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健康を科学する

名古屋大学環境医学研究所/高等研究院 講師・中日文化センター
講師 伊藤パディジャ綾香

第4回 学術論文から読み解く食と健康(4)「アミノ酸の量と質から考える健康寿命を延伸する食事」

これまで「私たちの身体と健康」シリーズでは、さまざまな臓器を取り上げながら、身体の仕組みと栄養との関わりについて解説してきました。「医食同源」や「We are what we eat(私たちは私たちが食べているものでできている)」という言葉があるように、食事は私たちの健康に大きな影響を与えますが、その影響を科学的に理解するためには、研究によって得られた科学的根拠(エビデンス)を正しく読み解くことが重要です。

本シリーズでは、「学術論文から読み解く食と健康」というテーマで、毎回ひとつの学術論文を取り上げ、その研究で何が明らかになったのか、私たちの健康とどのように関わるのかを解説します。研究成果を紹介するだけでなく、その研究の意義や限界、今後の課題についても触れながら、食と健康を科学的に考えていきたく思います。

【今回紹介する論文】

今回取り上げる論文は、2026年6月に代謝研究分野の国際学術誌Cell Metabolismに報告された研究です。

Methionine-supplemented longevity diet increases growth hormone, GLP-1, and FGF21; reduces frailty; and promotes healthspan.
(日本語タイトル:「メチオニンを補った長寿食は、成長ホルモン、GLP-1、FGF21を増加させ、フレイルを軽減して健康寿命を延ばす」)
Cell Metabolism 38: 1579-1598, 2026

この論文では、健康寿命を延ばすことと、加齢に伴う筋力や身体機能の低下を防ぐことを両立するような食事はどのようなものかを検討しました。低タンパク質食にメチオニンを適量補うことで、脂肪量を減少させながら筋肉量を維持でき、タンパク質の「量」だけでなく、「質」が健康寿命の延伸において重要である可能性を明らかにしました。

【健康に長生きするために】

医療の進歩や公衆衛生、生活環境の改善に伴い、私たちの寿命は大きく伸びてきました。日本は世界有数の長寿国であり、2022年の日本人の平均寿命は男性81.05歳、女性が87.09歳でした。一方、健康上の問題によって日常生活が制限されることなく生活できる期間を示す「健康寿命」は、男性が72.57歳、女性が75.45歳でした。つまり、平均寿命と健康寿命の間には、男性で約9年、女性で約12年の差があります。そこで近年、単に寿命を延ばすだけでなく、健康な状態で生活できる期間、すなわち「健康寿命」をいかに延ばすかが重要な課題となっています。

加齢により、私たちの身体にはさまざまな変化が生じます。筋肉量や筋力、骨量は徐々に低下し、体脂肪の量や分布も変化します。また、体内での栄養素の利用や、食事に応答して分泌されるホルモンの働きなど「代謝」にも変化が生じます。こうした変化が積み重なり、心身の活力が低下して、健康な状態から要介護に至る中間の状態を「フレイル(虚弱)」と言います。

【健康寿命における食事の重要性】

フレイルを予防し、健康寿命を延ばすために重要な要素のひとつが食事です。中でもタンパク質は、筋肉や骨をはじめとする体を作る重要な栄養素です。特に高齢期には、栄養吸収能が低下したり、筋肉を作る力が低下したりすることから、十分なタンパク質を摂取することが重要であると考えられています。

ところが、寿命という観点では、少し複雑です。摂取カロリーを控えることや、タンパク質、特定のアミノ酸の摂取を制限することは、代謝の改善や寿命延伸に効果的であることが報告されてきました。一方、タンパク質を過度に制限すると、筋肉量や筋力が低下し、フレイルにつながる可能性があります。すなわち、「寿命のためにタンパク質を控えた方が良い」という考え方と、「元気に歳を重ねるためには十分なタンパク質が必要」という考え方には、一見、矛盾があります。

そこで今回の研究では、タンパク質の量を単純に増やしたり減らしたりするのではなく、タンパク質を構成するアミノ酸の「質」を調節することで、フレイルを予防しながら代謝を改善し、健康寿命を延ばせないかを検討しました。

【健康長寿とアミノ酸】

タンパク質は、20種類のアミノ酸で構成されています(第23回「サルコペニアって何?」参照)。その中でも今回の研究で注目されたのが、必須アミノ酸のひとつであるメチオニンです。必須アミノ酸とは、私たちの体内では十分に作ることができず、食事から摂取する必要があるアミノ酸のことです。メチオニンは、肉類や魚類、卵などの動物性食品に比較的多く含まれ、タンパク質の合成だけでなく、体内のさまざまな反応に利用されます。

