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インターネット公開文化講座

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世界の長寿食

郷土料理研究家
栄中日文化センター提携 インターティアラ・お料理サロン 主宰
伊藤 華づ枝

第10回:「モロッコの長寿食」について学びます。

前シリーズでは「日本食って素晴らしい!」と題し、日本食の代表である「天ぷら」「寿司」「餅」「蕎麦」など、国内外で人気のある日本食についてご紹介してきました。

今シリーズは、「世界の長寿食」というテーマで、世界各地の人々は健康を維持するために何を食べてきたのかという背景を探りつつ、それらの料理を日本でも手に入る食材を使ったレシピで紹介したり、含まれる栄養素の効能についてもお伝えしております。

第10回目のテーマは、「モロッコの長寿食」です。

WHO(世界保健機関)が発表した2023年世界の長寿ランキングによると、モロッコは世界第100位、平均寿命73.0歳の国です。モロッコの人々はどんな料理を食べているのでしょうか?

※ちなみに世界全体の平均寿命は73.3歳、世界最長寿の国は日本で、平均寿命は84.3歳です。

モロッコの概要

面積: 44.6万km2(日本の約1.2倍、西サハラ除く)
人口: 3,746万人(2022年現在)
首都: ラバト
宗教: イスラム教(国教)、スンニ派がほとんど
言語: アラビア語(公用語)、ベルベル語(公用語)、フランス語


モロッコの国旗

モロッコってどんな国?

モロッコは西大西洋と地中海に面した北アフリカの国で、ベルベル文化、アラブ文化、ヨーロッパ文化が融合していることで有名です。マラケッシュのメディナは中世の面影を残す地区で、迷路のように入り組んでいます。ここには人々の娯楽スポットとなっているジャマ・エル・フナ広場があります。また、スーク(市場)では陶芸品、宝飾品、金属製のランタンなどが売られています。首都ラバトにあるウダイヤのカスバは12世紀に造られた王族の要塞で、海を見下ろすように佇んでいます。

モロッコの古都・マラケッシュ「赤い街」

1985年に世界遺産に登録された「マラケシュ旧市街」は、「ジャマ・エル・フナ広場」を中心に広がっています。広場の北側に広がる「マラケシュスーク」は世界最大の商業地区とも言われており、細い道が迷路のように巡らされているのが特徴です。
「赤い街」と呼ばれ、建物はピンク色のレンガで造られています。


マラケッシュに買い物に向かう筆者

ジャマ・エル・フナ広場

ジャマ・エル・フナ広場単体でも、2009年に世界無形遺産に登録されました。夕方から屋台が出始めて深夜1時ごろまでにぎわいます。


ジャマ・エル・フナ広場

ウダイヤのカスバ

ウダイヤのカスバは、タリク・アル・マルサ通りをはさんでメディナの北に位置する城塞地区です。ムワッヒド朝時代に築かれた城壁を利用して、17世紀にムーレイ・ラシッドによって造られました。城壁は幅が2.5メートル、高さが8~10メートルもあります。


ウダイヤのカスバ

モロッコの市場(スーク)


肉屋さんで煮込み用の壺を持つ店主


八百屋さんの前で


花屋さんの前で


屋台の前で


魚屋さんで


クレープ屋さんの様子

モロッコの食文化

モロッコの食文化はイスラムの食文化をベースとしながらも、フランス統治下時代の影響もあってヨーロッパ諸国の食文化の影響も受けています。基本的には香辛料をたっぷりと使う料理がたくさんあり、オリーブ油を多用した「地中海料理」も根付いています。また、日本でも人気だった「タジン」の本場でもあります。水の少ない地域なので、少ない水分でも美味しく調理できるようにと発達しました。

タジン

タジン鍋は、陶製の鍋に円すい形の蓋という独特の形をしています。タジン鍋は円すい状の蓋が蒸気を逃がさず鍋の中で水分を循環させます。食材に含まれる水分だけで柔らかく煮込めるのが特徴です。タジン鍋で煮込む料理は使われる食材に関係なく「タジン」と呼び、旬の食材を豊富に使い、スパイスを効かせるのが特徴です。


現地のタジン鍋


牛肉とナスのタジン
調理と撮影:伊藤華づ枝

クスクス

世界最小のパスタともいわれる「クスクス」は、モロッコを代表する料理のひとつです。クスクスはケスカスという二段式の鍋を使って作ります。鍋の下段で肉や野菜などの具材を入れたスープを煮込み、その蒸気を利用して上段のクスクスを蒸します。扱いやすく火の通りが良いので、主食と主菜が一度に作れます。


