文化講座
第2回 学術論文から読み解く食と健康(2)「糖の摂り過ぎが脂肪肝を悪化させるメカニズム」
これまで「私たちの身体と健康」シリーズでは、さまざまな臓器を取り上げながら、身体の仕組みと栄養との関わりについて解説してきました。「医食同源」や「We are what we eat(私たちは私たちが食べているものでできている)」という言葉があるように、食事は私たちの健康に大きな影響を与えますが、その影響を科学的に理解するためには、研究によって得られた科学的根拠(エビデンス)を正しく読み解くことが重要です。
本シリーズでは、「学術論文から読み解く食と健康」というテーマで、毎回ひとつの学術論文を取り上げ、その研究で何が明らかになったのか、私たちの健康とどのように関わるのかを解説します。研究成果を紹介するだけでなく、その研究の意義や限界、今後の課題についても触れながら、食と健康を科学的に考えていきたく思います。
【今回紹介する論文】
今回取り上げる論文は、2026年6月に代謝研究分野の国際学術誌Cell Metabolismに掲載された研究です。
Targeting microbiota-generated acetaldehyde to prevent progression of metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease.
(日本語タイトル:「腸内細菌が作るアセトアルデヒドを標的として代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)の進行を防ぐ」)
Cell Metabolism 38: 1172-1186, 2026
一言で言うと、糖の摂り過ぎによって腸内細菌の働きを変化させ、アセトアルデヒドの産生を介して脂肪肝を悪化させることを明らかにした研究です。

【代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)とは】
代謝機能障害関連脂肪性肝疾患(MASLD)は、肥満や糖尿病、脂質代謝異常、高血圧などの代謝異常(メタボリックシンドローム)を背景とする脂肪肝です(図1)。アルコール性やウイルス性、薬剤性の肝疾患は除きます。MASLDのうち、炎症や線維化を伴う重症型を代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)といい、肝機能の低下をもたらします。
現在、世界人口の約30%がMASLDに罹患しており、そのうち約16%が炎症や線維化を伴うMASHへ進行すると考えられています。日本でもMASLD有病率は、BMI 25未満で20%程度であった一方、BMI 25以上30未満の肥満度1では約60%、BMI 30以上の肥満では約90%であることが報告されています(J Gastroenterol 47: 586-595, 2012)。MASHは、放置すると肝硬変や肝細胞がんへ進行するリスクがありますが、その進行を抑制する治療法がないため、大きな課題となっています。

図1. MASLD・MASHとは
代謝異常を背景として発症する脂肪肝を脂肪肝代謝機能障害関連脂肪性肝疾患 (MASLD)という。このうち、炎症や線維化を伴う重症型を代謝機能障害関連脂肪肝炎(MASH)といい、放置すると肝硬変や肝細胞がんへ進行するリスクがある。
【糖の摂り過ぎは良くないのか?】
これまで、糖の摂り過ぎは脂肪肝を悪化させると考えられてきました。しかし、その多くは動物実験や小規模な臨床研究に基づくものであり、糖の摂取量と肝疾患との関連を詳細に解析した大規模な研究は多くありませんでした。
本研究では、UKバイオバンクという英国の大規模医療データベースに登録された約21万人を平均約13年間追跡したデータを解析し、糖の摂取量と肝疾患との関連を調べました。その結果、糖の摂取量が多いほど肝疾患による死亡リスクが高いことが明らかとなりました。特に、果糖(フルクトース)を多く摂取している人ほど、その関連が強いことが示されました。
さらに、実験動物を用いて高脂肪・高フルクトース食を食べさせると、高脂肪食を食べさせた場合よりも肝臓の線維化が進行したことからも、フルクトースの摂取がMASLD病態を悪化させ、線維化の進行を促進することがわかりました。
そこで次に、「糖はどのような仕組みでMASLDを悪化させるのか」という疑問に答えるため、さらに詳しいメカニズムの解析を行いました。
【糖の摂り過ぎによるMASLD進行の鍵は腸内細菌だった】
前述のように、MASLDは肥満や高血糖などの代謝異常を伴いますが、近年の研究から、腸内細菌叢の恒常性維持の破綻もまた、MASLD発症につながることが示唆されています。
そこでまず、マウスに高脂肪・高フルクトース食によりMASLDを誘導し、さらに抗生物質を与えて腸内細菌の影響を除外する実験を行いました。その結果、抗生物質によって腸内細菌を減少させたマウスでは、肝臓の炎症や線維化が著しく抑制されました。このことから、糖の摂り過ぎによるMASLD進行には腸内細菌が重要な役割を果たしていることが示されました。
さらに、MASLD患者とMASH患者の便を用いて、腸内細菌のどんな機能が変化しているかを解析しました。その結果、MASH患者ではアセトアルデヒドやエタノールを産生する代謝経路が著しく亢進していることが明らかになりました。実際、そのような代謝能を持つ腸内細菌がMASH患者で増加していました。また、MASH患者の糞便にフルクトースやグルコースを加えて培養した結果、糞便中に排出された腸内細菌が実際にアセトアルデヒドを産生することが確認されました。つまり、MASH患者では腸内細菌叢が変容するだけでなく、糖を材料として実際にアセトアルデヒドを産生することが示されたのです。
では、腸内細菌によって作られたアセトアルデヒドは、どのようにしてMASLDを進行させるのでしょうか。
【アセトアルデヒドがMASLDを進行させるメカニズム】
アセトアルデヒドと聞くと、「お酒を飲んだ後にできる物質」を思い浮かべる方がいらっしゃるかもしれません。実際、アルコールはアルコール脱水素酵素によってアセトアルデヒドへ代謝され、その後アルデヒド脱水素酵素によって酢酸へと分解されます(図2)。
一方、本研究で注目されたのは、アルコールではありません。実際、MASLD・MASHを誘導したマウスでは、血中のアルコール濃度は上昇していないにもかかわらず、肝臓ではアセトアルデヒドが蓄積していました。ここまでの結果から、MASH患者では、肝臓でアルコールからアセトアルデヒドが作られているのではなく、腸内細菌が糖を代謝して産生したアセトアルデヒドの産生が主な由来である可能性が示唆されました。

