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古美術・骨董の愉しみ方

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

やきものの鑑定入門3 『伊万里鑑定の秘訣』

贋作の目跡
(全体がきれいで、さわると手が切れるくらいに鋭利)

今まで伊万里鑑定のポイントとして、①ゆがみから見る方法 ②表面につく無数のキズから見る方法をお伝えしてきました。これらの方法は他の難しい鑑定方法、酸化コバルト(伊万里の青の呈色剤・呉須のこと)の発色具合や時代の特徴ある文様、高台の大きさ、釉薬を掛けた時の指跡、皿の中央の厚さなどがあります。しかしいずれも決定打ではなく、特に呉須は還元焔焼成とやや酸化焔焼成気味の作品とではまったく色合いが違います。初期伊万里などにおいてさえ、その初めと後わり頃のものとでは呉須の発色が大きく違うものが多々あります。

高台の大きさについても古来、初期伊万里の高台の直径は全体の直径の1/3といわれていましたが、それとて高台の直径の大きなものもありますし、必ずしもそうとは言い切れません。釉薬を掛けた時の指跡についてはまったく付いてないものもたくさんあります。皿の中央が厚く出来ているのは初期伊万里には確かに多いですが、江戸中期(享保以降)の製作とされるいわゆる初期の「蕎麦猪口」の高台も厚くできています。

このように鑑定には例外もたくさんあり、必ずしもそれが正しいという方法はありません。いろいろな鑑定方法を駆使してものを見てゆくというのが優れた鑑定方法といえるようです。

すべての特徴が出ている作品は逆に「贋作」である可能性が高いとされます。贋作師は素人に分り易いように、これが特徴だと言わんばかりにたくさんの特徴を作品に盛り込みますから、逆に贋作と分り易いのです。

そうしたかずかずの特徴のなかでも、①ゆがみから見る方法 ②表面につく無数のキズから見る方法は簡単に見分けられますし、極めて合理的な鑑定方法です。

本物の目跡
(時代による擦れで磨耗し、すべすべしている)

さて今回は「目跡」から見る方法をお教えしましょう。「目跡」とは何でしょうか。皿を例にして考えましょう。
皿を平らにして窯に入れて焼いたとしましょう。伊万里磁器の通常の焼成温度は1300℃を超える高温で焼きますが、こうした高温で焼きますと磁器質がやわらかくなり、高台の内側がヘタる、すなはち下に落ちてきます。そこで皿の高台の中側にピンと呼ばれる支えを入れてやりますと、ヘタリを押さえることができ、従って皿の中央がへこむことが無くなり完成度が高くなります。その「目跡」を焼成後、冷却した段階でペンチのようなもので取るのですが、その目跡を見るのです。古い目跡は何百年と使われ、洗われることによって擦れて、指で触れてもひっかかりを感じません。ところが「新しい」伊万里の目跡は触るとナイフに触れたかのような鋭利な感覚がするのです。
古い作品は長い間、使われて、洗われたことによる磨耗がひっかかりを感じさせないのです。

贋作師は手間のかかる作業を嫌いますので、こうした鑑定のポイントが成立するのです。この記事を読んだ贋作師は次に贋作をつくるときには目跡をバフで磨くでしょう。真贋を極めることと贋作つくりはまさに、いたちごっこなのです。ただ、今のところこの鑑定方法は有効ですので、チャレンジしてみてください。

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