愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

やきもののやさしい鑑定

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

六古窯の鑑定 丹波と越前

  大正から昭和にかけて柳宗悦の民芸論がはやりました。その中で丹波のやきものが大きく取り上げられました。丹波焼きのふるさとは、現代では兵庫県篠山に近い立杭、古くは相野に近い三本峠近辺でした。このあたりで焼かれた焼き物を丹波、ないしは古丹波と称しています。
篠山市には「丹波焼古陶館」があってすばらしい丹波焼きのやきものがコレクションされています。

丹波焼きは六古窯の代表である現在の愛知県の常滑から影響を受けて成立した窯であると考えられています。しかしすぐにその影響を脱して、独自な造形を主張するようになったといわれ、常滑の形から離脱して独自の形態を持つようになります。土も赤く良く焼け、あたかも備前のような細かい土味を誇ります。備前は自然釉が茶色に近いものですが、丹波の自然釉はとても美しい、深くて澄んだグリーン、いわゆるモス・グリーン色をしています。その美しさは吸い込まれそうな美しさです。信楽や伊賀のグリーンも美しいですが、薄い色のグリーンです。これと比較して丹波は濃い、深いグリーンです。赤い土に濃いグリーンが美しい対比をなしているのが魅力です。口の形の独自さも丹波の魅力です。写真1の丹波の口は、普通に開いて横に水平に伸びようとした口の形をしています。丹波の口の変遷は、最初は常滑の影響を受けていましたが、14世紀から15世紀には上に開いた、通称「ラッパ口」(下記越前写真2の左写真参照)に折り返し玉縁という形に変化します。これは同時代の信楽、越前にも共通の変化ですが、口縁が下にクルリと折り返っていて、丸くなっているのが特徴です。その後に伸びやかな自由な口造りに移行したと考えられます。また胴体に猫掻きという、猫のツメで引っかいたような痕が胴体半ばから下に付いている場合があります。これは整形に使った藁の痕と考えられています。丹波の壷の魅力は、この赤い土にモス・グリーンの美しい釉の色の対比、のびのびとした口の造形の自由さ、猫掻きの痕の面白さが大きな見所でしょう。

丹波に比べてやはり北国の素朴さ、力強さ、いわゆる「質実剛健」さを誇るのが越前です。越前も丹波と同じように、常滑の影響で成立した焼き物です。丹波と比べ、焼き締めの素朴な色合いも実に渋いものです。形も合理的です。2つ並んだ写真の左の口造りがいわゆる14世紀、15世紀のラッパ口に折り返し玉縁です。胴体が上半分が円形・ドーム型をしています。そしてその肩から高台に向かってまっすぐに線が伸びています。とても美しい形をしています。この形を見たら越前の14世紀から15世紀の作品です。肩に窯印という独特のアルファベットのようなマークが入っているものも越前の特徴です。窯印といいます。一般的に越前の肩にかかっている自然釉は全体的に茶色が多いものです。中にはグリーンかかったものもあるにはありますが、やはり丹波のグリーン色にはかないません。肩の丸い姿は通称「お歯黒壷」の小壷にも受け継がれています。古来、越前のお歯黒壷は有名で、お茶の席での花入れに使われたりして愛玩されています。


写真1
丹波の自由な口造りの魅力
(口は一部欠損しています)

写真2
左が14世紀、15世紀の典型的な越前壷
右は15世紀から16世紀頃の壷 主に種などを保管したものと言われている
このページの一番上へ