図2. アセトアルデヒドができる過程
体内のアセトアルデヒドは、アルコールの分解だけでなく、腸内細菌が糖を代謝することでも産生される。
さらに研究グループは、腸内細菌によって産生されたアセトアルデヒドが門脈を介して肝臓に運ばれ、肝臓に存在する星細胞という細胞を活性化することを明らかにしました。その結果、肝星細胞ではMMP7という線維化に関わる分子の発現が増加し、肝臓の線維化が促進されました。
星細胞は、正常時にはビタミンAを蓄えている細胞ですが、炎症などによって肝臓がダメージを受けるとコラーゲンを過剰に分泌して線維化を引き起こします。すなわち本研究では、糖の摂り過ぎによって腸内細菌が産生したアセトアルデヒドが、肝星細胞を活性化し、肝臓の線維化を促進するという新たなメカニズムが示されました。
【プロバイオティクスによるMASLD進行抑制の可能性】
ここまでの結果から、腸内細菌が産生するアセトアルデヒドを減らすことができれば、MASLDの進行を抑えられるのではないかと考えられます。そこで研究グループは、アセトアルデヒドを分解するプロバイオティクスの開発に取り組みました。
プロバイオティクスとは、適切な量を摂取することで健康に有益な作用をもたらす生きた微生物のことです。乳酸菌やビフィズス菌が代表的なもので、ヨーグルトや発酵食品にも含まれます。
本研究では、数百種類の乳酸菌から、アセトアルデヒドを効率良く分解する能力を持つ菌株を探索し、Ligilactobacillus salivariusという乳酸菌を見つけました。さらにこの菌を遺伝子改変し、アセトアルデヒド脱水素酵素をより多く発現する菌株を作製しました。
改良したプロバイオティクスをMASLD発症マウスに投与したところ、腸内や門脈中のアセトアルデヒドが減少し、肝臓の炎症や線維化が改善されました。すなわち、腸内細菌が作り出すアセトアルデヒドを減少させることでMASLDの進行を抑制できる可能性が示されたのです。
本研究は、動物実験の段階であり、ヒトにおける有効性や安全性については今後の検証が必要ですが、従来のように肝臓だけを標的とするのではなく、腸内細菌を標的としてMASLDを予防・治療するという新たな治療戦略を示した点において、大変興味深い研究です。
【この研究の限界とメッセージ】
本研究は、英国の大規模コホート研究に加え、患者由来試料やマウス実験を組み合わせることで、糖の過剰摂取が腸内細菌由来のアセトアルデヒドを介してMASLDを進行させる可能性を示しました。一方で、ヒトにおける糖摂取量と肝疾患との解析は観察研究であり、「糖を食べると必ず肝疾患になる」という因果関係を直接証明したものではありません。
また、アセトアルデヒド分解能を持つプロバイオティクスによるMASLD抑制効果は主に動物実験で示されたものであり、ヒトへの応用には今後の臨床研究が必要です。
本研究は、糖の摂り過ぎを控えることの重要性を示しただけでなく、腸内細菌の代謝機能に着目することで、新たなMASLD治療法の可能性を示した点に大きな意義があります。私たちは、普段「何を食べるか」に着目しがちですが、「食べたものが腸内細菌によってどのように代謝されるか」もまた、健康を左右する重要な要素であると言えるでしょう。

