文化講座
第3回【過去における過去(trapassato)】について
このシリーズでは、イタリア語の基礎を学習した方を対象に、イタリア語の理解をさらにステップアップするためのシリーズです。初めてイタリア語を学習されたい方は、先ず、シリーズ「イタリア世界遺産の旅」と「誰でもわかるイタリア語」(2011年9月~2015年1月)から始め、続けてシリーズ「続・誰でもわかるイタリア語」と「旅に役立つ会話フレーズ集」(2015年2月~2016年6月)を参考にして学習されることをお勧めします。
イラスト 樋口佳代
【過去における過去(trapassato)】について
イタリア語の過去時制には、近過去、半過去、遠過去がありました。近過去の時制は、現在と何らかの関係のある完了した行為.状態を表します。半過去時制は、過去のある時点において行為・状態が続いていた事実を表します。近過去が完了した行為・状態を表すのに対して、半過去は継続性のある行為・状態を表します。遠過去時制は、現在とは関係性のない、時間的・心理的に遠い過去を表します。
今回は、過去のある時点よりもさらに前に、すでに完了している過去を表すとき、つまり過去における過去(trapassato)について学習します。下の図の例文にあるように、「受け取った手紙に返事を書く」という文の中で、Aは現在から過去を捉えております。BとCは過去のある時点では既に(già)完了した、「...していた」または「...した」を意味する過去です。しかし起こった行為との間に時間差がありますので、時制には注意する必要があります。
A.現在(presente)から過去(passato)
上の表にあるように、Aの例文rispondo alla lettera che ho ricevuto ieri.(昨日受け取った手紙に返事を書く)では、「返事を書く(rispondere)」という時点で、すでに昨日「受け取った(ricevere)」手紙であり。二つの動詞の時間的な関係を考えると、「返事を書く」という主文動詞が現在であっても、「受け取る」という行為は、それより以前に起きたことであり、すなわち過去の出来事であります。このような動詞の時間的な関係を「時制の一致」と言います。
【例文】
- Invito a casa gli amici che ho conosciuto a scuola.
(学校で知った友達たちを家に招く) - Sto bene perché mi sono riposato bene.
(よく休んだので調子がいい) - Vado a prendere l'ombrello che ho lasciato a casa di Mario.
(マリオの家に忘れた傘を取りに行く) - Ti ringrazio del favore che mi hai fatto.
(君が私にしてくれた好意に感謝します) - Luca è triste perché ieri ha perso l'orologio a cui teneva tanto.
(昨日、随分大切にしていた時計を亡くしてしまったので、ルカは悲しんでいます)
B.大過去(半過去完了)
Bの例文Ieri ho risposto alla lettera che avevo ricevuto l'altro ieri(一昨日受け取った手紙に、昨日返事を書いた)では、主文の動詞rispondereが過去であり、動詞ricevereはさらに前に起きたことであり、すなわち過去における過去(trapassato)を表します。このtrapassatoには、大過去trapassato prossimo(半過去完了)と先立過去trapassato remoto(遠過去完了)があります。大過去の用法は、半過去を助動詞とした複合時制であるため「半過去完了」ともいい、過去のある時点における動作や状態より以前にすでに完了した動作や状態を表します。
大過去(半過去完了)の作り方、
助動詞の半過去 | + 過去分詞 |
---|---|
essere:ero, eri, era eravamo, eravate, erano avere:avevo, avevi, aveva, avevamo, avevate, avevano |
【大過去(半過去完了)の例文】
- Ieri ho risposto alla lettera che avevo ricevuto l'altro ieri.
(一昨日受け取った手紙に、昨日返事を書いた) - Quando ho aperto la finestra mi sono accorto che aveva nevicato.
(窓を開けたら、雪が降っていることに気付いた) - Non ho mangiato a casa tua, perché avevo già pranzato.
(もう食事をしていたので、君の家では食べませんでした) - Quando sono arrivato alla stazione, il treno era già partito.
(私が駅に着いたときには、列車はすでに出てしまっていました) - Lucia non è venuta al cinema perché aveva già visto quel film.
(ルチアはその映画をもう見ていたので、映画館には来なかった) - Ho avuto sonno tutta la giornata perché non avevo dormito bene ieri sera.
(昨晩、あまりよく寝ていなかったので、一日中眠たかった) - Ieri ho avuto mal di gola, perché la notte avevo sentito freddo a letto.
(夜中寝ているときに寒気を感じたので、昨日は喉が痛かった) - Ieri sera Paola era molto stanca, perché aveva studiato il giapponese per molte ore.
(昨晩、パオラは何時間も日本語を勉強したので、大変疲れていました) - Quando siamo andati a trovarlo, Mario aveva già finito di cenare.