魚介のクスクス
調理と撮影:伊藤華づ枝

ハリラ

モロッコでは「ハリラを飲めば病気にならない」と信じられているほど、豆と野菜がたっぷり溶け込んだ栄養バランスの良いスープです。イスラム教のラマダン(断食)期間中は、毎日、日の出から日没まで何も食べず、水すら飲むことができないので、断食明けの夕食にハリラで空腹を満たします。胃に優しく腹持ちの良いハリラは、しっかりと栄養素を補うのに適しています。


ハリラ

モロッカンサラダ

モロッカンサラダは、野菜を角切りにして酢でさっぱりと仕上げたサラダです。ハーブやクミンなどのスパイスが香り高く、スパイシーなメイン料理を合わせるとおいしく食べられます。具材にはきゅうり、トマト、玉ねぎなどを使うのが一般的です。


モロッカンサラダ

モロッコの飲み物「ミントティー」

日本人が想像するような爽やかな味わいとは異なり、甘いのが特徴です。中国緑茶に多量の砂糖を入れて煮だし、生のミントを加えています。ミントの入れ方は地方によって特色があり、北部はグラスに、南部はポットに入れるのが習慣です。まろやかな味わいを出すために、高い位置から空気を含ませるようにグラスに注ぎ入れます。
イスラム教を国教とするモロッコでは、基本的に酒が飲めません。ミントティーは酒に代わる贅沢品として、モロッコ人に欠かせないものとなっています。コーヒーよりも安く、家庭でもカフェでも広く飲まれています。


ミントティーを注ぐ男性


ミントティーと陶器の器

モロッコのジュースといえば「オレンジジュース」

モロッコはフルーツの生産量が多い国です。中でもオレンジは年間を通して市場に並び、モロッコのジュースといえば「オレンジジュース」というほど人気があります。ジューススタンドでは注文を受けてからその場で絞ってくれます。


フレッシュオレンジジュースを飲む筆者

モロッコはスパイス大国

多種多様なスパイスを使用するモロッコ料理ですが、基本的には食材本来の味を大切にするため、香り・色付け・食材の臭いを消す目的でスパイスが使われることが多く、意外にも辛くないのが特徴です。野菜から出る甘みや、レーズンやデーツ(ナツメヤシの実)もよく使われるため、スパイシーさと甘さがミックスした独特の味わいを堪能できます。主に使われるスパイスは、クミン、パプリカ、ターメリック、ジンジャー、シナモンなどで、その他にも無数のスパイスがあります。また、コリアンダーやイタリアンパセリなどのフレッシュハーブもよく使われます。


香辛料屋さん

モロッコ料理に使われる基本のスパイス

モロッコ料理に使われるスパイスは、数十種類あります。モロッコ料理は、オリーブ油とニンニクをベースに、スパイスがたっぷり使用されており、基本の調味料は、塩・ブラックペッパー・ジンジャー・ターメリックの4種類とされています。モロッコ料理によく利用されるスパイスをいくつか紹介します。

  • ブラックペッパー:サラダやラムなどの肉のタジンによく使用されます。
  • ジンジャー:かなりの頻度で使用されますが、日本とは違って粉末状で使用されることが多いです。
  • ターメリック:米やタジンなどの料理の、食品着色料として使用されています。
  • シナモン:カシアシナモンとセイロンシナモンの両方があり、特にラム肉のような肉料理に使用します。
  • コリアンダー:レンズ豆・ジャガイモ・玉ねぎ・豆料理などの前菜の料理に使用されることが多いです。
  • アニス:甘くて芳香のある味が良いので、パンを焼くときにも使用されます。
  • クミン:ソースや野菜料理・タジンなどの様々な料理に、風味をプラスする要素で使用されています。
  • パプリカ:料理に色や風味を加えるために多くの料理で使用され、主にトマト料理やサラダに使用します。
  • サフラン:世界で最も高価なスパイスとも言われておりますが、モロッコでは比較的安価なのが特徴です。
  • ラスエルハヌート(ミックススパイス):店主がブレンドする最高のスパイスで、中身は店によって異なります。
 


香辛料は薬局でも売られています


店の薬剤師さんと共に

モロッコ料理の特長:ハーブとスパイスを使い、塩分控えめでヘルシー・おいしい・簡単

モロッコ料理は、野菜や魚介類のほか、穀類、果物、乳製品をバランスよくとり、オリーブ油を使うのが特徴です。モロッコ料理が影響を受けている地中海料理は国や地域によって個性がありますが、例えばイタリア料理はしっかりと塩を使い、ハーブは彩りや香りづけ程度です。一方モロッコ料理では塩分は控えめですが、ハーブは大量に使います。しっかり煮込むことで味と香りがなじんでマイルドになるので、強い香りが苦手な人でも抵抗なく食べることができます。「ハーブやスパイスをたっぷり使って塩分は控えめ」であることが、モロッコ料理の大きな特長といえるでしょう。


