文化講座
第11回:各論(その10)~みりん~
前シリーズでは「みんなの幸せレシピ」と題し、(1)初めての1人暮らしごはん、(2)パパッと2人ごはん、(3)一緒に作れる!KIDSごはんの3つのジャンルに分けて、みんなが幸せになれるレシピをご紹介しました。
今シリーズでは、代表的な発酵食品を毎月順番に取り上げ、その特徴や健康効果、おすすめの料理をご紹介しています。
第11回目の今月は、「みりん」です。
ここ愛知県は、国内でも有数の醸造文化の地です。
今回は日本料理の味付けにかかせない調味料、「みりん」についてのお話です。
みりんの歴史やみりんの種類、みりんの製造過程、みりんが料理にもたらす効果などをご紹介します。
★みりんとは

本みりん
調味料の一種で、蒸したもち米・米麹・焼酎を仕込み、熟成させて搾った甘い濃厚な酒です。
素材の旨味を引き立たせ、料理に独特のコクと照りを出します。
<みりんの歴史>
みりんの発祥地は、日本と中国の2説あります。
日本では、戦国時代から江戸時代にかけて飲料として用いられ、甘い物が貴重な時代だったため珍重されました。
甘味調味料として使われるようになったのは、江戸時代中期以降からです。
もともとは調味料ではなく、高級な酒として飲用されていました。
今も正月の屠蘇酒(数種の薬草を組み合わせた屠蘇散をみりんに浸して作ります)に使用されています。
中国伝来説は、中国清明の時代の「湖雅巷八造醸」という書に、「密淋(ミイリン)」と呼ばれる甘い酒があったと記されています。「淋」は「したたる」という意味から、蜜がしたたるような甘い酒と解釈されます。
この酒に「密淋」「美淋」という漢字があてられ、日本中に広がり、現在の本みりんになったとされる説もあります。
1760年前後、鰻屋や蕎麦屋などの和食の店が大繁盛し始め、日本料理・懐石料理がほぼ完成されました。
江戸時代後期の「守貞慢稿(もりさだまんこう・江戸時代の風俗、事物を説明した一種の百科事典のような書物)」には、関東で鰻のたれやそばつゆに「みりん」が使われていた事が明確に記述されており、この頃からみりんは調味料として欠かせない物となったようです。
<みりんの種類>
みりんとみりんの仲間を紹介します。
- 本みりん...一般的に「みりん」と称されるもの。ふくよかで上品な甘みが特徴
- みりん風調味料...発酵・熟成の過程を経ず、糖類や化学調味料を混ぜた調味料。アルコール分は1%未満
- 発酵調味料...アルコール発酵させて塩分を加えたもの。糖度が高い甘口のみりんタイプと、清酒に似た香味をもつ酒タイプがある
240余年、伝承の技に磨きをかけ、より秀でた上品な甘味と旨味、醸造特有の芳醇な香りを醸し出すみりん業界最古の醸造元の蔵へ見学に行きました。

みりん業界最古の醸造元の蔵の前での筆者

蔵の中にはみりんの博物館があり、みりん作りに使われた道具の数々や古文書などが展示されています
<みりん作り>
まず初めに良質のうるち米を2昼夜かけて米麹を作ります。
米麹はみりんの香りとなり、酵素の力でもち米から甘みと旨みをつくる大切なものです。
もち米を十分に蒸し、大きな釜から少しずつ放冷機で適温に冷やして米麹を加えます。
米焼酎と合わせて撹拌したら、糖化熟成する仕込み蔵へと運び、約2~3ヶ月熟成させます。
上記の仕込みから圧搾されるまでのものは「もろみ」と呼ばれ、もろみが均一に熟成するように、「櫂(かい)入れ」を行います。蔵人が櫂を入れることで、麹が働いて熟成が進み、深い甘みと豊かな旨みが生まれます。

糖化熟成された「もろみ」を酒袋に詰めて槽(ふね)と呼ばれる伝統的な「佐瀬式圧搾機」で搾ります。
もろみを上からの重みだけで2昼夜かけてゆっくりと搾ります。
一気に圧力をかける一般的な方法で搾ると、搾れる量は増えますが、余分な雑味が混ざってしまいます。伝統の佐瀬式を使って徐々に圧力をかけることで、みりん本来の味わいと純度が保たれています。

