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古美術・骨董の愉しみ方

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

やきものの鑑定入門2 『キズからみる鑑定方法』

元禄時代の柿右衛門様式の皿についたキズ

前回はやきものに見る歪みから、作品の真贋を見る方法をお伝えしました。今回は同じようにキズという見方から陶磁器を鑑定する方法をお教えいたします。

昔は陶磁器、特に皿類はその用途から考えれば、鑑賞とか珍しいので飾っておくということはなかったようです。加賀百万石の大名、前田家のように世界各国の陶磁器のコレクションをしていた藩もあります。それは私の考えでは、自藩の産業育成のための資料収集であり、将来こうしたやきものを焼いて、藩の産業を豊かにしたいという希望から、優れた伊万里の作品などを北前船を通じて購入していたと考えています。
現在では伊万里製といわれる古九谷の名品が金沢にたくさん集中して残っていたこともそうした需要から集めたものが伝わったと推測されます。またその残された数量の多さから逆に加賀で焼かれていたのではないかという、当然そう思われる推測を生んだこともいたし方ないようにも思われます。しかし人間国宝の九谷焼・三代徳田八十吉氏も明言されているように、「古九谷」は伊万里のものであることは現在では学会の趨勢でもあります。

さて話を前に戻しまして、江戸時代は今のように「磁器」は一般的なものではなく、極めて上流階級のみが使い得た作品であり、当然に高価でした。高価であるがゆえに大いに使われて楽しまれました。使ってこその食器であり、また使われてこそその真価が発揮されたのではないかと思います。鍋島という作品の特徴は、外様大名である鍋島藩が政策として宮家や将軍家に献上した作品群であり、当時としては超高級品であったことです。厚めにつくられた鍋島は、使うと極めて使いやすい、「なじむ」作品であるという使った方の感想を聞いたことがあります。伊万里の工夫でしょうか。

また六古窯の作品や唐津などの作品を見ても、発掘品は別として、伝世品(でんせいひん)といわれ、大切に保管されながら現代まで伝わった作品などにも使われた痕跡、すなはち「生活痕」であるキズが無数についています。これは古い作品では当然の事ですが、新しい作品、すなはち私はよく「きのう出来た作品」と言っております贋作にはこのキズがありません。
ところが時々贋作にもキズが付いていることがありますが、すぐ贋作だとわかります。なぜならキズを観察してみますと大きな傷は水平についているからです。これは紙ヤスリなどを使いましてキズを人工的に付けることから付いたキズに他ならないからです。本来の「生活痕」であるキズは、何回も、何回も使われているうちに自然に付いたキズで、その付き方は大小さまざまであり、キズの方向もみな違います。一つ一つのキズがみな違う自然な表情をしているのです。そこを見なければいけません。写真でよく確認してください。

江戸後期の鍋島皿に付いたキズ

小さいキズはルーペでないと見えない場合もありますので、10倍程度のルーペがあると便利です。ルーペの縁はプラスチック枠に限ります。金属枠は作品を割ったり、キズを大きくつける可能性があるから使用してはいけません。

通常、贋物は生産コストを低く抑えて利益幅を大きく取りたいと考えますので、こうした本物に見られるキズを作ることには手間がかかりすぎて馴染みません。
簡単に作れて儲かるのが贋作作りの目的といえるからです。ですから小さい無数の方向が違うキズなど出来るはずもありません。

それゆえ私はこの「生活痕」は逆に分り易い鑑定方法の一つであり、皆様には是非マスターしてほしいポイントの一つとしてお勧めしたいのです。

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