愛知県共済

インターネット公開文化講座

文化講座

インターネット公開文化講座

マモさんの里山講座

里山研究家 吉澤 守(ヨシザワマモル)

無人販売のすぐれもの

近ごろ、里を訪れるたびに質素な農産物の無人販売によく出会います。春先から晩秋にかけて、作物の豊富な時期には、新鮮な地採れ野菜に出会えるチャンスがたくさんあります。里を訪れることの多い私は、無人販売をウォッチングしてお気に入りの産物に出会うことを楽しみにしています。

ある時、間口も奥行きも高さも1mほどの、丸太を骨組みにして粗末な板で囲んである軒先の無人販売所を見つけました。中には、その家の畑で採れたカボチャがピラミッドのように山積みになり、黒色のマジックで「朝採りカボチャ」、そしてその下に赤いマジックで「100円」と書かれていました。直径が25cmほどもある、このカッシリとしたカボチャが、"何、1個100円"と思いながら、私は竹筒のレジに500円を奮発して土産用と自分用とで5個を買い求めました。そのカボチャのおいしかったこと、この上ありません。

私はその後数年間、カボチャの時期になるとその農家に話をつけて、カボチャの宅配便をかって出ていました。おいしいものを仲介して感謝されるのも里山ファンの楽しみの一つです。その後、そのカボチャを丹精込めて作っていてくれたおじいさんが亡くなり、親交は途絶えてしまいましたが、軒先の無人販売所に使われていた小屋だけは今でもそこにポツンと建っています。

広島県の山奥の村(といっても、島根県に通じる国道が走っています)で、「家で食べている野菜」「無人販売」という立て札を見つけ、立ち寄ってみたことがあります。
いまから12~13年ほど前のことです。ちょうどその時、野菜をリヤカーから棚に並べていたお婆さんに話を聞くことができました。聞くと、80歳に近いというそのお婆さんは、家にかなり広い畑を耕し、国道脇に3軒の無人販売所を持っていて、何と年商が、その当時で900万円ほどもあるということでした。
「お婆さんは、立派な経営者ですね」と私が言うと、「ここまでになるには10年近い苦労があった」そうで、『無人販売通信』という手書きのチラシを渡してくれました。それには、「私たち老夫婦が健康に暮らせるのも、家で採れる無農薬野菜たちのおかげです」という見事なコピーが筆で書かれ、欄末には次の月に採れる予定の野菜の注文書が添えられていました。つまり、このお婆さんちは、無人販売所をアンテナショップとして、野菜の注文販売を行うことが経営のノウハウとなっていたのです。
「今は宅配便が発達しているから、ありがたい」お婆さんの野菜ファンは全国にいるそうで、「全国の息子や孫に田舎の採れたてを送っているようなもんだ」と話してみえました。

このページの一番上へ