文化講座
第8回【接続法】法と時制の一致について その3(主節の動詞が条件法の場合)
このシリーズでは、イタリア語の基礎を学習した方を対象に、イタリア語の理解をさらにステップアップするためのシリーズです。初めてイタリア語を学習されたい方は、先ず、シリーズ「イタリア世界遺産の旅」と「誰でもわかるイタリア語」(2011年9月~2015年1月)から始め、続けてシリーズ「続・誰でもわかるイタリア語」と「旅に役立つ会話フレーズ集」(2015年2月~2016年6月)を参考にして学習されることをお勧めします。
イラスト 樋口佳代
【接続法】法と時制の一致について
その3(主節の動詞が条件法の場合)
今回は、主節の動詞が条件法がくる場合について学習します。まず、条件法の話法について復習した上で、従属節の動詞との時間的な関係についてまとめたいと思います。
直説法は、「~です」とか「~でした」と断定的に事実を語る表現法(modo di dire・esprimere)でした。客観的に述べるには直説法で十分ですが、話し手の気持ち、考え、意見、推量などを表すときには、「~かしら」とか「できれば~したいのですが」などのように、気持ちなどをていねいに、または控え目に表現した方がいい場合があります。「もし~ならば」とか「できれば~したい」などの条件を前提にした表現法を「条件法」といいます。
Vorrei prendere un caffè.
(できたら)コーヒーが飲みたい。
Sarebbe meglio portare l'ombrello.
(できたら)傘を持って行った方がいいよ!
意志を表す(volere 欲する、desiderare 望む)動詞や、判断や意見を示す(credere 信ずる、dire 言う)動詞である場合に、直説法で表現すると、余りにも露骨な要求になったりすることになります。そんな時に「~したいのですが」とか「~すべきなのですが」という条件法が使われると婉曲で丁寧な表現となり、特に日常会話などではよく使う表現法です。
接続法は、主に従属節の中で用いられます。主節の動詞が、意見、想像、願望、期待、不安、恐れなどのような主観的な動詞がくる場合に接続法が使われます。そこには「法と時制の一致」の問題があるので注意する必要があります。すなわち主節の動詞と従属節の動詞との時間的な関係が問題となります。イタリア語では、それが主節の動詞と同時性を表す「同時」の関係なのか、それとも主節の動詞より後で起きるであろう「以後」の関係なのか、あるいは主節の動詞より以前にすでに完了した「以前」の関係を表すかによって、法と時制が変わってくるので注意する必要があります。
過去2回では、主節の動詞が直説法現在形と過去形について学習しました。今回は主節の動詞が条件法の場合についてまとめました。
下の表にあるように、主節の動詞が条件法のときは、「同時」「以後」の関係では接続法半過去が用いられ、「以前」の関係であれば接続法大過去が用いられます。
I.主節の動詞が条件法現在の時
例文Sarebbe meglio che voi studiaste di più(君たちがもっと勉強すればいいんだけど)主節の動詞が条件法現在の場合、従属節が接続法半過去が用いられているときは主節の動詞と同時に進行する事実を述べています。たとえ、接続法半過去であっても〈現在〉に訳す必要があります。しかしSarebbe meglio che voi aveste studiato di più(君たちがもっと勉強していたらいいんだけど)主節が条件法現在で、従属節が接続法大過去が用いられているときは主節の動詞以前に行われた事実を表現していることになります。
Sarebbe meglio vorrei desidererei mi piacerebbe |
che | voi non studiaste Lei capisse bene voi studiaste di più tu mi accompagnassi a casa |
以後 同時 |
接続法半過去 |
voi aveste studiato di più lei non fosse andata via |
以前 | 接続法大過去 |
- Vorrei che Lei capisse bene.
(あなたはよく分かっていると望みたい) - Desidererei che voi studiaste di più.
(君たちがもっと勉強するように望みたい) - Mi piacerebbe che tu mi accompagnassi a casa.
(出来たら君が私を家まで送って欲しい) - Crederei che tu fossi andato a scuola ieri.
