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やきもののやさしい鑑定

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

印判磁器の鑑定

今回は骨董市で人気の印判磁器について書いてみます。安価で使え、図柄が豊富です。骨董でいう印判磁器とはプリント版を使って大量生産された磁器のことで、種類には次の4種類があります。

1 コンニャク印判 かつては湾曲した器物にプリントしてあるため、コンニャクに文様を彫ってプリントしたと考えられたみたいですが、コンニャクに文様を彫ることなど無理で、やはり動物の皮などと考えられる柔らかい素材を使い、文様を作品にプリントしたものと考えられます。鑑定のポイントは、図柄がぼやっとした感じであることで、スカッとした仕上がりは求められません。

写真1 コンニャク印判の蕎麦猪口

2 型紙摺絵 布染めなどに使われる型紙を使い、プリントする技法。柿渋のようなもので防水処理をした紙に文様を彫り、それを作品に押し当てて、上からブラシで染料をこすりつけて絵柄を出す技法です。江戸の元禄時代からある技法ですが、近世では肥前志田窯に明治4年の資料があります。鑑定のポイントは線状の文様が短くいくつもに途切れる点です。長く切ると紙型が保たれないためです。(写真2参照)また平面的な版を湾曲した器面に文様をすり込む訳ですから版がズレてしまいがちです。そのあたりの見方が鑑定ポイントになります。(写真3参照)

写真2 型紙摺り絵
写真3 銅版転写と版のズレ

3 銅版転写 エッチングの技法 肥前大樽(現在の有田町)の牟田久次が明治19年に始めました。以後急速に京都、多治見などに広がりました。銅版画の技法、すなはちエッチングの技法を応用した技術です。松ヤニをあぶりつけた銅版に絵柄を削り付け、それを腐食剤に浸し、腐食させた版に大量に化学的に生産されていたベロ藍(当時大量生産され安価になった化学呉須であるベルリン藍がなまった言葉)を使い、銅版から紙に絵柄を転写してそれが乾かない内にさらにまた器物に押し付けて転写する方法で作られました。鑑定ポイントは2の型紙摺り絵の鑑定ポイントとは反対に、線が途切れることがありません。細い繊細な線がきれいに描けます。また反面、ベタが出来ないため、線をできるだけ密接に深く太く描くことでその欠点を補っていますから、そこを見ることが鑑定ポイントになります。

4 ステンシル 紙摺吹墨 これは2番目の紙型に、染料を吹き付けて文様を出す技法です。この技法は古く、中国明末期の景徳鎮で始められました。 いわゆる吹墨の技法といわれる技法と同じです。
印判磁器は明治時代に文明開花のシンボルとして板ガラスとともに政府が力を入れて推し進めたものでした。おかげでそれまで大衆の間には浸透してなかった磁器が、一気に広がりました。

写真4 銅版転写の作品2枚。
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