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インターネット公開文化講座

文化講座

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古美術・骨董の愉しみ方

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

古美術にのめりこんだ理由は・・・

私が東京で「日本骨董学院」という古美術・骨董を勉強したい方々のための学校を始めて今年で11年目になり、これまで2600名以上の会員の方々にお話してきました。また現在名古屋の中日文化センターの教室で「たのしい古美術・骨董入門」と「プロのための古美術・骨董」を担当させていただき、また10月から「たのしい西洋アンティーク入門」を新たに開講予定です。

これから皆さんに古美術・骨董のおもしろさを12回にわたって書かせていただく予定です。さて私が骨董の世界に入ったきっかけからお話したいと思います。
それは小学校3年生の時に家の庭から江戸時代の貨幣である「一分銀」を見つけたことと、4年生の時(昭和32年)に父に連れられて黒沢明監督の映画「蜘蛛の巣城」を観たことによるのだろうと考えています。

「一分銀」は仏壇にあったほかの古銭といっしょにボール紙に糸で縫いつけて夏休みの自由課題として学校に出しましたら、担任の先生から「これは大切なものだから家にしまっておきなさい」と「優」のスタンプがついて返されましたので、どのくらい大事なものか自分でいろいろ本で調べてみましたら、200年も前の江戸時代の古いものなんだとわかり、子供ながらに驚きました。

「蜘蛛の巣城」は若き黒澤監督の出世作ともいうべき作品で、「羅生門」「生きる」「七人の侍」などの名作に続いて世に問うたのがこの「蜘蛛の巣城」だったのです。シェークスピアの悲劇「マクベス」を日本の戦国時代に置きかえた作品です。国際俳優、三船敏郎の出世作でもあり、ロンドンの国立映画劇場のこけら落としに映写されるという栄誉を受け、またエリザベス女王が観にこられたとか、当時大変話題になりました。

白黒の映画でしたが、この作品の持つ美しさは比類のないものです。迫真の演技、武具甲冑の美しさ、刀剣類の美しさが心に残りました。特に最後の場面での主人公である戦国武将、鷲津武時が弓で射られる場面では、その迫力に圧倒されました。あとで聞いたところ、黒澤監督はこの場面を撮影するのに全国から弓の名人を集めて、主人公を貫く矢以外は本物の鏃(やじり)をつけた矢を射て撮影したそうです。三船敏郎の顔は本物の矢が周囲に飛んでくるので、恐怖に引きつった断末魔の顔になったのでしょう。本当の恐怖の表情を引き出すための黒澤監督一流の演出でした。また本物志向の黒澤監督は古美術にも造詣が深く、映画の中で使う小道具類にも、高価な本物の古美術品を使いました。映像の美しさは本物のもつ美しさだったのです。子供の頃にこうしたすばらしい映画に出会えたことがきっかけで古美術が好きになったのではないかと今でも思っています。

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