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インターネット公開文化講座

文化講座

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世界の長寿食

郷土料理研究家
栄中日文化センター提携 インターティアラ・お料理サロン 主宰
伊藤 華づ枝

第9回:「インドの長寿食」について学びます。

前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。

今シリーズは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしております。

第9回目のテーマは、「インドの長寿食」です。

WHO(世界保健機関)が発表した2023年世界の長寿ランキングによると、インドは世界第117位、平均寿命70.8歳の国です。インドの人々はどんな料理を食べているのでしょうか?

※データがある国や地域183か国の中では、インドの平均寿命は中くらいに位置します。
※ちなみに世界全体の平均寿命は73.3歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。

インドの概要

面積: 328万km2(日本の約9倍の広さ)
人口: 14億2800万人(2023年現在)
(世界1位の人口・日本の人口の約13倍)
首都: ニューデリー(約1675万人)
宗教: ヒンズー教徒79.8%、イスラム教徒14.2%他
言語: ヒンディー語 英語は補助公用語


インドの国旗

インドってどんな国?

インドは5000年の歴史を有する広大な南アジアの国で、ヒマラヤ山脈からインド洋の海岸線まで多様な地理を有しています。北部には、デリーの赤い城、巨大なジャーマー・マスジド、アグラにある象徴的なタージ・マハル廟といった、ムガル帝国の代表的な建物があります。バラナシでは巡礼者がガンジス川で沐浴する姿が見られ、リシケシはヨガやヒマラヤトレッキングの拠点として知られています。

赤い城(レッド・フォート)

インドの首都デリーにある赤い城は、ムガル帝国5代目皇帝であるシャー・ジャハーンによって17世紀に建造された城です。赤い砂岩を使用したことから「赤い城(レッド・フォート)」と呼ばれ、城内にある建築物はイスラムの建築様式を基本としつつも、ペルシャやヒンズー教の影響なども見られます。

ジャーマー・マスジド

正式にはマスジデ・ジャハーン・ヌマーと言い、「世界を見渡す(ことができるほど大きな)モスク」という意味です。
デリーのジャーマー・マスジドは、オールドデリーの繁華街チャンドニー・チョークにあるインド最大のモスクで、第5代皇帝シャー・ジャハーンが最後に手がけた建築物です。


ジャーマー・マスジド

タージ・マハル廟(世界遺産)

インド北部のアグラにあるタージ・マハルは、1631年から1648年にかけて、ムガル帝国の皇帝シャー・ジャハーンによって建造された霊廟です。
これは彼の愛妃であるムムターズ・マハルのために造られた大理石の建造物で、インド・イスラム建築の傑作です。世界でも有名な霊廟の一つです。


タージ・マハル廟

インドの食文化

インド料理は、スパイスをふんだんに使った料理が広く知られています。
その根底には、「食事はそれ自体が神様である」、「良い食事をとれば良い身体が作られ、良くないものを取り入れると病気になる」というインドに古くから伝わる医学「アーユルヴェーダ」の考え方があります。
インド料理は地域や民族、宗教などによって、多様なバリエーションがあります。
インドの国土は大まかに、東西南北の4つの地域に分けられます。

北インド

首都ニューデリーのある北インドは、16世紀からおよそ300年間、トルコ系イスラム王朝ムガル帝国の支配下にあり、アフガニスタンやペルシャの影響を受けて、小麦から作るナンやチャパティが主食です。
シナモンやクローブ、ナツメッグ、ガラムマサラを使った濃厚なカレーが特徴的です。
イスラムの影響により、肉料理の種類も豊富です。
代表的な料理は、「ムルグマッカーニ(バターチキンカレー)」や「キーママター(キーマカレー)」、「タンドーリ・チキン」、「パラクパニール(ほうれん草とチーズのカレー)」などです。


骨付きチキンカレー

南インド

インド古来のドラヴィダ文化が今も息づく南インドは米を主食に、カレーリーフやマスタードシード、ココナッツミルクを多用したカレーがよく食べられています。
代表的な料理は、野菜とヨーグルトのカレー「アヴィヤル」や、辛みと酸味のきいたタマリンドや黒コショウ、トマトなどのスープ「ラッサム」、スパイスで炒めたじゃがいもなどを豆粉のクレープで包んだ「マサラドーサ」、またバナナの葉の上にさまざまなおかずを乗せた定食「ミールス」などです。