(私は君が昨日学校に来たと思いたい) - Bisognerebbe che tu venissi oggi pomeriggio alle cinque.
(君は今日の午後5時に来る必要があるのだが) - Ci farebbe piacere che tu cantassi una canzone per noi.
(君は私たちのために歌を一曲歌ってくれると嬉しいのだが) - Io direi che sarebbe meglio andare in taxi.
(タクシーで行ったよいと思うよ) - Vorrei che Lei ascoltasse questo CD e poi mi dicesse se Le piace.
(あなたがこのCDを聞いてから、好きかどうか言って欲しい) - Vorrei che Lucia venisse con noi alla festa di compleanno di Luigi.
(ルチアが我々と一緒にルイージの誕生パーティに来て欲しい)
II.主節の動詞が条件法過去の時
Avrei pensato che lui arrivasse prima di me.(彼が私より先に着くと思っていたのに)主節の動詞が条件法過去の場合、従属節が接続法半過去であれば同時に行われた事柄を、それに対してAvrei pensato che lui fosse arrivato prima di me.(彼が私より先に着いていたと思っていたのに)従属節の動詞が接続法大過去が用いられているときは主節の動詞以前に行われた事実を表現していることになります。
しかし、従属節の中で条件法過去の時制が使われると、過去の時点での未来時制を表すので注意する必要があります。例えば、Credevo che tu saresti partito presto.(私は君が早く出発するだろうと思っていた)とか、Mi ha detto che sarebbe tornato verso le sette.(7時頃戻るであろうと、彼は私に言った)となります。
Avrei pensato avrei voluto avrei desiderato mi sarebbe piaciuto |
che | lui arrivasse prima di me non mi facesse quella domanda ieri mi telefonasse |
以後 同時 |
接続法半過去 |
lui fosse arrivato prima di me loro avessero invitato tutti voi foste arrivate prima |
以前 | 接続法大過去 |
- Avrei voluto che non mi facesse quella domanda.
(君が例の質問をしないと望んでいたのに) - Avrei desiderato che ieri mi telefonasse.
(昨日、君は僕に電話してくると望んでいたのに) - Mi sarebbe piaciuto che loro avessero invitato tutti.
(彼らが皆を招待したことは嬉しかった) - Avrei pensato che loro agissero per interesse.
(利益のために行動しているのだと考えたのだが) - Avrei pensato che loro avessero agito per interesse.
(利益のために行動したと考えたのだが)
動詞より前の事柄を表すのは、接続法大過去であるが、会話体では直説法半過去agivanoがよく用いられたりします。また主節の動詞より以後に起こりうるかもしれないことを表すのは、条件法過去で表すところを直説法半過去で表すことがあります。Avrei pensato che loro avrebbero agito per interesse più tardi.(私は彼らがもっと後で利益のために行動するだろうと考えたのだが)またMaria ha detto che lui arrivava (=sarebbe arrivato) il giorno dopo.(マリアは彼がその翌日着くだろうと言った)のように条件法過去の代わりに直説法半過去が用いられることがあります。 - Avrei pensato che loro avrebbero agito per interesse più tardi.
(私は彼らがもっと後で、利益のために行動するだろうと思っただろうに) - Avrei preferito che tu mi raccontassi tutto.
(むしろ君がすべてを話すことを望んでいたのだが) - Avrei voluto che Carla venisse con noi.
(カルラは我々と来ることを僕は望んだけど) - Avrei voluto che Carla fosse venuta con noi.
(カルラは我々と来たと僕は望んだけど)
■非人称構文と非人称動詞で接続法をとる場合
非人称的構文の表現は、「私が」とか「私に」という特定の人称ではなく一般的に『~です』と表現したいときに使う大変便利なフレーズです。このような非人称的な表現は、会話のいろいろな場面に出てきます。作り方は、いつもÈ(essereの三人称単数・現在形)で始まり、そして形容詞(希に副詞)+動詞の不定詞の形をとります。
非人称構文をつくる形容詞には、
facile(容易である)・difficile(難しい)・possibile(可能である)・impossibile(不可能である)・importante(大切な)・interessante(興味深い)・probabile(ありうる)・improbabile(ありえない)・bello(素晴らしい)・brutto(よくない)・male(悪い)・giusto(正しい)・ingiusto(正しくない)・necessario(必要である)・utile(有益である)・inutile(無益である)・naturale(当然~である)・certo(確かである)・chiaro(明らかである)・など
非人称構文をつくる副詞には、
bene(よい)・meglio(とてもよい)・male(悪い)・peggio(とても悪い)など
- È possibile avere la colazione in camera?