みりん粕
佐瀬式圧搾機でゆっくり搾るため、やわらかく上質の「みりん粕」が出来ます。
漬け物などに使われ、各メーカーから注文が殺到するほど、人気とのことです。

もろみを搾った本みりんを熟成する大蔵
築300年の長い歴史を持つ蔵で、みりんは半年から1年間ゆっくりと寝かされます。
熟成したら風味を均一にするため、大きなタンクの中で混ぜてろ過すると、黄金色に澄んだみりんが出来上がります。
<料理にみりんを使うとなぜ良いか>
- 上品な甘み、うまみをつける
本みりんの甘味の主成分は「ブドウ糖」で、他にも9種類以上の糖分を含むため、糖分がショ糖のみの砂糖に比べて後味がすっきりとし、上品な甘さをつけることが出来ます。
さらに原料の米に含まれる成分が酵素で分解され、うまみをもたらします。
本みりんを使った「マンゴープリン」
上品な甘さがつけられるため、デザートにも使えます。 - 照りやツヤ、良い焼き色をつける
糖分が食材の表面に膜を作り、水分や美味しさをとじこめ、照りやツヤをつけます。
糖分とアミノ酸が加熱され、きれいな焼き色に仕上がります。
本みりんを使った「手羽先」
照りツヤが良く、香ばしい焼き色がつきます。 - 煮崩れを防ぐ
アルコール分が食材に味が浸透する助けをし、煮崩れを防ぎます。
本みりんを使った「鶏つくねと夏野菜の煮物」
ひき肉の団子を煮ても煮崩れしません。 - 食材の生臭みを抑え、香ばしい良い香りが生まれる
アルコールが、魚などの食材の生臭みを抑えます。
さらに本みりんを加熱することによって甘い香りが立ち、焦がすと香ばしい良い香りがします。
本みりんを使った「イワシのみりん干し」
魚の生臭みを取り、香ばしく焼きあがります。 - 他の調味料との相性も抜群
みそやしょうゆ、酢などの昔ながらの醸造調味料との相性が抜群で、本みりんのおだやかな甘味が塩辛さや酢の酸味を和らげ、料理の味をまろやかにします。
液体調味料なので混ざりやすいのも特徴です。
本みりんを使った「サワラのフライパン照り焼き」
みりん・酒・しょうゆを同量、砂糖を少し加えるのが、照り焼きの黄金比率です。
<みりんと健康>
本みりんの主な成分は、麹菌の酵素の働きででんぷんやたんぱく質を分解して出来た生成物とアルコールです。
糖分を多く含み、グルタミン酸やアスパラギン酸などのアミノ酸、乳酸やクエン酸などの有機酸を含むので、疲労を回復し、体力をアップします。
<みりんを使ったとっておきレシピ>
本みりんを使った料理をご紹介します。

~おいしいめんつゆには本みりんが必須です~
材料(4~6人分) | 分量 |
そうめん | 300~400g |
A | |
しいたけの戻し汁 | 100ml |
本みりん | 大さじ1強 |
しょうゆ | 大さじ1~2 |
干ししいたけ(水で戻す) | 8枚 |
B | |
かつおだし | 大さじ3~4 |
塩 | 少々 |
しょうゆ | 少々 |
うなぎ(かば焼きのもの) | 1/2くし |
卵 | 4コ |
きゅうり | 1/2本 |
しらす干し | 1/3カップ |
おろし大根 | 160g |
C | |
だし汁 | 600ml |
しょうゆ | 大さじ4 |
塩 | 小さじ1~ |
本みりん | 大さじ4~6 |
さくらんぼ | 4~6枝 |
作り方
- そうめんはたっぷりの熱湯で茹でます。途中沸騰してきたら、差し水をします。
- 冷水でもみ洗いしてぬめりを取り、ザルに上げます。
- (A)で煮含めたしいたけ、(B)で調味してうなぎを芯にして焼いたう巻き卵、芯を抜いて5mm位に切り、輪をつないだきゅうり、熱湯をかけて水気を絞ったしらす干しとおろし大根を用意します。
- (C)を煮立てて冷まし、麺つゆを作ります。器に2.と3.をのせて、おろし大根とさくらんぼを添えます。つゆにつけていただきます。

みりんを使ったデザートは香りも甘みも上品の極みです
材料(4人分、160mlのプリン型4コ分) | 分量 |
粉ゼラチン | 10g(2袋) |
水 | 大さじ4 |
A | |
本みりん | 大さじ2 |
牛乳 | 100ml |
水 | 75ml |
グラニュー糖 | 50g |
マンゴー | 1個(350g) |
水 | 100ml |
レモン汁 | 大さじ1(1/2個分) |
青味 | 適宜 |
作り方
- 水にゼラチンを入れてふやかします。
- 鍋に(A)を入れて煮立て、グラニュー糖が溶けたら1.を加えて溶かします。
- マンゴーは3枚におろし、身の1/4はトッピング用として粗く刻んで残しておきます。残り3/4と水、レモン汁をミキサーにかけます。
- 2.に3.を加えて混ぜ合わせ、プリン型に入れて冷やし固めます。
- 器に盛り、刻んだマンゴーと青味を添えます。