これまでの研究では、食事中のメチオニンを制限することによって健康的な老化を促し、寿命が延びることが報告されてきました。つまり、メチオニンの摂取量を少なくすることが有益と考えられてきたのです。

ところが、今回の研究においてメチオニンを含むアミノ酸全体が少ない低タンパク質・低アミノ酸食を高齢マウスに与えると、短期間で大きく体重が減少してしまいました。そこで、この食事に適度な量のメチオニンを補うことで、良好な代謝状態を保ちながらフレイルを防ぎ、健康長寿を延ばすことができるかを検討しました。

【5種類の食事の比較】

この研究では、ヒトの60~65歳に相当する、高齢のマウスを用いて、通常食、西洋型食(高脂肪・高糖質)、ケトジェニック食(高脂肪・低糖質)、長寿食、そして断食を模した5種類の食事を与え、代謝やフレイルに与える影響を検討しました(表1)。

この研究で使われた「長寿食」は、地中海沿岸諸国や沖縄などの長寿者の多い地域の食生活を参考にした、植物性食品を中心とする低タンパク質・低アミノ酸食です。また、この長寿食に適量のメチオニンを補った「メチオニン補給長寿食」についても調べています。

その結果、西洋型食とケトジェニック食では、体脂肪が増加し、加齢に伴うフレイルの進行も認められました。一方、メチオニン補給長寿食では、体脂肪を減少させるにもかかわらず、筋肉量、筋力は維持され、フレイルが軽減しました。また、血糖値やインスリンの効きなどの代謝関連の指標も改善されました。通常食と比較して寿命そのものが延びるわけではありませんでしたが、タンパク質やメチオニンは少ないほど良いのではなく、そこに適量のメチオニンを組み合わせることで、代謝の改善とフレイルの予防を両立できる可能性が示されたのです(表1)。
興味深いことに、メチオニンを通常食と同じ量まで増やすと、代謝改善効果が弱くなりました。すなわち、メチオニンは少なすぎても多すぎても良いわけではなく、「適量」の摂取が重要だと考えられます。

表1. 今回の論文で比較検討された5つの食事の特徴と主な結果

【なぜメチオニンを補うと健康状態が改善するのか?】

メチオニンを補給した長寿食によって、なぜ代謝の改善やフレイルの予防が起こったのでしょうか。血中のホルモンを調べたところ、成長ホルモンに加えて、糖や脂質の代謝を制御するFGF21やGLP-1が増加していました。GLP-1は、肥満や糖尿病の治療標的として近年注目を集めているホルモンです。

特に、FGF21を作ることのできないマウスでは、メチオニン補給長寿食を食べても体脂肪の減少やインスリンの効きの改善がほとんど認められませんでした。このことから、的量のメチオニン補給によってFGF21などのホルモンが増加し、代謝の改善につながった可能性が考えられます。

【ヒトではどうか?】

この研究では、20万人を超える男女の食事と健康状態に関するデータ解析も行われました。その結果、動物性タンパク質の摂取量が多い人では、少ない人と比べて、総カロリー摂取量やアルコール摂取量、加糖飲料の摂取量が少ないにもかかわらず、過体重または肥満になる可能性が高く、2型糖尿病の有病率も高いことが明らかとなりました。さらに、動物性タンパク質の摂取量が多いグループでは、メチオニン摂取量も多く、必須アミノ酸の中ではリジンに次いで多いことがわかりました。

この結果は、総タンパク質の量だけでなく、どのアミノ酸を含むタンパク質を摂取するかも重要である可能性を示唆しています。一方、ヒトでの解析は、食事内容と肥満や糖尿病の因果関係を示したものではなく、動物性タンパク質やメチオニンを多く摂取したことが、肥満や糖尿病の原因になったとは結論づけることはできません。

【この研究の限界とメッセージ】

本研究では、食事中のタンパク質やアミノ酸の量だけでなく、その質が健康長寿に重要である可能性が示されました。特に、低タンパク質食に適量のメチオニンを補給することで、良好な代謝を保ちながらフレイルを軽減できたのは、大変興味深い結果です。

一方、今回、食事による効果が示されたのはマウスを用いた実験であり、同じ食事をヒトが摂取すれば同じ効果が得られるとは限りません。また、マウスにおいて食事介入を始めたのは高齢になってからであり、通常食と比べて寿命を伸ばす効果は得られませんでした。より若い時期からこの食事をした場合の効果については、今後の検討が必要です。

健康長寿のためには、単にタンパク質をたくさん摂れば良い、とか、特定のアミノ酸を摂取すれば良いというものではないことが、この研究からも明らかになりました。従来、タンパク質の量の重要性が主に議論されてきましたが、量的な問題だけでなく、どのようなアミノ酸で構成されているかという「質」もまた、健康に長生きするための重要なポイントとなりそうです。

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