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且坐喫茶:日本文化のグローカル性

信天翁(アホウドリ)喫茶主
医学博士 山中 直樹(宗直)

イチロー、Ichiro

WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の第一回大会で日本が優勝した。大リーグで活躍するイチロー、大塚の両選手と日本を代表する投手・松坂らの日本的グローカル性が国際的に通用したことを示すものだ。
取り分け、イチローの活躍が意外性を持って話題となった。

このシリーズの第74回(2004年11月号)に、喫茶の話題(8)国際化「宮本武蔵」:イチロー、Ichiroと題してイチローを取り上げた。
イチローが84年間破られなかった大リーグ記録である1年間257安打の記録に追付き、追い越した時に話題とした。
イチローには、最も日本的な武道家・宮本武蔵の境地があるからだ。

今回、イチローが日本チームに参加して、リーダーとして活躍し、いわゆる、愛想よく振舞ったことに驚いた人達が多いようだ。
王監督が、イチローは、もっと個人主義的な人間と思った旨を述べたと新聞に掲載されていた。
多くの人達の認識を示している可能性がある。

しかし、私はイチローに対する認識に誤りがあると思っている。個人主義利己主義の認識に混同があるのではないか。
個人主義といえば、夏目漱石の名著「私の個人主義」(講談社学術文庫)がある。
まだ、読んでいない人は、ぜひ、一読願いたい。

個人主義は「義務心を持っていない自由は本当の自由ではない」、「他の存在を尊敬すると同時に自分の存在を尊敬する」、「党派心がなくって理非がある主義」などの条件を漱石は指摘している。
個人主義とは、私の言葉で言えば「自他楽」思想なのだ。

イチローは、まさに、個人主義を実行している選手だと思っている。
野球はチームの中で、個人が果たすべき役割は明確だ。個人個人がプロフェッショナルの上で、お互いが協力して成り立つのだ。まさに、個人主義が求められるスポーツだ。

漱石は、「我は我の行くべき道を勝手に行くだけで、そうしてこれと同時に、他人の行くべき道を妨げないのだから、ある時ある場合には人間がばらばらにならなければなりません。そこが淋しいのです」と述べている。
今回、「淋しさ」を感じたかどうか、イチローに聞いて見たいと思っている。
「市中の山居」で、一碗の茶を且坐喫茶すると「淋しさ」は感じられず、「煩悩是道場」の世界に入れる。

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