運動の4〜5時間前に昼食としてしっかりタンパク質を摂ることで、筋肉の分解を防ぐことができます。エネルギー不足の状態で運動すると筋肉の分解や疲労の原因となってしまいます。

(夕食)

  • 運動した直後に高糖質・高タンパク質の食事を摂ることにより疲労回復と体力向上に役立ちます。
  • ビタミンや柑橘系に含まれる酸を摂ることで、疲労物質がたまりにくく、疲れをためにくい体を作ることができます。
  • 夜は消化吸収に関わる臓器の活動が低くなるので、脂肪の多い食事は控えましょう。同じ食事内容でも、遅い時間に食べる方が脂肪になりやすいです!
  • 夕食は就寝の2〜3時間前までに済ませましょう(できれば21時前までに済ませるといいでしょう)。お酒を飲む場合も21時以降は控えましょう。
  • 仕事などで、夕食を食べるのが21時を過ぎてしまう場合は、夕方(17〜18時頃)に軽食を食べて、夕食の食べ過ぎを控えましょう。
  • 遅い時間の夕食には、胃腸に負担をかけない雑炊や野菜スープ、湯豆腐などがおすすめです。

【時間栄養学に基づく夕食の献立例】

焼き鳥

ねぎまは鶏もも肉と白ネギを交互に、しめじは豚もも肉の薄切り肉で巻いて串にさします。鶏ひき肉で作ったつくねも同様に串にさして、塩こしょうを振ってフライパンやホットプレートで焼きます。

(栄養のポイント)
鶏肉は良質のタンパク質を含みますが、脂質は少ないので夕食にピッタリです。豚肉はビタミンBを含みます。
野菜不足にならないように、しめじやアスパラガスなどの野菜を添えると良いでしょう。
にんじんとタコのレモン酢和え

千切りにしたにんじんと、軽く茹でて太めの千切りにしたキャベツ、茹でタコをレモン汁、しょうゆ、塩で和えたサラダです。

(栄養のポイント)
にんじんに含まれるビタミンAとレモンのクエン酸で疲れをとりましょう。
しょうがご飯

千切りにしたしょうがと油揚げをみりん、しょうゆ、塩に混ぜておき、炊き上がったご飯にのせて10分ほど蒸らします。ご飯はもち米を1/5程度入れ、だしで炊くとより美味しいでしょう。

(栄養のポイント)
しょうがには体を温め、脂肪を燃焼させる効果があります。
ヨーグルトのアメリカンチェリーコンポートかけ

ヨーグルトにアメリカンチェリーのコンポート(砂糖で煮たもの)をかけただけの簡単デザートです。

(栄養のポイント)
カルシウムは夜に摂るのが良いとされています。夕食のデザートにピッタリです。チェリーでビタミンを摂取!
予防医学としての食を学ぶ
このページの一番上へ