部屋で朝食をとることが出来ますか? - È difficile parlare bene l'italiano in sei mesi.
6ヶ月でイタリア語をうまく話すのは難しい。 - È bello prendere il caffè e mangiare insieme con gli amici.
友達と一緒にコーヒーを飲んだり食事をしたりするのは楽しい。
動詞の中には非人称的に使われる非人称動詞もあります。例えば、「~が起きる」とか「~が必要である」のように言う場合です。作り方は、動詞はいつも3人称単数形で続く動詞は不定詞で変化する必要がありません。
代表的な非人称動詞には、
「~が起こる」(accadere, succedere, capitare, avvenire)、「~は必要である」(bisognare, occorrere)「~のように思われる」(sembrare, parere)、その他に「~で十分である」(bastare)、「~が重要である」(importare)、「~した方がよい」(convenire)などがあります。
- Bisogna poartare l'ombrello.
傘を持っていった方がいい。 - Non conviene aspettare più.
もうこれ以上待つ必要がない。 - Basta chiedere per capire.
理解するには人に聞けばよい。
以上のように非人称構文や非人称動詞は、動詞の不定形が来るので、動詞を変化させる必要がないので会話でもよく使われます。しかし従属節の主語をはっきりさせたい場合があります。たとえばBisogna partire subito.(すぐに出発する必要がある)では、誰が出発するのかわかりません。そこで主語を入れて節を作ります。Bisogna che Mario parta subito.となります。parte(直説法)でなく、parta(接続法)となり接続法をとり、従属節は意味上の主語節をつくることとなります。
- Bisogna che Lei spedisca immediatamente i documenti.
(あなたはすぐに書類を送る必要がある) - È meglio che tu viaggi in aereo.
(君は飛行機で旅行する方がいい) - È necessario che voi vi vestiate con l'abito da cerimonia.
(君たちは正装する必要がある) - Occorre che io la veda subito.
(私は彼女にすぐ会う必要があります) - Non importa che vengano tutti.
(みんなが来ることが重要ではない) - È probabile che loro siano usciti già.
(多分彼らはもう出掛けたようだ) - È probabile che Carla ci abbia cercato mentre eravamo fuori.
(多分、私たちが外出している間に、カルラは私たちを探していたようだ) - È possibile che Maria ritorni prima della fine del mese.
(マリアが月末までに戻ることは可能である) - Bisogna che voi andiate dal professore e gli spieghiate il vostro problema.
(君たちは先生のところに行き、自分たちの問題を説明する必要がある) - Pare che Maria voglia rimanere a Roma un altro mese.
(マリアはローマに後一月滞在したいようだ)
イラスト:レオナルド・ダ・ビンチ(Leonardo da Vinci 1452 - 1519)が1490年から1495年の間にミラノで描いた数少ない油彩の肖像画の一枚「貴婦人の肖像(La Belle Ferronniere)」である。フランス革命以前よりフランス王室によって所蔵されていた。モデルには諸説あり確証はなく、モナリザと同じく今も誰なのかは分かっていない。額の美しい金細工の飾りや、馬の尾のように結い上げた髪、身に付けている衣装は、当時のミラノで流行したスペイン風の様式である。明らかに上流階級とみられる彼女の上品な顔立ちの中の、右方向への情熱的な視線があまりに強烈で、恐ろしさまでを感じさせる。この作品は未完と言われているが、レオナルドはこの女性の美しさよりも、こういった内面性の表現を描くことに始めから集中していたと思われる。後に弟子によって描き足された欄干が画中の手前にあるが、私はあまりの力強さを感じてしまい、取り払ってしまった。(樋口佳代)