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インターネット公開文化講座

文化講座

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古美術・骨董の愉しみ方

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

一振りの刀で知った、骨董の経済効果

私は東京の中野で生まれ、今も住んでおりますが、近くにブロードウエイというショッピング街がありまして、そこの4階に武田さんという、私の父親と同じ年配の方が骨董商をしておられるのを知って、以来そのお店によく伺うようになりました。

世界的な画家である藤田嗣治(レオナルド・フジタ)の弟子であった武田先生は絵画が専門でしたが、刀剣も扱っておられ、毎日のように通いました。次第に店番などもまかされて、商品の刀剣類や美術品を実戦的に触って勉強することができました。

あるとき武田先生の店にゆくと「この刀はどうだ?」と見せられたのが江戸中期の承応年間の年号の入った宇多国宗という刀匠のやや短めの刀でした。製作された年記も入っており、手嶋次郎左衛門という人のためにつくった注文打ちの刀でした。作風はおとなしかったのですが、なかなかまじめでいい刀でした。拵えといいまして、刀の外装部分もいいのが付いているし、これはなかなかいいですね、といったら、どうだ買わないかというのです。いくらですかというと、30万円だというのです。

当時大卒の初任給が3万円くらいでしたから、大卒10ヶ月分の買い物になるのです。それは払えませんと答えると、分割でいいから、これを持てというのです。家庭教師でもして頑張れば毎月1万くらい入れられるだろうということになり、買うことにしました。その後、半年位して刀剣ブームなる、後に伝説的に言い伝えられるようになる高騰が起こったのです。

先生の店では、打ち粉を打って手入れしていると、その刀はいくらだと買う人が後を断たなかったといいますから、大変なブームだったのでしょう。手持ちの刀をすべて売り払った先生は、わたしの刀を思い出し、あれを売れということになりました。

まだ買ってから半年くらいですから愛着もありましたが、残りの残金のこともありましたからいくらで売れるのですかと尋ねましたら、残りの返済を相殺して90万手渡しでどうかということでしたので、すぐOKしました。支払った6万引いて84万の儲けになりました。今の価値に換算して560万円くらいの利益でしょうか。骨董品はこんなに儲かるんだと現金を手にして、私はその経済効果に驚いたのです。

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