ヨーグルトチキンカレー

東インド

東インドは、コルカタ周辺の「ベンガル料理」がよく知られており、米を主食に魚をよく食べる、日本とよく似た食文化です。 マスタードオイル、マスタードシード、ターメリックなどを使った「マチェル・ジョル(ベンガルフィッシュカレー)」が有名です。

西インド

西インドは、厳格な菜食を教義とするジャイナ教の定食「グジャラティターリ」が名物です。
ジャイナ教ではターメリックやしょうが、にんにくなど、植物の命の源と考える根のスパイスやハーブもタブーですが、乳製品や砂糖は摂ることが可能で、限られた食材をおいしく食べる補強材になっています。
なお西インドでは、小麦のパンと米の両方が主食です。

肉を使わない菜食料理

インドには肉を食べない菜食主義者(ベジタリアン)と呼よばれる人たちがたくさんいます。肉類を口にしないのは宗教上の理由からで、なかには卵など、動物由来の食品は一切食べない人もいます。そのため野菜や豆類を材料にした菜食料理が発達し、専門のレストランも数多くあります。


ベジタリアン用の食事(デリーのホテルにて)

乳製品の多用

インドは牛乳大国で、その用途は庶民の間で広く親しまれているチャイに使うなど飲用がメインです。
その他に、ギー(バターオイル)、ダヒ(ヨーグルト)、パニール(カッテージチーズ)といったインド特有の乳製品などがあり、これらは家庭で手作りされることが多いです。
ダヒはそのまま食べるだけでなく、肉や野菜の煮込み料理に入れたり、タンドーリ・チキンなどのグリル料理の味付けに使われたり、直接料理にかけて食べます。


ラッシー(ヨーグルトの飲み物)・現地にて

インドでは手食が基本

最近では、レストランにもナイフやフォークがセットされているところが多くなりましたが、インドの人の食事は手食が基本です。
右手はきれいなものを扱う「浄」、反対に左手は「不浄」とされ、食事中に直接料理に触れるものは右手のみで、親指・人差し指・中指の3本を使って料理をまとめて口に運びます。


筆者も手で食べてみました

インド料理に欠かせないスパイス

インドの家庭では、毎日、毎食スパイス料理を食べています。
インドの家庭で使用するスパイスの種類は、30~40種類といわれています。
その日の体調や、気候、食材、気分に合わせて使用するスパイスの種類や分量、比率を決め、各家庭オリジナルでブレンドしたスパイスを作ります。スパイスは使い方次第で、辛さの心配はありません。
もちろん、インドでもお年寄りや赤ちゃんがいる家庭では、ほとんど辛味のスパイスは使用しません。
インド料理によく利用されるスパイスをいくつか紹介します。


インド・デリーの家庭に入ってインド料理を習っている様子

ターメリック(うこん)

カレーの黄色に欠かせないスパイスです。
加熱調理することで苦みが抑えられ、オレンジとジンジャーが混ざったような独特の香りが引き立ちます。
ターメリックの色素成分はクルクミンと呼ばれ、抗酸化力が高いといわれています。

コリアンダー

パクチーの種を乾燥させたスパイスです。
柑橘系の爽やかな風味と心地よい苦みがあり、ホールを乾煎りするとアーモンドのような香りになります。
カレースパイスに不可欠な「調和のスパイス」と呼ばれ、他のスパイスよりも分量を多く入れることでスパイス全体が馴染みます。

クミンシード

独特の香りと甘い風味を持つスパイスです。
ローストやテンパリングで、その香りを最大限に引き出して使います。
どのスパイスとも相性がよく、特にコリアンダーといっしょに使われることが多いです。

レッドチリ

カレーの赤と辛さを担うスパイスです。
辛味が強く香りも濃厚な「テジャチリ」、辛味が少なくピーマンのような香りの「カシミリチリ」、香り豊かで南インドで多用される「グンドゥチリ」など様々な品種があり、辛さや香り、旨みも異なります。

シナモン

シナモンの樹皮を剥ぎ取って乾燥させたスパイスです。
甘く爽やかな香りと、ほのかな甘味で、北インド料理やモロッコのタジンなど肉料理との相性が良いです。

グリーンカルダモン

完熟前の実をさやごと摘んで乾燥させたスパイスです。
さやの中には黒褐色の種子が入っています。
ほんのり甘く、鼻を衝く爽やかな柑橘系の香りがします。
緑のふさにも精油が多く含まれ、ユーカリに似た味がします。

ブラックペッパー

完熟前の実を乾燥させて外皮ごと使うブラックペッパーは、ホワイトペッパーよりも風味と辛味が強いです。
香りと風味は揮発しやすく、調理の直前にミルで挽くか、砕いて使うのが良いです。
辛味成分のピペリンは抗菌や防腐作用があり、インドでは消化不良、腹痛、下痢などの症状の改善に用いられてきました。

