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家族で楽しむ里山術

里山研究家 吉澤 守(ヨシザワマモル)

一本の小枝から

昭和30年代位までの子供たちは、学校に通うとき、筆箱の中に肥後の守(ひごのかみ)という折りたたみ式の小刀を入れていました。
鉛筆の芯が折れたとき、自分で芯を削り出して使うための便利な小道具でした。その肥後の守は、鉛筆削りが普及していき、その後シャープペンシル(シャーペン)が主流となってあまり見かけなくなりました。
子供の頃に道具を使いこなす術を身につけると、その後の生活を有意義に過ごす上で何かと役に立ちます。

その時代の子供たちは、学校が休みの日になると朝早くからガキ大将に引率されて、さまざまな遊びに没頭して、日の暮れるのも忘れる程でした。ある時は横町で、ある時は神社やお寺の境内で、ある時は少し遠くの郊外に遠征して森や小川や田んぼの畦で、知らず知らずのうちに自然と触れ合い、仲間と遊ぶことのルールを身につけていったものでした。そんな時に役に立ったのが、ズボンのポケットに忍ばせた肥後の守(小刀)でした。
誰かが谷間でヤマウドを見つければ、ガキ大将が「これを家へ土産に持っていくと料理に使えるから母さんが喜ぶゾ」と教えます。その声を聞いて、みんなが思い思いの場所でヤマウドを採りはじめると、ガキ大将は「小刀はナー、手前から向こう側へ斜め下に向かって切るんだ!そうすると、綺麗に切れて、ケガをしないゾ」と教えます。
そんなことを一人一人、年下の子供たちに指導して回りながら、自分で採取したヤマウドを束にして「最後は長い草で、こうやって結ぶんだ」と見本を示しながら、山菜採りの極意を伝授したものでした。

現在では、小刀のようなナイフの類を子供たちが持っていることがわかると、非行のレッテルをはられてしまう傾向がありますが、家族で連れ立って森などに遊びに行ったときには、お父さんが昔のガキ大将の代わりとなって、子供たちに本当のナイフの使い方をぜひ教えてあげて欲しいものです。
ナイフや包丁といった刃物類は、人類が生活を豊かにするために創造した道具ですが、道具の正式な使いこなしを小さな頃から知れば知るほど非行的な使用ができなくなり、かえって道具に対する愛着や、物事を創造する基本を身につけていくものです。
森の中で、枯れ枝の一本でも見つけたら、それを使って思い思いの工作にチャレンジしてみたらいかがでしょうか。材料は、森の中にいくらでも落ちています。

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