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マモさんの里山講座

里山研究家 吉澤 守(ヨシザワマモル)

里山って何だろう

どこの国でもそうですが、経済が発展して生活が豊かになると、都市に住む人達は、自然ということに強い憧れを抱くようになります。資本論を唱えたアダム・スミスは、イギリスにおける産業革命の成功を見届けると、今度は「自然に還れ」と呼び掛けて、自らは大西洋上の島で余生を送りました。
そのイギリスの産業革命は、経済を飛躍的に発展させる原動力にはなりましたが、反面で、狩猟民族のあらゆる伝統の基本である多くの森を失う結果となりました。
そこで、英国王室が中心となって、世界の自然保護運動がはじまっていったものです。日本で、「自然に還れ」という言葉が盛んに 言われ始めたのは、高度成長期が始まった昭和40年代の中頃のことです。
日本の「自然に還れ」は、当時盛んだった土地の投機ブームの中で、別荘分譲のブームが起こり、かえって山間地の荒廃を招く原因を つくり出してしまいました。その後、急激に発展したマイカーブームにのって「森林浴」と言う言葉が生まれ、これも温泉ブームという意外な展開に進んでいきましたし、バブル以後のアウトドアブームも、都市の人々を自然の中に誘う狙いがあったものですが、欧米のようなアウトドアスピリッツが本当の意味で育っているとは言い切れません。
そのような、何かと消費的な自然志向が進んでいく中で、誰が言い出されたのか定かではありませんが『里山』という、非常に日本的な意味合いを持つ、言い換えれば、「日本人の、日本人による、日本的な」環境意識を呼び起こす言葉が生み出されてきました。

考えてみますと、日本という国は、つい近年まで自然資源を巧みに使いこなしながら、循環型の社会を継承してきた、世界でも希少な自然文化を実践する国民でした。
それが急激な社会変革によって工業化、都市化、大型消費化という道を突き進んで行った時、よくよく振り返って考えてみると、そのことが日本人が大切にすべき原点的なことを失いつつある上で成り立っているのではないかということに気付きはじめました。
日本人が大切にすべき原点。それは、一言で全てを語ることは容易ではありませんが、それを象微する場として「里山」と表現された処が存在する。そんな思いがします。
大量消費の時代に、様々なモノを使い果たしてきたと同時に、多くの流行語が生まれては消えいきましたが、「里山」と言う新しい造語は、おそらく21世紀の国民的テーマとして、しばらくの間は全国各地で試行錯誤が繰り広げられる、一大用語であると私は考えます。
多くの人々の心に残る里山づくりが展開されていくことを期待しています。

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