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インターネット公開文化講座

文化講座

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古美術・骨董の愉しみ方

日本骨董学院・学院長
東洋陶磁学会・会員
日本古美術保存協会・専務理事 細矢 隆男

やきものの鑑定入門1 『やきもののゆがみ、ヒズミを見る』

今回からしばらくやきものの鑑定のポイントについてお話したいと思います。骨董を愛好している方々の特徴として、やきものが好きという方々が圧倒的に多いということがあげられます。まさに日本人はやきもの好きという言われていることを裏付けているようです。

やきものの鑑定とか美術品の鑑定といいますと、なにやら特別に難しいことのようであったり、いろいろ神秘のベールに包まれたことのように思われがちですが、決してそのようなことはありません。ただX線撮影による分析や、機材による素材の分析、様式・文様の時代性などの研究ではそうした素人には難しい側面もありますが、ここではそうした部分を抜きにした、いわゆる一般的で分り易いということに重きを置いてお話したいと思います。

現代において贋作を含めて美術作品を制作する場合は、合理化の時代でもあり、なにをするにも経費の問題がとりざたされます。原価を安く、光熱費、人件費をきりつめる、流通経費の削減、販売人員の削減などがあげられます。すなはち無駄を省くということによる利益の確保が優先されます。コンピューターや各種の優秀な機器によって、人間の関わる過程が大きく削減されてきています。

ところが昔はすべて人が関わったし、電気、ガス 、石油などの燃料によって燃焼させることはありませんでした。やきものについては大半が薪によって燃焼されていました。その薪の灰がやきものに降り注いで自然釉となったのです。灰の中にはさまざまな成分が含まれております。少し専門的ですが、主成分としては灰はケイ酸と酸化カルシウムから成り立ち、酸化アルミニウム、酸化カリウム、酸化ナトリウム、酸化鉄、酸化マグネシウム、酸化マンガンなどの成分を含んでます。ですから灰は有効な肥料にもなったわけです。

こうした成分がやきものに降り注ぎ、窯の中が1240度以上の高温になると、上記の成分、特にケイ酸が溶けて釉薬、すなはちガラス質に変貌するのです。またそのさまざまな金属との「変化の妙」がまた古窯作品の釉薬の魅力であり、侘、寂につながる日本独自の文化を形成する重要な過程となるのです。

さてここでは温度に注目しましょう。薪で焼かれた時代の作品はすべて人間の目と勘で温度管理がなされていました。これは間違いのない事実です。高温を測る温度計は当時ありませんでした。そこで陶工たちは火の色で判断したのでしょう。目と勘、すなはち経験に頼っているわけですから温度も常に変動したに違いありません。

また薪を入れるたたびに焚口を開けますから外の冷たい空気が大量に窯中に入ります。窯内の温度は急低下します。そのため窯内の温度は常に200度、300度は変動したものと考えられます。するとやきものそのものも冷えたり熱くなったりを繰り返しますから、収縮、膨張をくりかえすことになります。
焔の当たる角度で温度の変化に強弱もあるでしょうから、その結果、大きなゆがみ、ヒズミがやきものに生じます。さらにまたやきものは焼く前と焼いた後では20%近く収縮することもそれを促進させます。古い壷がゆがんでいたり、傾いていたり、また中には大きく割れやヒビが入るのはこうした収縮、膨張が原因と考えられます。(写真参照)

現代の作品は贋作を含めて上記の経済的な理由から多くがコンピューターで管理され、また電気、ガス、石油で燃焼されます。したがって焼成温度は設定されたとおりに一定に燃焼されますのでゆがみが少ないのです。伊万里のお皿なども水平にしてみていただくと、大きくゆがんでいるほうが古い本物で、水平にきれいにできているものは現代の作品である可能性は高いのです。

多くの初心者の方々は、ゆがんだ作品より、きちんと、端正な作品を好みますが、長年コレクションを続けている方々はゆがんで、自然釉などの「味わい深い」作品を好みます。六古窯の作品がその代表です。

博物館や美術館で本物の持つ味わい、姿、形をご覧いただいて、そうした優品のもつ日本独自の美しさ、味わいを体得していただけると、日本の美がより近いものとして感じられるようになると思います。

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