インドと紅茶

インドは、世界最大の紅茶生産国です。もっとも生産量の多い地域はインド北東部で、アッサム・カチャール・ダージリン・ドアーズ地方がその代表です。また、南インドでは、高地に位置するニルギリ地方を中心として、年間を通じて香り高い良質の紅茶が生産されています。インドでは国内消費量も多いため、生産量は多いが輸出はあまりされていません。日本で販売されているインド産の紅茶は、ごく一部の高級品です。


インド料理でホームパーティーを開いた筆者

~今回は、インドの代表的なカレー・チキンとひよこ豆のカレーとカチュンバルと呼ばれるサラダ・人気の飲み物・ラッシーをご紹介します~

チキンとひよこ豆のインドカレー

チキンとひよこ豆のインドカレー

材料 4人分
ひよこ豆(乾燥又は水煮大豆) 70g(茹でたもので150g)
鶏もも肉 400g
  小さじ1/3
黒こしょう 少々
サラダ油 大さじ3
赤唐辛子(種を出して使用) 2本
A 玉ねぎ(小角切り) 1・1/2コ(400g)
しょうが(すりおろし) 小さじ1
にんにく(みじん切り) 小さじ2
B ガラムマサラ 小さじ2
ターメリック 小さじ1
レッドチリパウダー 小さじ1
トマト(完熟・種を出して小角切り) 2コ(400g)
C 30~50ml
プレーンヨーグルト 1/2カップ(100g)
小さじ1
黒こしょう 少々
ご飯 4人分(約800g)

作り方

  1. ひよこ豆は一晩水に浸け、沸騰してから35分間をメドに柔らかくなるまで茹でます。
  2. 鶏肉は1枚を20~24切れ位の一口大に切り、塩と黒こしょうをふってもみ込みます。
  3. フライパンに油を入れて火にかけ、弱火で赤唐辛子を加えて炒めます。はじけてきたら火を止めて(A)を入れ、じんわりと炒めて赤唐辛子を取り出します。
  4. 3.の玉ねぎがしんなりしたら、2.の鶏肉を入れて炒めます。鶏肉の色が変わったら、(B)を加えて炒め合わせます。
  5. 4.にトマトと①のひよこ豆、(C)を加えてフタをし、15分間煮込みます。
  6. 5.をご飯と共に器に盛ります。

※写真にはご飯の上にキャラウェイシードをふり、ナッツを添えました

トマトと玉ねぎのカチュンバル(インド風のスパイシーサラダ)

トマトと玉ねぎのカチュンバル(インド風のスパイシーサラダ)

材料 4人分
トマト(完熟) 300g(2コ)
  玉ねぎ 250g(中2コ)
小さじ1/2
しし唐辛子(又は青唐辛子) 4本(1/2本)
A 小さじ1/2~
レモン汁 小さじ2

作り方

  1. トマトは横半分に切ってから種を出し、1~2cm角に切ります。
  2. 玉ねぎは短いせん切りにしてボウルに入れ、分量の塩をふってもみ込みます。
  3. しし唐辛子はみじん切りにします。
  4. 2.の玉ねぎがしんなりしたら、ザッと洗ってザルに上げ、水気をしぼります。
  5. 大きめのボウルに1.3.4.を入れ、(A)で調味します。
  6. 食べてみてよい味であることを確認してから、器に盛ります。

※写真には、しし唐辛子の輪切りを添えました

メロンのラッシー(他の果物でも可)

メロンのラッシー(他の果物でも可)

材料 4人分
メロン(正味) 200g
A レモン汁(又はライム) 小さじ1
プレーンヨーグルト 200ml
砂糖 大さじ2~
水(ミネラルウォーター) 100ml
適宜
メロン(飾り用) 適宜

作り方

  1. メロンは皮をむいて種をとり、粗く刻みます。
  2. 1.と(A)をミキサーにかけます。
  3. 氷を入れたグラスに2.を注ぎ、薄切りにしたメロンを飾ります。

※フルーツは刻んでから凍らせておき、同様に作るとスムージー風になります

~参考文献~
食生活全般論 著者:伊藤華づ枝
地球の歩き方「インド」 ダイヤモンド社・ダイヤモンド・ビック社
はじめてのインド料理 著者:ミラ・メータ
インド、カレーの旅 著者:ミラ・メータ

世界の長寿食
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