リヤド(別荘)でベルベル人からモロッコ料理を習う筆者

もう一つの大きな魅力は、調理が簡単なことです。モロッコ料理の調理方法はとてもシンプルです。ゴロっと大きめに切った旬の野菜をタジン鍋に入れてたっぷりのハーブやスパイスを加え、無水のまま火にかけるだけです。この方法ならば栄養素も逃げにくく失敗もありません。また、モロッコ料理でよく使うトマトにはグルタミン酸、魚介類にはイノシン酸といった「うまみ成分」が含まれています。これらの食材を加えることで、昆布やかつお節などのダシがなくても味わい深い料理が作れます。
※タジン鍋は煮込みに時間がかかることもあり、レストランや家庭では圧力鍋を使うところが多くありました。実際に筆者が現地で料理を習った折にも圧力鍋を使っていました。


出来上がったクスクスを前に・筆者

モロッコで購入した陶器などでテーブルをコーディネートしました・伊藤華づ枝作

代表的なモロッコの料理2点を紹介します

牛肉とナスのタジン

牛肉とナスのタジン

材料 4人分
牛肉(塊または煮込み用の角切り) 450~500g
A ニンニク 小1片
小さじ1/2強
黒こしょう 少々
B ターメリック 小さじ1/2~2/3
チリパウダー 小さじ1/2~2/3
ジンジャーパウダー 小さじ1/2~2/3
オリーブ油 大さじ2
玉ねぎ(2cm厚さの半月輪切り) 1コ
トマト(種を出してざく切り) 200g
にんじん(縦長の4切れにする) 200g(1本)
ナス(4~5㎝長さの輪切り) 2本
じゃがいも(1人1切れあてに切る) 300g
チキンスープ(または水) 200~250ml
イタリアンパセリ(3cmくらいに切る) 2本
パクチー(3cmくらいに切る) 1軸
イタリアンパセリ(飾り用・粗切り) 1本
レモン 1/4コ

作り方

  1. 牛肉は4~5㎝角に切り、(A)と(B)をまぶします。
  2. フライパンにオリーブ油を入れて、1.を中火でこんがりと焼き付けて取り出します。
  3. 2.のフライパンに油を足し、玉ねぎを色濃く炒めます。
  4. 圧力鍋に3.の玉ねぎを油ごと入れ、2.の肉を乗せてトマト、にんじん、ナス、じゃが芋、ハーブの順に乗せてからスープを入れます。沸騰したら20分ほど煮ます。
    ※タジン鍋で煮る場合は、80~90分ほどかかります
  5. 圧が下がったら味見をし、好みの塩を足して器に盛り付け、粗切りのイタリアンパセリ(飾り用)を散らします。レモン汁を絞って食べます。

魚介のクスクス

クスクスは世界で一番小さなパスタと言われています

魚介のクスクス

材料 4人分
有頭エビ(1尾50gくらい) 4尾
スルメイカ 中1杯
スズキ(または白身魚・切り身) 150g分
A 白ワイン 70ml
150~200ml
くず野菜(玉ねぎの皮やニンジンの皮など) 適量
小さじ2/3
コショウ 少々
~付け合わせ野菜~
ズッキーニ(1人宛て2切れくらいに切る) 1/2本
今市かぶ(1個80gくらいのもの) 2コ
グリーンピース 大さじ3
かぼちゃ 大4切れ分
赤パプリカ(グリルで焼いて皮をむく) 1/3コ
クスクス 200g
B 魚介の蒸し汁+水 300ml
オリーブオイル(またはバター) 大さじ1・1/2
小さじ1/5~

作り方

  1. エビは頭と背ワタを取って洗います。頭は残しておきます。
  2. イカは皮ごと輪切りにします。
  3. 鍋に(A)を煮立て、1.と2.と魚・エビの頭も入れて、魚に火が通るまで蒸し煮します。
  4. 3.から魚介を取り出し、残りの蒸し煮汁は、エビの頭をつぶすようにしてうま味を出し、水を200ml~250ml足して煮立てて漉します。塩を足して味見します。
  5. 野菜は塩味を付けた水か熱湯で、程よい固さになるまで茹でます。
  6. 大き目のボウルに4.の蒸し煮汁の半分量と水・(B)のオイルなどを足して沸騰させ、クスクスを入れてかき混ぜてからラップして10分ほど蒸らします。
  7. 6.を器に盛り、野菜や魚介を上に盛り、残りの蒸し煮汁を少し煮詰めてソースとします。
世界の長寿食
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