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マモさんの里山講座

里山研究家 吉澤 守(ヨシザワマモル)

里の人々の人情

里山の地域をドライブしていて、すれちがう地元の人にペコッと頭を下げられた経験をお持ちではありませんか?
人と人との関係が親密な里の人々は、その暮らしを支える基本が日常のあいさつ事にあることを、おそらく習慣的に身に付けておられるのだと思います。そんな時には、街から訪れた人たちも積極的に頭を下げ合うことをおすすめしておきます。
例え車中からであっても、そして、相手の方が見知らぬ地元の人であったとしても。頭を下げ合うという日本人のコミュニケーションの習慣は、いつでも心を爽やかにしてくれるものです。

地元の人に道を尋ねることもしばしばありますが、そんな時、なるべく車の中から道を聞くのではなくて、いったん車から降りて、まず日常のあいさつをした後で、尋ね事を切り出すことをおすすめします。
里を訪れることを日課としている私は、常にそうしたことを心掛けていますが、ある時こんなことがありました。
とある里で、水田の点検をしておられたお婆さんに、例によって車から降りて道を尋ねました。あいにく、そのお婆さんはご存知ではなく、しばらく考えた後に、役場の所在を教えてくれました。そこで聞いた方が確実だということで。お礼を言って立ち去ろうとしますと、答えられなかったことを申し訳と思われたのか、こちらが恐縮するほど深々と頭を下げられて、私の車を見送ってくれました。
用件を済せた帰り道、同じ場所でそのお婆さんが田んぼの仕事をされていたので、「おかげさんで、役場で道を教えてもらって、無事行き先へ着くことができました」とお礼を言うと、「それは、それは」と言うためだけに、わざわざ頭の手ぬぐいを取って言葉を掛けてくれました。

その後私は、用件があって何度もその里を訪れる機会があり、あの時の田んぼの前を通るたびにお婆さんの姿を探すのですが、その後は一度もお会いすることができません。それでも私は、その田んぼの前を通るたびにお婆さんがいるような気がして、ペコンと頭を下げて通ります。そうすることで、そのお婆さんにも、そして、その里に対しても何か心が通じ合う、そんな気がして、何となくすがすがしい気分になるのです。

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