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インターネット公開文化講座

文化講座

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グローカル文化の喜び

信天翁(アホウドリ)喫茶主
医学博士 山中 直樹(宗直)

EXPO 2005 AICHI JAPAN・・その6


(写真A)
 

万国博覧会は、地球レベルの人類的交流と叡智の出しあいによって、人間生活を精神性も含めて豊かにしようとするにある。
その交流は、グローバルな均一化を意味するものではない。
むしろ、グローカル性が大切なのだ。
それぞれの民族、地域、国が持つ文化に、より自覚した認識が求められる。

既に、喫茶の話題(17)で紹介したが、愛・地球博で『ユカギルマンモス』を描いた日本画家・小山硬(嘉多志)が、本年の院展作品として、『廿六聖人殉教図』を出品している。
有名な豊臣秀吉によるキリシタン弾圧で、長崎での西欧人神父や日本人幼児も含めて磔刑に処した歴史的事実だ。
我が国へのキリスト教とその文化伝来は、フランシスコ・ザビエルによる。織田信長は、その文化を好んで、交流が盛んとなった。
しかし、秀吉による弾圧は、異文化交流史での悲劇だ。

小山硬の『廿六聖人殉教図』は「クリスチャンロード」と言うべき文化交流の立場から、日本文化のグローカル性と言える『負の思想』を持って描かれている。
院展の元祖的創始者・岡倉天心は、日本文化のグローカル性を主張、国際社会に発信、展開した最初の人だ。

『東洋の理想』『日本の覚醒』『茶の本』と1903年以来、英語で出版している。
天心の真意、東洋の平和思想をベースとした文化、文明論を展開している。
天心は、西欧絵画から「朦朧体」という描写法を日本画へ導入を試み、「空気描写」として求めた。例えば、雨を描くのに、線描によらずに感じさせるのだ。東洋的な『負の思想』で「生韻」ある心象描写となる。
小山画伯は、その「朦朧体」表現に、水墨調プラチナグレーを基調とした単彩画法を創造して、キリスト教文化との交流史の視点から描いている。

左画面(写真A)下部に始まる西欧から、海路を乗り越え、インド、中国を経て、日本にキリスト教文化は伝来。そして、長崎における廿六聖人殉教となる。
しかし、その悲劇はバチカンに回帰して救われる。天空を介してローマ法王を思わせる聖者に迎えられる。
そして、ミケランジェロが設計したと言われるドームには、彼が若い時に創作した木彫りの磔刑が描かれていると判る。その磔刑によって、殉教は救われ、人類の文化流転は進み、交流は発展していく。

日本のグローカル性は大切にしなければと小山作品の描写法は言っているようだ。
茶の湯を完成させた利休の弟子にキリシタンが多いのは、グローカル性ある文化交流発展の歴史的事実と結果でもあるのだ。

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