(マリオに会いに言ったとき、彼はもう夕食を終わっていました) - L'ultimo giorno a Roma siamo andati a vedere le cose che non avevamo ancora visto.
(ローマの最後の日には、私たちはまだ見たことのないものを見に行きました)
C.先立過去(遠過去完了)
それに対して、Cの例文l'altro ieri risposi alla lettera che ebbi ricevuto i giorni precedenti(以前受け取った手紙に一昨日返事を書いた)では、主文動詞が遠過去であり、動詞ricevereはさらに前に起きたことであり、「一昨日」(l'altro ieri)」よりさらに過去のことであり、すなわち過去における過去(trapassato)の先立過去でもって表します。
先立過去(遠過去完了)の用法は、遠過去を助動詞とした複合時制であるため「遠過去完了」ともいい、遠過去と密接な関係を持ちます。大過去が完了した動作の結果が過去のある時期までの継続的な動作や状態を表すのに対して、先立過去は、遠過去で表される過去の動作の寸前に起こった動作の完了を表します。しかし現代イタリア語ではあまり使われず、特にessereの先立過去(fui stato/a)は、ほとんど使うことはありませんので、遠過去で表したり、Bのように大過去で表す傾向が多くなっています。また先立過去の代わりにdopo + 不定詞過去(dopo essere ritornato a casa...)やジェルンディオの過去(Essendo ritornato a casa...)に置き換えて使うこともあります。
先立過去は、quando「した時」、appena (che)「...するやいなや」、dopo che「...した後で」などの接続詞に先行される従属節の中で用いられます。勿論、主節の動詞は遠過去であり、その動作の直前に完了した動作を表します。
尚,例文Quando ebbi saputo che Luigi era ritornato a Roma, gli telefonai immediatamente.(ルイージがローマに帰ったことを知った時、すぐに僕は彼に電話しました)のように、先立過去を用いている従属文がさらに従属文を持っているような場合には,先立過去よりも前の時制を大過去で表すのが一般的です。
先立過去(遠過去完了)の作り方は、
助動詞の遠過去 | + 過去分詞 |
---|---|
essere:fui, fosti, fu, fummo, foste, furono avere:ebbi, avesti, ebbe, avemmo, aveste, ebbero |
【先立過去(遠過去完了)の例文】
- Quando lo sciopero fu finito, tutti gli operai tornarono in fabbrica.
(ストライキが終わったとき、全ての労働者たちは工場に戻りました) - Dopo che ebbi letto il giornale, spensi la luce e mi addormentai.
(新聞を読んでから、電気を消して寝ました) - Dopo che la messa fu finita, tutta la gente uscì sulla piazza.
(ミサが終わると、全ての人たちが広場にでてきました) - Dopo che il treno si fu fermato per l'incidente, tutti i viaggiatori ne scesero.
(列車が事故のため止まった後、乗客みんな列車から降りてきました) - Dopo che ebbi lasciato l'impiego, mi accorsi di aver fatto un grosso errore.
(仕事を離れた後で、大きな間違いをしたことに気付いた) - Dopo che ebbe chiuso la porta, Maria si accorse di non aver preso la chiave.
(ドアを閉めた後で、マリアは鍵を取るのを忘れたことに気付いた) - Appena ebbi ricevuto la sua lettera, le telefonai.
(僕は彼女からの手紙を受け取ると直ぐに、彼女に電話しました。) - Appena che avemmo guardato le ultime notizie alla TV, andammo a letto.
(私たちはテレビで最後のニュースを見て、すぐに寝ました) - Appena che l'ebbe riconosciuta, le corse incontro.
(彼女と分かると直ぐに、彼女のところに駆け寄った) - Come(appena che) si fu accorto che era uscito senza portafoglio, tornò indietro.
(財布を持たずに出掛けたことに気付いたので、直ぐに戻った)
イラスト:ブロンズィーノBronzino(本名Agnolo di Cosimo di Mariano 1503 - 1572)の作品「マリア・ディ・コジモ1世・デイ・メディチ(Ritratto di Maria Lucrezia di Cosimo I de' Medici 1540 -1557):初代トスカーナ大公コジモ一世の長女マリアは、知性と教養に溢れ、特に語学に堪能な素晴らしい少女であった。父は溺愛していたが、マラリアにより17才の若さでこの世を去る。ブロンズィーノは、コジモ一世の家族の肖像画を沢山残し、このマリアの肖像はひときわ美しいため、人々を魅了する伝説を生んでいる。同時代の貴族の成人女性と同様の衣装とジュエリーを堂々と纏いながらも、少女らしいバラ色の頬の愛苦しさが、一層悲しい。(樋口佳代)